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侍ジュリエット  作者: 水陰詩雫
第二章 盟主会議 アルマナ・ラフィール
25/74

7 コニス村防衛戦

 広場で仰向けに倒れたシルメリアは、荒い息をしながら自分の身体状態を冷静に分析しようとしていた。

手足に裂傷はあるが移動は問題ない、腹部は地面に打ち付けられた際の衝撃はあるものの内臓への損傷も大丈夫そうだ。

やはり折れた肋骨が一番の重傷だろう。

息をするたびに激痛が走るが、幸いにも肺に刺さるような事態には陥っていないようだ。

いくら治癒呪文でも骨の接合には時間がかかる、今の魔法力ではこれ以上の治癒術は逆に危険だ。

一秒でも早く駆けつけたいのに・・・・・

馬車でも残っていれば・・・なんとか起き上がると損傷した杖を含めて回収し、周囲を見回すが信徒は逃げ出すかグルナに殺された後のようで人影がない・・・・

広場の中央は、シルメリアが放った朧月により真円にえぐられた地面がまだ赤く溶けた溶岩となってくすぶっている。

「せめて・・・馬でもあれば・・・・はぁはぁ・・くっ」

胸を押さえて出口へ向かおうとしたときだった。

上空に何か気配を感じる!

バサッバサッと大きな何かがシルメリアの近くに着地する。

「飛竜!!!!」

褐色の飛竜に設置された鞍から飛び降りたのは、黒と赤で染色されたローブに身をまとった30歳前後と思われる男性だった。

「安心してくれ、敵じゃない!」

もう一匹の飛竜も着地し、オリーブ色の髪の女性もこちらに近づいてきた。

一瞬警戒するが、彼が手に持っている紋章を見て衝撃を受けると同時に納得する。

「黒の 逆アンク《リバースアンク》!」

「知っているなら話が早いな」

彼らはシルメリアを一瞥すると警戒を解くためにあえて申し出る。

「一応、自己紹介させていただこう、対死界人調査機関シルヴァリオン 第3特務部隊隊長 カルネス・イーグア だ」

「同じく、第3特務部隊 ネリス・ケルヴィン」

シルヴァリオン・・・・・・

アルマナ帝国が誇る、死界人の研究や兆候の徹底的なまでの調査と分析、また対死界人戦闘を行うための専門集団・・・・・

帝国はこのシルヴァリオンの組織を維持するために国防予算の8割を使っていると言っても過言ではなく、盟主として戦時防衛は各国との同盟により保障されている。

ただ、死界人が出現した際はシルヴァリオンを持って全力で各国の防衛に当たることが約定ともなっていた。

そのためシルヴァリオンは帝国のみならず各国の子供たちの憧れの存在でもあった。

アルマナ帝国の対死界人へかける執念は尋常ではなく新たに建設された都市計画も、いかに帝国臣民を守るかが主題となっており死界人への憎しみの深さは親の仇よりも深いと称されるほどだ

