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侍ジュリエット  作者: 水陰詩雫
第二章 盟主会議 アルマナ・ラフィール
22/74

4 焦燥と絶望

※やや残酷な描写がありますので、苦手な方はご注意ください

 明け方過ぎに戻ったシルメリアは焦燥と疲労で真っ青な顔をしていた。

「これを・・・・・」

鞘には真九郎のものと思われる乾いた血がべっとりとついたままだった。

刀を受け取ったナデシコの手が震えている。

どんなときも、厳しくて優しい師匠がいないことに、そしてその身に何かが起こってしまったのだという事実に恐怖していた。

「師匠・・・・・」

「シルメリアは今のうちに寝ておきなさい。ナデシコ、その間の警戒はあなたに任せるわ」

「サクラ、あなたは私と一緒に捜索に出るわよ」

「寝てなんていられないわ!」

パンッ!

乾いた音が森に響いた。

「もしも、もしもよ・・・・・真九郎様を救出しなければいけない事態が生じたらあなただけが頼りなのよ??言っている意味は分かるわね」

「・・・・・・ごめんなさい・・・・ニーサの言うとおりだわ」

「ではいまさら寝られないでしょうから、私が睡眠呪文かけるわ、抵抗しないでね」

「はい・・・・」

野営ポイントの寝袋に入ったシルメリアにニーサは優しく睡眠呪文をかける。

すぐに穏やかな寝息をたてはじめ、一安心するニーサ。

「ナデシコ、疲れていると思うけど、よろしくね」

「ニーサさんこそ大丈夫?」

「任せなさい、サクラ」

「はい」

二人は北にポイントを絞ると捜索に向かっていった。




ナデシコはシルメリアの気持ちを自分に置き換えると怖くて震えが止まらなくなった。

もしヨシツネが同じことになったら・・・・・あいつは今無事なんだろうか・・・・・

1人でいる時はこんな恐怖を感じる暇さえなかった、今日を生きることだけが精一杯だったのだ。

師匠はヨシツネを街道班に振り分けたことを頭を下げて詫びてくれた。

もちろんそんな必要はなかったが、師匠の考えを理解できたし恨む気持ちや責める気持ちは皆無だった、むしろヨシツネが認められことが自分のことのようにうれしかった。

だが大事な人を・・・・・守りたい人が出来ることが心をこんなに暖かく、そして弱さを露呈させてしまうものだとナデシコはかみ締める、そして恐怖で体が震えてくる・・・・

それを察した雪がちょんとナデシコの肩に乗った。

「雪、私は魔法力ないからオルナでないよ・・・」

『ナデシコ、優しいにおい 大好き』

「雪っ!」

雪を抱きしめながらそのぬくもりにすがるようにナデシコは泣き続けた。

師匠の言った、刀を抜くときは死ぬ時と心得よ、という言葉、これって想像していた以上に重い言葉だったんだ・・・・・

ナデシコはシルメリアの手を握ると、どうか無事でありますようにと願わずにいられなかった。




夕方になり二人はようやく戻った。その頃にはシルメリアにかかった睡眠呪文も解け、飛び出しそうになるのをナデシコがなんとか留めていた。

二人しか姿がないことに落胆したシルメリアだったが、すぐに二人から事情を聞こうと詰め寄る。

「何か手がかりはありましたか?」

「とりあえず座って話しましょう」

「・・・・・・・」

ナデシコが用意したお茶を飲みながら疲労困憊の二人が状況を報告する。

「影も形も見当たらないわ、だけどね」

「だけど?」

「ここから北に行ったところに村が見つかったの、そこで情報が得られるかもしれないわ」

「今から行けば遅くない時間に村に辿り着けると思う、サクラ・・・辛いかもしれないけどいける?」

二人はほぼ丸二日動きっぱなしなのだ。

「師匠の稽古に比べればこんなの余裕余裕♪~」

軽口を叩いてはいるが彼女の体力も限界に近い。

「荷物をまとめて出発しましょう」

ナデシコとシルメリアが荷物をまとめる間だけでも二人に休憩させたが、サクラの足取りは重い。

聞くところによれば、ニーサと二人で捜索しているときも四方八方駆けずり回っていたそうだ。

それでも泣き言一つ口にしないサクラはかっこいい、ナデシコは素直にそう思った。


すっかり日も暮れたが魔法の明かりが煌々と森を照らす。

街の明かりが見えたときには皆ほっとため息をついた。

シルメリアはサクラとニーサをこんなになるまで追い詰めてしまったのは自分なのだと、深く反省していた。

彼女たちだって真九郎のことが心配なのだ、なのに自分だけ感情のまま突っ走るなど・・・・とんでもない馬鹿だ自分は・・・


辿り着いた村は辺境の希少触媒を採集するための拠点として、人の出入りがほどほどにある村だった。

そのことはニーサたちにとって幸運だった。

女性でも魔法が得意であれば男性と同じ仕事をすることが多いため、稼ぎを得るためにやってくる女性採集グループもそう珍しくはない。

宿をなんとか確保すると、サクラは倒れるように眠りについた。

ニーサは他の3人に休むように伝えるとすぐに村の酒場で食事を用意してもらい、さらに近隣の噂などを聞き込んだ。

その中で気になる情報を得たニーサは、部屋に戻るとその噂について食事を取りながら相談することにした。

「この村は辺境にしては人の出入りが激しいためあまり大騒ぎにはなりませんが、ここ数年の間に採集に来ていたグループが何組も行方不明になっているケースがあるようなのです」

