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侍ジュリエット  作者: 水陰詩雫
第四章 武士団
52/74

10 思い思われ・・・・恋焦がれ


 生後2ヶ月を過ぎた向日葵と光輝の定期健診を受けにナデシコは帝都の治療院を訪れていた。

魔法力を持たない者同士の子供ということで、今後も続くであろうテストケースとしてデータを集める上でも念入りな検査が行われている。

首が座るまでは両親共に気が抜けない日々が続くが、義経は自他ともに認める親馬鹿ぶりを発揮している。

休憩時間になると子供の話を聞かせたがる義経はもはや名物となっており、部下たちもハイハイとこの局長代理の話に付き合うことさえ楽しんでいた。

だが武士団のほとんどは幸福とは言えない子供時代であったため、同じ立場の向日葵と光輝がこのように愛情に恵まれて育つことを心から喜んでいる。


女性たちは特に赤ちゃんにめろめろでナデシコの手伝いで家を訪れるとその寝顔を見て優しい笑顔を浮かべている。

あのマルティナもよく赤ちゃんを見に訪れ、抱っこするときなどは真剣を扱う時以上に緊張しているようだ。

この二人の誕生は、どうせ家庭など持つことさえできないと諦めていた隊員たちに未来を見せることに大きく買っていた。

希望・・・・・

そう単純なものではないかもしれない、でも明日を明るい日だと信じることができる暖かさと優しさに包まれた向日葵と光輝は武士団の希望であったのはたしかだ。





ナデシコは午後からの検査待ちということもあり、サクラと一緒に真九郎の病室を訪れていた。

「ほらほら向日葵~いいこですね~」

『ひまわり~、こうき~、かわいい!』

あいかわらず骨抜きになっている真九郎とシルメリアだが、最近ではシズクと一緒に見舞いにきた雪が真九郎たちと過ごすようになってきた。

理由を聞いても、シメリケいいオルナとしか言わない。

抱っこしていたサクラから光輝を受け取ったシルメリアは幸せそうな笑みで光輝に声をかける姿は母親を想定しているかのような印象さえ受ける。

そんな様子を少しリラックスした様子で椅子に座ったサクラが優しそうな少し寂しそうな笑顔で見つめていた。

「そうだ、サクラにこれを」

突然、真九郎が引き出しから取り出したのは希少な水晶サンゴを加工して作られた髪留めだった。

「え??師匠??」

「最近な、散歩する機会が増えただろ?そこでお前に似合いそうな髪留めを見つけたのでな買っておいたのだ・・・その?気に入らなかったか??」

「そ、そんなことないよ!!!ありがとう師匠!!!!」

抱きつくサクラを撫でる真九郎はその撫で方を心得ていて気持ち良さそうに喉を鳴らしている。

こういうところは猫なんだなぁとシルメリアとナデシコが思わず顔を見合わせてくすっとしてまう。

「サクラには色々と無理ばかりさせてしまっているからな・・・・・・本当にすまないと思っている」

「師匠とナデシコは絶対サクラが守るからね!!!」

「サクラ・・・・気持ちはうれしいが、お前が体を壊したりすると俺たちもまた心配で辛くなるんだぞ?」

「あ・・・・・」

「サクラが俺たちを心配してくれるように、俺だってサクラが心配でしょうがないんだよ」

「うん・・・・あのね、ありがとね師匠・・・・この髪留め大事にするね・・・・・あ、シルメリア姉さまつけてつけて!」

「はーい、ちょっと待ってね・・・・よっと・・・・・あらかわいい!」

「うへへへへへ」

「ほんと師匠って女の人の装飾品とか服選ぶのうまいわよね」

『サクラ、かわいい!かわいい!』

「たまにお仕置きが必要そうなものも選ぶけど、大体はいいセンスをしてます」

「ありがと雪ちゃんって、あれぇ~師匠また隠れスケベしてんの?」

「だから違うわ!」

「「「あははははは!」」」

「「うううおぎゃああああああ!」」

「あ~起こしちゃったねごめんね光輝ちゃん!」

「いいのいいの、こうやっておしゃべり覚えるんだからねいいのよ~」

二人を落ち着かせよようと雪がすりすりしている姿に心が和む。

ナデシコが二人を落ち着かせ、病院に戻ろうとしたときふと気になったことを口走った。

「そういえば師匠・・・・・刀はどうなりそうです?」

「それがな、もう実戦で使うのは厳しいそうだ」

「そうでしたか・・・・あのルシウスが昨日来たんですが妙なことを言っていたんです」

「妙なこと?」

「はい・・・・師匠に渾身の一刀を作ろうと打ちにかかるんですが必ず精錬途中で玉鋼に亀裂が入ってしまうんだそうです」

ナデシコも思い悩んだ末の注意喚起なのだろう・・・・・

「変なことを言うつもりはないんですが・・・・ルシウスがすごく気にしていたので・・・・念のため身辺には気をつけてくださいね」

「ナデシコ、良く伝えてくれたな、これからシルメリアとその件で相談してみるとしよう・・・・そちらもサクラがいれば大丈夫だとは思うが」

「任せてください!ナデシコと赤ちゃん!それに師匠はサクラが絶対守るからね!」

「ありがとうサクラ」

「サクラ、あまり気負うなよ、心は熱く、頭は冷静にな」

「わかった師匠!」




ルシウスの鍛冶場は何人かの補充要員を加え、連日慌しい作業を続けていた。

保護された少年たちの中にはひどい虐待や碌な治療を受けることができず、受けた傷が悪化し後遺症が残ってしまうケースが少なからずあった。

その中でも剣の扱いが難しいとされた16歳の少年ケンネと、17歳になるマーメイド族という希少種族とのハーフであるクリスという少女が鍛冶場で働いていた。

当初は悔しさに荒れていたケンネだったが、ルシウスがあのレインドや真九郎たちそして隊士皆に尊敬され一目置かれている状況と刀の美しさに改めて魅入られたこともあり、徐々に身を入れて修行するようになっている。

クリスは拘束されてから逃げ出さないように足ヒレを裂かれたため、その後遺症で走ることができなくなってしまっていた。

浅黄色の艶やかな髪は豊かな海を想像させる美しさでさっそく桃に遊ばれて三つ編みにされている。

彼女は桃に匹敵するほどの器用さを持っていたため、研ぎや拵えの作成や全体的な補助を行うことになった。


こうして人員を確保した鍛冶場では正規隊士全員の刀と脇差が配備された現状で、さらなる質の向上に向けての試行錯誤が行われている。

ここでルシウスが真九郎のために、病魔さえ克服できるような一刀を作り上げたいと心身に気合を込めて玉鋼からいつものように皮鉄を作ろうと打ち付けるといつも同じ過程で弾けるような亀裂が入ってしまうのだった。