そしてその象徴たるシルヴァリオンがやってきた・・・・・


痛む胸を押さえながら返答する。

「私は リシュメア王国 近衛衛士隊 シルメリア・ウルナス と申します」

と一礼し丁寧な返答をする。

「なんと・・・・あの薄闇の月光殿か!!!?」

「え!?嘘!!!!シルメリア様!!!!私、大ファンなんです!!!」

ネリスがシルメリアに肩を貸しながら、休めるようにとカルネスがどっかから拾ってきた木箱に座らせる。

「ファンだなんて・・・あなた方シルヴァリオンこそ多くの子供たちの憧れではないですか」

「えへへへ・・・まあ私みたいな落ちこぼれが入れたのはラッキーだったんだけどね」

以外と気さくな人で安心する。

「シルメリア殿、私の記憶が間違っていなければ、あなたは盟主会議に出席することになっていませんでしたか?どうしてこんなところに?」

「そうそう、あなたに憧れている女性兵士たちって結構いるのよ、みんな会えるの楽しみにしてるんだがら」

「えええーそんなぁ・・・・・」

「うわぁ真っ赤になってる!!か、かわいい・・・・ぐへへへ」

「落ち着け!ネリス!!!!」

「あ、すんません」

「よろしければ事情を聞かせてもらえぬだろうか・・・・ここの惨状のこともできれば」

カルネスの鋭い視線を真っ直ぐ受け止めたシルメリアはエルナバーグからここに至った経緯を説明しはじめた。

ネリスが差し出してくれたお茶をいただきつつ、説明を終えた彼らの表情を見てシルメリアは背筋が震えた。

「擬似死界人ぉだとぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

「この腐れ教団どもがああああああ!!」

先ほどまで紳士的だったカルネスが怒気にまみれ憤怒の形相だ。

ネリスまでも先ほどまでの甘える仕草から一変、すさまじい殺気を撒き散らしていた。

「擬似死界人はグルナと呼ばれているそうです、ナルシェ・モラークによればコニス村を襲うと・・・・」

「むぅ・・・・・我が帝国の臣民を・・・・襲う・・だと!!!?」

カルネスはシルメリアの胸倉を掴みながら怒気を抑えられずにいる。

「ちょっと隊長!!!シルメリアさんは関係ないっしょ!!!」

と、頭を結構な強さで叩かれている。

「あ!!!!こ、これはとんだ失礼を!!!!!」

慌てて土下座して謝罪するカルネス。

「い、いえ、帝国が死界人に対してどのような思いを持っているかは存じております・・・気にしないでください」

「あ、ありがとうございます!!!!」

「よかったね、隊長、シルメリアさんがいい人で・・・・しかし、ああ綺麗だなぁかわいいなぁすりすり」

ネリスの豊かな表情の変化についていけなくなっている。

「あの、それで私の仲間たちがコニス村の救援とグルナ迎撃に向かってるはずなんです」

「そうだ!今優先すべきは帝国臣民の救援である!!!!して、そのグルナl!!!は呪文は効くのですか?」

「私はその戦闘を見ていませんが、たしかナルシェは ほぼ呪文は効かない と」

「呪文が効く可能性があるなら、殲滅するまで!って・・・・・あのさっきから気になる名前が何度か出ておるのだが・・・・・」

「そうですよ隊長!ナルシェ・モラークって言ったらあの大賢者と同じ名前ですって」

「はい、その大賢者本人でした」

「・・・・・・え?えっと、念のために聞きますが、その大賢者って・・・・・」

「はい、教団支部の支部長として襲ってきたため殺しました」

「なんですとおおおおおおお!!!!!」

「この惨状を見て、嘘は言っていないと・・・・分かりました・・・・・」

「た、隊長、す、すっげえ人を保護しちゃったよ!!!」

「お、落ち着け!!!落ち着くんだ!まずは・・・・・どうしよう?」

「お前が落ち着けよ!」

あれ、シルヴァリオンってこんな感じ?

