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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第一章 魔王と勇者、召喚される
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6話 勇者は歌う?!

 ──センレイア王国 王都ルシオラ 光の神殿特設ステージ


 眩いほどにステージを照らす照明、周囲は熱気に包まれ、歓声が鳴り響き、集まった人々は羨望の眼差しでステージに立つ一人の人物を見つめている。


 そんな大衆の眼差しに囲まれ、ステージ立つのは、周囲に煌めくほどの笑顔を振りまく一人の少女。

 長い黒髪を振り回し、褐色の肌には薄く玉の様な汗が浮き、歌に合わせて目まぐるしく動き回る度に飛び散り、小さく虹色に輝く。

 そして、その瞳は情熱を感じさせる綺麗なルビーの赤色を放ち、人々を魅了する。



 「みんなー、ありがとうー!今日みんなに会えて私とってもうれしいのー」


 少女の声に応え周囲から大歓声が上がる。


 「みんな大好きだよー!」


 会場は一層の大歓声が沸き、熱狂に包まれ、周囲は地震が起きたかのように震えている。


 世界すべてが自分を見つめている。

 世界の中心に私が立っている。

 この瞬間、ステージ上の少女──シオンはそんな感覚すら抱いていた。



 「次で、今日、最後の曲になります…最後まで楽しんでね!いっくよー!!」


 舞台を照らす照明が消え、観客席からはどこからともなく、惜しむ声が悲鳴の様に上がる。


 その声を聞きながら、舞台でシオンは目を閉じてたたずむ。


 そして、やがて徐々に声は消え──月明かりと静寂だけが舞台を包み込む。


 ただ、観客が手に持つ小さな棒だけが、小さく揺れ、微かな蛍光色を放っている。



 「 みんなー! あたしの歌を、聞けーーーー!!! 」



 新たな曲が流れ──

 ──再び灯された照明が、眩いほどにステージが照らす。


軽快なリズムで流れる激しい音楽に乗せて、シオンの透き通るような歌声が流れる。



 ”挫けそうになって 自分を見失って たとえこの世界が 暗闇に包まても きっと私は笑うだろう

 ほら 隣を見て そこにきっと君の 大事なものがあるから


 見失わないで 目を背けないで きっと 願いは届く

 だから前を向いて 傍にいるから

 一緒に行こう! 何度でも 何度でも 信じる人がいる限り──…~♪”



 彼女はその瞬間、間違いなくこの世界の誰よりも輝いていただろう。


    ・

    ・


 アンジェルは、舞台袖でその様を眺めていた。

 その顔には狂喜とも思えるほどの、歓喜の笑みを浮かべて。


 「ふふふ…いける!…いけるわ!これはいける!!歴代最強の勇者も夢じゃない!うふははは!彼女はサイコーよ!!!」


 不気味すぎる高笑いを続ける彼女を、この熱気に包まれた会場にあって、不審に思う人は一人もいない。

 そこに居るすべての人が、舞台上で歌う彼女だけを見つめていた。




 「お疲れ様でしたー!シオン様!コンサートは大成功です!」


 ステージから降りる私に、舞台裏にいた神殿の皆さんがねぎらいの声を掛けてくれた。


 「お疲れ様でしたー!みなさん今日も有難うございましたー!」


 そう言って私は、スタッフをしてくれている皆さんに深くお辞儀を返していく。


 「いやー、シオン様のコンサートは神殿関係者一同も、楽しみにしてますからな!準備はすべてお任せてください! おい、おまえらー!資材撤収急ぐぞー!スケジュール詰まってんだぞ!明日から公演場所の移動するんだからな、今晩中に終わらせるぞー!」


 おー!と、屈強な男達のがなるような声が聞こえてくる。



 スタッフさんは、いつも元気だなぁ。


 神殿の控室に帰るまで、様々な人たちが私に声を掛けてきてくれた。

 その、すべての人の顔が笑顔で染まっている。

 だから私も、精いっぱいの笑顔で返事を返していく。



 自分にあてがわれる部屋に戻り、シオンはやっと一息つく。



 「ふぅ、今日も一日お疲れ様…──って、


 私は一体何をやっているのーーーー!!!!??」



 一息入れて冷静に戻った私は、深く頭を抱えてその場にうずくまる。


 ほんと…なんでこんなことになったんだろう。



 それもこれも、発端は一週間程前、この世界に召喚された時の話だ。



    ・

    ・



 ──1週間前 光神殿 召喚の間



 「えーーー!無理無理!絶対そんなの私には無理ですよ!!

 私、自慢じゃないですけど、元の世界でも魔法も満足に使えない落ちこぼれだったんですよ! それが魔王と戦うなんて…ダメダメ、絶対死んじゃいますよぅーー!」


 私が必死に抗議するも、アンジェルさんはなんだか薄らと微笑みながらこちらを見つめている。


 「ご安心ください勇者様。勇者様にはその聖剣がございます。

 先ほども申しました通り、その剣はすべてを切り裂くと言われるほどの力を宿す、この世界唯一無二の聖剣です。その聖剣のすべての力を引き出すことができたなら、魔王すら一撃のもとに切り伏せることも可能なのでございます」


 えっ!こ…こここここの剣そんなにすごいの?!

