1 それぞれの旅支度
ニーサは盟主会議を逆手にとるべきだと主張した。
「盟主会議のような数ヶ国で結んだ約定は、国内法に勝る効力を持ちます。そこで盟主会議への参加者は既にアルマナ帝国へ出立した・・・とするのです」
レグソール伯はニーサの胆力に脱帽するしかなかった。
「だが、王国軍は納得しないだろう・・・・」
「はい、なので餌を与えます」
「餌ぁ?」
「レインド殿下とレシュティア姫は盟主会議へ参加準備のため王都に帰還してもらうことになります」
「ずっとエルナにいたいけど、そうもいかないわよね・・・」
ニーサは姫を一瞥すると、淡々と話を進める。
「盟主会議に参加される方に何かあってはリシュメア王国の恥、しかもまた妖人族が王子を狙うかもしれません、第二軍の皆様のお力でどうか運命の王子を王都までお送りくださいませー」
最後のコケにした言い回しで皆に笑みがこぼれた。
「なるほど、苦難を乗り越えた御子を伴い凱旋する栄誉ある任務であるな、これなら王国軍も手ぶらにはなるまい、だがシルメリアが逆賊と認定されたことに変わりはないのだぞ?」
「私のために皆さんに危険がおよぶようなことはしないでください、お願いです」
シルメリアは悲痛に訴えるが、ニーサは優しく微笑むと話を続けた。
「はい、タラニス司教は先手を打っておられました。シルメリア様は王子に起こった全てを見届けた生き証人である、ならば盟主会議に参加し証言を求めたい、とアルマナ帝国の対死界人調査機関シルヴァリオンが正式に招待しております」
「ううううむ」
レグソール伯は唸るしかなかった。
タラニスとは想像以上に動いてくれていた。
「つまり、どういうことであろうか?」
今まで黙っていた真九郎が問いかけた。
「シルメリア様はこれからアルマナ帝国へ向かっていただきます」
「お1人で旅に出るのか?」
「え?ご一緒しないのですか?大切なシルメリア様をお1人で行かせるので?」
「なっ!!!た、大切ではあるが・・・その分かった、お供しようではないか!」
「はい、説得完了ですね、まあ真九郎様にも招待状きているので行ってもらわなくて困るのですが」
「「「「なんという策士!・・・・」」」」
「う~なんか恥ずかしい・・・・・」
そこでバルダが疑問を呈した。
「すまぬ、シルメリアが同じルートで移動すれば王国軍が拘束する危険を増やすことになってしまう、近衛としてそれは賛同できない」
たしかにバルダの言うことはもっともである。
「説明不足でした。王国軍と鉢合わせるようなことにはなりません、シルメリア様たちにはキルディス山脈を抜けてもらいます」
「おい、山脈を抜けるなど死にに行くようなものだぞ!」
バルダの問いかけにニーサはレグソールを一瞥する。
「よい、あれを使うのだな説明してあげなさい」
「はい、実はキルディス山脈麓の古代遺跡にアルマナ帝国方面へ通じる大トンネルがあることが分かったのです、それを使ってもらおうと考えています」
「なんというか、これは大地母神のお導きかもしれないわね・・・・」
レシュティア姫は次々と明かされる事態に身震いをしている。
ニーサは以外にも同意しつつ答える。
「はい、これは偶然とは言いがたい出来事だと思います。ここに皆様がそろっているだけでも奇跡に近いのです、では私たちは生き抜くために最善を尽くしましょう」
エルナバーグから南に行くとウルガリの町がある。そこから街道沿いに西へ向かうと王都リシュタールへ至る。
アルマナ帝国へ向かうには間にあるキルディス山脈を超えねばならないが、さらにベルパ王国方面から北へ向かって迂回するようなルートになる。
このリシュタールから帝都オルフィリスまでを結ぶ街道をレインドたちは行くことになった。
シルメリアたちは王国軍との鉢合わせを防ぐため、エルナバーグの北から山脈の下を走る大トンネルを通りそのまま北上するルートだった。
直線距離では近いが安全確認がされていないため、危険な旅になると予想された。
さらには二ヶ月以内にオルフィリスに到着しなくてはならない。
北上班の出発は二日後、ウルガリ方面に向かう街道班の出発は王国軍と合流後の6日後ということになった。
大アルマナ帝国。
この大地の盟主であったかつての大帝国。
リシュメアを始め、ベルパ王国やドベルグ王国など様々な国が帝国の一領地であった。