そこで次の刀を用意しようと考えていた夕霧の作刀を作るべく、気分を改め同じように造り込みをしていくがまったく亀裂が生じずむしろ素材が自ら勝手に刀の完成に向かい変形しているような錯覚さえ覚える。

打ちあがった刀は夕霧のような健やかさと美しさを受け継いだかのような魅力ある一刀に仕上がった。

いつもいつも真九郎に銘の相談をしてはいけないと思っていたが、先日見舞いの際に真九郎からある提案を受けていた。

「ルシウスは今後、気に入った作刀に一文字○○とつけてみたらどうだ?」

「い、一文字!??いい響きですね」

「うむ、一文字とは一つのことを突き詰めるという意味があってな、お前にぴったりだと思うのだ」

「一文字・・・・師匠、それ頂きます!」

ルシウスの思いが結晶となった初めて一文字の名を冠した刀が誕生した。

一文字天霧いちもんじあまぎり


ルシウスたちの研鑽は今日も続くいていくが・・・・・いまだ真九郎の刀には手をつけられずにいた。




イルミス調査の報告から一時戻っていたシルフェは立ち寄った村で見つけた月をモチーフにした煌霊石という珍しい宝石を使ったペンダントを見つけ、これをどうシルメリアに渡そうかと頭を悩ませていた。

思い悩んで対人コミュニケーション能力の高いノルディンに相談してみたところ・・・

渋い顔をしたノルディンが頭を掻きながらシルフェに告げる。

「あのな、お前さんはファンだって多くもてるだろうに?なぜあの人なんだ?」

「それは関係ありません、俺はあの人に救われたんだ・・・・そのお礼だけでもと・・・その・・・・・」

シルヴァリオンの貴公子と呼ばれるほどの人気を誇るシルフェであるが、こういったことにはうといのだ。

女っ気がないものだから、男色の趣味を持っていると噂する者までいる始末だが彼の好みは女性である。

「その・・・・もうちょっと待ってみたほうがいいんじゃないか??いやぁ正直難しいと思うが・・・・・」

「む、難しいですか・・・・・」

手に持ったペンダントが入った箱を握り締めながらシルフェは思う。

「そうか・・・・応援してくれてるんですね隊長」

「おい、どうしてそうなる!」

「俺が伸び悩んでるときに、突き放すような指導をしてくれたトリアムド隊長に習って・・・・・ありがとうございます!!!」

「だから待てって」

「こうみえて、俺って反骨精神の塊なのちゃんと分かってるんですね・・・今からデュランシルトに行ってきます!」

駆け出していったシルフェにノルディンは感じたことのない罪悪感を抱くのであった・・・・

「僕のせいじゃないよな・・・・・・」


何か勘違いで火がついてしまったシルフェは荷物をまとめると、親友バスティの家に一声かけてからデュランシルトへ行こうと深夜の帝都を小走りに走っていた。

あの人は喜んでくれるだろうか・・・・

きっと聖女のような方だ、このペンダントが映えるに違いない!

思わず鼻歌を歌い出そうとして、夜中であることに気付き自重しもうあいつは寝ているかなと思いつつ路地を曲がったときであった。

人の声と・・・・・・妙なオルナを感じる。


ここでシルフェは荷物を建物の壁に寄せてそっと置くと短杖を取り出し、探知呪文を行使する・・・・・・・

「この反応は・・・・・!」

シルフェは慌てて反応の方角に走り出す。

確かこの先は・・・・・コラール治療院・・・・・!?いったい何が!?

壁に身を寄せ様子を伺ったときであった、キラリと光る白銀の光が目に入ったと同時に虚脱状態に入ったシルフェ。

かろうじて倒れることはなかったが、気付いたときにこれが禁忌の武器による虚脱反応であることに気付く。

「武士団がいるのか!?」

シルフェはすぐに浮遊光源呪文を放つと暗闇で繰り広げられる戦闘を照らし出した。

「サクラさん!??」

「はぁはぁ・・・・!」

サクラはシルフェに気付くが言葉をかける余裕さえないようであった。





サクラが深夜の治療院を訪れたのは偶然なのか本能であったのか・・・・・

もしかしたら毎日のように警戒にあたっていたのかもしれない。


コラール治療院はナデシコと子供に異常がないかを検査するために継続的に経過を追ってくれている産婦人科と小児科領域の専門治療院だ。

健康なのに入院するはめになったナデシコはいざ眠ることさえできず、愛しい我が子の寝顔をいつまでも見つめていた。

そんな夜更けに悲鳴やぶつかりあう金属音が聞えた瞬間、ナデシコは着ていたパジャマを脱ぎ捨てるとすぐに着替えられるように用意していた隊服をまといブーツを履くと腰に大和撫子を差す。

二人の我が子を移動用の籠にそっと納めると保護用の日よけを卸し、ベッドの下に隠していた守り刀の日輪と蒼空を籠の収納部分に押し込んだ。


ここまでナデシコが冷静であったのは緊急時にどうするべきか、ずっと脳内でイメージしていたのだ。

侍である自分はどんなときでも覚悟を決めておかねばならない・・・・

だからこそ我が子と我が身を守るために僅か1分たらずで支度を終え、部屋から出ようとしたときである。

ドアが開け放たれて、黒ずくめの男が立ち入ってきた。


敵か!?それとも!???

咄嗟にベッド脇の棚の影に隠れたナデシコは、大和撫子に手をかけつつ男の様子を探った。

足音は二人・・・・・

「おい、この部屋で間違いないのか?」

「そのはずだが・・・・赤ん坊どころか母親までいないぞ・・・・」

「赤ん坊だけでも拉致したかったが・・・・・」

その言葉を耳にしたときにはもう、ナデシコの理性は侵入者の男たちの首と共に吹き飛んでいた。

切った手ごたえをほとんど感じさせないほどの切れ味・・・・・・男たちも自分が切られたことに気付かないまま絶命している。

そして首を失っ体が血を噴出しながら倒れる音が深夜の治療院に響く。


「向日葵と光輝を拉致ですって!・・・・・」

叫びたいほどの怒りで荒れ狂う心をなんとか鎮め、真九郎の教えを思い出す。

ベッドのシーツで血を拭うと、そのまま脇差を納め愛用の・・・・・父の形見でもある十文字槍を手に取った。

「お父様・・・・・向日葵と光輝を守って・・・・・!」

籠と槍を持ったナデシコは深夜の治療院を抜け出すために駆け出していた。



治療院前では黒ずくめの男7人が1人の少女との死闘を繰り広げていた。

路上には既に男が1人首を切り裂かれ血だまりの中で倒れている。


「くそ!!なんて俊敏さだ!!!囲んで広域火炎呪文で焼き払え!!!」

「それじゃ火災になるぞ!!!」

「帝都がどうなろうと知ったことか!!」


サクラに向かい7人の手錬が、じわじわと包囲をかけようとしている。

まずいな、このままじゃ囲まれて・・・焼き猫になっちゃうな・・・・・


だめだ・・・・ナデシコと赤ちゃんを守る・・・・・ここは引いても臆してもだめな場所!