 今、そんな危ない物持ってるの私!!しかもむき出し!真剣むき出しなんだけど!ちょっと危険物!危険物よこれ!こんな無造作に渡されても困るんだけど!


 私は、聖剣を見つめながら、顔はみるみる青ざめ、身体がガタガタと震えてくる。

 そんなに私の様子に、アンジェルさん達は、少し頭を傾げるが、気にせず言葉を続けてくる。


 「もちろん、今のままではそれはそこらにうずもれる数多の剣と大差ありません。

 ですので、まずはその聖剣を鍛え上げることが急務と存じます。

 恐らく…魔王も勇者様と同様に今まさに復活し、その禍々しき牙を研いでいるものと存じます。

 遅かれ早かれいつかは勇者様と激突することは必然なのです」


 いつか魔王が襲ってくる。今のままの私では間違いなく勝てないだろう。

 恐怖と不安で、更に顔が青ざめ血の気はなくなり、冷汗が流れてくる。


 「それじゃぁ…私、ど、どうしたらいいのかな?」


 私はまだわずかに震えながらも、縋りつくような思いでアンジェルを見つめる。

 すると、目の前の5人すべての巫女さんが顔を上げ、私の瞳をじっと見つめながら力強く告げてきた。


 「ご安心ください勇者様!」


 「すべて(・・・)!」


 「私共にお任せください!」


 「必ずや!」


 「勇者様を最強の」



 「アイドルへと昇華させて見せますわ!!!」



 最後の声は巫女長アンジェルさんだ。

 周囲の他の巫女さんも唖然としている。


 …へ? アイドル?



    ・

    ・

    ・



 「ふふふ、最初現れた勇者様を見たときはどうなるものかと思ったけど…」


 アンジェルはシオンと出会った日の事を思い返す。


 黒い髪、褐色の肌、これはまだいい、人間族の中でも少ないとはいえいないわけではない。

 だがその瞳に映る透き通るほどにきれいな赤い目(ルビーアイ)、これはこの世界における魔族の特徴そのものだった。

 人族にとって忌避される魔族の特徴を備えるとなれば、いくら勇者といえど、この世界では普通なら忌子として扱われかねない。

 それは人々に好かれなくては、本来の力を発揮できない勇者としては、致命的な弱点になりえる。

 だが、しかし…目の前の勇者は幸いにも、とてもかわいらしい女性であった。

 その類い稀なる可愛らしい美貌に加え、性格すらも…。


 勇者シオンのその姿を目に映し、その声を聞きながら、頭の中でアンジェルは目まぐるしいほどにこれからの展開を計算する、そしてやがて計算を終えるころには、心の中でガッツポーズをした──これならば…行ける!!と。


 結果は大成功だった。

 最初こそ、その眼の色に若干の不安を見せた民衆だったが、彼女のステージを見た瞬間、その心を引き込まれ、掴まれた。

 それはもう、がっちりと!

 そして確信する。

 ──最強の私の(・・)勇者が誕生したことを。



 「あぁ…あの・・小動物が怯える様な様、縋りつくような眼差し…サイコーだわ、サイコーの逸材だわ、はぁはぁ」


 記憶の中のシオンの姿を想像するだけで、アンジェルの心は歓喜に包まれる。

 いつの間にか、その口からは涎がこぼれていた。


 「いけないいけない、こんな姿は誰にも見せられないわね」


 そんな中、トントンと扉をたたく音がして、一人の女が室内に入ってくる。


 「巫女長様ー! お風呂の準備整ったんですが、シオン様は今どちらにいらっしゃいますか?」


 光の神殿の巫女の一人であるルウだ。

 

 「あら、ありがとうルウ、ご苦労様。シオン様は今ご自分の部屋でお休みになっておられますわ」

 「了解です! ありがとうございます、さっそくお伝えしてきますね!」


 ルウが、すぐにシオンの部屋へと向かおうと踵を返すが、アンジェルはその肩を掴み、ルウを止める。


 「…なんですか?」


 「勇者様には私が伝えます。 あなたは新規信者の登録や次の興行の手配で疲れたでしょう? もう休んでいいですよ」


 そのままわずかに手に力を込めながら、アンジェルがニコリと極上の笑顔を作って伝える。


 ──シオンのコンサートは、聖剣強化のほかにも新規信者の獲得にも大いに貢献している。

 これにはアンジェルの、さらに上司に当たる大神官達も大喜びであり、予算は現在増える一方となっている。

 しかし、大量の新規信者のために、巫女が何もしないわけにもいかないということで、今日はルウともう一人、巫女のリンシャが担当していた。

 その数は膨大で、当然激務なのは間違いなく、ルウだって疲れているはずなのだ。

 

