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侍ジュリエット  作者: 水陰詩雫
第四章 武士団
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9 希望と絶望

 ナデシコのお産は非魔法力者の特徴でもある治癒呪文がかかりにくいこともあり、想定よりも時間のかかる難産になっていた。

必死に長時間の陣痛に耐えるナデシコ。

分娩室にはナデシコが痛みに耐える声と励ます義経の声が入り混じっていた。

熟練の助産術師たちの活躍で逆子は改善し、一人目の出産は無事うまくいったが二人目の出産でナデシコが途中意識を失う事態に陥った。

義経は泣き叫びながらナデシコの手を握り叫び続け、補助に入っているサリサも必死に声をかけ続けていた。

一人目は元気な女の子であったが、二人目はいまだ出産には至っていない。

「おい!輸血の準備だ!!!控え室で準備していた隊士たちに入ってもらえ」

そこにはナデシコと血が近いとされたエヴァと夕霧が通され、すぐに輸血の処置に入る。

「私なら血の気が多いからいくらでも採ってください!!お願いしますナデシコ姉さんと赤ちゃんを助けて!」

夕霧の叫びに感謝するような目を見せる義経。

初めてみる局長代理の取り乱し方に夕霧も心を痛める。

「私だっていっぱいとっちゃってください!!!」

女性の治療術師たちは状況改善に必死で、突然の出血により見る見る脈が弱くなり緊急輸血を開始する。



だが緊急処置にも関わらず、突然ナデシコの心拍が停止した。



「ナデシコォオオオオオ!!!」

「お姉さまああああああああ!!」

「ナデシコちゃん!!!戻ってええええええ!」


治療師たちの指示が飛び必死に回復に向けての治療が進められる。

「ナデシコ!!!ナデシコ!!!!お前ふざけんなよ俺とこの子を置いていくのか!!!おい!!!ナデシコオオオオオ!!!」




遠くで自分を呼ぶ声がする。

誰だろう。

何かすごく暖かくてやさしい場所だ。

足元に広がるのは、見たことのあるピンクの花・・・・すごくかわらしい花だ。

でもどこかでこの花を見たことがある、知っている気がする。


一面に広がる美しい花の大地の先に人影が見える。

誰だろう・・・・・

やることもないので歩いてみようか。

そこは澄み切った美しい川が流れ、一艘の小船が岸につけられていた。

どうやら船で川の向こうにあるすごく光り輝いている場所に連れていってくれるようだ。

「あたしも、乗せてちょうだい」

そっと小船に足を乗せようとしたときだ。


『しっかりせんか!!!この馬鹿娘が!!!!!!』


「だ、だれ・・・・・」

目の前にいたのは異様な格好をした髭親父だ、腕には長い妙な棒を持っている。

『思い出してみなさい・・・・お前を呼ぶ声が誰なのか・・・・』

「声・・・・・・・」


「ナデシコオオオオオオ!!!!ナデシコオオ!!!」

必死に叫ぶ声が聞える・・・・

「ナ、ナデシコ・・・・・・・」

『そうだ、足元に広がるその花の名と同じ・・・・・・お前の名だ』

「ナ、ナデシコ・・・・あっ!」

強烈な記憶の奔流が心を混乱させる。

「でも・・・・・あそこにいけば楽になれるんでしょ・・・連れていって川の向こうに」


『それでいいのか?お前が今、何と必死に戦っているのか・・・・忘れたのか?』

「戦い・・・必死・・・・」

『思い出してみなさい、声の主を誰がお前を呼ぶのか・・・・』

「声の主・・・・・あんなに無茶するなって言ったのに・・・・え!」

頭を押さえたナデシコは、髭親父の握った棒を奪いとると石突に思いっきり頭を打ち付ける。

「くぅ!!!!いったぁ・・・・」

突如開ける視界・・・・・霞がかかっていた世界がクリアになっていく。


そこには髭面ながらやさしい眼をした1人の武者がその甲冑姿に似合わぬ笑みを浮かべていた。

「お、お父さん!!!!お父さんが引き止めてくれたのね!!!」

『わしにできるのはここまでじゃ・・・・・最後に残しておいた力が役に立ったかのう・・・・』

「ちょっと待って、お父さん!!!どこに行くの!!!」

『この船にはワシが乗っていく・・・・・・お前は帰りなさい・・・・・さあ、孫によろしくな・・・・さらばわが娘よ』

最後にうつった不破の顔は今までに見たことのないような穏やかで優しいおじいちゃんの顔になっていたような気がする・・・・・


「お父さああああああああああん!!!!!!!!!くぅはあはあはあ!」

「ナデシコおおおおおおお!!!良かった!!戻ったんだな!!!!」

「はぁはぁ・・・・はぁ・・・・大丈夫・・・・戦いに負ける訳にはいか・・・ない・・・・不破源十郎重昌の娘なんだから!!!」



稀に見る難産だったが、ナデシコの鍛錬により身についていた体力とがんばりにより元気な双子の赤ちゃんが生まれた。

姉と弟である。