サクラの大事な人たちを傷つける奴らはぁ!!!!・・・・・・絶対に許さない・・・・1人たりとも生かして帰すものか!!!!!!


「ふぅ・・・・・・・」


サクラはゆっくりと姿勢を低く低く・・・・・短刀を持った手を大地につき、まさに猫がエモノに飛び掛るような姿勢で男たちを野生漂う獰猛なケモノの瞳で見つめていた。


「な、なんだあいつは!!!?」

「お、おい・・・よ、様子が・・・!」


脳裏に赤ちゃんから引き離され泣き叫ぶナデシコの姿が想像され、赤ちゃんが攫われる映像がまとわりついた。

これをやろうとしているのがあいつらだ・・・・・・!!!!!!


「ゆ・さない・・・・許さない!!!・・・・・ナデシコと赤ちゃんを傷つける奴は絶対許さない!!!!!」


瞬間的に掻き消えたサクラを探し戸惑う男に突風が襲い掛かると同時に両足首が両断され転倒する。

悲鳴と同時に別の黒ずくめの両目に苦無が深ぶかと突き刺さり、奥にいた男はサクラの蹴りが構えたその杖ごと肋骨を粉砕した。


瞬間的に起こった出来事に黒ずくめの賊は混乱の極みにあった。

また1人喉を切り裂かれ血煙を噴出しながら声を発することもなく命が刈り取られた。


「し、死神・・・!!!!」


暗闇に光るサクラの翡翠色の目が信じられないほどのスピードで辺りの建物の壁や街路樹を飛び回っていた。


「ちくしょおおおお!!!!!任務が失敗したら、世界は終わるんだよおおおおおおお!!くそがあああ!!」


広域に放射された火炎呪文を間一髪で避けるサクラだが回避エリアが絞られ追い詰められところに氷矢の雨が降り注ぐ。


「くっ!」

瞬間的に身をよじって驚異的な跳躍でかわすものの、左腕に3本・・・・右足に2本もらってしまっていた。

だらりと垂れ下がる左腕・・・・

掠った頭部の怪我による出血で右目が塞がれる・・・・・


「手間かけさせやがって!!アルマナガードが来るまであまり時間がないぞ!!」

残りの人員がサクラに向かい土槍の呪文を詠唱し始めた。


ああ、まずいあれは・・・・・そういえばダズちゃんが得意だったな・・・・・

だめだ・・・・!!!せめて奴らを道連れに・・・・!!!向日葵・・・・光輝・・・・・強く生きてね


土槍呪文が放たれようとした男二人の腹部と喉元にそれぞれ短刀が突き刺さり、悲鳴をあげたと同時に上空に浮遊光源の呪文が展開された。

その光に詠唱を妨害された残り1人は、干渉するオルナに邪魔されそのバックラッシュでうずくまっている。


「サクラさん!??」

「はぁはぁ・・・・・!」



残った1人が干渉から立ち直りサクラに杖を構えたときだった。

目の前に現れた存在に度肝を抜かれた男は振り下ろされた槍で両腕を断たれ地に転がる。

「サクラぁ!!!!」

「ナ・・・・ナデ・・・シ」

ナデシコに受け止められたサクラは襲い掛かる全身の痛みに意識を失っていた。




サクラが目覚めたのは翌日のことだった。

最初はベッドで包帯だらけになっている自分が信じられなかったが、泣いて喜ぶナデシコやサリサやシルメリア姉さま・・・・

手を握ってくれていたのは師匠だった。

「あ!!ナデシコ!!!無事だったのね!!赤ちゃんは!!?!!!あっ・・・い、痛い・・!!」

飛び起きたものの全身の痛みにバタっと倒れてしまったサクラ。

「おい!無理するな!!」

リョグルにこのままだとベッドに縛り付けるぞと威されごめんなさいをしたサクラはいつものサクラだった。

「サクラ・・・・ありがとう・・・・おかげで向日葵と光輝も無事よこんなに元気だわ」

向日葵が寝ているサクラの頬をぺたぺたと触るのが心地よい。

光輝はサクラをじっと見つめて手をばたばたさせていた。

それに合わせるかのように飛び跳ねてご機嫌な雪がかわいかった。

「よかった・・・・・・守れたんだね・・・・よかった・・・・」

「サクラ・・・・無理をして怒ろうとも思ったが、向日葵と光輝のためならばどんな無理でも怒る訳にはいかんな・・・・見事だサクラ」

「うへへへ、師匠にほめられた!!うぅ・・・いててて」

「お前さん・・・・全身の痛みで今も辛いだろう?」

「は、はひぃ・・・・どうしてこんな・・・いたいの?」

リョグルは渋い顔をしながらもどこか呆れ気味のようだ。

「お前さん、猫人族だったな・・・・・獣人族の中にはな、いるんだよ稀に・・・・・獣化できる奴がな」

「獣化!???」

「リョグル先生、獣化っていったい!?」

「サクラはな、本能的に家族や仲間の危機だと感じいわゆるリミッターが外れたんだろう・・・それが獣化の特徴だ」

「サクラぁ・・・・・」

ナデシコが力いっぱい抱きしめ・・・そしてまたおいおいと泣いた。

「そっか・・・・・ナデシコと赤ちゃんの危機なら家族の危機だもん、獣化できてよかった」

「・・・・・もう二度と使うことはするな・・・・・獣化をして生き残った例はそう多くないんだよ・・・・・」

「あら、じゃあサクラはラッキーだね」

「サクラ!お願いだからもう使わないって約束して!」

「う~ん・・・・なるべく使わないようにするけど、でも自由に使えるものでもないんだよ?」

「そうかもしれないけど!」

「まあ、全身の筋肉が受けたダメージがでかいから、痛みが取れるまでじっとしておけ、恐らく明日には動けるはずだ」

「うぅ・・・我慢する・・・・」




サクラはリョグル先生の言う通り、次の日には動けるようになりその足で真九郎やナデシコと共にデュランシルトへ帰還することになった。

途中、義経が騎馬を率いて向かえに来てくれたため賑やかな道中になった。

捕虜の尋問はシルヴァリオンやザインたちに一任し今後の対策だけ早急に練ることになり、緊急の会議が開かれようとしている。

まず真九郎はジングとルシウスの元を訪れ妙な依頼をしていったという。

その足でラルゴ村へ単身で向かい、族長としばらく相談しながら手配を進めているようであった。


義経は赤ちゃんが攫われそうになったという事実に怒り狂ったが、怒りのぶつけ場所もなくナデシコたち3人を救ったサクラにただ感謝するしかなかった。

そしてナデシコと赤ちゃんが検査入院中、サクラは連日深夜の警戒にあたっていたらしく義経夫妻を思う気持ちに胸を打たれていた。