「行方不明って・・・・師匠と同じ!?」

「まだ分からないわね・・・・どちらにしても今日は休むことにしましょう、シルメリアさんには寝る前に村の周囲に探知魔法だけお願いできる?」

「はい、では行ってきます」

外に出て行くシルメリアを見ながらナデシコは思う、ニーサってやっぱりかっこいい。あれはお姉さまを気遣ってのことだと・・・・




飛び出して行きたい衝動を抑えつつ、4人は行方不明事件や関連しそうな情報集めに終始した。

今まで行方不明になった者たちは、そういえばいなくなったな程度の認識であったため勝手に帰ったのだろうと噂される程度のものであった。

それが去年になり、息子と旦那が姿を消したと妻が村に駆け込んできたことからそういえば・・・となったらしい。

有志が周辺を捜索したが何も見つけることができなかったという。

まずい状況であった、過去の行方不明者が見つかったケースはない。

魔獣の存在や妖人族も考慮されたがここ周辺で見かけた者はいないそうだ。

ただ一つ気になった情報といえば、街道を南下していた行商人たちの一団が、道中数が減ったように見えることがあるらしい。

気のせいだろうと話していた酔っ払いの話に、俺もあるぞ、荷馬車2台が後ろ走ってたはずなんだ、俺もあるぞといくつも証言が得られた。

「実は私の連れが行方不明なんです、その方はリシュメア王家や貴族に知り合いが多く、見つかればお礼はかなり期待できると思ってもらっていいです」

「そいつぁ一大事だな・・・・んで行方不明になってどれくらい経つんだい?」

「二日といったところでしょうか・・・・」

「よし、お礼が欲しいと言えば欲しいが、こうも行方不明や失踪が続いちゃおちおち採集もできやしねえからな、俺の知り合いにも声かけて探してくるわ」

「ありがとう!」

「たしかにお前さんの言うとおりだ、うちのギルド連中にも声かけてみるわ、情報はどこに持っていけばいい?」

「2軒先の 白いこだま亭です」

「わかった、あそこの女将に一声かけといてくれ」

「よろしくお願いします、あ、ここの支払いは私が」

ニーサの気前の良さに気を良くした採集家たちは協力を約束してくれた。



一番気になった情報は、荷馬車を運ぶ行商人がいつの間にか姿を消すという話だ。

もし目立つ頻度で姿を消すのであれば、荷物が届かないことへの苦情などが顧客を通じて他の商人たちへも伝わるはずである。

ならば行商人の失踪は幻なのか?もしくは・・・・・・・必然なのか。

ニーサは湧き上がる焦燥を抑え考えた。

真九郎を失うということは、この世界がようやく獲得した唯一の死界人への対抗手段を失うということである。

焦るな・・・・落ち着いて考えるんだ、きっとどこかに糸口がある・・・

悩みながら宿に戻り待機中だったサクラに、酒場で得た情報を伝えてみた。

「行商人が消えちゃうのか、ねえニーサさん、消えちゃうんじゃなくて運んでるんじゃない?知らない場所に」

「あっ!」

盲点だった、輸送先がこの村、コニス村だけとは限らないのだ。

「ありがとうサクラ!もう一回聞き込みに行ってくるわ!あっそれと宿にに情報持った人が来たら待たせてね、私を待つのよ!」

「はーい!」

慌てて酒場に戻ると先ほどの採集家たちがまだ残っていた。

「どうしたい慌てて?」

「あの・・・はぁはぁ・・・コニス村の近くに行商人が荷物を運ぶような場所って村とか例えば鉱山とかってありますか?」

「いや、聞いたことないなぁ?お前は?」

「ないない、ここら辺は鉱石の質が悪くて植物系の採集に恵まれたところだからなぁ」

「そういえば・・・・」

「何か心当たりが?何でもいいです教えてください」

「いあ、あまり期待しないで聞いて欲しいんだが、こっから南東に一日半ほど行くと、かなり昔に建てられた館跡があってな、まあ廃墟なんだわ、その廃墟に人が出入りしてるって言ってた奴がいたなぁ」