出産直後は大量の出血と体力を消耗しすぎて寝込んでいたが、三日後ぐらいには食欲が復活し回復に向けて体が動き始めているようだ。

やはり基礎体力が違うため回復も早いらしく、付き添うサリサも回復の早さに驚いている。

数時間置きの授乳もきっちりこなすナデシコは既に立派な母親の貫禄でその眼差しは慈愛に満ち溢れていた。

赤ちゃんはナデシコの腕に抱かれ今は穏やかな眠りについていた。

リョグル先生によれば魔法力の有無については1歳を過ぎることになれば分かると聞かされ、しばらくは何も気にせずこの子たちに愛情を注ごう。

「そういえば、ナデシコ、お前そんな腕飾りいつの間につけたんだ?」

「え???これ??義経がつけたんじゃないの?」

「俺は知らない・・・・医療用の護符か何かかな?」

後で治療院の関係者に聞いてもそんなものは知らないし、妊婦にはそのような物をつけることは治療の妨げになるからありえないとまで言われる。

「そういえば、赤ちゃんを初めて抱いた時には、つけていたような気もする・・・・もしかしたら・・・・・」

「心当たりがあるのか?」

ナデシコの髪を撫でながら義経は心配そうに問いかける。

「それがね、すっごく気持ちいい場所にいたのよ、全部忘れて川の向こうの光る場所にいきたいって船に乗ろうとしたの」

「おい・・・・怖いこと言うなよ・・・・・・」

甘えるようにナデシコの手を握る義経の頭を優しく撫でながらこたえる。

「そのときね、しっかりせんかこの馬鹿娘が!って怒鳴られた気がしたの」

「父上・・・・」

「うん、お父さんがね、記憶があやふやだった私を励まして思い出させてくれたの・・・それでね・・・それでね・・・孫によろしくって・・・」

「最後まで・・・・俺たちを見守ってくれていたんだなぁ・・・・・」

「この腕飾り・・・・良く見ると二連の・・・・蝶の飾り????」

顔を見合わせた二人はこの腕飾りが誰からの贈り物なのかを理解し、抱き合って泣き続けた。



三日後に病室を訪れたのはニーサとルシウスだった。

「あら、ルシウスまで忙しいのにありがとう」

「いえ、姉さんとお子さんのために届け物があったんですよ」

「ナデシコ、調子はどう???復帰のことはしばらく考えずに自分の体と子供たちのことを優先してね」

「ありがとうニーサさん」

「それとこれ、シズクから、ナデシコの好きな親子丼よ」

「うおーやった!!待ってました!」

「もう、食べすぎちゃだめよ」

ルシウスは持ってきていた鞄から、二本の短い脇差。短刀に近いだろうかというものを取り出した。

「姉さん・・・・これは俺が勝手に作ったんで良かったら受け取ってもらいてえんですが」

「それってルシウスが作ったの?」

「はい・・・・お子さんたちの守り刀になればと思い・・・・・お姉ちゃんのほうの短刀は、この短刀、おぼっちゃんのほうは、こっちです」

「すごい出来栄えね・・・・この刃紋・・・・・見たことないわ」

「それがですね、守り刀を打とうと決めてからその短刀を打とうとしたときだけ、この刃紋が浮き出るんですわ・・・試しに他の刀にもこの刃紋を出そうと試みても一切出やしません」

「そう・・・ありがとうルシウス・・・・私と一緒にこの子たちを守ってもらうわ」

「お納めくださいませ、それとこれを姉さんに」

「え?まだあるの?」

「はい、姉さんの脇差は俺が初期に作ったあまり出来の良くない代物だったんで、ずっと気になってまして、それで武士団のお母さんとも言うべきナデシコ姉さんに相応しい脇差をって必死に作ったのがこれです」

槍の邪魔にならないように、あまり長い脇差ではないが扱い易い1尺5寸ほど。

ナデシコが脇差を引き抜くと守り刀と同じ刃紋が浮き出ており、その造りこみの素晴らしさに思わず声が漏れ出ている。

「ね、ねえ・・・これってすごいんじゃないの???」

「はい・・・・正直ここだけの話なんですが、ご主人の立華を上回った一刀です・・・・脇差ではありますが、正直髭切超えたかもしれんですよ」

「えええ!ちょっとそれは黙ってなさい!」

「はい・・・・」

「それで・・・・銘は?」

「それがですね・・・・・姉さんの名前を頂戴してもよろしいでしょうか・・・?」

「構わないわ、こんなすごい刀に名前が付くなんて、うれしいもの!」

「では・・・・改めて・・・・ 大和撫子 ・・・・・・でどうでしょうか」

「大和撫子・・・・・!」

「ナデシコ、あなたにぴったりの武器ね」

「うん、ルシウス、本当にありがとう!!!家宝にするわ!!!」

「ありがたいことです、では俺はドワーフ工房によってから帰りますんで」

「気をつけてね」

ルシウスが帰った後、しばらくナデシコとニーサは赤ちゃんの寝顔を愛おしそうに眺めていた。

「ニーサさんあの、師匠とシルメリア姉さまの様子は?」

「それがね・・・・リョグルさんが新たな治療法を試したいってことで先日帝都の治療院に入院したの、あの人はそこまですることはないって言ていたんだけど、シルメリアのほうが必死にお願いして帝都に来ていたわ」