当の本人は獣化できるようになったと調子にのっているが、ナディアによると語尾に「にゃ」が増えたらしい。




症状の落ち着いた真九郎はシルメリアと共に療養を続けていたが、ここに雪が一緒に過ごすようになり穏やかで優しい時間が増えたように思う。

最近シルメリアが発するオルナが雪には居心地が良いようで何かあるとシルメリアの頭に乗ってご機嫌な様子だ。

夜二人が寝るときも一緒に布団で寝ることが多く、ふさふさの極上の手触りを抱き枕変わりにしつつ優しい時間を過ごしていた朝のことであった・・・・


「真九郎起きて!」

シルメリアに起こされた真九郎は目の前に広がる光景に思わず声をあげてしまう。

「なんだこれは!!」

部屋の隅には大人が入れるほどの白い球体が宙に浮いている。

近づいて観察してみるとなにやら繭のようにも見え、触ると微かに暖かい・・・・・・

オルナに敏感な雪を探そうとしたがどこにも見当たらず、シルメリアだけはその居場所に気付いていたようだ。

「ねえ真九郎・・・・多分雪ちゃんはこの中よ・・・・・」

「蚕だったのか雪は!??いや違うな・・・・・そういえば、夜中俺の体の上でごそごそしていたような気がするが・・・・・」



雪が繭に入ったことはすぐに知れ渡り幻獣や生物に詳しいクルーグ先生にも見てもらったが、このような生態を取る生物は知らないという。

そもそも雪という存在自体が生物として見てよいのか?という議論にもなった。

クルーグ先生は雪を見たときに精霊の眷属か何かの存在だと思ったらしく、同じようにマユやピスケルが普通に生活しているデュランシルトだからさもありなん・・・と思っていたらしい。

大地母神神殿の使いでしばらくデュランシルトを留守にしていたソラが戻ったばかりであったので、念のため見てもらうことになった。


「なるほど・・・・不思議な繭ですね、ですが悪意や邪気、妖気・・・・・そういった気配は一切感じられません」

「わざわざすまなかったねソラさん」

「いえ、緋刈さんこそお元気になったようで本当に安心しました」

「皆の好意によって生かされていると常々感じています・・・・・」

「そうですね、人は誰でも誰かの好意や善意、そして大地母神や様々な神々の恩寵に気付かぬまま生きているものです」

「そうでありましょうな・・・・・雪も無事で何事もなければいいのですが」

「これは私の直感なのですが・・・・雪ちゃんはきっと自分の意志でこうなったのだと思います、もう少しだけ見守ってあげてください・・・・・今までと同じようにお話したり撫でてあげたり」

「ありがとう、そうしてみますね」


こういうことは繭でもあるし、マユに聞いてみたいところだがピスケルに乗って魚を取りに行くと自由気ままに過ごしているから捕まらない。

真九郎の指示でばたばたしつつある鍛冶場とジングたちそしてラルゴ氏族だったが、さらに厄介な問題が生じていた。


シズクの狼狽ぶりはすさまじかった、あの料理の達人である彼女がお米を焦がし、鍋を数十個破壊し、ようやくできた味付けは塩のごとくしょっぱく・・・

フライパンが宙を舞い、調味料をぶちまけ、阿鼻叫喚の地獄が厨房にこだました。


知らせを受けて駆けつけたナデシコがシズクを自宅へ連れ帰り、サリサが代わりに食事を用意することでなんとか事態を収拾することができた。


「あ、あのああの・・・・ごめんなさい・・・ど、どうしちゃったのかな私・・・・びょ、病気かな・・・・」

シズクはアクアブルーの髪色のごとく青い顔で混乱の極みである。

「シズクちゃん・・・・・あのレインド様の・・・・」

「ああああああ!!!!!!いやあああ聞きたくないよおおおおおおおお!!!」

耳を押さえて部屋の隅で固まってしまうシズクを優しく抱きしめるが埒が明かないため、シズクを数日休養させることにしてサクラや仲の良い花梨と蜜柑を呼びナデシコ宅で過ごさせることにする。

義経は半兵衛の部屋に泊まらせることにし、シズクには丁度良いので向日葵と光輝の世話を手伝ってもらうことにした。

さすがのシズクも向日葵を抱っこしているときは穏やかな笑顔でいるものの、ふと我に帰るといつの間にか泣いてしまっており迷惑をかけてごめんなさいと謝ってばかりいる。

これを解決するにはレインド本人に来てもらうしかないのだが・・・・・・



そのレインドは帝都のある貴族の屋敷で歓待を受けていた。

本人は固く辞退したが、ニーサの助言によりあまり無碍にできない相手だということで渋々会話にだけ付き合っていた。

帝国最大の貴族と称されるダルツェン侯爵である。

次期皇帝はダルツェン家から出るであろうと称されるほどの名家であり、反皇帝派と皇帝派の仲介を長く行ってきた調整役としても非常に人望のある人物でもある。

帝国三大貴族の筆頭とされ、皇帝派のラグレイ伯爵、反皇帝派のデネクルス侯爵と並びその格式は非常に高い。

その財力や優秀な家臣団なども他の貴族の追随を許さず、帝国軍よりもダルツェン家の私兵になることが勝ち組と言われる時代でもあったのだ。

そのダルツェン侯爵との話し合いの内容は・・・・・・

「それで考えてくれたかね?」

「はい、答えは既に決まっております、私は」

「待たれよ!それ以上口にするつもりかね?」

レインドの発言を遮ってそれ以上言わせないダルツェンの威圧感はさすがと言うべきである。

だがレインドも多くの死地を潜り抜けた才覚と勇敢さを兼ね備えている。

「まずは娘に会ってからでも遅くはあるまい」

「いえ、おこと」「あれが娘のマルレーネだ!!」

有無を言わさず大声でマルレーネを呼んだ侯爵はレインドの手をとり強引に引っ張り娘の前に引き出した。

「ダルシュール侯!さすがに強引すぎると思うが」

「お初にお目にかかります・・・・わたしくダルツェン侯爵家の次女、マルレーネと申します・・・・レインド様お会いできて光栄でございます」

シルメリアやイングリッド、レシュティア・・・・・・そしてシズク。

そういった美女を見慣れていたレインドでさえ素直に美しい女性だと、そう思った。


レインドと似たような輝くような金髪であるが、わずかな癖毛なのか、やわらかなカールがかかっておりそれがまたくりっとした魅惑的なコバルトブルーの瞳と相互に引き立て合い、正統派のそれも極上の美少女であった。

