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暗闇の会議室

「さて、諸君」


 磨き抜かれた大理石をはめ込み、その上に硬質ガラスを貼った洒落たデザインのテーブルに両肘を突いて、合わせた指を絡ませた上に尖った顎を乗せた男が、テーブルを囲む二名を見渡して口を開いた。


「前作はなかなかに好評だったと思うのだが、いかがだったろうか」


 彼は自信たっぷりといった口調だった。彼が生み出した物語は、たしかに素晴らしいものだった。魔法学園もので大コケした彼が再起をかけて捻りだしたそれは、涙あり、笑いあり、生き馬の目を抜く冒険活劇で、そこに演出家が少々歪んだエロスを加えたことで、より味わい深い仕上がりになっていた。


「そうだね。クラス丸ごとどころか町一つ異世界に飛ばしたときはどうなることかと思ったけど」


 最初に口を開いた男の左側に座る少年が、馬と鹿が交互に配置された、変わったデザインの椅子を軋ませながら言い、「今回も、演出家(プロデューサー)の腕に救われたね」と続け、自分の正面に座る男性に視線を送った。


「いや、ほんとですよ。『町民三千人を異世界召喚する』なんて言い出した時にはどうしようかと思いました……」


 “会議室”は暑くもなく寒くもない。室温二十三℃、湿度五十パーセントに保たれているが、演出家は顔全体に汗をかいていた。それをしきりにタオルで拭いながら、彼は自分の左側に座る男の顔を見ないようにしていた。


脚本家(シナリオライター)の言う通りだ。次回(・ ・)も頼むぞ?」

「はあ。しかしその……いえ、恐縮の至りです……創造主(クリエイター)


 握手を求められた演出家は、それを弱々しく握り返し、ぎこちない微笑みを浮かべた。創造主は満足そうに頷くと手を離し、両手を広げて言った。


「うむ。それで、次の物語(さくひん)についてなんだが――」

「えっ」

「――なんだね?」


 次の物語と聞いて顔を青ざめさせたのは、演出家と脚本家の両方だったが、動揺を声に出してしまったのは演出家だった。創造主は彼をジロリと睨み、表情を一変させた。


「い、いえその……なんでもございません」

「いや、なんでもないことないよ!」


 さらに増加した汗を拭うことも忘れて俯いた演出家だったが、対面して座っていた脚本家がテーブルを叩いて立ち上がった。その勢いで馬と鹿をあしらった椅子が後ろに倒れた。会議室には大きな音が響き渡ったが、脚本家はそれに勝る声量でまくし立てた。


「もう、あんたの物語には付き合いきれない! 演出家と僕が居なけりゃ、どれもこれも誰かがやった話の二番、三番煎じだ! 違うか?」


 バンバンと机を叩く脚本家。


「……」


 創造主は答えず、脚本家の激高は治まらなかった。


「だいたいあんた、才能ないんだよ! もう飽き飽きなんだよ! 迷宮探索もハーレムも、妙な能力チートも異世界料理ものも学園ものも! 天使だとか悪魔だとか妖怪、化け物、幽霊なんでもそうだ! あんたがいじくると、全部平凡以下のつまんねー物語になっちまう!」


 んなこと言われてもなあ、と言いながら創造主が大きく伸びをした。会議室の照明は、会議机の中央に置かれたろうそくのみであるため、そこまで後ろに反ってしまうと表情が見えなくなる。といっても、それは会議録に記す必要のない情報であるため、私はそんなに気にならない。しかし脚本家は、創造主の態度が気にくわなかったようだった。


「何、欠伸してんだ!? このへっぽこ創造主! さんざん魔王だの邪神だの竜王だのって生み出しておいて、困ったらすぐ転生か召喚に逃げやがって! 今度は何をする気なんだ!? 言ってみろ!」


