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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第四章 魔王 自由商業都市ニーヴァ編
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38話 戦利品



 ──自由商業都市ニーヴァ 工房『ソロモン一家』


 「ちーっす」


 工房内に勇人のやる気のない挨拶が響き渡る。


 「おう、ソロモン。どうしたんだ?昨日来ると思って、ずっと待ってたってのに…」

 「いやぁ、親方…できれば聞かないでほしいです。男に避けられない戦いもあるのです」


 後半はため息を吐くように零れた言葉だった。


 「ほう、これが若さというものか…羨ましい話だ」

 「アハハ…ところでレビィは?」


 妙に静かだけど、と出かかった言葉を飲み込む。


 「あぁ…あいつなら、昨日からずっと自分の作業室にこもって出て来ねぇな」


 またか…と勇人は思った。

 レビィが自分の作業室に引き篭もるのは何も珍しい話ではない。

 ひどいときならば、事前に何週間分もの食料を持ち込んだりもする。

 とはいえ、それはレビィだけに限った話ではないが。


 「なるほど…。あいつも親方と一緒で、趣味にのめりこむ体質ですからねぇ」

 「ふざけんな!この工房にいる奴はみんなそうだろうが!変わり者ばかり集めやがって」

 「自分がそうだということを否定しないところが親方らしい…。んじゃ、今日はレビィは出てきませんかね」

 「うーん、まぁそろそろ煮詰まっている頃だろうからな…直接作業室に行ってみるか?」

 「うーん、そうですね、そうしましょうか」


 勇人の今日の目的はレビィである。

 レビィが煮詰まっているのであれば、待っても無駄だろうと考えて、親方と共にレビィの作業室まで移動する。


 「おい、レビィ入るぞ!」


 ノックもなしに扉を開ける。

 一応声はかけているようだが、勇人が声を掛けたのはドアを開けたあとである。

 いつもの勇人であれば、女性の部屋に入る前には必ず声を掛けただろう。

 だが、自分の工房の作業室であり、なにより相手がレビィということもあり、もはや全く気を使う必要を感じない。

 まぁ女性の部屋に入った経験自体、レビィ以外にはないのだが。


 勇人はドアを開けてあんぐりと口を開けてあきれる。


 「…って」

 「散らかり放題だなこりゃ…これはまた相当な煮詰まり方してるじゃねぇか」


 各個人の研究を行う場でもある作業室は、約18畳ほどと広い広間になっており、隣には仮眠室も作られている。

 レビィの使用している作業机は荒れ放題で、設計図と思わしき紙屑の残骸が散らばり、資料も積まれ放題、壁の一か所に毛布だの、ゴミなのか資料なのかわからない残骸が無造作に積まれているものの、地面も部品だのゴミだのが雑に並べられ、歩く隙間もない状態だ。

 普段からレビィの作業室はお世辞にもきれいとは言えないが、いつもの倍以上にひどい。


 勇人がそんな作業室を見渡すがそこにレビィの姿はない。


 「レビィは仮眠室かな」


 仮眠室は大体6畳くらいの簡素なベッドと机が置かれているだけの部屋である。

 仮眠室で6畳と言えば少し広いようにも感じられるが、この世界の家の間取りとしては6畳というのは部屋としては狭い。

 勇人は職人だし、泊まり込むこともあるだろうと、そこに更にユニットバスも完備し、簡易的な居住空間を作り出したのだが…それがいけなかった。結果、職人たちのために作った宿舎があるというのに、二日に一度の割合くらいで作業室に泊まり込む職人が増加してしまった。

