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最高の12分

作者: 雨夜 妙峰

ステージに上がって、約3分が経過した。先生の振るタクトは、やや興奮気味。それも仕方がない。ここまでの演奏は、これまでの中でも最高だと自信を持って言える。おそらくこのステージに上がっている55人、先生を含め56人がそう思っているはずだ。

楽しくて愉しくて、思わず笑顔になる。

ホール中の空気が澄み渡り、その原子1つひとつが僕たちの音を、魂の振動を伝えるためにあるように思えてくる。

先生が、自由曲の楽譜をめくる。その手つきはやはり弾んでいる。顔も完全にニヤケている。

再び、タクトが構えられる。

その挙動に弾かれたように、部員全員が各々の「相棒」を構える。

全ての音が止まる。空気が、原子が、その動きを止めたかのように。


自由曲の初めは、ファーストクラリネットのソロから始まる。


僕だ。


先生と視線を合わせ、その動きにシンクロする。

息を入れた途端、これまで味わったことのない感覚に襲われる。

全ての動きが、音が極限まで遅くなる。自分の音がどんどんと引き伸ばされ、その音程、音量、音色、響き、世界観。全てが手に取るようにわかる。


(届け、僕の音...魂ッ!!)


クラリネットのベルから溢れ出た魂はその色を、形を自在に変え、ホール中に染み渡っていく。


客席には七色に輝く大地がが、空が、海が、描かれていた。


現実で約20秒。体感では、計り知れないほどの長さのソロパートだった。

そこからは、やはり最高の色を客席に届け、56人全員が1人の画家となり、作家となり、物語を創り上げた。

最高の物語を。


吹奏楽コンクール全国大会。堂々の満点。

僕はこの12分間を生涯忘れないだろう。

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