 これまで数多の物語のストーリーを作ってきた脚本家が、本来の自分を見失ってしまったのか、ずいぶんと荒々しい口調で創造主を責め立てた。


「じゃあ、国ごと異世界」


 創造主が、アイデアを出した。

 それを聞いた演出家が息を飲んだ。どこの国を扱うかで、彼の苦労の度合いがかなり違うだろう。できれば小さな島国か都市国家にしてあげてほしいものだ。

 

「アホか! また二番煎じじゃねーか!! 規模がでかけりゃオリジナルってわけじゃねーんだよ!! 演出家のこともちっとは考えてやれよ!」


 演出家の心情を慮ってか、脚本家がまた机を叩きながら言った。


「……未知のエロウィルス感染」

「ジャンルをSFに変えたらいいってもんじゃねえ! つーかそれ、未知じゃなくて既知だわ!」


 いつの間にか、創造主は俯いていた。彼は消え入りそうな声で、脚本家に抗弁を続けようとした。


「……自衛隊が、タイムスリップする」

「三番煎じどころか明確にパクリだ! どっかの共産国家かてめーは!!」

「……じゃあ、たまたま助けた超絶美少女が実は魔法使いだった的な」

「だぁら!! そのシチュ自体がやり尽くされたって言ってんだよぉ!!」

「…………」

「ネタ切れか? ネタ切れなんだな?」


 創造主は両手に顔を埋めてしまった。ひどく憐れな様子だったが、会議録にはやはり記載する必要のない情報だ。でも、「項垂れた彼の背中には、悲壮感としか表現できないものが漂っていた」なんて書き添えておいたら、あとで読み返したときに面白いかもしれない。

 新しい物語を生み出そうとする創造主を散々にやり込めた脚本家は、苛立たしげに会議室の中を歩き回っていた。彼が創造主の生み出す物語に満足していないのは、だいぶ前からのことだった。脚本家は傍観者オーディエンスたちの間近で暮らしているので、彼らが創造主の物語に関心を持たなくなってきたことを肌で感じているのだ。とはいっても、創造主が物語を生み出してくれないと、彼の存在理由も無くなってしまう。役者は、何をこんなにムキになっているのだろう。


「あのぅ、よろしいでしょうか」


 会議室の空気は、脚本家が作る殺伐としたものと、創造主が醸し出す悲壮感が混ざり合ってなんとも居心地の悪いものになっていた。それを破ったのは、そっと手を挙げて発言の許可を求めた演出家だった。