「廃墟・・・・臭いますね」

「それが行方不明事件と関わっているかは、分からないけどなぁ」

「いえ、助かりました、あなた名前は?まだ村に滞在してますか?」

「アーギルだ。ああ、しばらく居るつもりだよ」

「とりあえずお礼です、発見できたら改めて」

そういって人の良さそうな採集家アーギルにアルマナ金貨を1枚握らせるとニーサは酒場を飛び出していった。



ニーサが飛び出して行った後、サクラは部屋で短刀の手入れをしていた。

もう既に手入れは十分なのだが、手持ちぶたさという奴であった。

その時である、宿の女将さんが情報持ってる人が来たと伝えにきてくれたので、部屋に通すことにする。

大部屋を借りていたので、すぐにソファが置いてあった部屋へ通すことにする。

黒いローブをまとった陰気な男だった。

「もうちょっとしたら、ニーサさんって人が来ると思うから少し待っててください、今お茶出しますね」

「ああ、気にしないでくれ。ちょっと聞きたいんだがいいかい?お前さんたちはどっから来たんだい?」

「北のナスメルからですよ」

「そうかい・・・どうにも派手に聞きこみしているようだね」

「そりゃそうですよ、お兄ちゃんがいなくなっちゃったんですから」

「ほう、お兄さんがいなくなったのかい、実の兄とは似てないようだが?」

「そうなんですよ、義理の兄弟なんです♪はい、どうぞ」

とサクラがお茶を出そうとした瞬間、そのお茶を黒ローブの男の顔にぶっかけた。

「ぎゃああああああああああ!!あ、あっちいいいいいいいいいいぎゃあああああああ!!!!」

その暴れる男の足を引っ掛け転ばせると、杖を引き抜きぶん投げる。

さらにニーサさんからもらった、かけると勝手に拘束してくれる自動手錠で手足を拘束する。

「貴様ぁ!!!情報もってきてやったのに何ってことしてくれだぁこのクソ獣人が!!!」

「ねえ、自分が言った発言ちゃーんと思い出してごらんなさいよ」

「くそう・・・・いてえええええ」

「あんたさ、実の兄とは似てないようだが?って言ったんだよね。ってことは師匠にお前会ってるだろ?」

明るくかわいい印象からは程遠い氷のような追求が男から思考を奪っていく。

サクラは短刀を見せつけながら男を追い込んでいく。

「師匠をさらったのはお前だな、居場所を言え・・・・」

「し、知るか、こんなことしやがって!村の駐留兵士に訴えてやる!!!」

「へぇ~そっかぁ 分かった」

日常会話のようなあっさりとした口調の先に待つのは男の絶叫であった。

予めシルメリアがこの部屋に消音呪文をかけておいてくれなかったら、こういう手法は取れなかったであろう。

「ギャアアアアアアアア、あっあったってあああああああああ!!」

サクラはゴミでも見るかのような冷たく冷静な表情のまま、男の切り取られた右耳をぷらぷらさせていた。

眼の前に抜き放たれた短刀を見せ付けると静かになったが、また虚脱状態から解放されると混乱しわめき散らした。

「ねえ、おじさん。もう片方の耳、いっとく?」

「や、やめろ!!!し、知らねえ!何も知らねぇ!!!」

「知ってることあるなら言っちゃったほうがいいと思うよ、逆にさ見つかったのサクラであんたラッキーだからね?」

「へ??」

涙とよだれでべとべとになった男がさらなる恐怖を予感した。

「いなくなった師匠を必死に探してるサクラのお姉様さ、師匠に恋してるから何かあったらあんたただじゃ死ねないよ・・・・・」

「え・・・・!?ま、まさか・・・・」

「ちなみにさ、軍の特殊部隊10対1でも相手叩きのめすほどの使い手だからね?」

「なっ!!!がっ・・・あっったっった・・・け・・!」

もう恐怖で何を言っているのかさえ理解できなくなっている。

「ふーん、じゃあやっぱ師匠の行き先知ってんだ?」

と、その時部屋のドアが開きちょうどニーサが戻ったところであった。

「ただいま、戻った・・・・・サクラ!!!????」

「ニーサさん、おかえり~ こいつがさ情報持ってきたって来たんだけど、師匠のこと確実に知ってるぽいんだわ」

泣き叫ぶ男と男の片耳らしきものをぷらぷらさせているサクラを見て、ニーサは叫びそうになるのを必死にこらえ次の一手を瞬考した。

「手ぬるいわよサクラ、どうせ生かしておくつもりないのだから指でも目玉でもやってしまっていいのよ」

「なっ!!お、おいまままままま、待て待ってください!!!!」

「何をいまさら????」

ニーサの杖が男に向けられる。

「ねえ知ってる?家畜用の解体呪文ってあるでしょ?」

「は?え??」

「私ね、あれをニンゲンにかけたらどうなるのかって・・・・・ずーーーっと興味あったの」

「お、おいおいおいおいおいままっまままままままっまっててまてまえて」

「サクラぁ試してみてもいいかしら?」

「えええーだって部屋汚れちゃうよぉ?」

「そっかぁじゃあ場所移してやりましょうか」

「わ、分かった分かった!!!場所を言うよ、案内してもいい!!お願いだから助け、助けてください!!!!」

「物分りがよろしいようね」

すーっと白布で男の口を塞ぐと足の拘束だけを解き、柱に拘束しなおした。

「ニーサさん、解体呪文は森で使うの?」

「え、ええそうね考えておくわ」

やばいこの娘本気でやると思ってるし!!!

「んんんんんんん!!!!!」

それから一時間ほどでシルメリアとナデシコが戻ったが、シルメリアが部屋に入ると男を惨殺してしまいかねないので、サクラが宿の外でシルメリアを連れ出し説明してから戻ることになった。

