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Once Upon a Time  作者: 日ノ原コタ
2/2

日常

 俺が自分のクラスの教室に着いたのは一時間目が終わってすぐだった。

 何度目かの遅刻をしたことで生活指導の教師にこってり絞られた俺はげんなりし、教室の前で立ちつくしていた。

 いや、別に生活指導の教師に絞られたから立ちつくしてるわけじゃない。

 この教室に入った時のことを考えてげんなりし、扉を開ける事をためらって立ちつくしているのだ。

 きっとこの教室に入れば”あいつ”がいるはずだ。

 俺が遅刻をすると決まって”あいつ”は俺に何かとかまってくる。

 学級委員という役職上、遅刻常習犯の俺を見過ごせないのは分かる。

 が、だからと言って毎回毎回何か言いに来るなんて少し異常なんじゃないかと思う。

 まぁ、おそらくはこれしかやる仕事がなく暇なんだろうが。

 これを本人に言ったら怒られそうだな。

 俺は意を決して、教室の後ろの扉をそーっと開き中へ入る。

 そして、そのまま自分の席へできるだけ目立たないように向かう。

 幸い、今は休み時間中なので教室にいる連中はお互いのお喋りに夢中だ。

 誰も俺を気にとめることなく、さながら空気のようだ。

 おかげで誰にも気付かれることもなく自分の席まで行くことができた。

 なんかそれもそれで悲しい気がするけど……。


「成瀬くーん、おはよう」


 突然、後ろから名前を呼ばれたので驚く。”あいつ”だ。

 恐る恐る振り返る。


「槙田……」


 俺は背後に立っていた人物の名前を告げる。

 槙田水緒、何かと世話を焼いてくる学級委員だ。

 緩くウェーブのかかった肩までの明るい茶髪・短いスカート・胸元のボタンをいくつか外して着崩しているといった、いかにも今風なギャルという外見の女子生徒なのだが、なぜかそ外見とは真反対の学級委員を務めている珍しい奴だ。


「おはよう。な、何か用か?」


 俺は動揺しながらも極めて冷静に話す。


「ううん、用ってほどじゃないんだけど聞きたいことがあってー……」


 そう言って笑顔で俺との距離を詰め、肩に右手を置く。

 その右手には何故かすごく力が入っていて、肩が痛い。

 しかも、目が全然笑ってないからかなり怖い。


「な、何だよ……?」

「だったら、聞くけどー……」


 その瞬間、肩に置かれていた右手は離れ、代わり俺の頭を槙田の右腕が抱え込み自身の左手と右手をつかみ締め上げる、要は気が付けばヘッドロックをされていた。


「一体、何回遅刻すれば気が済むの!!」

「痛い痛い痛い痛い痛い、痛い!」


 こいつはこれだから嫌なんだ。

 遅刻した程度で毎回この仕打ちだ。

 女子なんだからもうちょっとお淑やかにできねーのか!


「痛いじゃない、質問の答えを言え!」

「だったら、少し力を緩めてくれ! 痛すぎて話せない!」


 そう言うと、槙田は少し力を緩める。

 これで幾分かはマシになったが、依然として俺の頭はヘッドロックされたままだ。


「それじゃあ、質問の答えを聞こっか」

「このままで?」

「そのままで」


 何とかヘッドロックを外してもらおうとしたが、無理っぽいので諦めて言われたとおりこのままで話そう。


「別に気が済む済まないで遅刻してるわけじゃない。ただ、朝が弱いから寝坊するんだよ。俺だって遅刻しないようにする意志はある! でも、起きられないんじゃ仕方ないだろ!」

「開き直るな!!!」


 そう言って、また締め上げられる。


「痛い痛い痛い痛い痛い、痛い!」


 何これ、本当に痛い!

 こんな技作った奴を俺は恨む。


「それに起きれないなら、いつも言ってるけど目覚まし時計いくつもセットするとか、親に頼むとかしなって」

「いつも言ってるが、面倒くさいから嫌だ!」

「あんたはいつもいつもそう言ってぇぇぇぇ!!!!」


 もう一度締め上げられる。

 

「痛い痛い痛い痛い、ごめんなさい、ごめんなさい! 次からそうするように努力はするから! お願いだからこれ以上締めないで!」


 痛みが限界だったので、懇願する。


「本当に?」

「本当に!」


 まぁ、これはここから逃れるための嘘なわけだが、それを見透かしたように槙田はこちらを見つめる。

 思わず視線を逸らしてしまう。


「はぁ……、まぁいっか。多分嘘だと思うけど、解放してあげる」


 嘘だと思ってるのに解放してくれるとか、槙田さん良い人!

 実際は何回も同じことをやってるから諦められてるだけだと思うけど。

 何とか解放してもらった俺は、痛む側頭部をさすり自分の席に戻る。


「それで今日は何で遅刻したの?」

「……例によって例のごとく寝坊です」


 さっきのヘッドロックの恐怖からか何故か敬語になる俺。

 もう俺の心はボロボロです。


「はぁ……。昨日もそうだったよね? 何でそんなに起きれないの?」

「多分、夏休みにそんなに早く起きることがなかったからだと思います」

「敬語やめろし」


 注意されてしまった。

 仕方ないので俺も注意して敬語を止めよう。


「夏休み結構ダラダラした生活してたから、戻るのはもう少しかかると思う」

「そっか……。なら、朝あたしが迎えに行って起こしてあげてもいいけど……?」

「それだけは勘弁してください!!!」


 なに顔赤らめて恐ろしい提案してんだよ。

 思わず敬語に戻っちゃっただろ。


「そんな拒否らなくても……」

「いや、本当にそれだけはやめてくれ。恥ずかしすぎて遅刻どころか不登校になる」

「だったら、遅刻しないことね」

「善処します……」


 過去、善処するって言って善処した人なんてほとんどいないだろうけど。

このあとまだ続きます!

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