 おそらくレビィもそっちにいるのだろう。


 「よっ、ほっ、と…うえっ!ゴミが動いた」


 勇人が何とか隙間を縫って中に入ろうとすると、壁の一か所に無造作に積まれていた塊が動いて崩れる。


 そしてその中から生える一本の手…。


 「ひぃ!死体!?」

 「なんや~ほんまひどいわぁ…うちはここやでぇ…」


 ごそごそと塊が動いて更に崩れ、中から赤い髪を生やした貞子がその体を徐々に表していく。

 その姿は完全に井戸から出てくるあいつである。

 いや、髪は短いが、そのかわりに髪が真っ赤なので黒髪よりも圧迫感があり、妙に怖い。

 昔見たホラー映画を思い出して寒気がする。


 「おま…それはないだろう…」


 さだ…レビィは髪はぼさぼさで眼鏡を擦りおろし、手には見覚えのある木箱を持って虚ろな瞳をしている。


 「おめぇ、今回はそんなに煮詰まってるのか?」


 流石の親方もこの姿にはちょっと引いているようで、少し後ずさりしている。


 「せやねん…これ、おとんの資料にも詳しいことのってへんし、何から何まで普通の魔導銃と構造がちごうてぇ~むしろもう、ほんまに魔導銃なのか疑ってしまうわぁ…」


 話しながらレビィは少し涙目になり、鼻をぐずぐずしだす。


 「あー、うーん」


 勇人が頭を掻く。


 「取りあえずあれだ…レビィ」

 「ん?んぅ?なに?」


 勇人が何か妙案を出してくれるのかと思ったのか、妙にキラキラした顔で勇人を見つめる。

 だが、次に勇人の口から漏れた言葉はレビィの予想だにしない言葉だった。


 「お前…オイルと汗となんか色々薬剤のにおいが混ざって…臭い」

 「………へぇっ?」

 「とりあえずお前は、まずさっさと風呂に行ってこい!話はそれからだ、ミュー!!」

 「はい、ここに」

 「うぇ!嬢ちゃんどこにいたんだ!?」


 一体どこに待機していたのか、いつの間にか勇人の後ろに付き従うように現れたミューに親方が驚く。


 「…連れて行け。大浴場で汚れも陰気も完全に洗い流して来い」

 「かしこまりました、ご主人様。行きますよ、レビィ!」


 ミューが問答無用とばかりにレビィを担ぎ上げ、連行していく。


 「な、なんやねん!うちにはまだ作業が…魔導銃の調査がぁぁぁぁ!」

 「うるさいですよ、レビィ。大体うら若い女子として恥ずかしくないのですか!こんな格好で」

 「なんやぁ!あんたにだけは言われたないわぁ、なんやのその執事服!全然女子してへんやんか!あ、そうやな!あんたはもう女子いう歳やなかったなぁ、こらすんませんなぁ!」

