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それぞれの正体――そして、1番のスケープゴートは……?


「おい! あの奇怪な模様の正体が分かったぞ!」


 あの事件が解決した次の日、突然アルが本を片手に騒ぎ出した。


 ちなみに、あの事件の後、高杉の特製ハーブにより、最上は眠れるようになったらしい。それから、もう1つ――いや、2つ良い知らせがある。なんと、最上の母親がアメリカで治療を受けられる事になったのだ。それに合わせ、最上のアメリカ留学も決定したらしい。


(なんか、急にとんとん拍子に話が進んだんだよね)


 僕がしみじみとそんな事を思っていると、アルの声がリビングに反響した。


「おい! 鳴海! 聞いているのか!」


「そんなに大声で言わなくても聞こえてるって!」


「じゃあ、これを見ろ! 木の幹に刻まれていたモノと酷似しているだろう?」


 本をずいっと近づけられ、僕は若干のけぞる。


「ああ、そういえば卒業生の植えた木に描かれてたね」


 本の奇怪な模様は、大学に着いてすぐに見つけたものと同じように見えた。


「これはな、悪魔界と人間界を繋ぐ為に用いる魔方陣だ。まあ、主に上級悪魔が使う代物だがな!」


「それなら、学校内に上級悪魔がいたってこと?」


 アヤカシなら日常的に見ている僕だが、悪魔の実物は見たことがないので、少しだけ興味が湧いた。


「上級悪魔に良い思い出はないが、案外近くにいたのかもしれないな!!」


「ええ、それなら、会ってみたかったなあ」


「悪魔だぞ! しかも上級の!! アイツらと関わるとろくなことがないから、そんなことを気軽にいうな!!! 奴が現れたらどうする!?」


「ああ、はいはい、僕が悪かったから。そんなに耳元で大声出さないでよ」


(アルがこんなに取り乱すなんて――いったい上級悪魔と何があったんだろう?)


「あ……これ…………」


「どうしたの、レイ? えっと……アヤカシ通信??」


 レイが開いたページには、悪魔界における美術品コレクターの特集がデカデカと取り上げられていた。


「ここ……見て」


「写真? 悪魔で美術品コレクターの?」


 写真の悪魔は、赤に近い髪色で、その隙間から翼の様にふさふさの黒い垂れ耳がひょっこりとのぞいていた。高級そうな黒いスーツをスマートに着こなし、背中にある黒い翼を綺麗に折り畳んで椅子に腰掛けるその姿は、まさに雑誌に書かれている二つ名――『黒い鶴』のように優雅だった。


「この写真がどうかし――――あれ、ちょっと待って、これって、あ、れ? も、ももももしかして!!! こ、これって……田辺先生!?」


「うん……たぶん」


「あ、悪魔だったの!? それに、雑誌に載るくらい有名な!? ど、どうしよう! 僕、サインもらいたかった!!」


「サインなど、私がいくらでも書いてやるぞ!!!」


 すかさず油性ペンを出してきて、僕の身体にサインを書こうとするアルの申し出を全力で断り、僕は改めて記事に目を通した。


「えっと……本当の名前は――ナベリウスっていうんだ。ん? ナベリウス……?」


 雑誌中に掲載されている名前を見て、僕は首をひねる。


(なんか、どこかで聞いた気が――)


「おお! 最上が呼び出そうとした悪魔と同じだな!」


 アルの言葉で、全てが繋がる。


「ああ、そっか! だから田辺先生はあの時、あんなに速く行動したんだ!」


 そう、あの悪魔召喚の際、最上がうっかり召喚に成功していたら、僕らの前に現れる悪魔は田辺という、非常にシュールな光景が完成してしまう。


「ちょっと! 皆、見て! 七不思議の絵画が!」


 突然、奈央がスマホを片手にリビングへとなだれ込んできた。僕はその言葉に引っ掛かりを覚える。


「七不思議? あれは全部解決したはずじゃ……」


「ボクもすっかり忘れてたんだけど、よく数えてみて! まだ六つしか解決してないから!」


 奈央の言葉に、思わず考えを巡らす。


(あれ? そうだっけ? ええと、まず屋上の――)