だが250年前に起こったあの大災厄、死界人の来襲。
帝都や近隣都市の2000万いたとされる人口は1万近くまで減少し、比較的被害の少なかった各領地は帝国再建をする見返りに独立。
その後アルマナ帝国は以前ほどの繁栄はなく、他国と同等かそれ以下の国力を維持するのが精一杯の状況であった。
アルマナ帝国は各国の独立にある条件をつけた。
もし死界人の発見、情報が見つかった際は速やかに報告するべし。
さらに死界人の危機が確実になった際は盟主会議の元に集合せよ、との約定であった。
これが盟主会議 アルマナ・ラフィールである。
決定後の動きは非常に素早かった。北上班と街道班それぞれの準備に人数が割り当てられレグソール伯指揮のもと準備が進められた。
先行して優先されたのは北上班である。
何しろ二日後の出発で過酷な旅になることが予想されている。
逆に街道班は王子と姫の身の回りの品と金品、後は兵士たちに振舞う酒などの嗜好品を用意する程度で足りると踏んだ。
レインド王子からはマルファース王子より預かった魔法のバッグを使ってくれと申し出あがったたため、レグソール伯が秘蔵していたバッグの二つを使うことができるようになった。
これは装備容量と重量の大幅軽減を可能にし、食料や水を十分に用意することができるようになった。
他にも各種薬剤や包帯を厳選し地図や必需品となる魔道具の買い付けなども行われる。
これらは全てレグソール伯の出資によって進められたが、商人組合からも寄付の申し出があり必要経費としては潤沢な準備となった。
他にも帝国で使えるアルマナ金貨、銀貨なども商人たちから都合してもらい十分な額が用意できたと思われた。
一番もめたのは、その人選である。
北上班には シルメリア、真九郎が決定していたがニーサの話によれば鬼凛組をぜひ連れて行って欲しいとあった。
真九郎は当初3人を安全な街道班に回そうとしたが、魔法が使えぬ女性が軍紀の乱れた軍隊と同行することに危機感を覚えサクラとナデシコを北上班にすることにした。
ヨシツネも悩んだが、場数や社会経験を積んでもらいたいという狙いもあったため街道班へ振り分けることにした。
だが、ヨシツネは自分だけが街道班になったことにショックで真九郎に直接抗議に来ていた。
「師匠、俺はそんなに役立たずなんですか?がんばるから連れて行ってください!」
「ヨシツネはそう言うんじゃないかと思っていた、だがそれは違うぞ。お前だからこそレインドの護衛に信頼できる人をつけたかった」
「え?信頼って俺ですか?」
「お前以外に誰がいるんだ」
「ヨシツネを街道班に選んだ理由はいくつかある。まず一つ目、ヨシツネに軍隊の動きを知ってもらい今後に活かしてもらいたいと思ったからだ」
「そして二つ目、サクラとナデシコを、軍紀の乱れた軍隊と同行させる訳にはいかなかった」
「あ、それはそうだった・・・・・」
「三つ目、レインドと同じ境遇のお前で、しかも男ならあいつも相談しやすいと思ってな」
「そうか、殿下も寂しいよな」
「よき相談相手になってやってくれ」
「はい!」
「そして最後の理由だ、ヨシツネならいざというとき臨機応変な判断をできると思ったからだ」
「師匠・・・・・俺ちゃんと考えもせずに師匠に口答えなんてして本当すいませんでした!!」
「いや、口答えするぐらい元気なほうがいい。そしてだ・・・・」
真九郎が棚にしまってあったある物を取り出す。
「こいつはたまに練習で使う俺の差料だった刀だ」
スラリと抜き放つと数馬の太刀よりは若干細身ではあるが、それなりの上物ではある。
「こいつを持っていけ」
「えええええ!!お、俺がこんなすごい刀を???」
「ヨシツネ!お前だから預けるんだ」
「は、はい!!!」
刀を受け取ったヨシツネはローブの腰帯に太刀を差し込んだ。
「うおおおお!やっぱ本物は違う!!!」
「よいか、その刀を抜く時は死ぬ時と心得よ」
「はい!」
自身の中で覚悟を育みつつあるヨシツネ。
「こっちへこいヨシツネ」
「はい」
「これから 金打をする」
「きん、ちょう?」
「男と男が侍同士が、固い約束をする時にする作法だ」
ヨシツネの表情が引き締まった。いい眼をするようになったな
「こう鍔と鍔を打ち合わせる」
キンッ!