歳はレインドより一つ上の16歳で誕生月からいえば数ヶ月上といったところだそうだ。

レインドはすぐにお辞儀をし、返礼した。

「デュランシルト領主、レインドと申します・・・」

「レインド様の武勇は貴族の間でも轟いておりますわ・・・・でもわたしくはそんなことよりもデュランシルトをあそこまで魅力的な土地にしてしまったその手腕も同様に称えられるべきと考えております」


単なる親の言うことを聞くだけの操り人形という訳でもなさそうだ。

「それは副官のニーサというかけがえのない私の片腕がいてくればこそなのです、私の功績ではありませんよ」

「ニーサ様!!私がもっとも憧れる女性なんです!」

目をキラキラさせながらもっとニーサのことを聞かせて欲しいと懇願するマルレーネはたしかに今まで会った女性とは印象がまるで違うタイプだった。

マルレーネは女ながらに貴族や官僚、軍人、そして時には皇帝さえも手玉に取るようなニーサに憧れてやまないのだそうだ。

気付くと侯爵は姿を消し、いつの間にかマルレーネと話し込んでしまっていた。


まずい・・・・侯爵の計画にまんまと乗ってしまったんじゃないだろうか・・・・・


だが、聡明な女性であるという印象は崩れることはなかった。

会話の節々に相手を思いやる心配りや魔法が使えない者たちへの偏見や差別的意識が垣間見えることはなく、むしろ魔法力があることにストレスを抱えているのではないかという感想まで持った。

「何やら話しが弾んでいるんではないか、どうだわが娘ながら皇帝陛下にも匹敵する美貌だと思うが?」

たしかに周囲の貴族たちもレインドとマルレーネが放つオーラに圧倒され近づくことさえできないでいる。

「はい、美しく聡明な女性であると思いました」

「わははははは!聡明であるか、これはまた言葉を選んだものだな」

「お父様、せっかくレインド様が褒めてくださったのに失礼ではありませんか」

「ところでだ、マルレーネを娶る気はないか?」

「先ほどから申していますとおり、私はまだそのようなことを考えてはいません」

「まああまりな、強引に薦めすぎて引かれても困るからなぁ」

「お父様、レインド様・・・・折り入ってお願いがございますの」


お願い・・・・まずいこれを受けるといろいろと面倒なことになりそうだ・・・・・


「おお、マルレーネ言ってみなさい」

「はい!わたくしはぜひ、デュランシルトの領地経営の実務を学びたいのです、あの冷血の宰相と恐れられるニーサ様から直に教えを乞いたいとずっと願ってきました」

「ニーサに??」

「はい!」

「そうか、なるほど・・・・さすが我が娘だ、そうであればレインド辺境伯も断ることができまい・・・・なぁ?」


たしかにそうだ・・・・帝国三大貴族の筆頭であるダルツェン侯爵の令嬢が領地経営を学びたいと一応格下のレインドに頭を下げる形になっているのだ・・・・

断ったほうが大問題になるし、正当な理由であるため拒否する理由も見つけられない。


私の一存では・・・・と言いそうになって言葉を飲み込んだ。

一存で決めなくてはいけない場なのだ・・・・・

ふと、脳裏にシズクの笑顔が通り過ぎ、胸に重く冷たい鉛を押し込まれたような気持ちになってしまう。


「分かりました・・・・・ですがニーサは常に業務を複数兼務しておりますから、希望が叶えられるかどうかは分かりません、さらに武士団の機密に関わる情報は制限させてもらいます」

「もちろんでございますわレインド様、むしろそう誠実におっしゃって頂いて心から感謝しております!」


おかしいな、これは口実ではないのか?

それにしては演技には見えない興奮の仕方だ・・・・もしこれが演技だとしたら相当な女優と思わざるを得ない・・・・・






武士団の年齢構成には顕著な特徴が見られる。

13歳から20歳~が最も多く、候補生見習いというか保護している幼い非魔法力所持者の子供たちが一定数在籍していた。

その年齢は6歳~8歳に固まっており、この年齢の分布にはかなりの特異性が見られるとリョグルは考えているらしい。

こうした子供たちは、将来を担う人材育成を行うため士道館という幼年藩校のような学習期間を設立し一般教養と武士道の基礎を学ぶことになっていた。

また、体力つくりの一環で武芸も学ぶ。

虐げられてきた子供たちであったため、当初は馴染めない子も多かったが徐々に笑顔が見えるようになり今では子供たちの笑い声が士道館から溢れる毎日になっている。

隊士たちも士道館で講義することが楽しみな者も多く、以外と子供たちに人気なのが十六夜と夕霧、紅葉だった。


デュランシルトへ短気留学という扱いになったマルレーネは、まずはこの士道館で武士団の雰囲気を掴んで欲しいと子供たちと一緒に学ぶことになった。

この時点で馬鹿にされたと感じ帰るであろうというのがレインドの予想であったが、当日のうちに子供たちと打ち解けドレスを脱ぎ捨て動きやすい服に着替えるとお付きの侍女が止めるのを無視して一緒に泥だらけになって遊びまわるという一面を見せていた。

これも演技なのかとレインドは戦慄したが、既に夕霧や紅葉などとも打ち解け一緒にお風呂に誘われている。

またこのお風呂で感激してしまい、あまりの気持ちよさにのぼせてしまうという醜態を見せながらもそれがきっかけになり女性隊士たちとも急速に距離を縮めていた。

着目すべき点はこの状況で魔法は一切使わずに過ごしていたということだ。


レインドがマルレーネの留学を受け入れた状況にも関わらず、シズクは自らの弱さを克服しようと厨房に復帰していた。

そのシズクがラディ肉をもっと小さい子もお年寄りも食べ易い丼を作れないかと苦心し、作り上げたのがラディ丼の一種・・・・・・・

いわゆる牛丼に近いものだった。

玉ねぎに良く似たバリヌという野菜とラディのバラ肉を使いお砂糖と醤油で味付けをし、タレごとご飯にかけるラディ煮込み丼が完成したのだ。


隊士や子供たち、さらには街の年配者にも好評で、食が細いマルレーネでさえあまりのおいしさにテーブルマナーを忘れてがっついてしまうほどだった。

見ている限り、マルレーネは武士団での生活や勉学を満喫しているかのように見える。

空いた時間にニーサの元で領地経営について学ぼうという貪欲さを見せるが、レインドにはまったくアプローチをしてこなかった。

ニーサをはじめサリサたちもこのマルレーネの行動には疑問が多かった。


そんなある日、マルレーネが真九郎との面会を希望したのだ。

真九郎があっさり了承したため、シルメリアも同席し質問を受けることになった。

「このたびはお時間をとっていただき、本当にありがとうございました」

深くお辞儀をし感謝を示すマルレーネに関心しつつ真九郎はこの娘の本意を探ろうとしていた。

「構いませんよ、ただあなたが何を考えてデュランシルトに来たのか・・・・・それを教えて欲しい」

「これは・・・・さすが武士団の精神的支柱ですね・・・・・わたしくはこのデュランシルトと武士団は緋刈様なくしては成立しなかったと考えています」

真九郎はじっとマルレーネの真意を探るべくその目を見つめ続けていた。

その隣の女性を見て、マルレーネは思わず声をあげそうになってしまう。

この人の美しさは・・・・・発せられる圧倒的な魔法力の資質・・・・・

見誤っていたかもしれない・・・・・・緋刈真九郎だけじゃなくこの女性の存在もデュランシルトの核になっているんじゃないか?