「まずコニス村へ危機を知らせる必要があります、そして迎撃に当たっている私の仲間たちの支援です」

「は、はい!」

「えっと、その飛竜に私を乗せて運んでもらうことはできませんか?」

「いいよーどうぞ」

軽い・・・・ネリスはあっさり親指を立てて満面の笑みでok!する。

「では、急ぎましょう」

「シルメリア殿、一つよろしいか?」

「はい?」

「お仲間というのは一体何者なのですか?」

一瞬迷ったが正直に答えることにした。

「シエラ遺跡にて死界人を倒した緋刈真九郎様と、鬼凛組の皆さんです」

「「えええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」」

彼らにとって、真九郎がどのように受け止められているかは不安だった。

もしかしたら嘘を吹聴する罪人と受け止めているかもしれない・・・・・・

だが・・・・・

「うおおおおお!!!うぅ~うわーん!」

大の大人二人が声を上げて泣いている・・・・・

「えーーーーー・・・・・・あの落ち着いて・・・・・」

「これが落ち着いていられますかl!!!!!帝国が250年耐えつつ捜し求めた!死界人に対抗できる戦力なんですよ!!!稀代の英雄ではないですか!」

「シルメリアさん!そうなんだってばまじでやばいんだって!!!すごいんだよその人!」

真九郎がそう評価されることはたまらなくうれしかったが、本題がずれている・・・・・

「ごほん、じゃあその英雄さんが今必死で戦ってるのに救援急がなくてどうするの!!!!」

痛たたった・・・・折れた肋骨が・・・・

「「は、はい!!!大至急救援に向かいます!」」

「じゃシルメリアさん、はこっちね、あの変態隊長と一緒に騎乗したら大変だから!」

「は、はぁ・・・・・・」

シルヴァリオンってこんな感じなのね・・・・





いっぽうその頃、真九郎たちは馬車がやっと通れる渓谷の間道で、近くに散らばる枯れ木などを配置し移動阻害用の防衛策を準備していた。

ソービュはすぐに村へ戻ることになっており、今ここにいるのは真九郎、ナデシコ、サクラ、そして亡霊の不破と、マスコットの雪。

ナデシコは不破から槍の基本を即席で叩き込まれているが、剣術の基礎のおかげで体裁きの応用や槍の扱いにもその才能を発揮しつつある。

荷物にあった苦無は10本ほどでサクラに6本、2本とナデシコ、2本を自分で使うことにする。

サクラも短刀の二刀流を確認しており、粟田口の短刀が手に吸い付くようになじむとご機嫌である。

『そうじゃ!それが諸手突きじゃ』

「なるほど・・・・・じゃあこの狭い間道で戦う時は突きと上段からの切り下ろし、が主体になるんだね」

『それよかろう、もし広い場所に出ても払いは注意するのだ、味方に当たってしまう危険がある』

「よし、大体分かった!!!」

『ナデシコ!がんばれ!サクラがんばれ!』

「雪が応援してくれるなら大丈夫!」

『しかし珍妙な生き物だのう・・・・・』

不破がつっつくが雪には見えていないようだ。


「来たようだな、まず俺が切り込んで数匹の死体を障害物にしておくからお前たちは周囲の警戒にあたれ!」

「「はい」」

渓谷の曲がり角から先頭のグルナが顔を覗かせる。いくつもの人間の顔が縫い付けられた醜悪な存在だ。

幸運にも手には何も持っていないため飛び込みざまに首を切り落とし、2番手のグルナの迫る右手を切り飛ばす。

「モゴオオオオオオオ!」

3番目のグルナが距離を詰めてきたため、死体の近くまで拠るとそれを踏み台にして頭部を断ち割った。

道を塞ぐようにできた死体につまづいた右腕のないグルナの頭を飛ばし、死体でバリケードを作る容量で敵の進行を停滞させることに成功した。

真九郎は障害物を乗り越えてきたグルナ一匹一匹を相手するこが可能になりさらに別のバリケードができつつあった。

『むう、本人は謙遜しておったが緋刈殿の腕前、まさに鬼神であるな!』

「師匠かっけええええええええ!」

サクラとナデシコも興奮している。

真九郎も渓谷での戦闘を続ける中、徐々に真九郎の動きに切れがなくなっていく。

『緋刈殿!戻られよ!!!!刀身に脂がまいておるぞ!!!』

不破の言葉でこの違和感の正体が分かるとすぐに渓谷から抜け出し、荷物にあった布で刀身を拭った。

ようは死体を切りまくったたため、脂により刀身がくもっている。

念入りにぬぐい、ナデシコが手渡してくれた懐紙で丁寧に刀身を手入れするがバリケードを抜け出したグルナが出口まで迫っている。

『よし、ナデシコ、諸手突きじゃ!』

「はい!」

と掛け声と同時に突き出された十文字槍は、そのリーチの長さを活かしそのままグルナの首を跳ね飛ばしてしまう。

「やった!!」

『よくやったが、気を抜くでない次が来るぞ!』

新たに飛び出してきたグルナの足元に飛び出したサクラは短刀で足の腱を切り裂いた!

