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女神の名のもとに  作者: Sonne Story teller
序説 作品のテーマ
2/2

利用された神格

 縦横比約3:4の広大な土地の覇権を争う戦いが起こったのは3年ほど前だ――紫煙をくゆらせながら白衣の男性はそう沈思した。彼は病院に送られてくる傷病者を治療する医者だ。やや長めの黒髪にシルバーのハーフフレームメガネ。身長は176cmほどで、白衣の下に着るワイシャツのポケットにはマルボロとジッポが入っている。スラックスをウエストの位置でベルト締めしてあり、そのラインからやや細めの中肉であることが分かる。

 名を神崎徹。凄腕の外科医であり、軍医として徴用された。彼の仕事は救命救急から病床上の経過観察まで幅広い。内科は専門外なんだがなとか言いながらも的確な診察を行い、患者からの信頼が厚い。しかしながら飛び出る杭を打とうとする者もいる。同業者からは妬み恨みを買い、根も葉もないうわさを流されることも多かった。しかしながら、そんなもの程度では築いた信頼を揺るがすに至らなかった。というよりかは、彼に勝る医師が存在しなかったというほうが正しいだろう。

 そんな彼には姉がいた。宗教に身を投げ出している彼女は日ごろより、この戦いの行く末を憂いながら静観していた。軍医として徴用された弟の安否を気遣い、宗教上、人道上では罪深い争いの行く末を。もう3年ほどドンパチしており、どこそこの息子が死んだ、どこそこの子女がさらわれた、どこそこで略奪が起こった、など憂いの種が次から次へと舞い込んでくる。

「徹……どうか無事で……」

 その女性は女神像の前で跪き、両手を重ねて祈りを重ねていた。自身の救い、そしてこの世の救いを求めて寝食忘れて祈りをささげていた。神崎初音、それが彼女の名前であった。黒いローブに身を包み、きれいな黒髪が重力に任せて美しく流れていた。顔のパーツは丹精に整っており、長いまつげがきれいに映える。

 さて、この女神像だが、かつての女傑ツカサ・アストライアをかたどったものだという。初音は24歳の妙齢であったが、彼女が生まれる前に活躍した人物で、連続した一連の戦い「保星戦争」の緒戦である会戦において特筆に価する活躍を見せた女性であった。そのことから戦いの女神として神格化され、いまや一大宗教として知らぬものはいないほどであった。ここまで短期間に勢力を拡大できたのは強大な後ろ盾と世論が後押ししたからだ。

 そして今、この神格が争いに利用されている。我こそがアストライア様の寵愛を受けたのだ、と自惚れた愚か者どもが他者を異端として排除しようとして起こったのだ。全くもって愚かとしか言いようがないが、歴史につづられた戦いはこうしたくだらない理由で起こっているのかもしれない。もっとも、この場合は当の本人たちも馬鹿げていると自覚できるレベルでくだらないのだが。

 女神の名の下に、血で血を洗い地を争う戦いが繰り広げられている。その事実が初音の信仰心に影を差した。女神様は誰も救えないのですか、何も変えられないのですか、静観なされているのですか、と。この疑問は何を言っているんだといえばそこまでであるが、もともとすがるものの少ない彼女にとっては目の前にある女神像こそがより所であった。

 キリスト教には七つの大罪というものが存在する。英語ではseven deadly sinsと綴られるこれは罪というよりか、それに導く可能性があると看做された感情や欲望のことを指し、日本カトリック教会では七つの罪源と訳される。superbia(傲慢)avaritia(強欲)invidia(嫉妬)ira(憤怒)luxuria(色欲)gula(暴食)pigritia(怠惰)の七つがあり、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』の煉獄篇においては、煉獄山の七つの冠で死者がこれらの罪を清めることになっている。

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