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侍ジュリエット  作者: 水陰詩雫
第二章 盟主会議 アルマナ・ラフィール
29/74

11 蝶の旅間

 レインドとシズクのことが気になり、こっそりと病室に聞き耳を立ててみようと訪れてみると・・・・・

そこにはニーサとシルメリアがドアに張り付き、顔を真っ赤にしながら聞き耳を立てている。


しばらく2人の、ニーサたちの様子を見ていたが突然そそくさと部屋の前を立ち去ると中からレインドが頬を染めながら出てくるのが見える。

何をやっているのだ、後で様子を聞いてみるとしよう。


その足でシルヴァリオンの支部を訪れるとノルディンに鉄の鋳造を行う店を紹介してもらう。

いったい何のようなんでしょう?と興味津々であったが、認識できない武器関係だというと後で教えてくださいねと念を押される。

ニーサやシルメリアに苦無を見せたところ、認識が可能であったため不破と相談しこれを鋳造で量産してもらうことにしていた。

店主は妙な依頼だといぶかしんだが、シルヴァリオンからの紹介状を見せると態度を一変させ最優先で仕上げてくれることになった。

その数は200本、サンプルを何本かノルディンに渡すことで代金を持ってくれることになっている。


2日で出来るとのことであったため、サクラとシルメリアを連れ出し砥石やヤスリなどの工具をそろえるため露天めぐりをしていたが、ここでもシルメリアの魔法力に機嫌をよくした店主たちからいい情報が得らることになる。