「マルレーネさん、武士団は誰一人欠けても成立しませんでしたよ・・・・・あなたが聞きたいのはそういうことではなく、本質から少し外れた点なのではないか?」

「あっ!・・・・・」

「勘違いであったら、聞き流して欲しい・・・・武士団が学ぶ武士道は己を律し礼を学び、仁の心を持ち、信を心がけ、勇と義を育むものです、だがこの武士道はある意味自分自身を縛るものでもある・・・・・あえて不自由に縛る理由は何なのか?であっているかな?」

「はい・・・・・おっしゃる通りです・・・・・」

「死界人を倒すことが出来るということはそれだけで大きな権力を有することになる、ここで倒して欲しければ金を払えというのは簡単だ、だがそのような心では死界人を倒すことは叶わないだろう」

「ぎ、技量があれば・・・・倒すことは可能ではないのですか???」

「技量・・・・・たしかに重要な要素だと思う・・・・だがそれでは心と魂で負ける・・・・・死界人との戦いというのは肝心な心と魂が弱くては勝てぬものなのですよ」

「こころ・・・たましい・・・・」

「抽象的な言い方をしてしまっていると思うが、・・・・あの恐怖と対峙して乗り越え、さらに倒すために振るわれる勇気は一日やそこらでは身につけることはできないでしょう・・・そのための心と魂、そして武士道なのです」



ここでマルレーネは気付いた・・・・・全ては人として人の力で死界人を倒すというその一点に集約しているのだ。


死界人を倒すために設立された武士団は、この緋刈真九郎の導きの元に結果を出してみせた。

250年以上求め続けた倒す手段を発見し、さらにその手段を効率化、昇華し成し遂げたのだ・・・・・その誇り高い魂を汚すことなく意志を貫き通して・・・・


そしてその首魁がレインドなのだと・・・・・

だとすれば・・・・・

「これは全て、神々のお導きによるところなのでしょうか?」

「分からぬ」

「え?」

「その機会があれば神々に聞いておいてください」

「は、はぁ・・・・」

「人は所詮、人でしかないのだ、神々の意志を忖度するのは神殿の者たちに任せておけばよい、我々は大切な人々を守るために日々研鑽を積んでいるのです」


「ひ、一つだけ教えてください・・・・・その武士道はあなたが、緋刈様がお考えに・・・・立ち上げた思想なのでしょうか?」

「いいえ、違います。私が元いた世界で伝承され育まれてきた人の生きる道を示した道の一つです」



緋刈真九郎が異なる世界からの来訪者であるという事実にマルレーネは打ちのめされていた。

ただ、納得できる点は多かった。

なればこそ禁忌の武器を扱う技術を身につけ、武士道というこの貴族社会ではありえぬ厳しい自制を課す精神論・・・


「お願いします・・・・・話せる範囲でいいので、わたくしも・・・・・緋刈様が紡ぐ神話の登場人物にお加えください・・・・・」

マルレーネは興奮しシルメリアと真九郎に訴えかけた。




マルレーネは夜の厨房に1人でレシピを考案しているシズクの元を訪れていた。

「シズクさん、こんばんは突然押しかけてごめんなさい」

「あ!!マ、マルレーネ様・・・・・・」

マルレーネは微笑むとシズクの側に近づいた。

「あのね、シズクさん・・・・色々誤解があるようだからあなたに説明したいと思って来ましたの・・・・・」

「は、はい・・・・・」

シズクはその時点で泣き出してしまいそうなほどに肩を落とし、震えていた。

これが・・・・・レインド様の思い人・・・・・

たしかに美しい・・・・・可憐で繊細・・・・・でも凛々しく愛嬌もある、そしてあのアクアブルーの髪は・・・もしや?

「わたくしがこのデュランシルトへ強引に押しかけた理由は・・・・・・レインド様との婚姻が目当てではないのです」

「・・・・え?」

「安心してシズクさん、もちろんレインド様は魅力的な方よ、むしろあれほどの殿方など今後数世紀現れないでしょうね・・・・・・」

シズクはおろおろしているが、マルレーネに嫉妬や敵意をまったく向けようとしないことには感心するどころか尊敬の念さえ抱くほどだった。

「わたしくしの目的はね・・・・・当初はニーサ様に憧れてあの方の政務能力を学びたいと思ったからなの」

「ニーサさんの??でもすごく分かります、カッコイイですよねニーサさん!」

「うんうん!!!あんな女性になりたい!でも・・・・今ではもちろん憧れるけど、それ以上に・・・・・・神話に匹敵する存在となってきたこの武士団に加わり共に神話を彩る1人の登場人物になりたいって気持ちが抑えられないの!!」

「し、神話ですか・・・・・」

「ええ、だからこそ神話を大切にするわたくしが思うに、レインド様が自ら死地に赴いてまで助け、支え続けたシズクさんとは絶対に結ばれなければならないの!」

「え?ええええええええ!」

「シズクさん、わたくし二人が結ばれることを心から応援するわ・・・・・・あなたが想像していた以上の人柄で本当にうれしいの!」

「あ、あの・・・・・おっしゃっている意味がよく分からないんですが・・・・」

「分からなくていいの、シズクさんは絶対にレインド様と結ばれるから安心してね、わたくしは敵じゃなく味方よ」

「は・・・・はい・・・・」



マルレーヌの動向を調査していたナディアからも不審な点は見られないという報告があがっていた。

ニーサについて実務を見学している時も貴族のお嬢さんにありがちな高飛車で下に見る態度はなく、疑問点を随時質問しメモを丁寧に取ろうとする姿勢をニーサは素直に評価している。