と清んだ音が響き渡った。
「無事に帰ってきたら、また金打をしよう」
「師匠・・・・絶対にレインド殿下をお守りしてオルフィリスにお連れします!」
「ああ、鍛錬もレインドと一緒に忘れないようにな」
「はい!」
「それとだ」
懐から結構な額のお金が入った財布をヨシツネに投げ渡す。
「よっと、これ重いな」
「その金で今日はナデシコと外で飯でも食ってこい」
「え???な、なんでナデシコと・・・」
そう答えるヨシツネの顔は真っ赤だった。
「人は他人のほうが良く見えるってことだ、刀の自慢はほどほどにしとけよ」
「師匠ありがとう!行ってくる!!」
若いってのはいいもんだな・・・・まあ俺もまだ若いけどさ・・・
がらにもなく、師匠らしいことをしてしまったのにやや照れを感じつつ帰宅したところ、中では軽食を準備しているサリサさんがいた。
「ただいま戻りました、サリサさん連絡が遅くなってしまい申し訳ありません」
「いえ、街の様子を見て大体のところは察しました」
「サクラは姫がお古の防寒着をあげるからと今日はあっちで夕食をとるそうです」
「そうでしたか、軽く食べられるものにしておいて正解でしたね」
なんとまあ気の利く女性であろう。
「助かります、それと私たちはしばらくこの家を離れることになりました。サリサさんには本当にお世話になってしまい」
「あら、どちらに行かれるのですか?」
「それが・・・・」
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「なるほど、それで防寒着なんですね・・・・・・真九郎様、少しだけ自宅に戻ってもよろしいですか?」
「今日は書き物を少々するぐらいしか用事がないので、帰って大丈夫ですよ」
「いえ、ちょっと自宅から取ってきたい物がありますので」
「はい、ではいってらっしゃい」
「すぐ戻りますわ」
サリサさんにしては慌てて出て行ったが、今は早めに食事を済ませてしまおう。
今日は真九郎が好きな、芋を練りこんだパンに野菜と白身魚のフライを挟んだものだ。
魚や野菜にかかっているソースが、どことなく八丁味噌を連想させる風味がするためサリサが作る料理の中でも一番の好物であった。
行儀が悪いと母上に怒られそうだと頭をよぎりつつも、それが遠い昔のことなだと言い聞かせフライのサンドを頬張りながらあれこれ準備を始める。
これからヨシツネとレインドに必要になるであろう、剣術の型や心得、そして師匠として伝えておきたい助言などをまとめる予定である。
エルナバーグに来てから仕入れた黒インクと筆を使い、白紙の書に以前から書き溜めていた内容を含め二人に渡す内容を記述していく。
すると息を切らせてサリサさんが戻ってきた。
「お、遅くなりました~」
「おかえりなさい、そんな急いでどうしたのですか?」
「いえ、あの・・・・シルメリアさんがいるのに勝手に渡してしまっては申し訳ないかとも思ったのですが・・・・」
サリサさんが抱えた包みから取り出したのは真新しい袴下と馬乗袴だった。
一張羅が痛んでいたのを何回か直してもらったことがあったのだ、それを見て作ってくれたのだろうか・・・・・
馬乗袴は無地の紺で真九郎の着ていた物とほぼ一緒の寸法である。
袴下は焼緑青色の落ち着いた濃緑系であり布地も暖かそうな手触りにサリサさんの優しさがこもっているようであった。
「これはなんと良い物を・・・・」
「気に入っていただけましたか???よかった、真九郎様は洗濯中などはローブ着てましたでしょ?なんだか着にくそうにしていたのがひどく気の毒で」
「サリサさんのお気遣いありがたく頂戴いたします」
「やめてください、勝手にやったことです・・・・・着てみてくれますね?」
「はい」
奥でさっそく着替え始めるが、サリサさんはなんとなく江戸の女性に似た気質があるように感じる。