まあそれをあてこんでのシルメリアの同行であったが、一部の宝石加工用のヤスリや砥石を格安で大量に譲ってもらえることになった。

計画は、刃のない苦無の鋳造品を皆でやすりをかけ、砥石で磨くことだ。

これは性質上魔法力のない真九郎たちでしか行えない作業であったことから、ニーサからも資金提供を受け砥石とヤスリは上質なものを奮発することにした。


その間にもシズクはシルヴァリオンが提供してくれた魔法薬の造血薬の効果も覿面でめきめきと回復してきている。

シズクに関してはある相談をニーサを通して提案しており、細かな調整をしてくれているようだ。


出来上がってきた苦無は提供したサンプルとほぼ同じ形状をしており、刃はないがこのままでも投擲道具としては使えそうな品質だった。

その日からレインドも手伝い、全員で朝から苦無のヤスリかけと研ぎの作業を黙々と続けることになる。

気分転換と鍛錬をかね、庭で苦無の投擲訓練を実施しつつ、苦無と刀を織り交ぜた訓練も行った。

皆が自由に戦闘時の展開を想定し、こう来たら、こういう詠唱を開始したらと、レインドからの提案はさすが元雷神の御子と呼ばれるだけの見識を示すものだと皆が関心する。


また、苦無の鋳造と同時に依頼していた革製の苦無がすぐに取り出せるホルスターベルトも想像以上に良い物が出来上がってきた。

各自がこれを身に着けて、緊急時に備えることになる。


こうして出発を遅らせて一週間が経過し、レインド自身の傷も完治できたところでシズクが元気に退院してきた。

「皆さん、本当にお世話になりました」

ぺこっと精一杯頭をさげるシズク。

「シズクちゃん、元気になってよかった!」

「雪ちゃんとマユちゃんのおかげです!」

雪はシズクが心配でずっと布団の中で付き添っていたが、いつも好き勝手歩き回るマユがずっと部屋から動かずにシズクを守るような行動をしていた。

夜になるとちゃっかり布団で一緒に寝ているらしく、すっかりシズクになついている。


「マユは女の子にはあまり懐かないのに、シズクはすごな」

「う・・・」

シルメリアが軽くショックを受けている。

「そんな、でも私のために皆さんが命がけで戦ってくれたこと、本当に感謝しています」

「ニーサさん、お願いします」

真九郎の神妙な表情に一堂が何事かと緊張する。

「ええ、今回のこと、非常に大きな問題だと考えております」

シズクが心配そうに俯いている。

「なので、レインド殿下には一応、臣下に見本を示す立場としてのお心がけを学んでもらう意味も込めて、罰を受けていただくことになりました」

「待ってください!!!殿下は私を助けるためにそのお命をかけたのです、罰ならば私が1人で受けますので!」

真九郎が毅然とした声で言い放つ。

「だめだ、これはレインド王子の問題だ、覚悟は出来ているか!」

「はい・・・・・僕の行ったことは大勢の人に迷惑をかけました、どんな罰も甘んじて受けます!」

「だめです!私が!!!」

「ああ、だめだ・・・・胸がキュンキュンして抑えられないよニーサ・・・・」

シルメリアが真っ赤な顔でニーサの肩を掴んでいる。

「もう台無しじゃないのシルメリア!」

「はぁしょうがないな、ではレインドに与える罰は!!!」

「はい!!」

「オルフィリスに到着するまでの間の食事の準備と片付けを行うこと!シズクと一緒にだ」

「「ええええええええ!」」

「あ、あのどういうことですか?」

「女将さんお願いします」

奥からやってきた女将さんがどことなく寂しそうな眼でシズクを見つめている。

「シズク、あんたのお母さんはまだシズクが小さい時に亡くなったのは聞いてるね」

「はい、女将さんには本当にお世話になってます」

「今まで黙っていたけど、シズクのお母さんは、ある高貴な血を引いているそうなんだ」

「こ、高貴?」

「その髪の色がその証だよ・・・・これを」

女将さんが手渡した袋にはアルマナ金貨が20枚ほどと、まるでシズクの髪の色とそっくりな大人の親指の先ほどの宝石がしまってあった。

「女将さん、これは」

「いつか、シズクが旅に出る日が来るんじゃないかと思ってあんたの給与をこうやって貯めていたのよ、それと宝石はお母さんが身に着けていた形見」

「そんな!!!私が何十年働いたってこんなお金!!!お・・あああああああ!!!」

シズクは女将さんに抱きつき号泣していた、女将さんもわが子のように愛おしく抱きしめている。

「いつか使う日が来るかも分からないから取っておきなさい・・・・今こそ旅立ちの日よシズク」

「そんな!!!女将さんにまだ全然ご恩を返していないのに!」

「いいや十分返してもらったよ、あんたと過ごした日々、料理を覚えようと一生懸命がんばるあんたを見てどれだけ元気をもらったか」