「そう、二人も帝都にいるのね」

「あなたはまだだめよ、産後の肥立ちは重要なんだから」

「そうね・・・・この子たちの名を早く師匠に決めて欲しいんだけどな・・・・・」

「その件で真九郎さんから伝言よ、ナデシコ、難産だったと聞くが母子共に無事で安堵している、本当におめでとう、名付け親の件だが相談には乗る、だが親である自分たちで決めなさいって」

「師匠ったら・・・・・」

「義経くんも見舞い先でそう言われたみたいよ」

「そっか・・・・じゃあ考えておかないとだね」

そうわが子を優しく見つめる眼差しは既に母の目になっていることにニーサは時の流れを感じていた。


「ニーサさんも早くザインさんと結婚しちゃいなよ」

「え????どうして??」

「あれ?気のせいかな、ザインさんって絶対ニーサさんに気があるって思ってたんだけどな、用事ないのにニーサさんが戻るタイミングにあわせてわざと通りかかったようなことしてるし」

「そ、それはないわよ・・・あのザインさんよ?」

「あーあ、泣く子も黙る冷血の宰相にも弱点が一つありました!!!それは恋です!」

「ちょっとナデシコ、からかわないで」

「からかってないよ・・・・・お似合いだと思うな・・・・・ザインさんって封印迷宮でも頼りになったって言うし質実剛健?」

「たしかにあれほど頼りになる人もそういないけど・・・・・」

「ほらぁまんざらでもないんじゃん」

「もう・・・・」

そう言いながらも今までの彼の行動を思い出していたニーサは思いあたる節がいくつもあることに今更ながら気付いた。

面会時間ぎりぎりに訪れたのはネリスとジョグ、それにザインだった。

「ナデシコちゃーん!無事でよかったよお!!!」

「ネリスさんお久しぶりです!!!」

「ほら、挨拶なさい」

「あるびしゅでしゅ!」

幸運なことに神の御慈悲か容姿に関する遺伝子はジョグのものを器用に避け、ネリス側を選んでくれたために非常にかわいい男の子だった。

「アルビスくん、こんにちは!」

「ナデシコさん、無事で本当によかった、ネリスがどうしてもお祝いしたいってこれ」

ジョグが差し出したのは赤ん坊用の産着や自動洗浄の呪文がかけられた希少なおむつである。

「ありがとうネリスさん!!さすがお母さん!」

「えへへ、だってダーリンが色々これも必要かもって言い出すんだもん相変わらず気使いできる男ね」

「からかわないでネリス・・・・」

「今でもラブラブなんだね」

「「・・・・・はい」」

「はいはいごちそうさまごちそうさま、それでザインさんは・・・」

「あ、はい!!ナデシコさんにお祝いをと思いまして、ノルディンと一緒にということでこれを!」

妙にぎこちないザインは二人が必死に選んだと思われる果物の詰め合わせを差し出した。

「ザインさん、ありがとう!ノルディンさんにもお礼伝えておいてください」

「はい!・・・・・」

「ねえザインさん、一つお願いがあるんですが、帝都にすっごくおいしいアイスクリームのお店があるんだけど買ってきてもらってもいいですか?お世話になった治療院の人たちへの差し入れにしたいんです」