「お、おい! この絵画の写真は何だ!」


 僕の思考を遮り、アルが上ずった声を上げた。その言葉に、奈央が反応する。


「『未知』って絵画だよ。覚えてない? これは、『絵画の中の少女』っていう怪談で有名な絵で、人が通ると勝手につく廊下の電灯は、この子の仕業だと……」


 奈央の言葉に、僕は驚きを隠せなかった。


「電灯? あそこの電灯って、現代科学の何とかセンサーで点いてたんじゃないの?」


「あそこの校舎の古さ見たでしょ? そんなの備え付けるくらいなら、まずは外観を綺麗に……ん? アル?」


 奈央が、顔面蒼白(まあ、いつもそんなに顔色は良くないが)のアルの名を気遣うように呼ぶ。


「な、なぜ紅が描かれているんだ? まさか……」


「もしかして、紅さんに会ったの!」


 奈央の言葉に、アルがピクリと肩を震わせる。


「ああ、もしかして、前の絵だと古ぼけてて分かりづらかったのかな? なんかよく分かんないんだけど、突然、こんなに綺麗になっちゃったんだって!」


 興奮気味に話す奈央の言葉に、僕は思わず首をひねる。


「突然? でも、あれは二重構成の作品で――」


「あれ? 瑠美奈ちゃんからメールだ! 何々……拝啓、いかがお過ごしでしょうか。昨日の今日ですがこちらは全てが円滑に収まりました。最上さんはもちろんの事、小瀬さんと橘さんは、元々両想いだったらしく、めでたく恋人同士になったようです」


(あ、両想いだったんだ……良かった)


 絵画の話は気になったが、思わず小瀬さんの片思いが報われた事に安堵する。


(自らスケープゴートになっちゃうくらい橘さんの事を想っていたもんね。あれ? そういえば……)


 小瀬の想いは最後バレバレだったが、橘はどうだったのだろうかという疑問に至り、最初に出会った時の事を思い出した。


(そういえば、橘さんが持ってたアロマテラピーの資料……。もしかして、あれは小瀬さんと会話する為の糸口を見つける為に……)


 そんな考えに至り、思わず苦笑が漏れる。そう考えると、橘の反応や行動の意味が理解できた。


(なんだ、そういう事だったんだ……)


 胸の突っかかりが取れ、スッキリした気分でいると、奈央の硬い声が聞こえてきた。


(あ、まずい、そういえば高杉さんのメールの内容、どうなったんだろう?)


 僕は再び高杉のメールの内容へと意識を戻した。


「それから、もう気付いているかもしれませんが、田辺先生はあの絵画と共に姿を消し……」


 奈央の声がどんどん小さくなり、驚きに見開かれた。


「つきましては、お連れの妖狐様とヴァンパイア様、イエティ(雪男)様にも感謝の念を示しておきたいと……。東方の魔女こと、ウィッカン、高杉瑠美奈より」


「魔女? ウィッカン? え? ……高杉さんが!」


 ハロウィンのレイの仮装は、ミイラ男だったような……などと考えていたら、少し反応が遅れてしまった。


 よくよく考えてみると、確かに思い当たる節はあった。ハーブの効能に詳しい事や、あの匂い袋……。


(アルが触った時もだし、魔法陣の時も――)


「おい! それよりも絵画だ!」


 アルの言葉に、今まで話の流れを見守っていたレイがおもむろに話し出す。


「多分、紅さんは……絵画の――」


「幽霊のはずはないぞ! 足はちゃんとあったのだからな!」


「アル、足がないのが幽霊って……日本だけ」


 取り乱したアルに対し、レイは的確な一言でトドメを刺したのだった。






 ☆ ☆ ☆






「お帰りなさいませ。わが主、ナベリウス様。今回も良き美術品を手に入れたようで……」


 闇に染まる悪魔界。その一画にある大きな屋敷の扉が開き、燕尾服を着た背の高い執事が恭しくお辞儀をする。その見た目は、真っ黒い犬そのもので、言葉を発する度に鋭い牙が覗く。