「女将さーーん!!!!うえええええん」

「ニーサさん、説明してあげてくれないかね・・・」

「分かりました女将、ねえシズクちゃん聞いてちょうだい、あなたがナスメルを離れるには込み入った理由があるの」

「え?」

涙に濡れるシズクは驚きと共に振り返る。

「あの子爵家の関係でね、あなたがナスメルに留まると危険だとシルヴァリオンから警告がきたの」

「そんな・・・・」

自分のような存在が、リシュメア王家や貴族に影響を与える事態などついぞ想定することさえしていなかったシズクは思考が停止しそうになっている。

「このままだと女将さんにも危険が及ぶかもしれない、そこであなたを私たちの専属の炊事雑用係として雇用させてもらたいと考えています」

「私を・・・・でも」

ここで真九郎がシズクのすぐ側で座り、恥ずかしそうに語り出した。

「実はなシズク、君を推薦したのは俺なのだ」

「え?緋刈様が???」

意外な返事に動揺する。

「理由はな、シズクの作る料理がうまいのだ・・・・シズクは俺が肉が苦手だとすぐに見抜き俺だけに魚のすり身団子などを用意してくれるそれはそれは気の効く女子だ」

「あれは私の得意料理なんです」

にっこりと少女らしい笑顔が戻りつつある。

「それにな、どうしても我らは魔法が使えぬ者が多いのでな、シズクのように炊事や家事に長けた人材がいると非常に助かるのだ」

「たしかにおっしゃるとおりですね・・・・」

「レインド!!! 俺がここまで言ったんだ、後はお前が説得しろ!」

「は、はい!!」

「レインド殿下・・・・・」

レインドはシズクを見つめながらゆっくりと手を差し出した。

「シズクちゃん、あのオルフィリスについてからも・・・・ずっと僕が守るから!!行こう!」

「「「キャアアアアアアアアー!!!!」」」

女性陣が身悶えるような悲鳴をあげている。

「お姉さま、やばいです、胸がキュンキュンします!」

「お、おちついて!、だめ胸が苦しいわ!」

「一度でいいから言われてみたい・・・・・」

「え?ニーサ?」

「いえ、なんでもないわ!」

「はははは!あんたたちならシズクを預けても大丈夫そうだね」

女将はシズクの背中をぽんっと叩く。

「女将さん、今までありがとうございました。シズクは行ってまいります」

返事の代わりに女将さんは万感の思いを込めて抱きしめるのだった。





旅立ちの朝、ニーサから鬼凛組に手渡されたのは隊服とでもいうような真九郎と同じ着物ベースの服だった。

黒地で袖に各自色が異なる蝶が意匠された染物がされ、ヨシツネはほぼ真九郎と同じ仕立てである。

ナデシコは槍を扱いやすいように左袖がなく、その代わりに真九郎の筒篭手を簡易化したような篭手になっている。

袴は動き易さを重視した女袴で凛々しいナデシコによく映えるデザインだった。

サクラはナデシコよりもさらに特殊で、上の袴下は左に蝶の染物があるがサクラの意思でその蝶を消すことも出来、諜報や隠密活動に支障をきたさないようになっている。

下は袴風の短いスカートと蹴り技にも対応できそうな脛当てになっており、軽機動戦闘を得意とするサクラにぴったりな衣装である。


「かっこいい!!!おとぎ話に出てくる英雄たちみたい!」

それはシズクの評であったが、鬼凛組は照れるも上機嫌である。

「よく似合ってるな」

『馬子にも衣装とは言ったものだ』

「とか言いつつ、装備の心配を一番してくれたのは不破殿なんだぞ」

「不破師匠!ありがとうございました」

『内緒と言っただろうが!馬鹿たれ!!!』

「口が悪くなければなぁ不破のおじいちゃんはぁ~」

『サクラお前なぁ・・・・・』


誰かと会話する鬼凛組を不思議そうに見つめていたシズク。

「あれはいいの、いずれ説明します」

「はい」

「ではみんな出発するわよ」


こうして様々なことがあったこのナスメルを出発するため、目立たぬように駐留軍専用の門から出ようとしたときである。

「おーい!防衛戦のときはありがとな!!!」

「あのときは助かったぞ!!!」

「ありがとう~!!!!」

防衛戦をヨシツネたちと一緒に戦った駐留部隊の兵士たちが見送りに来てくれていた。

「おーい!みんなぁ~ありがとう!!!いってくるよ!」

「皆さんもお元気で!!!」

ヨシツネとナデシコが手を振っている。


「シズク!!! 気が向いたらいつでも帰っておいで!」

「女将さん! 行って来ます!!!絶対帰ってきます!」

「必ずシズクちゃんを守ります!」



「師匠、最初はナスメルって最悪な街って思ったけど、いろんなことあって・・・・シズクちゃんと出会えて・・・・・あんな風に見送りに来てくれる人までいて・・・・なんだか人って分からないね」

