表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侍ジュリエット  作者: 水陰詩雫
第二章 盟主会議 アルマナ・ラフィール
34/74

16 天覧会議

 Bブロックの準決勝。

それぞれ準々決勝を勝ち抜いた2人が舞台へあがる。

1人はシルヴァリオンのトップエースであり帝都の臣民たちに絶大な人気を誇るシルフェ。

役者のような色男で魔法、操杖術ともにトップクラスの実力を誇る帝国のエースである。


そして対するは謎の挑戦者 緋刈真九郎。


だがあのヨシツネと同じ技を使うということで観客たちは警戒しているようだ。

『それではBブロック準決勝をただいまより開催いたします、念のために申しますと先ほどまで司会をしていたエレさんはあまりに偏った司会のために降板となりました』

観客席からは笑いと同情の声があがっている。

「お初にお目にかかる、私はシルヴァリオン第1調査隊のシルフェ。失礼ながらあなたの実力、試させていただく」

「拙者は緋刈真九郎と申します」

真九郎には魔法力がないはずだ、だが彼から漂ってくるこの濃密な存在感と覇気に圧倒されそうになる。


『それではBブロック準決勝!試合開始!』

真九郎の一礼にあわせ、シルフェも礼を返す。

そして互いが構えた瞬間、シルフェは全力で距離を詰めつつ回転攻撃を真九郎に放つ。

攻撃が当たると確信した時にはもう、右手に激痛が走り杖は手から離れ乾いた音を立てながら転がっていった。

すっと身を引いた真九郎の引き篭手がシルフェの右腕を打ち抜いていた。

その打撃の鋭さに防具は意味を成さず、右腕の激痛にシルフェは耐え立ち上がった。

「審判!シルフェ・オーバリーは負傷により降参します」

『なんと、シルフェが降参したようです、勝者!緋刈真九郎』

会場はあまりにあっけない幕切れに騒然としている。

「緋刈さん、さすがの腕前ですね・・・・・いつつ・・・手も足もでませんでした」

「すまぬ、あまりに鋭い攻撃であったため加減ができなかった」

「えっと念のために聞きますが・・・・・それは僕が弱すぎて加減を間違ったのでしょうか?それとも加減をする余裕がなかった、ということでしょうか」

「後者だ、手ごたえから折れてはおらぬと思うがヒビは入っているであろう、早く治療師に見てもらってください」

「そうですか、それはせめてもの救いですね・・・・あの治ったら練習に付き合ってもらえませんか?」

「シルフェ殿とならぜひ」

「うわぁそれはうれしいなぁ」


悔しそうな表情を滲ませつつもシルフェは係員に支えられ帰っていく。

そして決勝戦は、ヨシツネと真九郎の戦いとなった。






ナデシコが運び込まれたのはシルヴァリオンの管理下にある治療院で、ダドゥン・ガースの解毒治療が早急に開始されていた。

護衛人員も相当の人数が駆りだされ、入退室も厳しくチェックされておりシズクが着替えや付き添いで訪れる時も同様である。

この世には姿形を真似る呪文も存在するらしく、万が一を考えいくつもの魔力探知器でのチェックが義務付けられている。

ナデシコは意識は戻ったものの、まだ自力で起き上がれる状況ではなくシズクに介助してもらいながら着替えなどを済ませていた。

こういったときに気の利くシズクのような女の子の存在は貴重であり、洗浄呪文で体を清めたり身の回りの世話を健気にこなしていく。

サクラも時間を見つけては見舞いや世話に訪れるがシズクの手際の良さに見ていることしかできないことも多い。

そして三日目が過ぎた頃からようやく自力で起き上がり、手を借りながらであれば歩行も可能な状態まで回復していた。