ガクッっと体勢を崩し尻餅をついたところへナデシコの槍が首を飛ばす。

『良い連携じゃ!焦らずこのまま行くぞ!』

「「はい!!」」

真九郎が休憩をしている間に二人と亡霊は次々とナグルを撃破していく。

「ナデシコ、交代だ!」

と疾風のように前に飛び出した真九郎は次々にグルナを切り倒す。

ナデシコは不破の指示で血脂の処理をしながら真九郎の戦う様を見守ってる。

『真九郎!がんばってー!』

雪のかわいい応援につい笑みがこぼれてしまう、緊張しすぎないために良い薬だ。

だが、渓谷を抜け出るグルナの数が増え出している。

さらには棍棒を持ったグルナが現れ始めた。

ナデシコとサクラのことを考え、棍棒持ちの手首を切り落とすとまた脂が回ってきているようだ。


脂が巻いても戦うことは正直可能である。

しかしこの多対一の状況で切れ味の鈍った刀で戦い続けることはより危機を招くことになりかねない。

可能な限り、血脂の処理はしておきたいところであったが・・・・

渓谷から抜け出したグルナが5体以上になってきている。

「おい、一度後退するぞ!」

鈍重なグルナたちを後に皆は一斉に走り出した。

森の中にできた信徒たちが使っていたであろう道をこのまま進めば街道に出るはずだ。

刀の手入れが終わったと同時に辺りを見渡すとサクラが元気に真九郎を追い越しているとこだった。

ナデシコは重い槍を抱えているためどうしても速度が落ちてしまう。

『ほれ、走れ!今は走るとときじゃ!』

「お、おっさん!、お化けだからって・・・はぁはぁ気楽でいいな!!」

『ナデシコ!がんばれー!』

「おーし!がんばっちゃうぞ雪!」

本来であれば死体の化け物たちとの悲惨な戦いのはずが、雪のおかげで精神的にかなり救われているかもしれない。

「不破殿、どの程度倒したか、もしかして把握していたりしますか?」

『もちろんだ、皆で32体倒しておる』

「す、すげーーおっちゃんすげえ!つうかあたしたちすげええ!!!」

「ほぼ師匠だけどにゃー」

「師匠まじで化けものだ!」

「そう化け物言うな」

と話しているうちに森を抜け街道に出たところでコニス村方面からちょうど馬車が走ってくるのが見える。

「おーい!!!!」

どうやらソービュが約束を守って回収に来てくれたようだった。

「約束を守ったのか」

「ああ、村を襲うなんてやはり間違っている、それより乗れ村は大変なことになってるぞ」

「襲われているのか!?」

「いや、援軍が来ている」

「援軍・・・・?」

「「「???」」」




くたくたになった3人を乗せてコニス村に戻ると村の入り口にはいくつもの土壁が姿を現している。

「なんだこれは!?」

これならばグルナの進入を防ぎやすいであろうが、いつの間にこんなものが?