「それならお安い御用だ場所は・・・・そうかホルマ通りの商店街のあそこかなるほど分かった」

「あ、それからニーサさんもついて行ってね、荷物運びで」

「え??」

「ニーサさんには途中で女物の下着をお願いね、サイズ知ってるでしょ?」

「ねえ、持ってなかった???」

「いいから暗くなる前に早く」



ほくそ笑むネリスとナデシコを他所に二人はいつになくぎこちない会話を続けていた。

「そ、そういえば、今度帝都商業地域のシェルター工事に際して巡回警備会議がありまして」

そういえばって、この人もたいして私と変わらないぐらいあっち方面不器用なのね・・・・

でもそう思ったら急にこの人に親近感が沸きかわいく思えてきた。

無骨で常に怒っているような顔つきの男だから、女性が近寄っても怖がって逃げてしまうことも多い。

だがニーサは知っている、表には出さないが非常に繊細で優しい心遣いができる人間だということも・・・・

思い返せば3年以上、この人と一週間以上顔を合わさない日などなかった。

「ザインさん、ねえちょっと付き合って欲しいところがあるの」

「え??でもナデシコさんからのお使いが」

「いいのよ、それはあの子が用意してくれた口実なんだから」

ニーサは髪留めを外し髪を下ろすとその長い髪が風になびいた。

「ねえザインさん・・・・あの真九郎さんがね武士団以外ですごく高く評価している男性が4人いるの」

「それは興味がありますね、いかほどの人物なのでしょうか」

「1人はね、エルナバーグ領主レグソール伯・・・・二人目は先代のシルヴァリオン隊長トリアムドさん」

「・・・・・・・・」

「そして3人目はシルヴァリオンで奴隷救出任務を担当しているシルフェさん」

「それは私も同感です、シルフェまで選んでいるとは逆に私もうれしく思います、彼は尊敬に値する男です」

「はい、私もそう思います・・・・そして4人目はあなた、ザイン・レッシュバーン」

「まさか、緋刈ほどの男にそう評価されるとは・・・・」

「謙遜してはだめよ、真九郎さんはザインさんのような実直でこつこつと真面目に物事に取り組む方が大好きなんだそうです」

「そうでしたか・・・・今後の励みになります」

「聞きたくないですか?」

「え?何をでしょう」

「私が評価している男性です」

「知りたいような知りたくないような」

「安心してください、ザインさんは入っていません」

「そう・・・でしたか・・・・すいません」

ザインは大きい体が一回り小さくなったようなそんな気がしている。

「あの、お使いがないようなら・・・私はこの辺で・・・・」

「評価ではなく・・・・好意を持っている殿方なら1人だけ・・・・・いるんですよ?」

「!!!!!!!!ぬおあ!!!!」

「ふふふふふ・・・・そういう時折見せる子供っぽいところ、かわいいです・・・・・私は今日宿舎で1人寂しく食事なんです・・・・」

「そうでしたか・・・・でもたまには1人で食べるといい考えも・・・・その巡る・・ことが・・・・うん」

「ほんっとにこういうところだけは恐ろしく不器用なのね!」

「は、はぁ・・・・すいません」

「他の人はごめんだけど、1人だけ一緒に食事をしてもいい人が・・・・・一緒に食事をしたい人がいます・・・それがザインさんです!」

「な、なんああああ!い、あいまあかあだら・・・・・その・・・・・」

「うふふふふあははははは!ほんとザインさんっておもしろいわ、行きましょう、素敵なレストランの一つぐらい知ってるんでしょ?」

「は、はい!!!ごっごごごごあなんしあああす!!」




同じく帝都の別の治療院に通された真九郎はリョグルからある説明を受け飛び上がるほどに驚いていた。

「先生!これはいったい!!????」

驚くのも無理はない、真九郎が寝かせられたベッドの脇に設置されたのはいくつもの・・・・20個以上のグラルゲヘナ核が埋め込まれた奇妙な装置だったからだ。

「安心しろ、鍛冶場の核には手出しちゃいない」

「もしかして武士団から金が・・・・・なんてことだ・・・・俺のために財政を圧迫してしまう・・・」

「おいおい、いい加減にしろこの早とちりが」

「え??」

「安心してください真九郎・・・・・私も聞いたときは驚いたのですが・・・・・」

「そうだな・・・・俺も驚いたがこういう話はな、以外と駆け巡るのが早くて・・・・・鬼凛組で血の気の多い若い衆とラルゴ氏族の連中が、封印迷宮へ勝手に潜ってな・・・・」

「まさか!!あそこに行ったのか!!??」

「そのまさかだ、まあドヤ顔で傷だらけになりながら俺のところにこれを持ってきたって訳だ」

「あの・・・・・馬鹿どもが!!!・・・・・今度・・おこって・・・くぅ・・・・・・!」

最近余計に涙もろい真九郎は教え子たちが危険を侵して地下に潜ったことを本気で心配したし、自分を思っての行動に感激していた。

「真九郎ったら、最近涙もろいんだから・・・・まったく・・・・・・」

「お二人さん、さっそく治療の説明をさせてもらうぞ、これはな数がそろった時のために用意しておいた吸魔核を使った毒素のろ過装置のようなものなんだ」

「すごい仕掛けですね」

「これはな、お前さんの血をこの装置に通して毒素を直接吸収することができるんだ」

「!!!!真九郎は助かるのね!!!」

「シルメリア、落ち着きなさい、これは実験段階の装置だがこのままよりは確実に効果は出ると思う、少なくとも君の負担は減ると思うよ」

「え?負担??何のことですか?」

「シルメリア、君が苦しんでいることは知っていた、辛い思いをさせてすまなかった・・・・」

「真九郎・・・・・それは間違っているわ、私全然辛くなんてなかったもの・・・・・あなたと一緒にいられるだけで幸せなの」

「お熱いねぇあちぃあちぃ・・・・まったく・・・・だがね、血中の毒素を吸収できても臓器に定着してしまった毒素はそのままになる可能性はあるから無理はできんぞ・・・でもそうだな、杖なしで歩き回るぐらいはできるようになるだろう」