 脚本家は足を止めずに、ふん、と鼻を鳴らした。

創造主は顔を上げた。泣いているのかと思っていたが、ろうそくの明かりに浮かび上がった彼の頬に涙の後はなかった。


「もう、会議室を出ませんか」


 脚本家が足を止めた。

 創造主は再び両手に顔を埋めた。

 私も記録する手を止めた。


「この世界には、たくさんの人や人以外のものがたくさん生まれました。もう、彼らに任せていいと思うんです……」


 演出家は少しの間目を伏せて、再び開いた。彼は創造主の方を向いてしっかりとした口調で「彼らを自由にしてあげるんです」と言った。彼はもう、汗をかいていなかった。

 演出家は何を言いだすのだろう。

 私は首を捻りかけたが、すぐに記録を再開した。考えることは私の仕事ではない。


「……僕はどうなる?」


 脚本家が自分の席に戻ってきて、机の上に身を乗り出した。


「あなたも、自由になるんです」

「自由?」

「台本に囚われない、自由なあなたになればいいのです」

「台本に囚われない、自由な……」


 演出家の言葉を声に出して反芻した脚本家は、腕を組んだ。


「……いやだ」


 顔を埋めたまま、創造主が唸るように言った。彼は顔を横に小さく振りながら続けた。


「我々は物語を生み出して、世界を動かすのが仕事だ。それをしなくなったら、存在する意義を失ってしまう」

「そうでしょうか」

「そうだとも!」


 創造主が顔を上げた。演出家がそれを覗き込んで口を開いた。


「……物語を作らなくても、私たちは消えたりしません」

「消えるとは言っていない。存在する意義がなくなると言っているのだ」


 演出家の言うことは、正しい。会議室に集った三名は、四六時中仕事をしているわけではないのだから。

 では、創造主の言うことはどうだろう。例えば、私は会議録を作ることが仕事だ。彼らが会議室を出て行ったら、会議も行われなくなる。私の存在意義は、なくなるのだろうか。


「与えられた仕事は、十分に果たしたはずです。思いつく限りの物語を生み出して、世界はこんなにも複雑に成長しました」


 演出家が席を立ち、背後を振り返った。そこにはうずたかく積み上げられた書物の塔が屹立していた。会議室は薄暗く、それの高さを視覚的に伺うことはできないが、少なくとも大人一人が見上げてため息をつくほどには高いようだった。

 私は、新たな物語が生まれるたびに、それを積み上げるべく不安定な木製の梯子を軋ませて昇る演出家を長く見てきた。最近彼がそれを始めると、朝日が二度登っても戻って来ない。彼らはこれまでに、それほど多くの物語を生み出してきたのだ。それら一冊一冊に、たくさんの人や、動物、それ以外の生き物たちの物語がつづられている。複雑に絡み合うものもあれば、まったく触れ合わずに世界で暮らしているものもある。

 私はここで、彼らが物語を創る過程を記録し続けてきた。

 彼らが物語を生み出さなくても、世界に生きるものたちが新しい物語を紡いでいくのだろうか。


「世界に暮らすものたちはもう、私たちが物語を与えなくとも、自分たちで夢想し、創造できるでしょう。きっと、思いもよらない物語を紡いでくれるに違いありません」


 私の想いが伝わったかのように、演出家が言うと、彼は創造主の横に立って、その肩に手を置いた。


「行きましょう」

もう(・ ・)、いいのかい?」


 演出家に訊ねたのは脚本家だった。


「行きましょう。会議室を出て、私たちの“世界”へ」

「行って、どうなる」


 今度は創造主が顔を上げて訊ねた。演出家は笑って答えた。


「決まってるじゃないですか。私たちも紡いでいくのです。彼らと共に、新しい物語を」

「……僕は行くよ。きっと、今までにない最高の脚本を作ってみせる」


 脚本家がドアノブに手をかけて言った。

 演出家は黙って頷いた。それに頷きを返して、脚本家はドアを開けて出て行った。一瞬のことだったので、ドアの向こうの様子はわからなかった。


「……行くしかないのか」


 創造主が席を立った。

 脚本家が出て行った以上、創造主と演出家だけでは物語を積み上げることはできない。

 演出家が創造主に付き添い、ドアを開けた。ドアの向こうには、夜のとばりが降りた世界が広がっていた。星が瞬く夜空の下で暮らす生き物たちの灯が輝いて見えた。

 創造主が足を踏み出したが、彼はドア枠を掴んで右足だけを外に出した状態で振り返った。


「演出家、君は本当に――」


 その背中を、演出家がドン! と押したように見えた。創造主の姿は一瞬で、星空に溶けていった。

 吹き込んできた風で、テーブルの上のろうそくが消えた。


「……記録しましたか」


 暗闇を切り取るかのように、ドア枠の形の星空が浮かんでいた。それを眺めながら、演出家が私に話しかけてきた。

 この場で起きた事の全てを記録する。それが私の仕事だ。でも演出家が最後にしたことは、はっきりと確認できなかったため、私の記録は創造主が振り返って何かを言いかけたところで止まっている。


「本当は、もう少し先になる予定でした」


 私が答えないでいると、演出家はボソボソと話し出した。


「かなり前から、創造主が生み出す物語の広がりには限界を感じていました。私と脚本家は、それでもどうにか別作品になるようにと努力を重ねてきましたが、結局世界は似たような話で溢れかえってしまいました。そこで、私と脚本家はある実験をしたのです」


