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Demon Eater   作者: 黒煉
1・生誕
2/10

異世界転生

のどかな空気。


空には一点の曇りもなく、全てを照らす温かな光の下に広がるのは一面の草原。そしてまるで外敵の心配などしていなさそうな動物たちだ。

恐らく家畜なのだろう。近くには村があることも確認できた。

しかしその家は現代日本の人が住む家としては余りにお粗末な物だ。


‥‥‥‥当然だ。なぜならここは日本でも、どころか地球ですらないのだから。



少し――――――――、といっても数キロほど離れた位置の―――――――丘の上からその様子を見ていた男は、死後様々なことに巻き込まれ、混乱していた彼を導いてくれた彼女、”災厄(ディザストレ)”と話した後に、この世界に転生したのだ。

そして目を覚ました場所がこの丘のど真ん中だったというわけである。






彼女は男に謝罪の言葉を述べた後に、自身のこと、そして、今男が立たされている状況についてもきちんと説明してくれた。



まず、彼女は”必悪”という存在で、その名前の意味は”必要悪”。

つまりは、決して誰からも望まれないながらも、無ければならない。そんな悪をさす。それが自分達なのだと彼女は告げた。


”災厄”の名を持つ彼女は天変地異を引き起こす力を持つという。

最も彼女はむやみやたらに災害をまき散らしたいわけではない。なので抑えるよう努力はしているのだが、どうしても天災といった形で少なからず被害を巻き起こしてしまうのだとか。彼女はそれ故に、人前に姿を現すことはめったにないという。

だがそのかいあって、彼女は人々に忌み嫌われるというよりは日本で言う”風神”、”雷神”などと言った善性の神として信仰の対象となることの方が多いそうだ。

反対に、男の他にあと2人いるという”必悪”はそんなことは気にしない性格らしく、好き勝手に暴れているので”魔王”だの”邪神”だの、物騒な呼び名をつけられているらしい。


彼女は男に謝罪したが、結局のところ男次第なのである。

確かに男は”必悪”になってしまったが、”災厄”のように、無数の魂、そして悪魔を倒したことで得た常人ならざる力ををむやみやたらに使うことがなければ、男は偶然にも蘇っただけの人間に過ぎないのである。

――――――――蘇った、と言う時点で男からすれば十分異常なのだが。

それは生前の概念にすぎず、転生など日常茶飯事らしいので、気にしてはいけないのだろう。






そして男は蘇り、”必悪”となったわけだが、実は自分の新たな人生に目標を掲げていた。



それは「死後、自分をもてあそんだ悪魔は気に喰わないから皆殺しにする」という物。


だからこそ男は、前世を生きた地球の日本ではなく、この異世界に転生することを望んだのだ。



実は日本に蘇ることも可能だった。

むしろ自分を現実世界(”災厄”のいたあの場所は”必悪”の為のたまり場のような場所で、夢の中というイメージが正しいのだとかなんとか)に送ってくれた”災厄”には日本に戻るのだろうと訊ねられたくらいだ。


しかしそうするには、男が死後巻き込まれたあの場所、そこでの出来事は余りにも重すぎた。


今も目を閉じれば鮮明に思い出せる。


”災厄”に説明した時に話した者もそうだ。しわがれた老人は手にした杖で男を何度も殴りつけてきた。学生服を着た少女は震える手で刃物を突き立ててきた。西洋の騎士甲冑に身を包んだものは使える主だろうか、誰かの名を叫びながら剣を振り下ろした。

しかし最後には皆、傷つかない男の姿を見て絶望し、あるものは泣きながら、自ら命を絶っていくのだ。


男は確かに空っぽな人間だった。他人任せで、自分の意志などあるかも怪しい様な人生を送ってきた。

けれどそんな光景を見て何も思わないような外道ではなかった。


これは復讐だ。

それも自分のではなく、あの時空しくも散っていった数多の魂たちの代行者としての。



かつて、かの有名な夏目漱石は、自身と同じように空虚な人生を送っていたそうだ。そしてそれを克服した後、こう語っている。



「もし途中で霧かもやのために懊悩していられるかたがあるならば、どんな犠牲を払っても、ああここだという掘り当てる所まで行ったらよかろうと思うのです。」


「だからもし私のような病気に罹った人が、もしこの中にあるならば、どうぞ勇猛にお進みにならんことを希望してやまないのです。もしそこまで行ければ、ここにおれの尻を落ちつける場所があったのだという事実をご発見になって、生涯の安心と自信を握ることができるようになると思うから申し上げるのです。」



