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人ならざる者の影――その正体、私が見破ってやろう!!


「鳴海!? どどどどうしたの!? しっかりして!!! 鳴海? 鳴海!? 鳴海ぃぃぃぃっっっ!!!」


 木箱を開けた瞬間、いきなり倒れ込んできた鳴海を反射的に支えるが、ピクリとも動かなくなってしまった彼が心配で、涙目になりながら彼の名を連呼する。


「奈央、いったん落ち着け」


「これが落ち着いて居られるか!!!」


 アルに噛みつくような勢いで怒鳴るが、彼は紅い瞳を一度細め、私の肩に手を置いた。


「まず、レイに鳴海を診せてやれ。大丈夫だ」


「あ――」


 いつものアルからは想像できないほど冷静な声に、焦っていた心が少しだけ落ち着いた。


「奈央……鳴海の様子、診せて……」


「あ、うん……お、お願い!!」


「これ、は…………」


 人間であるボクが倒れるなら分かるが、妖狐である鳴海が倒れるなんて一大事だ。

 まだ完全にはパニック状態から抜け出せていないボクは、その言葉の続きを待つ間、気が気じゃなかった。


「寝てる……みたい」


 その言葉に、ボクは思わずポカンとレイを見返してしまう。


「ただ、寝てるだけ……害はない。奈央、鳴海をいったん、この部屋から外に……。アル、窓開けて換気して……」


 レイの指示に従い、ボクはとりあえず扉の外へと鳴海を運ぶ。アルの文句が聞こえたような気がするが、今はそれよりも鳴海の容体が気になる。もちろん、鳴海を運ぶ時は慎重にお姫様だっこで運んだ。


 床に横たえるのは気が引けたので、ボクのハンカチをレイから床に敷いて貰い、そこに座らせて壁にもたれかからせるように鳴海を降ろす。


「ただ――寝てるだけ?」


「うん。多分、箱に睡眠ガス……仕掛けられてた」


 ボクの呟きにレイが応える。


「しかも、時が経ってこの威力なら、相当強力……。多分、この匂い的に……」


そう言いながら、レイが考え込むように目をつむる。


「ハーブやアロマに詳しい人が作った……? まあ、鳴海はこういう類の免疫、人間よりも低いし……仕方ない」


 レイの気遣うような言葉に、鳴海の体質を思い出す。元々野良狐だった鳴海は、薬なんかを摂取しないで生活してきたらしい。だから、一般的な人間よりも薬関係の免疫力が低いというのも頷ける。


「あれ――? その理論なら、なんでレイやアルは大丈夫なの?」


 鳴海がそうなのだから、当然後の二人もそうなのだと思っていたのに、二人はピンピンしている。


「鳴海とは、在り方が違うから……」


 レイが呟くように言うと、部屋からアルが出てきた。


「鳴海は長年生きた末に妖怪へとなった成り上がりで、私達は生粋の妖怪から生まれたブランド品だからだ」


 まあ、レイは半分人間だがという後付けを加えながらも、アルは説明を続ける。


「成り上がり組は、妖怪になる前の体質が顕著に表れやすいらしい。他にも妖怪には闇から直接生まれてくる類の奴らも存在するが――まあ、今は関係ないか。それよりも――鳴海が開けた木箱に入っていた物だ」


「ICレコーダー?」


 アルが差し出してきた二つの赤い小型機器をまじまじと見る。それらのうちの一つを取り、何気なく裏返すと、マジックで【実験】と書かれていた。


「おお! これには【花壇】と書いてあるな」


 残った一つを見ていたアルがそう言う。その時、うっかり再生ボタンに手をかけてしまったようだ。


『ぐす……嫌だ……一人は嫌だ……』


 アルの持っていた土まみれのICレコーダーのスピーカーから、啜り泣く女の声が漏れてきた。


「のわあああああぁぁぁ!!! な、なななんだこれは!」


 突然のことに驚いたアルが赤い機器を投げ飛ばしてしまったが、幸い壊れてはいなかったようだ。まだ音声が流れている機器を拾い上げ、レイがこちらを見つめてきた。


「もしかして……花壇ですすり泣く女の声――?」


「そうかも。じゃあ、こっちは実験動物の鳴き声を録音してるってこと?」


 つまり、この二つの七不思議は誰かの手によって作られたということになる。


(いったい何の為に? そして、誰が……?)


 ボクが考え込んでいると、レイが小首を傾げた。


「とりあえず……鳴海、どうする? 多分、しばらく、起きない……」


「そうだね。とりあえず、田辺先生の所にでも運んで行こうかな?」


(田辺先生には面倒事を頼まれているんだし、寝る場所くらいは確保してくれるよね)


 そんなことを考えながら、ボクは鳴海を再度抱きかかえる。


「ん? そういえば、聞くのを忘れてたんだけど、新井さんの失踪に人外が関わってる可能性はありそう?」


 かなり重要なポイントを思い出し、ボクはレイへと問いかけてみる。


「それは……ない。棟内全部見たけど、人外が、力を使った痕跡は……一つも無かった」


「それって、『アヤカシ』の力の痕跡はなかったってことじゃないの?」


「レイが言うのだから、本当に人外の力の痕跡はないと断言出来るぞ。レイは気配に関してのエキスパートだからな! 私もその点に関しては一目置いているし、信頼もしている!」


 先ほどの突然のホラー音声ショックから立ち直ったらしいアルが、自分のことの様に自慢げに言い切るのに対し、レイが微妙な顔をする。


「あんまり、嬉しくない……」


「照れるな照れるな!!!」


「じゃあ、今回の事件、犯人は人間で確定かあ」


 レイとアルのやり取りをしり目に、ボクはため息をつく。


(人外がいると面白そうなのに……)


 ボクがそんな物騒な事を考えていると、不意にレイがこちらへと視線を向ける。


「でも、それとは関係ない、別のところで……人ならざる者が動いてるのは、確か…………」






 だから、気を付けて……






 と最後に付け足したレイの真剣な表情に、ボクは何も言えなくなったのだった。


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