村の入り口に盛り上がった土の塔の上にシルメリアが見慣れぬ女性に抱きつかれながら手を振っている。

怪我はしているようだが、無事のようだ。

さらに門の付近には村の男たちが長杖を持って迎撃の準備をしている。

なるほど、シルメリアはあそこから長距離攻撃をするつもりのようだ。

馬車が到着すると、ニーサが走りよってくる。

「真九郎さん!よかった無事で!」

「ニーサさん、見事な手際ですな」

「実は私だけではないんです、帝国から救援がきまして」

「救援・・・・あのシルメリアに抱きついていた妙な女です?」

「ええ、変わり者のようですが悪い人ではないみたいです・・・」

「あなたが!緋刈真九郎様ですかあああああああああ!」

「私はカルネスと申します、あなたの雷名は帝国まで轟いておりますぞ!」

「は、はぁ・・・・」

「して、擬似死界人グルナ・・・・とは!?」

ここで表情が一変する、どうやら死界人に並々ならぬ憎悪を抱いているのが伝わる。

「話によれば、100体ほどのグルナが教団支部からこちらに向かったということです」

「な、なんだと!!!!100体!!!!」

「あ、でも、我々が倒したのは32体らしいので、残り70体ほどになるかと」

「んっなああああああああああああ!!!!!!」

「さ、さんじゅう・・・・にぃいいいいいいいいいい!」

「おい、うっさいぞおっさん」

サクラがに文句をつけるが、興奮気味のカルネスには聞こえるはずもなく

「お、子供は早く避難するんだ!!!子供は帝国の宝なのだ!」

「師匠、この暑苦しいの誰?」

「ああ、なんか帝国のえらい人らしいぞ」

「へぇ~」

「ニーサ、作戦はどうなってる!?」

「はい、ここにバリケードを築いて呪文による攻撃で殲滅しようという作戦のようです、ですが擬似死界人ならば呪文は期待できないかもしれません」

「ならば俺たちが出るまでだな、いけるか?サクラ!ナデシコ!」

「まかせて師匠!」

「あたしだってまだまだいけるよ!」

『良い返事じゃ!気負いもせず、奢りもせず・・・・・緋刈殿、良い教えをしたものだな』

「こいつらがいい子なんですよ」

二人の頭を撫でると、頬を赤く染めて照れている。

『ナデシコ!サクラ!気をつけてね!』

「雪~全部終わったら一緒にお風呂入ろうね~」

『おふろ?なあに?』

「あはは、終わったらサクラが教えてあげる」

『みんな がんばれ~』

雪をニーサに預けることにすると、村の女性たちが炊き出しを始めているのが視界に入る。

「今のうちに水や食事を取っておけ」

「え、あんまり食べたくないっていうか」

「うん、サクラも・・・・・・」

「はははははは!!!!こういうときに丁度良いヒノモトの言葉があるのだ!のう?不破殿!」

『おお!』

「『腹が減っては戦は出来ぬ! ははははははは!!』」

「すげえ、シンクロしてるよ」

「食わねば途中で力が入らなくなるぞ、食っておけ」

「「はい」」

話を聞いていた村の女が真九郎たちに食べやすいパンと果実水を持ってきてくれる。

真九郎もパンを頬張りながらニーサの差し出した果実水を受け取るがどことなく顔色が悪いニーサ。

「ニーサさん?顔色が良くないようだが大丈夫か!?」

「いえ、これはそのあれですから」と首筋を真九郎にちらっと見せた。

「ああ、シルメリアに分けたのですね。それほどの敵だったのですか」

「ええ、あの大賢者を焼き殺したそうです・・・・・」

「う・・・・や、焼き殺し・・・・・・すごいですね・・・・」

「ええ、だんだん人間離れしていきますね、あの娘・・・・」


「ね、ねえ!!あの人が真九郎さんじゃない!!?ええ!ちょっと想像していた以上にかっこいい!!!きゃああ!!!!」

「かっこいいですよ真九郎様は、もう世界一かっこいいんです!」

「じゃあ、私も迎撃行ってくるね、無理しちゃだめだよ!?」

「ええ、ネリスも気をつけて!」

ネリスはひょいっと土塔から飛び降りると勢いあまってすっころび顔を強打していた。

「・・・・・・」

それでも起き上がり鼻血を出しながら手を振っているから平気なのだろう・・・・

カルネスはそれでも村人たちを鼓舞して周り、自身も杖を持ち先頭に立つようだ。

「見えたぞーー!!!たくさん・・・・何十匹もこっちにくるぞ!!!」

朝の穏やかな日差しが木々の丘の向こうからこちらを目指すグルナの大群を照らし出した。


ニーサから頂いた血のおかげで3割ほどの魔法力が回復したシルメリアは長距離狙撃の準備に入る。

3本になった折りたたみ式の杖を展開させると、銀水晶の杖に連動するように周囲を回転しはじめる。

「エルベ・ナースクォルナ!」

3本の折りたたみ杖から魔方陣が空中に広がるとその中央を貫くように増幅された月牙が先頭のグルナの頭に直撃する。

「「「おおおおおおおお!!!」」」

村人の歓声とは異なり大出力に関わらず顔の半分が黒く炭化しているが、まだ倒れる気配はない。

「なんて魔法防御力なの・・・・!?真九郎様はこんなのを相手に!!!」

改めて死界人に連なる存在の非常識ぶりに気が遠くなる。

あの出力であれば頭どころか上半身が消し飛ぶ威力のはずだ・・・

ならば、足を潰して移動を妨害する!