もしかしたら、私たちの杞憂なのではないかと考え始めていた。

実際、物覚えが良く田植え作業を見学した時も子供たちと一緒に泥だらけになりながら田植えを楽しんでいたし、あのピスケルもマルレーヌに抱きつかれても拒否することはなく背中に乗せて遊んだりしているほどだ。

ニーサ自身も後継者が欲しいと考えていた矢先であったことから、半兵衛と共に彼女を育てるのもおもしろいと思うようになっている。


そして雪が繭になってから一週間あまり過ぎた頃・・・・・・

「シルメリア・・・・・・変なことを言うようだが聞いてくれぬか?」

「真九郎??どうしたの?」

「あのだな・・・・・あまり過度の期待をしてはいかんと自分自身の様子をこの一週間細かく観察していたのだがな・・・・・」

「え??まさか病状が悪化したのですか!!!」

シルメリアが蒼白になってうろたえている・・・・・・・

「違うのだ・・・・・その・・・・すこぶる調子がいいのだ、雪がこうなってから特に・・・・・」

「え!?」

「一度リョグル先生に調べてもらおうと思う・・・・・いったい何故なのだろうな、気のせいかもしれんが」

「さっそく明日にでも帝都に行き精密検査を受けくださいね!」

「うむ・・・・しかし雪は大丈夫だろうか・・・・・」

「はい・・・・雪ちゃん・・・・いったい何が起こっているの・・・・」

二人で優しく繭を撫でていたときだった。

その繭が不意に白く優しい光芒に包まれ、眩しくて目を開けていることすらできなくなる。

「真九郎!!」

シルメリアが自分をかばおうとしたが、光芒の圧力で押し倒された二人は光が収まると同時に目の前に現れた存在に絶句した。


割れた繭からのそのそと出てきたのは子供ほどの体格のある幼いドラゴンの姿であった・・・・・・

「ゆ、雪なのか!??」

『シメリケ!真九郎!!おはよう!』

「雪ちゃんなのね!??無事で本当に良かった・・・それにしてもその姿は・・・・」

『真九郎のオルナ、いっぱいいっぱい、おいしかった!』

「・・・・・!」

シルメリアは以前から雪がオルナを食べることを知っていたが、もしかしたら・・・・雪は真九郎の体内に蓄積したオルナを・・・・・主要臓器にたまったオルナを食べたのではないか???

そうなると、真九郎の体調が好転した理由が判明したことになる・・・・・

真九郎が育んだシルメリアに対する思いと武士道を貫く侍としての生き方と勇敢さが凝縮したと思われるオルナは、雪によって吸収されその結果神々しいまでの美しいドラゴンの幼生が誕生していたのだ。

「雪ちゃん!!!ありがとう!!!」

『シメリケ!』


雪の姿は輝く白銀の体毛とアクアブルーのかわいい双角が生え、シルメリアと同じ春碧色の大きい瞳がかわいらしい。

聖獣のような印象を受けるのも、その神々しいまでの美しさからだろう。

さっそく真九郎の膝の上で甘え撫でられてご機嫌のようだ・・・・・


ああ・・・・・神々よ・・・・・あなた方を呪ってしまったことを心から後悔しています・・・・・

こうなることが必然だったのですね・・・・・


雪はそんなシルメリアを慰めるように翼を広げてシルメリアに優しく甘えるのだったが・・・・竜化した際に使われた繭の中から奇妙な塊が発見された。

雪に聞いてみると、大事なもの、真九郎にあげると言うだけである。

それはずっしりと重く、両拳をあわせたほどの大きさで謎の金属としか言い様がなかった。

そのためジングとルシウスにこの金属を見せたところ、玉鋼に良く似ていると言われ預けてみることにしたのだ。


雪は士道館の子供たちと遊び、向日葵と光輝をかわいがり、赤ん坊も雪を見てご機嫌になるためナデシコも助かっていた。

まだ飛べないようで翼をパタパタしているが、その美しい姿にマルレーネは見とれている。

そんなマルレーネにも変化があった。

士道館の子供たちの訓練や勉学を共にしていた彼女だが、指導に訪れるある人物の時だけ妙にぎこちない態度なのだという。

クルーグ先生の授業が終わり、みんなが校庭で遊んでいるとき十六夜が様子を見にやってきていた。

「ああああ!十六夜だあー!!」

子供たちに何故か人気の十六夜はその大きい体を使って子供たちと遊びまわっている。

そんな無邪気に子供たちと遊ぶ十六夜をぽーっと見つめていたのがマルレーネであった。


「お嬢さん!あんたとも一緒に遊びたいってよ!」

「へ!!?」

強引に十六夜に手を引かれたマルレーネは子供たちに囲まれながら追いかけっこやかくれんぼを心行くまで楽しんだ。

「はぁはぁはぁ・・・・・・子供って・・・・なんであんなんに・・・・体力あるのよ」

「はははは!そりゃあ、うちの子供たちは毎日外で遊びまわってるからな体力が違いますよ」

「でも・・・・みんな幸せそう・・・」

「そうだ・・・・あいつらの幸せを守ってやらなきゃ・・・・・・俺たちみたいな目にあわせたくないしな」


自分たちと同じような目に・・・・・なんて優しい人なのだろう・・・・・・

その時であった。

「十六夜!!バウル街道に妖人種の目撃情報があった、シルメリアさんの報告では6体ほどが街道周辺にいるらしい!」

「すぐに睦月隊を召集しろ!!騎馬の準備を急げ!」


瞬時に緊急事態に対応する十六夜の切り替えの早さに驚きつつ、遠く優しい眼をしていた彼の瞳が、誰かを守るための戦う決意を宿した瞳に変わったとき・・・・・・マルレーネは自分が恋に落ちたのだということに気付いた。


結局、妖人種は巡回警備中の帝国軍によって排除され事なきを得たがこの部隊展開能力の迅速さにマルレーネは衝撃を受けていた。

凄まじいまでの徹底した戦闘集団としての心構えと日常の一挙手一投足が訓練に繋がっている・・・・・

しかも陰湿さがない・・・・・

なんなのだろう、これが現実なのか?

しかも、十六夜様かっこよすぎです!!!!