「ナデシコさん、もうすごいんですよ。入院先が分からないからって、シルヴァリオンの本部に大勢の方が来て、お花やお見舞いの品がたくさん届いてるんですよ」

「えええー!なんでよ!?」

「あんなすごい試合して、死ぬかもしれないようなひどい妨害行為受けてまで勝ったナデシコさんに男女問わずファンがたくさんできたんですって」

「うーなんか恥ずかしい・・・・」

「あと、ヨシツネさんも貴族のおばさまたちからたくさん夜会の誘いが来てるみたいです」

「・・・・・まさかあいつ行ったりしてないわよね・・・・」

「ナデシコさんがいるんですもん、行くわけないですよ~」

「もう・・・・シズクちゃんたら・・・・」

真っ赤になった顔を隠すためか布団をかぶり隠れるナデシコを年上ながらかわいいなぁと思うシズクだった。




東連のオルフィリス支部には帝国の警察にあたるアルマナガードにより一斉捜索と検挙が行われた。

バナイルを含め関係者全員拘束され、ヨルマ大使は拘留されることになる。

東連との確執が大きなしこりとして残ることになった。

これに関わっていたと思われるベルパの一部勢力は早急に帝都から撤収しており痕跡を見つけることすらできずにいた。

各国の思惑がどういう結実に至ったのかは未だ知る術はない。

だが、竜杖祭を通じて民衆の心に深く突き刺さったのはヨシツネ・ナデシコ・真九郎たちの圧倒的な強さであるのは間違いない。




 盟主会議アルマナ・ラフィールの集大成である天覧会議の開始が迫っていた。

出席者は帝国の閣僚やシルヴァリオンと帝国軍、そして大貴族。

そして招待客として呼ばれたのは、先日到着したばかりのレシュティア姫とレグソール伯、それにレインド王子、真九郎と鬼凛組にシルメリアとニーサであった。


いわば真九郎たちの扱いを決定する場としての会議であり、人類の命運が決定する場でもある。

議事進行役は枢密院議長のクロイツェルと補佐役の元老院副議長のマーカスである。

「ではこれより皇帝陛下の天覧の下、天覧会議を開催いたします」

「まずシルヴァリオンよりの意見を」

「は!! シルヴァリオン局長のトリアムドでございます」

トリアムドは初老の域に入ろうとしているが実に落ち着いた男であり実戦経験も豊富な現場たたき上げの人物である。

その指揮能力は高くシルヴァリオンの隊員たちからの信頼も厚い。

「先日、大地母神神殿のタラニス司教によりここにおられる緋刈真九郎殿が死界人を討ち果たしたという証明がなされました、緋刈殿その時の様子について少しで構わぬので証言を頼めないだろうか」

「ええ、分かりました」

トリアムドはほっとする、もし反発するような事態であればどう宥めようかと悩んでいたのだ。

真九郎の説明は実に分かり易く、分かることと分からないことを的確に伝え今の自分があるのはタラニスの命がけの行動によるものだと主張した。

その言動には自身を誇張するような表現はなく、経験した事実のみを報告しようとする意思が感じられトリアムドはこの男を見誤っていたことを恥じた。

出席者たちはその説明に納得し、腕を組んで死界人襲来が現実になったことをかみ締めようとしている。

レシュティア姫はどこかうっとりと真九郎を見つめ、その視線に真九郎もどうしたものかと困り果てていた。

「緋刈殿、非常に助かりましたありがとう」

一礼し着席する真九郎の横で誇らしそうに微笑んでいるのはシルメリアだ。

「皆様、250年前の悲劇はすぐそこまで迫っております。だが焦ってはいけない、今やるべきことを落ち着いて迅速に進めなければならない。我らが今最も知りたいのは奴らを倒すその武器のことですが、緋刈殿その武器はいったい何なのでしょうか?」