 「いえいえ、そんなぁ結構ですよ。 私は自分の責務を果たすことこそが至上の喜びですから、巫女長様こそ、本日もお疲れでしょうから、もうお休みになった方がよろしいのではないのですか?」


 ルウがこれまた、ニコリと極上の笑顔で返す。


 ──アンジェルは、シオン様に関するマネージャー業のほぼすべてを担当している。

 これはシオンに一切の男性を近づけないためでもあるのだが、シオンのためとはいえ、実際結構な量の業務なのである。

 当然、ルウもそのことは分かっている…その上で言ってきているのだ。


 二人の間に火花が散る。

 表現ではなく、文字通り。

 体内で練りこまれた、人としては最高峰の魔力を持つ巫女同士が、互いの魔力をぶつけ合っているのだ。

 火花くらいはかわいいものだ。


 「いいんです! あなたは黙って休みなさい! 勇者様の湯浴みは私が努めます!」

 「そんなことばっかり言って! 一人シオン様をめでようなんて! いくら巫女長様でもそうは問屋が降ろしませんよ!」


 アンジェルが口火を切ると同時にルウがガヤガヤと騒ぎ始める。

 そんな中、再び扉が開いて一人の女が入ってきた。

 呆れたような顔で…。


 「…何をしてるんですか…ルウに巫女長様…」


 巫女の一人であるリンシャである。


 「聞いてよリン!巫女長様が」

 「リン、あなたからも言ってください!ルウったら」


 リンシャはふむふむと、頷きながら話を聞く。

 やがて、二人が少し落ち着いたのを見計らってか、静かに口を開く。


 「あの、二人とも大変いいづらい事なのですが」


 その顔に苦笑を浮かべ、眼鏡のずれを直しつつ、リンシャが言い放った一言は


 「シオン様の湯浴みなら、先ほどテンとシャオが、シオン様を連れて向かってましたが?」


 「………」


 ──最悪の、一撃だった。


 その言葉に、一瞬呆然となるが、アンジェルはすぐに正気を取り直し、腰を曲げ、両の指を地面につけてスタートダッシュの態勢を取る。

 クラウチングスタートである。


 「はっ!」


 ルウが遅れて正気を取り戻したようだが、もう遅い。

 アンジェルは、すでに最高速で駆け出している。


 「巫女長様!ずるい!!」

 「先手必勝!弱肉強食ですわ!神様もいつもおっしゃっています!」

 「神様はそんなこといいません!!」


    ・

    ・

    ・


 二人がいなくなった室内に一人取り残されたリンシャは深くため息をついて呟く。


 「はぁ…・ホントおバカ様ばかりですね」


 そう言ってメガネのずれを直す。

 リンシャにしてみれば、これはもはやいつもの日常でしかない。

 湯殿でのシオンの冥福と健闘を祈りつつ、もう休もうかとその部屋を後にする。



 湯殿ではシオンの絶叫が鳴り響く。


 「アンジェルさん、どこ触っているんですか!」

 「勇者様の健康状態と日々のスリーサイズを計測するのも巫女長たる私の務めですわ!はぁはぁ」

 「なんか息遣いがおかしい!」

 

 「あぁ、シオン様の肌すべすべ羨ましい…」

 「テンちゃん、くすぐったいよぉー…」


 「シオン様、その胸どうしたらそんな綺麗に育つんですか?」

 「えっいや、シャオちゃん!? 揉まないで!!」


 「シオン様…わたし…も、もう…」

 「ルウさん!? 目が!目が!誰か!誰か助けてーーー!!」


    ・

    ・


 「そういえば、次の公演場所はどこなんですか?」


 「次の目的地は城塞都市ヴォルブルグ(・・・・・・・・・・)ですわ、魔族との国境の最前線の町です。 途中にあるいくつかの町でも行いますけどね。 ふふふ、ここまでくればもはや成功は間違いなしです! そのうち国外ツアーも企画しなくてはなりませんね!」



 勇者と魔王、かくして奇しくも同じ都市へと赴く二人。


 この二人が出会ったときそこに始まるのははたして血と惨劇の闘争か…それとも…。




 シオン=ティアーズ Lv3

  HP 12/12 MP 190/194

  STR 10 VIT 15 AGI 20

  MA 210 MD 80


 基本スキル

   魔力操作Lv1

 武技スキル

   杖術Lv1 結界術Lv1

 感知スキル

   危険感知Lv1 魔力感知Lv1

 強化スキル

   魔力強化Lv1

 魔法スキル

   火魔法Lv1 暗黒魔法Lv1 闇魔法Lv1 

 固有スキル

   魔姫のカリスマ


 称号:異世界の来訪者 魔王の卵 異世界魔王の娘 ドジっ子 次元を超えたアイドル 赤眼の歌姫


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