サクラが何かに思いをはせるように磨きが終わっていない苦無にやすりをかけつつ、呟いた。

「そうだな・・・・自分でも己のことがよく分からぬのが人だ」

「ふーん、そうだ、ねえ師匠なんで、蝶の模様なの?」

「最初出会ったサクラたちはな、ギラついた眼で自分が無力だと諦めていたであろう」

「うん・・・そうだったかも」

「今はどうだ?」

「うーん・・・あの頃が嘘みたい、魔法が使えなくても強くなれるんだね・・・・・あっ!」

「分かったか?」

「うん、師匠!!!大好き!」

「こら離れなさい」


気楽に甘えられるサクラをうらやましそうに見つめるシルメリア。

こうして穏やかな馬車の旅が始まった。










   ────??????────


「じゃあ?結局リシュメア支部の立てた作戦は台無しになったの?」

「申し訳ございません」

「いいよいいよ、どうせあいつらの作戦はフェイクだから」

「なんと!さすが教主様!!!」

「既にドゥベルグとベルパ、後は通商連盟に手は回してあるよ」

「もしや教主様は盟主会議に手を入れるおつもりですか?」

「当たり前じゃないか、奴ら・・・・なんつったっけ?しる・・・しる・・・?」

「シルヴァリオンでございますか?」

「そうそれ、あいつらのあがく様を見るのは良い娯楽になると思ったけど、最近ちょっとうざくなってきたからね」

建物がすっぽり入ってしまうほど高い天井と、呆れるほど広い祈りの間に備え付けられた漆黒の玉座は僅かな蝋燭で照らされていた。

玉座に座る男はまだ若い声でひれ伏して崇める教団信徒たちの質問に答えた。

「シルヴァリオン~ちょっと調子に乗りすぎだね」

「はっおっしゃるとおりでございます、では我らはどのように動きましょう?」

「いいよ、こっちで手はずを整えたから・・・・・・でも追撃部隊が全員消息を絶つとかさ、なんか邪魔する大きい意思を感じ始めてるよ・・・こいつもいずれ調べなきゃ」

「重ね重ね申し訳ございません、なんとお詫びしてよいか・・・・・」

「気にしないでね、でもそうだなぁ最近腹が良く減るからもっと活きのいいの多めにお願いしてもいいかな?」

「はっ!!!!さっそく手配いたしましょう!」

「頼んだよ、それにしても全然掴めないんだよな・・・・盟主会議が開かれる理由ってのがさ」

「こしゃくなシルヴァリオンめ・・・・・・」

「そうだ、せっかくだからあいつら使ってみようか、東方の山々にいたあいつら」

「あいつら・・・でございますか」

「後で書状渡すから配達頼んだよ~」

「かしこまりました教主様!」

「「「エルベロマワ!ファニキル!」」」

「まあどっちにしろ、ナルシェ殺した奴は絶対に許さないけどね」

ずんっと周囲の空気が重くなったことに信徒たちは全身から汗が噴出している。

「ただいま、コニス村とナスメルへの諜報員を手配しております」

「ふーん、まああんまり遅くならないようにね、ああどうやってそいつを料理するか楽しみだなぁ」








ナスメルのギルダー子爵の館では、所領から呼び寄せた私兵を含む80人ほどが召集されていた。

あの共同墓地への一件以来、豚息子は恐怖のあまり幼児退行を起こし指をしゃぶるばかりで動こうともしなくなった。

あまやかし育ててきた両親は一方的で理不尽に激怒し、シルヴァリオンが説明にきても納得せず追い返す始末。


怒りに火がついてしまったギルダー子爵は、所領の私兵を招集し独自に調査し突き止めた妙な連中がナスメルを出ることを知り、郊外でこれを討ち取ると命じた。

私兵たちも子息が一方的に被害者という言い分にはかなり疑問を持っていたが、歯向かうわけにもいかず出兵準備を進めていた。

「よいか!!!わし自ら戦闘に立ちあの連中を血祭りにあげて、我が息子の回復を祈るとしよう!腕が立つとの噂だが、この人数でかかれば恐れることはない!!!」

「「「おおおー!」」」


こうしてギルダー子爵の私軍は街道に出た真九郎たちを追撃するため、丘を越えようとしていた。

「ギルダー子爵とその家臣たちとお見受けいたします」

突如丘の影から現れたのは、黒と赤のローブに身を包んだ集団であった。

人数は7人。

「なんだ!!!またシルヴァリオンか!!!この帝国の金食い虫めぇ!」

「ギルダー子爵、あなたには陛下より爵位剥奪の命が来ております」

「な、なななんだとおおおおおおおおおお!!」

「爵位と領地、それに伴う資産の没収」

「ふざけるなぁ!シルヴァリオンごときが、主流派の重鎮ミネス侯の親類だぞ俺は!!!」

「そのミネス侯爵様より陛下に進言がありました、それがこの結果になります」

「な、あ、あ、ありえぬ・・・・・」

シルヴァリオンの隊長は動揺が広がる私兵たちに向かって陛下の命を伝える。

「これに逆らうは帝国への反逆も同じこと、家臣の皆様は早々に立ち去られるがよい」

帝国への反逆・・・・この一言で私兵たちはやる気と共に霧散した。

「なんで・・・こんなことに・・・・」

でっぷりと太ったギルダー子爵は、茫然自失な様子でシルヴァリオンを見つめる。

「さて人払いが出来たようなので本題です」

「ま、まだある・・・・・のか」

ここでシルヴァリオンたちの眼に尋常でない殺気が宿ったことにギルダーは気付いた。

「はっ!!!あ、あ・・・」

「ギルダー!貴様には陛下と本部より、対死界人特殊法令に基づく最優先特務妨害罪が適用された」

「な、なんだ・・・・それは」

「貴族だったくせに知らないのか、対死界人における攻撃手段及びその手がかりを発見した際に、あらゆる事態より優先し保護する法令だ、さらにそれを妨害するもは例え皇帝陛下であっても適用される妨害罪だ!」

「なぁ!!!!!!」

「よって貴様をここで処断する」

その宣告を合図に部下たちの詠唱が始まった。

「あ、あ・・・・私はなんて奴らに手を出してしまったのだ・・・・・」

倒れこみ逃げようもない絶望に醜い豚はただ頭を抱えることしかできなかった。

上空に現れた巨大な火球がギルダーに迫り直撃し、さらに吹き荒れる火炎流で骨までも焼き尽くす。

「任務完了・・・・・こんな豚に邪魔されてなるものか!我らの悲願を!」



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