再び起立すると真九郎は預けていた刀を運んでもらい、一堂の前で愛刀をスラリと抜いた。

その刀を認識した途端に訪れる虚脱症状・・・・・

無事でいるのはレインドと真九郎そして鬼凛組だけである。

「はっ・・・・・なんとその武器は・・・・・」

「はい、これが・・・です」

「え?」

「・・・・です・・・・とも言う」

「すまん、よく聞こえない・・・というか分からないのだが」

刀を納め台に戻すと真九郎は自身の見解を語り出した。

この地に来てから起こったことを真九郎なりに吟味し分析し導き出した現状での見解である。

「この武器を認識できる者と出来ない者がいるのです、認識できる者・・・・・それは魔法力を持たない者たち。そして認識できない者は魔法力をその身に宿す人々なのです」

「「「なんだと!!!???」」」

出席者たちはことの重大さに言葉を失っている。

「そして・・・・・拙者はこの武器で死界人を3体仕留めました」

「「おおおおおおお!」」

「緋刈殿、つまり魔法力の有無が死界人と戦えるかの線引きになると考えてよろしいか?」

「私の認識ではそうなります」

「なるほど・・・・・では今のところ、対抗できる戦力は緋刈殿と・・・・・いやこれは緋刈殿が戦ってくれると勝手に忖度した上での勘定だが、そちらの鬼凛組だけと考えてよろしいのか?」

「はい、今ナデシコという者が先日の竜杖祭で受けた禁呪の影響で未だに入院しておるゆえ、私を含めて3人になりましょう」

「あの一件はこちらの手落ちだ、申し訳なかった」

「いや、シルヴァリオンにはかなり便宜を図ってもらっているし、ナデシコの治療の件でも世話になっているのでお気にめさるな」

「今後とも気をつけるとしましょう、話は変わるが君たちが使うその武器についてはニーサ殿から報告を受けているが増産の目処が立ちそうであるということでよいのだろうか?」

「レグソール伯の特務副官をしておりますニーサと申します、我々が認識不能な武器については帝国工廠とも連携し手配を進めておりますのでいずれ報告ができると考えております」

「ニーサ殿ありがとうございました、つまり我々は対抗しうる人材と武器をもっと増やさねばなりません、そして我らが失った遺産を取り戻すときがきたのです」

ここでマーカス卿が口を開く。

「トリアムド卿よ、今までの話で危機が近づき希望があることも分かった。だがあの魔窟に誰が行くというのだ?」

「シルヴァリオン全軍を持ってしてでも行かねばならぬでしょう」

「帝国軍のチェルケット将軍である、これまでのシルヴァリオンとの確執はこの際どうでもよいと断った上で申し上げる!シルヴァリオンがいなくては対死界人調査に多大な支障が生じるであろう!」