男は一度目の人生でそれを成すことができなかった。

だからこそ、色のないままに命を終えたのだろう。けれど今は違う。それは多くの魂を犠牲に払い、掘り当てた物で、お世辞にも綺麗な物ではない。

だがそれでも前世とは全く違う生き方ができるという確信はあった。



すくと立ち上がり、手持ちの物を確認する。


とは言っても、あるのは”災厄”が「何もなくては困るだろう」と与えてくれた荷物袋だけで、それ以外には何も持っていない。どころか服すらもなく、男は心の底から人がいない場所に転生したことを感謝した。


早速袋の口を緩め、中にある物を確認しようと手を突っ込む。すると、最初に布の柔らかい感触が手に触れた。やはり下着や服も準備してくれていたようだ。しかしいざ取り出してみると、予想外の物が現れ男は目を見張る。

下着は男が想像していた通りの物だったが、服の方が違った。

何というか、よくゲームに出てくるキャラクターが身に着けているような、随分と格好のいい衣装が出てきたからだ。

上下共に黒を基調とした生地の肌触りは良く、銀細工が施されているため高級感が漂っていた。しかし装飾は決して派手ではないため、着ていて気になる程ではないだろう。


とりあえず着てみる。

するとこれが想像以上の着心地に動きやすさだった為、男は再度驚きをあらわにした。


更に探ると、次に出てきたのは黒い金属製の篭手に頑丈そうな革製のブーツ、それも軍人が履くような、見た目よりも実用性を重視したつくりの物だ。



ともかく、これで人前を歩いても恥ずかしくない見た目にはなったはずだ。


男は前世の国民的アニメに登場する不思議なポケットのごとく、見た目に合わない量の荷物が入っていた、そして他にもまだ何か入っている袋を担ぎ上げると歩き始めた。


何にせよ、まずは誰かに合わねば始まらない。男にとってここは未開の地も同然なのだから。

心地よいそよ風が頬を撫で、日本人特有の黒髪を揺らす。



 「さて、行こうか」



誰に言うでもなくそう口にした男の表情は、心なしか期待に彩られていた。





シダ村。


この村は豊かな土地を活かした放牧、そして農業が盛んな、言ってしまえばド田舎だ。


しかしこの村は下手な街よりも栄えている。なぜならこの村で造られる製品はどれも高級品で、貿易によってかなりの利益を得ているためだ。仕事に疲れた都会人がこの村に来て慣れぬ農業で生計をたてようとするというのも珍しい話ではない。

最もそんな浅はかな考えで農業を始めたものは、大抵が続かず、別の仕事を探すのだが。


だからこそ、その人物が来ても多少驚きはしたものの、村人たちにそれ以上の反応はなかった。


その人物とは黒髪が特徴的な、名のある冒険者らしい装いに身を包んだ青年だ。

金色の瞳はせわしなく動き、興味深げに周囲を観察していた。

冒険者とは各地に現れる魔物を倒し金銭を稼いでいる者達だ。強大な魔物、例えば竜や悪魔など、を倒し、名声をえたものは莫大な富、そして地位を得ることも不可能ではない為、夢のある職業ともいえた。冷静に考えれば、戦いに身を置くことがさほどとなり、常に命の危険にさらされることを思えばそうとも言い切れないが。


村人たちが男のことをそう判断したのは、ただの旅人にしては高級そうな身なり。にもかかわらず、持っている荷物はただの袋1つで、従者も伴っていなかったからだ。

従者を伴っていれば、身分の高い者、つまり貴族の可能性が出てくるので、好奇の視線を向けることはさけねばならない。



ふと男が立ち止まると、村にいくつかある食事処へと視線を止めた。

その店の名は”金の鶏亭”。良心的な価格で確かな味の料理を提供する人気店だ。中からは食欲を誘ういい香りが漂っており、まだ食事には早い時間でありながら空腹を感じてしまう。



 グゥゥ~~~~~ 



一瞬、皆が獣の唸り声かとでも思ったのは、その音を出した張本人である男が、まるで恥じらう様子も見せずに手に持った袋をあさり始めたからだ。男は空腹だったのである。


そして目当ての物、金をどうやら見をつけたらしく、男が嬉しそうに店の中へと入っていくのを、村人たちは皆微笑ましく眺めていた。




 「何なんですかあなたはっ!!!!」




そんな叫び声が聞こえてきたのは、その数分後の事だ。

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