「それはありがたいことです、自力でナデシコの見舞いにいけますね」

「よかった・・・・・本当によかった・・・・」

「おいおい治療がうまくいくとは限らないんだ・・・・血を抜いて戻す作業をするから大分疲労するとは思うが、がんばれよ」

「お願いします先生!」

「シルメリアは今後の治療計画の邪魔になるから、呪印石への挿魔作業はしばらく中止しなさい」

「え??どうしてですか?」

「真九郎がどの程度のペースでオルナを自然吸収するかを知りたいんだ、それは日常生活を再現する必要があるんでな、これは医師としての命令だから従ってもらうぞ」

「そうだぞシルメリア、先生の言うことは聞かないとな」

「・・・・・はい・・・・・」

「どうしても心配で仕方ないなら、一日一回だけ中級呪印石4個までなら認めよう」

それでも相当な魔法力消費なのだ、これでシルメリアの魔法力は30%程度がやっと削られる程度だろう。

「分かりました・・・・でも、これで希望が繋がったのね、無茶する教え子たちのおかげね、やっぱり教え子って先生に似るのね」

「俺は無茶はしないほうだと思うが・・・・・」

「絶対嘘!!!無茶ばっかりしてるでしょ!」

「はい・・・すいません・・・・・」


ちなみに一時脱走を疑われた、ベント、リヨルド、ヴァン、マグナたちはグラルゲヘナ核をドヤ顔で持ち帰ったことで褒められはしたが、レインドと義経にこてんぱんに怒られ地下牢で3日間の拘留処分になった。

だが、シズクやサクラ、それにラルゴ氏族や夕霧などの隊士たちからこれでもかと差し入れをもらい、夜に訪れたレインドがあったかい布団を差し入れ、義経は帝都から貴重なお菓子を買ってきて与えるなど拘留とは名ばかりの寛大な処分であった。

一部の隊士たちからは何故自分も連れていかなかったのかと詰め寄られもしたが、妙に敏感なお年頃の彼らはこう言い放った。

「悪者になるのは俺たちだけで十分だぜ」



リョグルの治療は思いのほか早く効果が現れ、一種の吸魔透析である今回の治療は当日こそ疲労がきつく眠ってしまったが次の日には見違えるほど元気になり治療院の周囲を杖なしで散歩を楽しんでいた。