「チェルケット将軍の発言に賛同する」

「われも将軍に賛同しよう」

そこへリーンと澄んだ天上の音色のような鈴の音が鳴り響いた。

「皇帝陛下よりお言葉をいただきました、かの竜杖祭の優勝者、緋刈真九郎と2人で話しがしたい とのことでございます」

陛下の近従から伝えられた言葉により会議は一時休憩となった。





皇帝との会談場所に選ばれたのは帝都を見渡せるエル・ヴァリスのテラスであった。

そこは色とりどりの花々が咲き誇り、中央にテーブルと椅子が準備されていた。

真九郎はこういうときの作法を把握していなかったことを悔やんだ。

皇帝といえば、ヒノモトでいうところの天朝様であろう・・・・なれば俺のような下々の者が軽々と話をしてもよいもだろうか。

恥を忍んで作法を聞こうとしていた矢先、侍女から皇帝が到着したとの報告ある。

慌てて他の侍女たちが頭を下げる様を見て真似ようとも思ったが、悩んだあげく正座の上平伏し皇帝陛下を待つことにした。

絹が摺れる音と共に小さい歩幅で歩く人物が近づいてくる。

侍女かとも思ったが、彼女たちは引き摺るような衣装を身に着けては無い。

着席とともに声がかかる。

「緋刈様、皇帝陛下 キョウ・レグリア・アルマナ陛下がおいでになりました」

この国の作法は分からぬが、ヒノモトの作法で通してみるか・・・・

「緋刈真九郎!まかりこしました!」

「え?あ、あのお顔をあげてください緋刈さま」

聞く者の心に染み渡るやさしい涼風のような透明感のある声が響く。

おそるおそる顔をあげてみると、そこにはまだ10代前半の少女があどけない笑顔でこちらを見つめていた。

「驚かれましたか?私がアルマナ皇帝、キョウと申します」

「せ、拙者、緋刈真九郎と申します・・・・」

キョウ陛下は濡羽色の美しい黒髪と白い肌が似合う人智を超えた美しい少女だった。

まだ幼さが残る少女であるが、どこか奥底に秘める覚悟や矜持がそうせるのだろうか人を引き付ける魅力に溢れている。

そしてどことなく、雰囲気が似ていると思った・・・・幼くして亡くなった妹の桔梗に・・・・・

「突然、お呼びたてして申し訳ありませんでした」

「とんでもございません、天子様に拝謁が叶い恐悦至極に存じます」

「えっと、すごく難しい言葉遣いをなさるのね、やはり異なる世界から来られたからかしら?」

「・・・・・・」

「そう怖い顔をなさらないで、あなたに関する情報は集められるだけ集めさせてもらいましたの」

「それは・・・ある意味当然のことですね、失礼しました」

促されるままに椅子に座り侍女が入れたお茶をすすめられた。

キョウ陛下は侍女から差し出された盆に載った書状を受け取り真九郎に見せる。

「これが何かお分かりでしょうか?」

「いえ」

「これはレグソール伯がアルマナ皇帝に宛てた書状になります、これに書かれているのは、鬼凛組の全ての権限をアルマナ皇帝陛下に移譲することと・・・・」

「レグソール伯が!?」

「ええ、彼は聡明な人だわ、鬼凛組の存在価値が大きくなりすぎたことに気付き宗主国である帝国に移譲したの」

先ほどからの言動を考えるとこの皇帝陛下はかなり頭の切れるお人のようだ。

「うふふふふ、光栄だわ」

まるでこちらの意図を見透かしたような言動に真九郎は動揺する。

「そしてね、あなたに関することも書かれているわ、あなたは戦闘指南役という肩書きがあるようね」

「はい・・・」

「レグソール伯からは一言、彼自身で選ばせてやってほしいと、あったわ」

・・・・・なんという人だ・・・・あれだけ恩義を受けておりながら恩を返すことできなかった。

これは鬼凛組を率いてくれ、というレグソール伯個人の願いであるのだろう・・・・・・

「緋刈真九郎、私はあなたという人間をとてもいびつな人間だと考えているわ」

「いびつ・・・・ですか」

「ええ、武士道という価値観を説き人の正しき道を示し、弟子たちを導くあなたの生き方は清浄でとても美しい・・・・でも」

陛下は真九郎の手を取り俯きながら囁いた。


「あなたはこの世界の住人でないから、本気になれない?」


「!!!!!!!」

心臓を鷲づかみにされたがごとき衝撃であった・・・・・・

まさにその通りである・・・・・・

ぐうの音もでないとはこのことであった。

思わず立ち上がり、テラスの先に広がる帝都の絶景を眺めながら皇帝陛下の言を噛み締めていた。

すっと隣に立ったキョウは優しく真九郎の手を再び取った。

「年下の私がこのような無礼な発言をお許しください」

「い、いえ、とんでもありません・・・・・まさに陛下のおっしゃるとおりでした・・・・・どこか余所者であると・・・・心のどこかで逃げていました・・・・」

「緋刈様はそれを恥と考えているようですけど、私から見ればそれでもあなたの生き様は鮮烈で素敵だと思いますよ、何より私のお友達のレインドを命がけで助けてくれた・・・・あの子が魔法の力を失ったとき、それはそれは私も嘆き悲しみました・・・でも再開したレインドは以前よりも生き生きとし誇り高い男の子になっていました」