着てみて感じるのはひどくしっくりくる、初めて着物を作ったとは思えない・・・・
「うむ、前よりも着やすい・・・・これはいいですね」
「さすがお似合いになっております、これは複製呪文という日常品の複製が得意な希少呪文の使い手が知り合いにいるのです」
「そんな便利なものがあるんですね」
「ええ、そこで布など指定して出来上がった物を私が少し手直ししただけなんです」
「そうでしたか、あいつらもね欲しがっていたからいずれ複製を依頼してみましょう」
「もう、真似っ子なんですね、うふふふ・・・・・遅くなっても構いません、必ず無事で帰ってきてくださいね」
「はい、必ず」
感謝をこめて一礼すると、サリサも女性らしい一礼で返礼した。
出発前日、真九郎はジングの元へ現状で完成している予定の武器の受け取りに来ていた。
しかし、応対に出た弟子によるとまだ古代遺跡の研究室から戻っていないという。
何やら閃いたことがあったらしく、飛び出して行ったきり戻ってないのだそうだ。
困ったな・・・・古代遺跡の大トンネルと研究室の距離が近ければ立ち寄れるのだが・・・
弟子の若いドワーフはどうしたらよいやら困っている。
「そなたはジング殿が仕事をしている研究室の場所は知っているのか?」
「はい、何度か届け物をしています」
真九郎は財布からリシュメア銀貨を5枚ほど若いに弟子に握らせると
「すまぬが、今からジング殿に言伝を頼めないだろうか・・・少ないが手間賃として受けとってくれ」
「こ、こんなにもらえないですよ!」
銀貨10枚で金貨1枚 金貨一枚の貨幣換算は 約1両に相当する。銀貨5枚はおよそ5万円ほどの価値になるだろう。
職人の弟子たちの稼ぎからすれば破格の手間賃であったが、それだけ重要な用件でもあったのだ。
「いや受けとってもらう、それだけ重要な言伝なのだ、馬屋で私からの指示だと言えば馬車を出してもらえるだろう」
「は、はい、いってきます! それで言伝とは?」
「あさっての夜に私たちは古代遺跡の大トンネル前に到着する予定だ、そこで鬼凛組の武器を受け取りたい、と伝えてほしい」
「分かりました、あれのことですね・・・・・あの真九郎さん・・・・」
「どうしたのだ?」
「あれを使う時がきちゃったってことですか???」
「いや念のためだ、まだ決まった訳ではないから安心しなさい」
「分かりました、じゃあ準備済ませてから行って来ます!」
「忙しいところをすまないな、あと手間賃の他に経費だ、ここにおいておくぞ」
と有無を言わさず机にリシュメア金貨を一枚置き工房を後にした。
各々が準備に夢中だった頃、シルメリアが1人で訪れていたのはエルナバーグで一番の杖職人として有名なムレンダ翁の工房だった。
「ニーサさんの紹介で来たシルメリアと申します」
「ああ、聞いてるよ」
ムレンダ翁は気難しいとは聞いていたが会ってみると人当たりは良さそうに見える。
工房内の椅子を案内したムレンダは手持ちの短杖でお茶を準備する呪文を唱え、シルメリアに向き合った。
かちゃかちゃと呪文によってお茶が準備されていく中、ムレンダ翁は緊張するシルメリアの瞳を覗き込む。
「・・・・・・・・・・」
「嬢ちゃん・・・・・・魔法力が強すぎて適合する杖がなくて困ってるってことでいいのかのう?」
「さすがですムレンダ様」
「様はよしてくれ、ここまでの魔法力を持つ人は会ったことがない。そりゃ普通の杖使ってたら発動速度が遅延し出力も抑えられてしまうだろうな」
「はい、だましだまし使っていたのですが、今の杖では限界のようで」
「むう、この杖は芯核が焼ききれる寸前だのう」
シルメリアの短杖を鑑定していたムレンダ翁は呆れ気味に呟いた。
しばらく無言で考え込んでいた翁は、ついっと店の奥に消えるとガサゴソと探し物を始める。