魔法力欠乏症の境界領域から脱したシルメリアも血色が戻り、二人の状況が改善したことにリョグルは胸を撫で下ろしたしこの二人の覚悟と愛情の深さに敬意さえ覚えていた。

念のため様子を見たが三日後にはいてもたってもにいられずに、シルメリアと共にナデシコの見舞いに駆けつけるのだった。

「師匠!!!!え??どうしたんですか!」

「真九郎さん!!」

「ようし、俺のほうが先に見舞いにこれたぞ、見たかナデシコ!」

「・・・・!!!!」

声にならない喜びにナデシコは声を上げて泣き始め、それにつられる様に双子の赤ちゃんも泣き始めてしまった。

サリサも胸いっぱいでシルメリアと手を握り合っている。

「よーしよーし、大丈夫だぞぉ」

真九郎が赤ん坊をあやす姿に思わず微笑んだシルメリア。

「師匠ぉ・・・良かったよぉーー!!!お姉さまはどうなんです!!?」

「私もね、3割魔法力を削れば今のところは十分だろうって・・・・ナデシコ、色々ありがとうね・・・・・」

「良かった・・・・本当によかった・・・・」

「良かったのはナデシコとこの子たちのほうだ・・・・良くがんばったな、さすがナデシコだ」

「うん・・・・師匠・・・・あのね、お父さんが・・・・・」

そう言って腕飾りを見せつつナデシコが語った不破との別れ・・・・・

「そうであったか・・・・・さすが不破殿だ・・・・ナデシコが見たのはきっと賽の河原という場所なのだろう」

「さいのかわら?」

「ああ、俺たちの故郷では死んだ人間は賽の河原という場所で渡し舟に乗るんだそうだ、その先が黄泉の国、つまり死者の国なんだ」

「・・・・・・すっごく綺麗な場所で、あれがきっとナデシコの花なんだろうなって」

「そうか・・・きっと不破殿は何かを感じずっとあそこで待っていたのだろうな、素晴らしい父親だ」

「うん・・・・お父さんの分もいっぱいこの子たちに愛情注いで、あたしが受けたような辛い思いはさせないよ!」

「もう立派なお母様だな・・・・それで名前は決まったのか?」

「それがね・・・・二人していっぱい考えたんだけど、全然決まらなくて・・・・・師匠助けてよぉ」

「おいおいお母様しっかりしなさい」

「ナデシコと義経がこの子たちを思ってつけてあげるのが一番良いんじゃない?」

「そうですよね・・・・分かってるんだけどなぁ・・・・・何しろうちら学もないしなぁ」

「そうか、ではどういった思いをこめたいのか、それだけでも教えてもらえるか?」

「義経と二人で話していたのは、あたしたちは薄暗い路地裏で過ごすことが多かったから、この子たちにはずっとお日様の下で明るく元気に育ってほしい!!!」

「なるほど、二人の思いが伝わるよ・・・・・そうだな・・・・・」

「それにしても、かわいすぎる・・・お手手なんてこんなにちっちゃい!!!かわいいなぁ、お姉ちゃんが義経に似てるかな???」

「弟のほうはあたしに似てるってみんな言うんだよ、どうなんだろうね」

「そろそろお乳あげる時間かな、ほーらお姉ちゃんご飯ですよ~」

「真九郎さん、さあお外へどうぞ」

サリサに促され気恥ずかしそうに外へ出て行った。

「あ、そうだなすまん」


部屋から追い出された真九郎はそのまま外へ出ると、想像以上に軽くなった体に感謝しつつ差し込む陽光を受け名前に関してあるヒントを得た気がした。

「姉は・・・・・で、問題はないか・・・なら弟は・・・・」

とぶつぶつ独り言を言っていると、突然驚かれたような声に振り向いた。

「師匠!!!もう大丈夫なんですか!??」

「ルシウスじゃないか、どうしたんだ?」

「いえその、ドワーフ工房から柄や鞘を受け取ってきたんですが、守り刀の銘の参考にお子さんの名前が決まったら教えてもらおうかとよらせてもらったんです」

「そうであったか・・・・お前にも苦労をかけてすまんな」

「いえ、師匠こそ新しい治療法は効果あったんですね!!!」

「ああ、思いのほか回復してな・・・・みんなに感謝している」

「よかった・・・・本当によかったぁ・・・ううう!」

感激したのかルシウスは人目も憚らすに泣き出している。

「早く帰ってみんなに知らせやらなきゃですよ!!!ってそうだ局長!!!」

「ありがたいが、まだ安定したわけではないのだ、気長に治療を受けることにするよ」

「はい!!それじゃあさっそくですが・・・・・局長の差料を拝見させてくださいな」

「・・・・・・・やはりお前の目はごまかせんか」

腰に差した友の愛刀を受け取るとルシウスはスラリと抜き放ち、その刀身を鋭く渋い目で凝視していた。

「・・・・・・・受け太刀を極力避ける師匠の腕でさえこの刀の刃こぼれ、歪み・・・・あの業物をしてこれほどの損傷とは・・・・」

イルミスとの極限を超えた死闘・・・・・それを可能にしたのは友の愛刀があればこそであった。

受けねば死ぬ、その判断が刹那のごとき遅れでも死・・・・それほどの極限の死闘だった。

思い出しただけでも、よく耐え抜いたものだと思うほどだ。

「師匠、はっきり言いますがこの刀・・・・・もう・・・・芯にひびが入っているようです、手直しじゃあどうにもなりそうもありませんぜ」

「そうか・・・・芯にひびか・・・まるで今の俺のようだな」

「そういうことはあまり口に出すもんじゃありませんぜ」

「すまぬ、そうであったな」

「師匠、とりあえずこの刀はもう一度持ち帰り治せるか検証してみましょう」

「手間をかけるな・・・空いた時間でよいからな」

「その間、刀が無い状態になりますが、明日にでも急ぎ変わりの刀を持ってきますんで」

「この体ではどの道、戦には行けんからな、焦らずとも良い・・・・気遣いだけで十分だよ」

「では俺はこのへんで、くれぐれもお大事になさってください」

「ああ、みなにもよろしく伝えてくれ」

ルシウスは子供のように手を大きく振りながら帰っていった。

「・・・・なんと俺は恵まれているのだろう・・・・・素敵な人たちが多すぎる、守りたいな・・・・・みんなを」

やや軽くなった腰をパンと叩き病室をノックするとシルメリアがドアを開けてくれた。

するとナデシコが器用にげっぷをさせているところで、お母さんが板についてきている。

子を見るその優しい表情は慈愛に満ちた母親のもので素直に美しいと感じた。

「ナデシコ、子供たちの名だがな・・・・候補としてあげていくから、どうするかは本当に自由にしてくれ」

「師匠ありがとう!!!!それでそれで!!?」

「お姉ちゃんは、向日葵ひまわり というのはどうだ?常に太陽に向かって伸びる明るく黄色の元気な花だ」