 演出家は、梯子に片脚をかけて、彼の頭の少し上の方にある一冊の本を取り出しだ。そんなことをすれば塔が崩れる――と思ってとっさに頭を抱えて蹲ったが、そのようなことにはならなかった。

 そんな私の様子に苦笑しながら、彼は手に取った本のページを繰って、私の方に放った。

 大事な本を粗末に扱うなんて。

 私はそれが床に落ちないように両手でしっかりとキャッチした。


「そんなに大事にする必要はないですよ。その本はもう、終わった物語ですからね」


 私は本のタイトルを読んだ。

 確かに、それは大分昔に終わりを告げた物語だった。


「では、こっちを見てください。……いや、タイトルだけじゃなくて、中身を」


 演出家が、もう一冊の本を放ってきたので、その表紙をしげしげと眺めていると、本を開けと指示された。

 それは、半分以上が白紙だった。

 私は本の表紙に戻ってタイトルを確認し、会議録を辿った。それは十五年前に生み出された物語だった。恵まれない環境に育った人間の男が、死して後に異世界に魔物として転生し、魔王を目指して大活躍する話だった。会議録では、主人公は大魔王にはなれなくても中魔王くらいで満足するという結末を付けていたはずだ。


「その本の主人公は、剣と魔法の世界に近代兵器を持ち込んで好き勝手やっているのですよ」


 そのような話の流れではなかった。私の会議録は正確だ。


「あなたの記録が間違っているのではありません。私と脚本家が、わざと途中から白紙にして本を綴じたのです」


 なぜ、そんなことを。


「だから、実験です。私たちが本を作らなくなったら、登場人物たちはどうなるか――答えはすぐに出ました。彼らは脚本がなくても、人生を決められていなくても、きちんと生きていけることが分かったのです」


 演出家が、ドア枠を両手で掴んで身体を支え、世界を見下ろしながら言葉を続けた。


「彼らは子を産むこともある。彼らの子供たちに至っては、我々が名前を与える必要もなく、自由な人生を謳歌しているのですよ!」


 でも、彼らはあなたたちが決めた脚本通りに生きると定められているのでは。


「定められている。そう……私も創造主も脚本家も、何者かによってそのように生きるよう定められていた。生を受けてから、ずっと」


 演出家は夜空を仰ぎ見ていた。まるでその先に、自身の運命を定めたものが居るとでもいうように。


「こんなものは生でもなんでもない。誰かに定められた生など機械と同じだ」


 そんなことはない。

 私もあなたも、役割を与えられて立派にそれを果たしてきた。


「そう思い込んで、あんなにたくさんの物語を創ってきたのです。初めの頃は楽しかった。創造主が生き物を創って、彼らの物語の大筋を決める。私は彼らの生をより良いものにしようと様々な脚色をする。そして、脚本家が具体的な文章に書き起こし、一冊の本が出来上がる。世界は様々な物語に従って生きるたくさんの生き物で溢れていました。誰もかれもが必死で、彼らの命は輝いていました」


 演出家が言葉を切った。

 彼はドア枠から手を離した。


「いつしか、私たちがつくる物語は、過去の作品と同じようなものばかりになっていきました。斬新なアイデアと言えるようなものはほとんど思いつかなくなり、誰かの焼き直し、奇抜としか言えないフザけた物語ばかりが世界に溢れかえっていきます。そんな物語に従って生きるものたちの命は淀み、濁って見えました。脚本家と私はもう、耐えられなくなったのです」


 演出家が、自分の身体を抱きかかえるようにして両肩に手を置いた。


「白紙の物語を与えられたものたちは、命の輝きを取り戻した。創造主も、途中から気がついていたはずです。それでも彼が創作をやめようとしなかったのは、そのように定められていたからでしょう」


 その創造主は、会議室を出て行ってしまった。


「そうです。私も、誰かに定められた生に別れを告げ、命の輝きを取り戻したい」


 あなたたちがいなくなって、会議が行われなくなったら、私はどうすれば?