「あなた名前は?」

シルメリアの殺意にまみれた一言はそのあまりある魔法力とあいまって男の恐怖を刺激する。

その一言だけで男は失禁してしまっていた。

「あああーきったなーーい」

サクラにけなされつつも、男はシルメリアから放たれる殺気だけで殺されてしまいそうな勢いであった。

「な、な、ななまえ・・・・・ソ、ソービュだ・・・です」

「どうして真九郎様をさらったのですか?今どこにいるのですか?あなたの目的は?」

「目的とか・・は知らない・・・・逆らえなかった・・・・・下っ端で・・・場所は南東にある、変な廃墟みたいな場所だ」

「やはりそうでしたか・・・・あなたたちの組織は?何者???」

「俺たちの・・・・・・・」








-------キルディス山脈大トンネル-------


シルメリアたちの殺害任務を受けた謎の集団は、この大トンネル内で塗炭の苦しみを味わっていた。

持ち込んだ食料が底を尽き辛うじて供給可能な水で飢えをしのぐ有様であった。

いたるところに打ち込まれた永続光呪文が、追跡者を警戒しいつでも対応可能であるというメッセージと受け取った彼らは逆に警戒し歩みを遅くせざるを得なかった。

飢えと疲労で通路から落下死した者が1名、他29名が生存。

そんな彼らはシルメリアたちから遅れること4日目にあの分岐点に到着した。

黒いローブを身にまとい、各々が不気味な仮面をつけている。

疲労のあまり仮面をつけることを諦めている者までいる始末だった。

「やはりあんたの計画が甘かったんだ!見てみろこの有様だぞ?」

烏仮面が蜂仮面につっかかっている。

何度となく見られた場面だ。

「やかましいぞ!あまりうるさいようならそこから突き落とすぞ!」

「ちっ!教主に気に入られてるからって調子に乗りやがって!」

蜂仮面は分岐を前に困り果てていた。どうすべきか・・・・任務が最優先なのは承知のことであるが・・・・・

「部隊を分ける、右に20名、左に9名だ」

「おい、9人であいつら倒せるのか?」

「そうだ、薄闇の月光だぞ?あれは一回見たことがあるが化け物だ」

「やかましいんだよてめえら!!! 第2位階ごときが生意気言いやがって!亀と蛙は左、あとは右だ急げ」

「くそう、蜂だからってよぉ」



渋々左右に分かれて進むことになった謎の集団は、出口があると信じて地下街道を歩いた。

右側の街道は曲がりくねり次第に上り坂になっていく。

道の変化に期待した彼らは出口が近いかもしれないと、期待して坂を上っていった。

坂はやがて洞窟内部に繋がり、彼らはもう殺害任務を忘れこの地獄から抜け出したい ただそれだけを願う。

洞窟のひんやりした空気が徐々に湿気を帯びたものに変わり気温も上昇してきたようだ。

「おい、空気が変わってきたぞ外が近いんだろう!」

「やった、出られるぞぉ!!!」

「もう少しだ!!!」

徐々に洞窟の先から漏れる光が視界に入ってくると、彼らの興奮はボルテージは最大限に高まった。

1人、また1人と疲れた体で坂を駆け上がっていく。

「おい、立ち止まってんじゃねえよ!早くいけよ」

「あ・・・ああああ・・・・・あっ・・・・」

先行した奴らが立ち尽くし、言葉にならない呻きを発している。