「ひまわり!!!素敵!!!」

「すごくかわいい語感です」

「弟は・・・・・光輝こうき 、文字通り、ひかりかがやくという意味だ・・・・・二人の未来が明るく光に満ちて欲しいからな」

「もう決まり、これで決定!!!向日葵と光輝!!!よかったね、向日葵~」

「おい、義経の意見を聞いてからにしたほうが・・・・」

「大丈夫よ、義経はもう散々考えて何も浮かばずコップとか言い出す始末なのよ!」

「コップ・・・・・・」

「それはないわ」

「でしょ??だからもう師匠に頼るしかないって答え出てたのよ、でも向日葵と光輝・・・・なんてうれしいんだろう・・・師匠も元気になって幸せすぎてどうにかなりそう!」

光輝に頬ずりしながら幸せを噛み締めるナデシコにシルメリアと二人で手を握り合って喜びを噛み締めていた。




お調子者たちが危険を侵して狩りとってきたグラルゲヘナ核を用いた治療が、非常に効果的に作用しもう動き回れるようになったと聞いた隊士たちの喜びようは凄まじかった。

みなが歓声を上げ、何事かと聞きつけた者がまた歓声をあげていき街全体がお祭りムードにまで発展する始末だ。

お調子者の多い状況にニーサは呆れつつも真九郎の回復を心から喜び、神に感謝した。

ベントやリヨルドたちはちやほやされて浮かれ気分であり、義経にも感謝されたが天狗になるなと釘を刺されていた。

すぐにでも帝都に飛んで行きたいだろうレインドや義経は、次の日には無理やり用事を作り出し早朝から帝都に出発した。

留守を半兵衛に預け、真九郎と面会した二人は子供のように泣き出した。

しばらくは療養することを伝えると、ナデシコに伝えた名を義経から了承を得ることにする。

「正直、名を付けるのがこんなに難しいとは思いませんでしたよ」

「しかしお前な、コップはないだろう」

「そうよコップなんてかわいそうじゃない」

シルメリアにまで責められ恥ずかしそうにうつむいている。

「いやあみんなの喉を潤すようなそんな人間になって欲しいなぁじゃあコップかなーと」

「やっぱり真九郎が名付け親でよかったわね・・・・」

「さすがにコップは見逃すわけにはいかん・・・・義経、お前もちゃんと教養を身につけなさい」

「あっ・・・・はい・・・・勉強は苦手なんだよなぁ」

「子供のためにも必要なことだぞ?」

「こ、子供のため・・・・はい、やります!!!がんばります!!さっそく向日葵と光輝に会ってきます!!」

勢い良く出て行った義経はすっかり父親の背中になりつつある。

「時が過ぎるのって早いですね・・・・・あの義経君がもうお父さんに」

「そうだな・・・・デュランシルトも武士団もかなり良い発展をとげているが、まだ足りぬな・・・・・」

「何を考えているんですか?」

「秘密だ」

「もう!」



なんとか一命を取り留めた真九郎だったが、あのイルミスがいる限り絶望は消えない。

彼らが率いるイルミス教団の謎とドゥベルグ王国やアーグ同盟との関係・・・・

あまりに衝撃的すぎるため、ごく一部にしか伝えられていない・・・・イルミスが死界人を召喚できるという発言・・・・・

シルヴァリオンのノルディンに報告したところ、椅子から転げ落ち眩暈で寝込んでしまったほどだった。

皇帝陛下も数日寝込み、あまりに危険すぎるこの情報はトップシークレットとして緘口令がしかれることになった。

真九郎の病とナデシコの難産を乗り切った武士団は、また一つその結束と絆を深めたようだ。






-----------東方都市連合----------


帝都の東から北東には東方都市連合に所属する都市郡が盛んな経済活動を続けている。

東連は大港湾都市グランディールとその北東に広がる群島との交易により発展していた。

また、北方大陸との貿易拠点としても発展し北方の通商連盟とも苛烈な経済戦争を続けており、グランディールの商人は自分の死体までどれだけ高く売るか企んでいると称されている。


ナデシコの出産から一ヶ月半ほど後・・・・・

そのグランディールである会合が行われようとしている。

あの竜杖祭で失脚したヨルマ大使やベルパ王国とドゥベルグ王国の大臣級が列席していた。

その中央に座るのはグランディール通商代表を兼ねる、東連八大頭首の次席、アルジャードであった。

やはりドゥベルグの代表はどこか俯きがちでそわそわと落ち着かない。

また遅れてやってきたのはリシュメア王国のイルビィ伯爵でデイン王の腰ぎんちゃくと呼ばれる男だ。

「さて、あらかた揃ったから始めるとしよう・・・・今回の議題はずばりあの武士団のことだ」

武士団の一言に皆が騒然となりつつある。

「元はといえばイルビィ伯、あなたがあのヴァルヌ・ヤースでうまく王子を殺していればこんなことにはならなかったのだぞ」

「そ、そうは言われてもあの時点でこうなるなんて予測できましょうか!!」

「デイン王は何と申されている?」

「はい、やはり王位継承権を剥奪したとしても怒りが収まらないようで、このままイルミス教団と連携し武士団を潰すためにリシュメア王国軍から2000ほど出しても良いと」

「2000か・・・・・まあよい、それでリシュメアの王子たちは?」

「はい、教団の指示通り幽閉してあります」

「いざとなればそれを餌に武士団は潰せるな」

「あのクソ餓鬼の始末は我らの悲願ゆえ」

「利害が一致するとは素晴らしいことだ、それでドゥベルグ王国の皆さん、今回の失態はどう責任を取るつもりだ?」

「いえ・・・・我らというよりもアーグ同盟の見通しが甘かったとしか言いようがない」

「たしかに、アーグ同盟の見通しにも多少の責任はあろうが、戦果の調査結果は出たのか?今回はそれを聞きたいのだ」

ドゥベルグの大臣は疲れ果てやつれた姿で言い放った。

「戦果ですか、そんなもの・・・・レヴィンザーグ隊は全滅で死界人は1体どころか傷ひとつ与えることができなかったようだ」

「あれだけの無能者を集めておいて傷一つだと!!!ええい、無能者はやはり無能か!!」

「アルジャード代表、それは正確ではありませんな、あの武士団は見事撃退してくれたではないですか」

「ベルパは今回何もしていないのにずいぶんと偉そうな物言いだな」

「これは失礼を、だが忘れないで欲しい、我々ベルパ王国は死界人の脅威を減らすための現実的な対抗策を帝国に頼らず勝ち得るという理想に賛同したのだ、武士団を滅ぼすということは死界人に対する切り札を失うも同じ、得策とは思えない」