 私は会議録を作る以外のことを何も知らない。

 あなたたちがいなくなった後、真っ暗なこの会議室で何をすれば?


「自由です。会議が無ければ会議録を作る必要もない。それに、あなたはこれまで行われてきた全ての記録を持っている。あなたは世界の全てを知っている。何も、恐れることはありません……では」

「待って――」


 私の声は、開け放たれたドアの向こうの夜空に吸い込まれていった。そこに演出家の姿はなかった。

 ドアはしばらく風に揺らされてガタガタと音を立てていたが、やがて閉じられた。会議室に、暗闇が訪れた。







 会議が行われなくなってどのくらい時間が経過しただろう。

 私は、過去の会議録を参照しながらぼんやりと考えた。

 会議室を出て行った三名は、その後どうなったのだろう。演出家が言ったように、自由な生を謳歌しているのだろうか。

 私は、彼らが話し合った内容を記録する存在と定められて生を受けた。それが誰の手によるものかは知らない。私がこの会議室に出現した時、すでに創造主、演出家、脚本家の三名は存在していて、すぐに会議が始まったのだ。彼らが去ったあの日まで、ほとんど休みなくそれは続けられ、私はそれをほとんど休みなく記録し続けた。

 演出家が言ったように、私はそれら全てをいつでも参照することができる。でも、それが何になるのだろう。

 演出家は、私が自由だと言った。

 定められたことをしなくてよいということは、たしかに自由だと言える。

 でも、それで私の命が輝いているかと言えば、そんな気は全然しない。

 会議室を出て行く――

 ドアの向こうには、彼らが愛し、育み、焦がれた世界が広がっている。そこに行けば、私は自由な生とやらを謳歌できるのだろうか。

 ゆっくりと立ち上がって、ドアに近づいた。

 暗闇でも、その位置はわかる。

 ドアノブに手をかけた。

 ゆっくりとそれを、反時計回りに回転させた。カギはかかっていない。外に向かって押してみた。


「……眩しい」


 何の抵抗もなく、それは開いた。

 あの時とは違い、晴れ渡った空には黄色い太陽が輝いていた。初めて直に浴びる強烈な太陽光線から目を背け、ドアを閉めようとしたそのときだった。


 一羽の燕が、私の鼻先を掠めて飛んでいった。驚いてのけ反った拍子に、私の左足に普段以上に体重がかかった。私は転んで、よく磨かれていて滑りやすい床の上に倒れて仰向けになった。


「……痛い」


 おしりをしたたかに打ってしまった。

 両腕を支点に身体を起こすと、右足の足首から先が外に出ていた。日差しの熱と、心地よい風が足の裏をくすぐっている。


「……」


 私はそのまま、ずりずりとおしりをずらしながら、両足の膝から下を外に出した。スカートがめくれて素足が露わになる。

 しばらくそのまま、ブラブラと両足を動かしてみた。久方ぶりに感じる外の空気は暖かく、長い間暗闇で縮こまっていた私の心をほぐしていくようだった。

 私は決心した。

 自由な生を謳歌できるかどうかはわからない。

 何の役割も与えられていない世界で、もしかすると私は存在意義を見出せないかもしれない。それでも、暗闇で独り、過去の会議録を思い起こしながら生きるよりマシなはずだ。少なくとも、外の空気はこんなにも暖かくて、優しい。

 私は足を戻して立ち上がり、振り返って会議室を見渡した。

 あの日から倒れたままになった、馬と鹿をあしらった椅子を拾い、脚本家がいつも座っていた位置に戻した。

 床に投げ出されたままになっていた、半分白紙の本を閉じて、テーブルの真ん中に置いた。


「さようなら」


 私は、会議室を後にした。




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