「恐れ入ります」

「そうですね、大事なことを忘れておりました。あなたは竜杖祭の優勝者、さあ望みをおっしゃいなさい」

「・・・・・恐れながら我が望みは・・・・」

侍女たちが不敬な望みを言った場合に備え杖を構えているのが分かる。



「拙者の望み・・・・・それは、魔法力を持たない者たちの救済にございます」


「「「「え!!!!」」」

驚きの声は皇帝と侍女が発していた、事前情報ではコメという穀物のことであると聞いていたからである。

「コメが望みでは・・・・なかったのですか?」

「コメは自力で探せましょう・・・・ですが魔法力の無い者たちこそこの世界を救う鍵になると私は確信しているのです、そして彼らに身を立てるだけの技術と働く場を与えてあげたい」

「・・・・・ああああ、真九郎・・・・・あなたは・・・なんて、なんて人なんでしょう・・・・・」

皇帝は溢れる涙を拭おうともせず、何かに打ち震えていた。

「それは・・・・私の願いでもあったのです、こう見えて私には自由になるお金がほとんどないのですよ」

「そうでありましたか・・・・・」

「真九郎、アルマナ皇帝としてそなたの願い、聞き入れましょう!」

侍女たちが騒ぎ出したそして大声で城内に向けて号令を発していく。

「天命である!!!皇帝陛下からの天命が発せられました!!!」

その行動の迅速さに驚くと共に、この少女が抱える重荷がとてつもないものであることを知った。

「私は・・・・・皇帝として残酷なお願いをあなたにしなくてはなりません・・・・」

「うかがいましょう」

それは、願いを受け取ると言っているに等しい発言である。それを承知で皇帝は言葉を続ける。

「あなたたちに・・・・このエル・ヴァリスの地下にある魔窟・・・・・・オルフィリス封印迷宮に挑んで欲しいのです」

「ふ、封印迷宮ですと???」

「ええ・・・・・ソルティ!お願いできるかしら?」

「はい陛下!!!」

駆けつけてきたのは20歳前後のきりっとした印象の女性である。

この帝国にしては珍しい犬人族の血を引くらしい犬耳が頭にひょこっと生えており、尻尾が皇帝の命に従えるのがうれしいらしく激しくゆれていた。

「私は近衛隊のソルティだ、陛下からお話のあった封印迷宮について説明する」

「お願いしよう」

「250年前、我が帝都は奴らの蹂躙により滅びかけていた。そこに帝国の至宝であり神々との対話ができると伝えられる大地の瞳と呼ばれる神器を、奴らの手に届かぬ地下の大地母神神殿に移そうということになった」



元々帝都の地下には1000年以上前から伝わる地下の大聖塔が伝えられていたが、詳しい資料は焼失している。

かの大殺戮の混乱の中、未来へ希望を繋ぐため選りすぐりの精鋭たちが大地の瞳を守るために封印迷宮地下大聖塔に挑み・・・・誰一人戻ることはなかった。

そこにはあの悲劇の記録と神々から受けた啓示が残されているとされ、死界人撃退の手がかりがあると長い間伝えられてきた。

来襲から100年が過ぎ、帝国の建て直しも落ち着きを見せてきたころから、シルヴァリオンによる大地の瞳探索任務が開始されてきた。

当初はそれほど難しいとは思われていなかったが、第一調査隊は誰一人帰還することはなかった。

そして何十年かに一度、その時々の精鋭や多額の遠征費用を捻出しながらも遠征は続けられてきたが、現在まで誰一人戻ることない。

それが封印迷宮こと、オルフィリス地下大聖塔である。



ソルティの説明で解せないことが一つある。

「一つ疑問があるのだが」

「なんでしょうか」

「帝国が誇る精鋭であれば、拙者ごときに頼らなくてもなんとかなりそうなものだと思うのだが」

「真九郎、大事な説明が抜けていたわ・・・・・封印迷宮の中は魔法が使えないエリアが多数存在すると言われているの・・・・それに中には太古の魔物や不死の怪物たちが蔓延っているというわ」