 「なっ、今すぐその口を永久に閉ざしてあげましょうか…。大体私はまだ21歳です!貴方とそんなに変わりません!まだうら若き乙女に入る年代ですよ!」

 「はっ、そんなんギリギリやんか!」

 「ぐぐぐぐぐぅぅぅ!」

 「ぬぬぬぬぬぅぅぅ!」


 やかましく鳴り響く騒音が遠のいたことを確認してから勇人が親方に口を開く。


 「…21歳って行き遅れになるんですか?」


 確かにこの世界での結婚適齢期は15歳から20歳前半と聞いている、まぁ貴族ならその前の歳でに婚礼を決めることも珍しくはないらしい。


 「馬鹿お前…二度口に出すなよ。そんな事この街の中で言ったらお前…殺されるぞ」

 「…肝に銘じておきます」


 心当たりが多すぎて、少し背筋が寒くなった。

 そういえばこの工房にも…


 「うふふ、そーちゃん。いらないことは考えない方がいいわよぉ~」

 「ソウデスネ」


 何時の間に来たのか…ミルナが背中に立っていた。



 …なぜ、俺の周りの女たちはみんな、【気配察知】を無視して近づいてくるのだろうか




 1時間ほどして、レビィを着替えさせ、無理やり食事をさせたミューが疲れ果てたレビィを連れて帰って来たので、そのままメンバーを集めて場所を合同作業室に移す。


 集まったメンバーは勇人、ミュー、プリム、親方、レビィ、トトノノの6名である。


 「さて、では今回の戦利品についてだが…。レビィ、分かっていることだけでいい、説明してくれ」

 「了解や…。といっても、いきなり躓いてもうて、たいしたことはわかってねんけどなぁ」


 語り始めるレビィの様子はいつもとは違い自信なさげだ。

 部屋での様子からも、相当に煮詰まっていたのだろう事が予想されるから無理はない。


 「まず、この魔導銃やけど一見、グリップが従来の物より細く出来とる事以外は普通の魔導銃に見える。んで、上部がスライド式や、本来魔導銃においてこの機能は次の銃弾を装填するために作られるもんなんやけど…その肝心の弾を込める弾倉マガジンがどこにもないねん。そして次に中に施された魔力回路…本来の魔導銃にはこんなものは必要ないねん。魔導銃は魔導銃やけど、特定の術式を必要としないものや、術式を施すのはあくまでも弾丸であって銃本体にこんな複雑な術式を施すなんて聞いた事ないわ!そして何よりこの銃口や!本来丸い弾丸が発射されるはずの銃口が縦長の逆三角形の形をしとる!なんやねん!これはいったいなんやねぇぇぇぇん~~~!」


 話してる間に段々ヒートアップしたようで、レビィが再び頭を抱えてかきむしっている。


 あ~あ、せっかくミューが整えてくれただろうに…


 「ふーん…」


 レビィを無視して、勇人が机に置かれた古ぼけた魔導銃を手に取って眺める。

 感想はレムダ邸で見たときと変わらない。

 ただ、調査と解析の為だろう、至る床についていた錆の様な汚れはレビィの手によって綺麗に取り払われている。


 「せやっ!ヴァニラやったら、この術式を解析できるんちゃうか?そしたら手がかりが出来る!」

 「無理、ではないけど…時間かかる。目的と用途がわからないとダメ」


 術式を解析するというのは、熟練の魔術師なら確かに可能だ。ただし、それはその術式が行う目的と用途がはっきりしないと行けないわけで、そのとっかかりを探るのが最も難解な行為なのである。

 たとえば、遺跡で見つかる古いアーティファクトなどで、見たことのないものはどういう目的で造られたかがわからない。

 この魔導銃は、魔導銃なのだろうが、形が従来の物と間違いすぎて、同じ形態で使用されるものとはとても思えず、弾丸を撃つという魔導銃の先入観にとらわれ、下手に勘違いしたまま解析するなら、いつまでたっても解析などできるわけもないのだ。

 まぁそれでも、時間さえかければ本当にできそうなのが、プリムの怖いところなのだが。


 「せやなぁ~…」

 「…そもそも、弾丸を撃つものではないだろうな、これは」

 「!?」


 勇人がぽつりと言った一言に、衝撃を受け、驚愕の表情で見つめるレビィ。

 口をパクパクさせて動かすが言葉にならない。

 いくらなんでも動揺のし過ぎだと思う。


 「そいつはどういうことだ?」


 見かねた親方が話を進める。


 「いや、だって、さっきもレビィが自分で言ってたでしょ?そもそもの形状がちがい過ぎるんだ。どう考えたって弾丸(・・)は打てない。これは、魔力を形状変化させた魔弾を弾きだす魔術銃なんじゃないかなぁ?…いや、下手したらレーザー光線みたいに発射するのか?」

 「はぁ!?なんてぇ?」


 レビィが目を見開いて反応するが、構わず無視して話を進める。


 「…それに、ずっと気になっていたんだけど、これ可変式なんですよね」


 勇人が言いながらストッパーと思わしきレバーを外し、力任せに銃の垂直に曲がった部分を直線になる様に動かす。

 その姿に、慌てて我を取り戻したレビィが止めに入る。


 「あかーーーーん!折れるぅぅぅぅ!!」

 「大丈夫だって」


 少しずつ、関節の間にこびりついた錆が落ち、魔導銃がその形状を直線に変える。


 「うん、やっぱり」

 「なんだこりゃ!」


 親方が、レビィを力任せにはねのけ、勇人が握る銃に目を近づける。


 というかすごく近いし、レビィがシャレにならない音を立てて壁にぶつかっているのだが…大丈夫か?