「良いのだよツェルン大臣、我々はおかげでその対抗策を決定する重要な判断をすることができたのだから」

「待ってほしい、その話では既に決定が為されたということなのですか?」

「聞えなかったか?既に決定されたのだ、これはレヴィンザーグが敗れた時点で決まっていたのだ」

「・・・・・・・・」

「よし、では今日この日から死界人は脅威ではなくなった」

部下に合図を送るとしばらくして部屋から通されてきたのは、赤黒い肌と2m弱の巨躯、それに体のあちこちに赤い刺青のような線が入った威圧感を振りまく男だった。

「紹介しよう・・・彼こそ、イルミス教団のイルミス教主様である」


イルミス教団は死者と再開し再び一緒に暮らすことができるという奇跡をうたい文句に信者を集める地下教団である。

その信徒は各地に広がり遠く、西方大陸や北方大陸にもその活動を広げている。

ベルパのツェルン大臣はこの恐ろしい威圧感を放つイルミス教主がなぜ死界人の脅威と関係あるのか、ついに分からなかった。

それをアルジャードに見越され下卑た笑みを向けられ思わず表情に出てしまっている。



アルジャードが譲った椅子にどかっと腰掛けたイルミスは列席した諸侯を見据え不遜な態度で命令する。











「一ヶ月で3000人だ」








三本指を突き出したイルミスは紫色に淡く光る瞳で一堂を見渡す。


「は、はい???」

アルジャードは思わず聞き返してしまった、3000人とは・・・・・?

「人間よ耳が悪いのか??もう一度だけ言うぞ、一月に3000人だ」

このイルミスの放つ言葉の意味を理解した列席者は恐怖で発狂する寸前まで追い込まれていた。

一ヶ月で3000だと!!!一年で3000でも多すぎるぞ!!

「!!???」

「イ、イルミス教主・・さま・・・・・いくらなんでも・・・・・3000では最初の話とは違いすぎませんんか・・・・」

「予定が変わったのだ、ある男に我の腕を切り落とされてな・・・・腕の再生に時間がかかっておる」

「なっ!!・・・・・」

武士団が戦い手傷を負わせたが取り逃がしたというのはこいつのことだったのか!!!!!

ドゥベルグの大臣はかみ合っていく事実の断片を呪いつつ、自分たちの選択があの250年前の大殺戮を呼び込んでしまったのだと理解した。

「どうした??返事は???」

「は、はぁ!!!つ、慎んで・・・・一月に・・・・3000・・・・・よ、用意させって・・・いただき・・ます」

「どうした?随分と不満そうではないか?良いのだぞ、我が呼び出す死界人と戦って勝てるのであればな、3000人の餌を用意せず見事我と戦ってみよ」

「い、いえ、必ず!!!用意させてもらいます!!!」

「ふむ・・・・・そうかならば今月分をベネスラディ山の麓にある、教団本部に納品しろ・・・・・期日はそうだな??今月は残り・・・・・15日か」

「な!!!!さ、さすがに10日ではむ、無理があります!!!」

「言った側から約定をたがえるか?人間ども」

「いえ、とんでもございません!!」

「お前たちがそのつもりならばすぐにこの港町の人間を喰らい尽くしても構わんのだぞ?」

「か、必ず10日後には!!!!!」

「その言葉は忘れるな」

冷や汗を滝のように流しつつ平伏するアルジャードと、絶望に支配された会議室・・・・

「・・・・・・・そうだった・・・・思い出したぞ、例の俺の腕を切り落とした奴ら・・・・その中に赤子を生んだばかりの奴がいたらしいな、その赤子を喰らえば腕の回復も早いかもしれん」

「あ、赤子でございますか!!???」

「そうだ、その赤子を連れて来たなら数ヶ月分の3000人は免除してやってもよいぞ」

「か、かしこまりました!!!手配いたしましょう!」

「まあ期待せずに待っておるわ、お前らとは格が違いすぎる相手だろうからな」



イルミスが部屋から出て行ってしばらく、会議室では誰も口を開くことができずにいた。

「勝手に決断したあげく・・・・3000人の餌を提供だと・・・・?」

ベルパのツェルン大臣が激怒していた。

「仕方がないだろうに!!!先日の話し合いでは月に多くても100人程度だったのだ!!!それならば各国家がひねり出すことだって可能であろう!!」

「それでもベルパは賛同していたとは思えぬ!!!なぜ死界人の傘下に入るなどという愚行を思いつけるのだ!!!早急に本国に戻り報告させてもらおう!!」

アルジャードは冷や汗にまみれた卑屈な目で部下に指示を飛ばすとすぐさまツェルン大臣を拘束してしまう。

「おのれアルジャード!!!人類の敵めえ!!!」

「な、なんとでも言うがいい!!!!残りの諸侯もよろしいな!!!この要求を呑む以外、人に生きる道は残されておらんのだ!!!!」




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