「なるほど・・・・・だから封印迷宮なのか」

「ええ・・・・希望的観測ではありますが、あそこには大地の瞳の他、何故あのような化け物がこの世に現れたのかを調査した大賢者の調査結果もあると伝えられています・・・・・また魔法力のない者たちの保護は天命を出したことで即座に実行されるでしょう・・・・・これと引き換えというにはあまりにもこちらに都合が良いわね・・・・」

「陛下」

真九郎は陛下に跪き、頭を下げる。

「拙者、緋刈真九郎は封印迷宮に参りましょう」

「ああああ、真九郎・・・・・ありがとう・・・・」

「あえてお聞きします、鬼凛組も参加させるおつもりですね?」

「はい、彼らにも参加してもらおうと考えております」

「選考は私に、そして参加の意思は彼らに委ねたく思います」

「・・・・・・・よろしいでしょう、それがよいですね」

「あと参加予定の者を聞いても?」

「ええ、シルヴァリオンから推薦を受けているのは、リシュメアの近衛衛士シルメリア殿、シルヴァリオンからはネリスとカルネス、そして帝国軍アレグゲリオス師団のザイン・・・・これが現状の参加予定者です」

ほぼ見知った顔なのは心強い・・・・・・


ふと亡き妹と過ごした日々が脳裏に浮かぶ・・・・・真九郎が作ってあげた風車が気に入りどこにでも持って歩いていたが、うっかり無くして泣いている妹の姿が思い浮かぶ・・・・

もっとしっかり探してあげれば良かった・・・・・


「準備のほうはノルディンという者が手配するはずですので詳細は彼から聞いてください」

「はい・・・陛下、お目にかかれてよかった」

「ええ、真九郎・・・・・生きて戻るのですよ」

「はい、武士に二言はございません」


真九郎は涼風のような笑顔を残し去って行く。

彼が去った後、キョウはソルティの胸の中で号泣していた。

まだ幼き身で死地に挑ませる重圧と責任の重さに必死に耐えていたのだ。

「絶対戻るのですよ・・・・・真九郎・・・・・」




こうして天覧会議は終幕となり、盟主会議はここに決したのであった。

そしてその日の夜・・・・・・・・


ナデシコの病室を訪れる者がいた。

「入るぞ」

「あら、どうしたの?もう夕食の時間じゃない?」

「まあちゃんと話しておかないとと思ってさ」

「試合の話、やっとする気になったのね」

「ああ・・・・・あそこまで手が出ないとは思ってなかったよ・・・・ずっと気持ちの整理ができてなくて・・・・大会で勝ち進んだから少し天狗になっていたかもってかなり自己嫌悪だ」

「はははは!あんたにしては高尚なこと言うじゃないの」

「真面目に話ししてるんじゃないかぁ」

「ごめんごめん、でもさそういうヨシツネのほうがあたし、好きよ」

「ナデシコ・・・・・・」

「あんたはすぐ調子にのるから、すぐに叩き潰してくれる優しい師匠に恵まれて幸せなのよ」

「うん、本当にそう思う・・・・・いつか・・・・何年後になるか分からないけど、追いつきたいなぁ」

「その意気よ・・・・・でもその前にあんたはあたしと決着つけないといけないんだからね」

「そうだな・・・・・そういえば不破師匠が結界だらけでここに近づけないって文句たれてるから早く退院しろよ」

「ああ、不破師匠・・・」

「もう大変だったんだぞ、ナデシコがやられたときはこのまま怨霊に成り果ててでも奴らを呪い殺してくれるとか言って」

「もう不破師匠ったら・・・・ねえ、それだけじゃないんでしょ?話って」

「ああ、師匠からすごく大事な話があるって、多分今日の天覧会議で皇帝と直接話ししてたからその件だと思う」

「ええ!!!師匠って皇帝と直に会ったの?うわっすっごいね!」

「どんな話なんだろうなぁ、またみんなでどこかに旅に出るのかな」

「それも楽しそうでいいわね」






第二章 盟主会議 アルマナ・ラフィール   完



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