マルレーヌが1人の恋する乙女だと判明した頃、真九郎は護衛の夕霧とヴァンに付き添われ帝都のリョグル先生を訪れていた。

一通りの説明を受けたリョグルは医学者らしく、冷静に真九郎をベッドに寝かせるとすぐさま検査に取り掛かった。

考えうる検査を行っていくが信じられないことに、あれほど停滞し貯留していたオルナが掻き消えている。

「緋刈・・・・・体内の毒素が消えている・・・・・」

「やはり雪が俺を救ってくれたのか・・・・」

夕霧がこらえきれずに真九郎へ抱きついて泣き始めた。

彼女の耳を撫でながら自分に起こったことを信じられぬままリョグルを見ると眼に涙を浮かべながら真九郎の肩をポンポンと力強く叩く。

「よかった・・・・・本当によかった・・・・ただ、念には念を入れたい・・・・・しばらくは定期的に検査を受けてくれ、それと吸魔透析も一ヶ月に一回は受けたほうがいいかもしれん」

「ありがたいことです・・・・・こうやって病魔におかされてみて思いました、俺は多くの人たちの善意によって生かされているんだって」

「それが分かっただけでも良かったじゃねえか!」

「局長!俺、すぐにデュランシルトへ戻ってシルメリア姉さんに伝えてきます!!!妖人種警戒で来れませんでしたが、きっとすぐにでも結果が知りたいはずですから!」

「ヴァン・・・・すまないが頼めるか?あ、気をつけるんだぞあまり急がなくいいんだからな?」

「分かってますって、じゃあ後は頼むぞ夕霧!」

「ありがとうヴァン!お姉さまに早く教えてあげて!」

「いやはや・・・・・お前らの絆はすごいな・・・・・・」

「絆か・・・・・」

「そうですよ、武士団は家族なんですからね」

夕霧がここぞとばかりに甘えてきているが、今日だけは許してやることにした。



向日葵と光輝が4ヶ月に入り、首が座り声を盛んに発するようになってかわいさもまた跳ね上がったような気がする。

雪の鳴き声に反応して声を出し、マユがふりふりする尻尾をみて喜んでいる。

常に二人の周囲は暖かい優しさに包まれていた。

ピスケルまでがやってきて水の玉で二人を驚かせて祝福してくれているのを見て、ナデシコは義経と幸せを噛み締めている。

マルティナはオムツ交換や哺乳瓶を使った授乳なども器用にこなすようになり、すっかり赤ちゃんの虜になっていた。

泣き出した光輝をよしよしとすぐに落ち着かせるのが上手で、ナデシコ以上に上手いのではないかとさえ言われる。


向日葵は好奇心旺盛で色んな物に興味を示しすぐに眼を大きく見開き驚いたり喜んだり、声を出して遊んでみたり。

対する光輝はやや気難しく、ナデシコやマルティナなど一部の人でないと泣き止ませることが難しかったりするがマユや雪が大好きで一緒にお昼寝をすることが多い。


真九郎が体調を取り戻し、局長に復帰した際は街をあげてのお祭りになった。

街中が総出で復帰を祝い、これを口実にはしゃぐ陽気な連中たちの喧騒が街を埋め尽くした。

そしてある恋の物語が一つ結ばれようとしている。


朧組がはりきり祝福の花火呪文で夜空を染め上げている中、眺めの良い湖畔に二人は立っていた。

「ニーサさん・・・・・いきなり・・・・あの・・・・えっと・・・・・ですね・・・・・」

もじもじと後ろ手に何かを隠しながらニーサに何かを伝えようとするザインは滝のような汗を流していた。

「どうしたんですかザインさん、普段はあんなに毅然として頼りになるあなたが?」

ちょっと意地悪かしらと思いつつ、ニーサはザインを追い詰めていく。

「そ、その・・・・その・・・・・はぁ・・・・・」

すっとうなだれたように見えたザイン。

からかいすぎたかもと心配になったときである。

「ニーサさああああああああああん!!!!!!俺とおおおおおおおおお!!」



「結婚してくれえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」



彩られる夜空に向かって叫ぶザインは緊張のあまり荒い息を吐いていた。

そして差し出したのは彼が必死に選んだと思われる・・・・・指輪だった。

ニーサはザインがちらちら様子を見るのを見て、その姿が主人の顔色を伺う犬と重なってしまい思わず噴出してしまった。

「ぷっ・・・!うふふふふふふ」

「え??あ、あの・・・・返事を・・・・聞かせてもらえないだろうか・・・・・・」

「はい・・・・・ザインさん、私をお嫁さんにしてください」

ニーサがそっと今まで見せたこともないような照れた面差しでザインの手をとった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!やったあああああああああああああああああ!!!!!!」

あまりの勢いにニーサを抱きしめたザイン。


「「「「「「「「「「「おめでとうおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」


そこには真九郎やシルメリア、武士団のみんなや街の住人、そして雪やマユまでもが拍手をしながら二人を祝福していた。


「なっ!!!!お、お前ら!!!!」

「あなたたちどうしたの!!!??」

「うちには風牙っていう優秀な諜報部隊がいるのを忘れたのか?」

真九郎がからかいながらサクラの頭を撫でている。

「サクラちゃん!!!まったく・・・・・でも、ありがとうみんな!」

「よーしみんな!!!これから二次会は二人の婚約祝いだああああああああ飲むぞおおおおおおおおお!」

「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」


帝都に古くから伝わる祝いの席でよく踊られるトゥシューガという伝統舞踊・・・・・街の中央広場では思い思いの相手とこのトゥシューガが踊られていた。

真九郎は色んな女性から踊って欲しいと懇願され、仕方なく千鳥足の酔っ払いのような踊りを繰り広げ皆の笑いを誘っている。

マルティナには多くの隊士たちが緊張しつつ踊ってくださいとお願いされていたが、紫苑に促されて渋々踊りに付き合っていた。

レインドもシズクと二人でトゥシューガを踊り、皆から喝采の拍手を送られている。


そしてマルレーヌは・・・・・・

「あの十六夜様・・・・・よろしかったらわたくしと踊っていただけないかしら?」

「へ??俺がお嬢様と????俺なんかよりベントやマグナみたいな優男のほうが絵になるんじゃないか?」

「・・・・・・そうですか・・・・・わかりました・・・・」

マルレーネは肩を落とすと空いた席に戻っていくが、そのとき十六夜の後頭部が思いっきりぶん殴られてた。

「いてっ!」

「あんたはあほか!!!今すぐマルレーネさん追いかけて踊ってきなさい!」

「し、紫苑!????」

「さっさといけこのボケが!」

「うお、いてえええ!!」

紫苑に蹴飛ばされた十六夜は渋々落ち込むマルレーネの隣に腰掛け声をかけようとしたが、振り向いた彼女が眼に涙をいっぱいに浮かべているのを見て狼狽してしまう。

「うお、そ・・・そのすまなかった!!!俺はそのこういうのに誘われたことがなくてよ・・・・・その良かったら俺となんかでよかったら踊ってくれませんか?」

「・・・・・・わたくしでいいの?」

「あ、ああ・・・・最初に声をかけてくれたのがあんただ・・・・教えてくれないか?」

「わ、分かりましたわ!!いきますわよ!」


デュランシルトの夜風は優しく若者たちを包み月は穏やかな光で武士団の未来を照らしているように思えた・・・・・・・

いや思いたかったのかもしれない。



第四章 武士団 完


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