「おう! ラス! いつもご苦労さん。こいつの名は紅。今回入手した『未知』っていう絵画に宿った精霊の類だ。丁重にもてなせよ!」


 田辺隆介、もとい、ナベリウスが、隣の少女の肩に手を置きながら、大きな犬の執事へと話す。


「かしこまりました。紅様、私はグラシャラボラスと申します。以後、お見知りおきを……」


「グシャ……ボス?」


 名前が難しかったらしく、紅が困った顔をする。


「ラスで結構でございます。今、お茶の準備をいたします。何かご希望の物は?」


「紅茶とクッキーを頼む。お嬢さんは?」


「それじゃあ、同じ物で!」


 それぞれの返答を聞き、かしこまりましたと言う言葉を残し、ラスが闇の中へと消えていく。


「それにしても……今回は面白かったなあ」


 赤と黒を基調とした部屋に紅を通しながら、ナベリウスがクックッと小さく笑う。


「フフッ! それ、アル達の事でしょ?」


 テーブルを挟んでお互いに向かい合うように腰を掛けながら、紅が楽しそうに言う。高貴な雰囲気の客間には、いつの間にか紅茶と香ばしいクッキーの香りが漂っていて、ラスが給仕をしていた。


「ああ。わざわざこんな姿で人間界に行ったかいがあったよ。それに、お嬢さんにも出会えたしね」


 人懐っこく笑いながら、ナベリウスが紅茶に口を付ける。


「ありがとう。そう言われると嬉しいな! でも、田辺先生には驚かされっぱなし! 悪魔なのに、最上さんに海外へ行くチャンスを与えちゃうなんて!」


 おいしそうにクッキーを頬張りながら紅が言う。


「まあ、運送を手伝ってもらったお礼にね。俺は美術品を司る悪魔でもあるが、雄弁や愛嬌の才を与える悪魔でもあるからなあ。一度落ちた尊厳や名誉を回復するチャンスを与えてやるのも良いかと思ってな」


 まあ、気まぐれだよと最後に付け足し、ナベリウスがクッキーを齧る。


「へぇ……あ! そうそう、約束! 忘れないでね!」


「もちろん。俺は律儀な悪魔だからな。約束、もとい、契約は簡単に破ったりしないから安心してくれ」


 いきなりの話の転換にも特に気分を害した様子はなく、ナベリウスがにこやかに答える。


「わー! 今から楽しみだな! 早くアルの所に連れて行ってね!」


 キャッキャッと楽しげに騒ぐ紅に、ナベリウスはニヤリと笑う。


「ああ。近いうちに……あいつらは面白いからな」






 ☆ ☆ ☆






その頃……


「のわああああぁぁぁ!!! さ、寒気が!! 鳥肌があああぁぁ!!! な、鳴海! 十字架だ!! 魔除けだ!!A」


 何かを感じ取ったらしいアルはとにかく騒いでいた。


「アル、落ち着いて! どっちもアルには毒だから!」


「では、どうしろというのだ! この私が取り憑かれたらどうするというのだ!」


 もちろん、ツッコミを入れてしまった僕は、この後アルが眠るまで付き合わされる事となったのだった。






(はあ、僕まで不眠症になりそう……というか、一番のスケープゴートはもしかして……僕?)






 こうして、鳴海の受難は続くのだった……



ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。


一生懸命ない頭をひねり、気力と根性だけでここまで書き上げました。

文章能力、表現能力の低さのせいで読みにくい作品だったかもしれませんが、楽しんでいただけたのならば幸いです。


また、作品への質問、意見、感想などがございましたら、どんな些細なことでもかまいませんので、教えて下さると嬉しいです。


まだ初心者であるため、至らぬ点が多々あるとは思いますが、今後も皆様の意見を参考にし、より一層精進していきたいと思っています。


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