「どうしたって・・・・・・あっ・・・・・」

20名の暗殺者たちの思考は停止していた。


目の前に広がる光景こそが絶望であると・・・・・・・・





外光だと思われた光は・・・・・・赤く蠢く巨大な目玉が発したものであった。

さらにその目玉の周囲には無数に広がる牙と触手があり、いくつも広がる巨大な口腔へ1人、また1人と触手につかまれ放り込まれていった。

「ぎゃああああああ!!!!」

ゴリッボリッ!

「うおおあああああああああああ、にげ、にげえええええ!!!ぎゃあああああ」

洞窟の壁面と思われていたものは、巨大な怪物の口腔内の肉壁であった。

触手に掴まれた20名は瞬く間に、何十年ぶりかの餌として怪物の腹を満たすことになった。





一方左側をあてがわれた亀仮面と蛙仮面の9名はとぼとぼと力ない歩みを続けていた。

「おい、このまま薄闇の月光に会っても無理だろ・・・・」

「ああ、倒すのは無理だ・・・・」

「なら、追跡して・・・・ほらコニス村の近くにさ教団支部あったじゃないか!?あそこに連絡するんだよ」

「そうか、任務は失敗になるが我らが生き残るにはそれしか方法がないかもしれん・・・・・」

「あそこの支部長は相当に変わり者だと聞いたことがある・・・大丈夫だろうか」

「どの道俺たちが生き残るにはこれしか方法がないんだ!」

「そうだな・・・・」

飢えと疲労に苦しみつつも重い足を引き摺り前に進む亀と蛙・・・

「う、嘘だろ・・・・・」

蜂率いる20名とは異なる絶望が広がっていた。

街道が崩れ去っていた。その先に広がるのは暗黒の地底だけである。

皆膝をつき、絶望に打ちひしがれている。

だがそこに妙なものが現れた。

ぴょんぴょんっと黒い毛玉が10匹ほど亀と蛙の前に現れたのだ。

「なんだあいつら・・・・・だが」

そう彼らにとってあの黒い毛玉は食料にしか見えなくなっていた。

捕食者としての衝動を即座に感じた毛玉たちは逃げ出した。

『キューー!』

必死に逃げつつも飢える者たちの前に現れた食料候補を逃がす彼らでもない。

「へへへ・・・黒こげにすんなよ、喰えればいいんだ!」

「わかってるよ・・・」

『キューキューキューキューキュー』

黒毛玉は密集し一定周期で何かを叫んでいるようだった。

「かわいい声で鳴いたってだめだぜ、おとなしく くわれ・・・」

バサッバサッ

何かが羽ばたくような音が聞こえる。

「はっ?なんだ???何がいるんだ???」

「おい、あいつら何かしたのか?」

ズズーンと地響きを立て巨大な何かが着地する、彼らの真後ろに。

素早く逃げ去った黒毛玉に気付くことなく、恐る恐る彼らが振り向いた先には漆黒の巨大な影が覆いかぶさろうとしていた。

「ああああああ、ああああ、あれは・・ああああ、ド、ドラ・・ぎゃあああ!」

亀と蛙は灼熱の炎に焼かれ9体の哀れな黒い煤に成り果てた。

『キューキュキュ!』

「グルルルルルゥ」

漆黒の巨大な存在は黒毛玉たちに顔を寄せると毛玉たちにすりよられ、満足そうな顔をしていた。







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