 「おい、ソロモン!なんなんだこれは!?」


 迫る親方の顔が怖い。


 「見ての通り…多分剣になるんですよ。そもそも、レビィが持つ祖先からの資料には剣銃(・・)と書いていたでしょ?…ずっと疑問だったんですよね」

 「もしかしてこいつは…弾丸を必要としない魔導銃…なのか?」

 「そうなんでしょうね、さしずめ…魔術剣銃ってとこですかね。どう?ヴァニラ」


 設計図に書き写した術式を睨んでいるプリムに目を向ける。


 「ご主人様ビンゴ、これすごい、作った人は間違いなく天才。術式は壊れてるけど…これなら修復可能」

 「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


 壁に衝突して目を回していたレビィが復活した。


 「これは…これは…」


 頭を強く打ち過ぎたのか、目がすごく血走っているし、息荒いし、怖い…ホラーだ

 頼むから今は近づかないでほしい


 「あぁ、これは上手くいけば魔導銃の歴史が変わるな…」

 「革命や!うちの夢が叶う!?」


 レビィがその眼に火がともる。


 そういえば、そもそも魔導銃が流行らない一番の問題点はそのコストだった。

 弾丸一つ一つを作成し、その中に術式と魔力を施さなくてはいけないため、非常にコストパフォーマンスが悪いのだ。

 魔力さえあれば打てる魔導銃が作れたなら、確かに革命と言えるかもしれない。

 そして…それはレビィの夢の一つでもある。

 とはいえ、さっきの状態を見てしまうと、今のレビィに一人で任せるのは少し不安を感じる。


 「…親方も興味あります?」

 「おう、これは面白そうだな!改造のし甲斐もある!ロマンを感じるぞぉ!」

 「よし、じゃぁ、研究と製作は親方とレビィの共同で、レビィは暴走し過ぎるなよ。あと勝手に無茶なテストはしないこと。ヴァニラは術式の解析と再構築を頼む。トトノノさんは二人の補助を頼めますか?」

 「オッケー、楽しくなって来たね」


 サポート役という少し損な役回りだというのに、にこやかに了承してくれるトトノノはやはりさわやかなイケメンお兄さんである。


 「おっしゃーーー!おとん!うちはやるでぇぇぇぇぇ!」


 テーブルの上に片足を載せ、高らかに意気込みを告げるレビィの眼は爛々と輝いている。


 「レビィ、頼むから少しだけ落ち着いてくれ」


 本当に頼むから事故だけはやめてほしい


 「そうと決まったら、食料買い込んで作業室や!取りあえず1ヶ月分でええかなぁ…いや、買い物に行く時間もおしい!」


 もはやレビィの耳に勇人の声は全く届かないようで、完全に自分の世界に旅たってしまっていた。

 処置のしようがないと判断し、レビィを置いて親方とトトノノに向き合う。


 「親方、トトノノさん…よろしくお願いいたします…マジで」

 「おう…かつてないほどの興奮ぶりだよなぁ」

 「あれを抑えれるかは…ちょっと自信ないね」


 余りのテンションに、親方とトトノノさんも少し…いや、かなり引き気味だった。


 しかし、魔弾発射に可変式で剣にもなるとは…何というロマンあふれる武器だろうか

 レーザーブレードはもちろん、魔力量次第では無限に無詠唱で撃てる魔弾…


 改造次第でどこまでも夢広がる新型銃の予感に、少し浮かれ、勇人の顔が思わずニヤリとしていた。

 よく見ると、親方とトトノノも似たようなもので、なんだかんだと言いながらも期待に口元が緩んでいる。

 唯一人、この場にいる者の中で、実際に製作にかかわることはなく、身も心もずっと離れた場所で静かにその様子を見ていたミューだけが


 「…テンションがおかしすぎます。本当に大丈夫なのでしょうか、この工房は…」


 冷静に今の状況を理解していた。



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