お茶を頂きつつも、今回の旅は、先日の逃走劇を越える試練になるかもしれないという予感がひしひしと沸き募っていた。
「よし、これかのう」
ムレンダ翁は手に10本ばかりの短杖を抱えながら現れた。
質の良い長杖ならば発動に耐えられるかもしれない、と考えていた彼女は少し落胆する。
「これから握ってみなされ」
握らされた短杖は以前のものよりもさらに短く、出力自体に不安を感じるものばかりであった。
一本だけ今の短杖と同等の性能を持つであろう、銀水晶と幻竜樹の枝で作られた短杖があったことが救いだった。
銀水晶の短杖以外は、出力不足のより短い短杖が9本、さらにその中で3本は出力に問題ありと外された。
「んほほほふふふぅ・・・・一体どうなってるのだって顔をしとるな、まあ当然じゃが」
「その銀水晶の杖は見事な出来と思います、ですが他の短杖は出力的に・・・」
「そうじゃろうそうじゃろう、それでいいのだ」
「え?」
「爺が前から研究しておった秘術とでも言うべきものだがな、魔法力が少なすぎて無理じゃったがお前さんなら出来ると期待しておるんじゃがな・・・?」
「秘術・・・ですか?」
「今から、この6本の杖に細工をするから待っておれ」
ムレンダ翁は手馴れた手つき6本の杖を並べ妙な呪文やら細工を始める。
大丈夫かな?と思いつつ、実はこの銀水晶の杖に心を奪われかけていたのだった。
王都の貴族御用達の専門店でもこれほどの杖にめぐり合うことはない。
銀水晶の輝きが自分の銀髪とおそろいのようで、うっとりと眺めていた。魔法力や念の相性もばっちりのようだ。
「よし、出来たぞ」
「あの、ムレンダさん、お話がまった見えないのですが」
「よいよい、ではいくぞ」
『「シュバイル!』
ムレンダ翁の発動呪文に合わせて6本の杖が起動、翁の左右に3本ずつが浮き中央の杖とも連動しているかのような魔法力の動きを見せている。
「ふう・・・・わしではこれが限界じゃ」
すぐに銀水晶と6本の杖を連動させるべく、ムレンダはシルメリアから血を杖にたらすように指示された。
この儀式は200年以上昔に行われていた杖との親和性を深めるものであったが、最近では省略されることがほとんである。
シルメリアの血を吸い込んだ杖が自分の魔法力や念と接続されていくのを感じる。
「やってみなさい」
すーーっと息を吐き集中すると発動呪文に念を練りこんだ。
『シュバイル!』
ヴォン!!・・!パチパチ・・・ゴオーーーー!
周囲のオルナが反応しすさまじく純粋な魔法力が生成されている。
「うお、これほどとは!!!」
彼女の意思で自在に宙を移動し、一本一本を起点に呪文の発動が出来ることが直感で伝わる。
工房を荒らしてしまっても問題なので、すぐに接続を切ると杖はすーっとシルメリアの手に戻ったのだった。
「ムレンダさん、これは素晴らしいです!」
「わしがぁ杖職人をやってきたのは、この日のためにあったのだとはっきり分かった・・・・・・シルメリアさんこの杖を受け取っておくれ」
「ムレンダさんの思い、大事に・・・・この杖でレインド殿下をお守りいたします」
「ようしこの杖をいっぱい使う術法にさらに適した杖作ったるど!!」
「あの 杖をいっぱい使う術法 というのが正式な杖呪操法の名称なんですか?」
「名称なんぞどうでもいいわい、お前さんが好きにつけてくれてよいぞい。そうじゃ!! 出発は明後日の早朝じゃな?」
「はい、そうですが」
「なら明日の夜、6本の杖受け取りにきなさい、今日はその銀水晶の杖だけじゃ」
「はい分かりました」
「待っておれ・・・・ぐふふふふ・・・・・」
何か嫌な予感を感じつつも、銀水晶の杖で満足したシルメリアは工房を後にしたのだった。
2018/7/24 誤字・誤植 一部表現訂正