続けざまに打ち続けられる月牙はグルナの膝を直撃し、関節を焼ききられたグルナはどすんと前のめりに倒れ他のグルナを巻き込んでいく。

これでサポートに徹しよう!だがいつまで打ち続けられるだろうか・・・・


皆が迫る擬似死界人の恐怖に押しつぶされていた。

伝え聞いた死界人の恐怖に失禁する者も続出する。

あのカルネスやイリスも固まってしまっていた。

真九郎は息をすーっと吸い込むと

「我!巴波藩藩士 緋刈真九郎! いざ参る!!! 鬼凛組!続けぇえええ!!!」

「「うおおおおおおおお!」」

この時の抜刀で村人たちは一時的に虚脱状態に陥るが、あえて距離を取ってからの抜刀のため影響は小さくて済んだ。

真九郎とサクラ、ナデシコは掛け声と共に迫り来るグルナの群れに突撃する。

押し寄せる恐怖と絶望の中、それでも挑む彼らの存在が人々の目に焼き付けられる。

連続で発射される月牙で倒れるグルナを、ナデシコが確実に首をはねていく。

サクラは棍棒を持ったグルナの手首を切り落とし、腱を切り裂き、死体に還ったグルナを踏み台にすると短刀で見事に首を切り飛ばす。

真九郎は先陣をきり袈裟切りにぶった切り、胴を薙ぎ、頭からの一刀両断を決め込むと、さらには旋風のごとく戦場を駆け回りグルナを屠っていく。

「うおおおおおおおおお!!!な、なんだあいつらはぁあああああ!!!」

「た、隊長一匹こっちきます!!!」

「お、おう! みんな!俺たちだってやれるぞ!迎撃だ!!一斉に火炎球を放てええ!!!」

無数の火炎球が手首を切り落とされたグルナに命中するが、全身を黒こげにするのが精一杯でグルナは歩みを止めない。

「もう一度だひるむな!!!」

さらに火球の攻撃で一度は膝をつくものの、グルナは黒こげの醜悪でおぞましい姿を迎撃にあたる村人たちにさらしていく。

「うあああ!だ、だめだ!!!! え!?」

距離が近づいたところにシルメリアの月牙がさらに呪文を収束させて吹き飛ばす。

「みんなぁ!呪文は収束させるの!一箇所に集中させて!」

シルメリアの指示で皆が次に突破してきたグルナを迎撃する。

「まずは相手の右膝!」

様々な呪文がグルナの膝を破壊し、横向きに倒れる。

それでもはってくるグルナに今度はカルネスの指示で集中砲火が打ち込まれる。

第一波らしきもの凌ぎきり、真九郎たちが帰還する。

皆が感謝や賞賛の声をかけるものの、真九郎たちは肩で息をしている。

最前線であれだけの立ち回りをやってのけたのだ、無理もない。

用意してあるぼろ布で刀の脂をぬぐって準備するが、体力もかなり消耗している。

残りはどれくらいなのだろうか・・・・

『今倒したのは42体じゃ』

「さすが不破殿、心でも読めるのか?」

『話通りであればあともう踏ん張りじゃ!サクラとナデシコも実戦で大化けしてきておるぞ!』

「不破殿がついていてくれたからですよ」

『お主も今のうちに休んでおけ』

「ええ」

と差し出された椅子にどかっと座り果実水をごくごくと飲み干す。

いかん、あと20体もいれば押し切られる・・・・・

ナデシコやサクラも限界だろう・・・・・


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