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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第四章 魔王 自由商業都市ニーヴァ編
36/44

30話 工房『ソロモン一家』

 ──ニーヴァ 西区画-職人街 工房『ソロモン一家』


 「チーッス!」

 「あ、オーナー!いらっしゃい」


 一見屋敷の様な工房の中に入り、入口のホールで作業員の一人に出会い、挨拶する。


 「トルマさん、どもです調子はどうですか?」

 「順調ですよ!はぁ、まったくここは最高です!こんな好きな研究をさせてもらえて、しかもお給料もでる、あぁ僕は今幸せです!あぁオーナー、聞いてください、こないだ開発した薬なんですがね、周囲に幻覚効果を振りまく成分を香水の様に散布してですね…現在の使い方では効果時間は少ないのが難点ですが…そうそう、変身薬なんてものも作ってみたんですが幻覚剤より更に効果時間が短く、1分しか持たなくて、でもこれがあれば犬耳猫耳が自在で…今度は催眠薬って言ってましたっけ?人をトランス状態に落とす薬はあるんですが、そこに術式を付与してさらに強力に…刷り込むことで薬なしで効果が…難点は実験が難しいことで…でも、あれもやりたくて…」


 トルマがキラキラした目で大げさに手を組み合わせて、うっすら目に涙を漏らし、続けて最近の研究状況を語ってくるのだが、その内容にも勢いにも危ない薬を目を輝かせて語るその姿にも、勇人は少し引き気味だ。

 トルマは眼鏡をかけた30歳前後の痩せ気味の男性だ。いつも目の下に隈を生やして、少し病的に見える。

 続いて通りがかった赤髪のメガネをかけた女が通りがかる。

 女はこちらに気づくと、駆け足で寄って来た。


 「あー!ソロモンやんか!自分こんな所でなにしとんねん!」

 「いやいや、言葉おかしいよね、レビィ。俺オーナーなんだから、ここにいてもまったくおかしくないよ!」


 レビィは18歳、燃えるような赤髪に眼鏡をかけ、目の下のそばかすがチャームポイントの、御胸が残念な活発な女子だ。


 「なにいうとんねん、一週間もうちらの事ほっといてなにを今更!うちは…寂しかってんで……あんたがいなかったら、うち…うちは…」


 まるで昼ドラの様なセリフを吐き、腰をくねらせて、眼鏡越しに上目使いに勇人を見てくる。

 この角度だと、目の下のそばかすが妙に可愛く映る。

 その姿に勇人は微かに胸を高まらせ、ドキッとする。


 これはいいかもしれない。……いやいやいやまてまてまて、これはまずい、こんな現場を誰かに見られたら…あ、俺死ぬかも、冗談にならない、早く何とかしないと


 「レビィ…あの、えっと、気持ちは嬉しんだけど、その…俺は」

 「あんたがいなかったら、誰がうちの試作魔導銃のテストをすんねんなぁぁーー!!」

 「……は?」


 レビィを落ち着かせようとして、肩を掴もうと動いた勇人の手が止まる。


 「なっ!んなもん自分でやれ!!」

 「何言うとんねん!そんなん危ないやろ!」

 「ざっけんな!なに、危ないもん出資者に撃たせようとしてんだよ、お前は!」

 「あんたは頑丈なんだけが取り柄みたいなもんやねんから、何があっても大丈夫やんか!」

 「そういう問題じゃねぇよ!ってゆうか、頑丈だけが取り柄とかどういうことだ、てめぇ!一回本気でやったんぞコラぁ!」

 「はっ!おう、犯って見ろや!この体剥いて見ろや!そんな度胸あるならいつでも相手したるわ、ベロベロバーー!」


 はぁぁぁぁ?!


 「そういう意味じゃねぇよ!この痴女!」

 「なっ!別に勘違いなんかしてへんわぁ!単なる冗談にきまっとるやろ!バカ!アホ!唐変木!朴念仁!」

 「子供か…ってかそれ、言葉の使い方間違ってるからな!」

 「むぉぉ、この……阿呆ぉぉぉぉ!」


 ドガッ


 思いっきり握ったレビィの拳が勇人の顔面に炸裂する。


 「痛っ…お前、間違ったのが恥ずかしいからって、いきなり殴る奴があるか!」

 「うっさいボケェェ!この鈍感!」

 「おまえ、それの使い方も間違っ…ぐへっ」


 勇人が言い終わる前に、再びレビィの拳が顔面に突き刺さる。


 「…この、アマぁぁぁ!」

 「かかってこいやぁぁ!」


 工房の入口ホールに勇人とレビィの騒音が響き渡る。

 トルマはいまだに向こうの世界から帰ってきていないので、ここに二人を止めるものはいない。

 そんな声を聞きつけたのか、屋敷の各所から扉が開かれ、人が集まって来る。


 「ん?なにやらやたらと騒がしいと思ったら…やっぱりソロモンかよ。お前仕事は終わったのか?」

 「親方からもこいつに言ってくれ!」

 「親方からもこいつに言うてぇな!」

 「いや、いきなり言われても何のことかもわからねぇんだがなぁ…。とりあえずレビィ、魔導銃は仕舞っとけ、さすがにソロモンでもそれは不味いだろ」


 頭を掻いて親方こと、ヤムダが苦笑交じりに呆れた顔を二人に向ける。

 ヤムダは40を過ぎた、職人らしいムキムキのおっさんだ。


 ってか…銃?


 ちらりとレビィの手元を見ると、いつの間にかレビィの右手に勇人も見慣れない銃が握られている。


 さっき言ってた新型の試作品だろうか…親方に目をやった一瞬で抜くとは、なんて危ない女だ


 「オーナー、お久しぶりですねぇ」

 「あ、トトノノさん」


 続いて現れたトトノノが、何が面白いのか、今だ銃を向けられたままの勇人を見てニヤニヤしながら話しかけてくる。

 トトノノは20歳過ぎの長身の痩せマッチョな体格で、爽やかなガテン系といったお兄さんだ。


 「ところでオーナー、ガンアームホルダーの調子はどうかな?」

 「サイコー!チョーカッッコイイし動作も問題なし!」


 勇人が右手を伸ばすと、小さな金属音を立てて袖口から滑り出て来た小型拳銃が瞬時にその手に握られる。


 「うん…動作はよさそうかな。じゃぁ今度、一度ちゃんとした完成品を作って見ますよ」

 「トトノノさん、愛してる!」

 「それは、僕に言うことではないと思うんだけどなぁ…」


 トトノノがちらりと、今は拗ねたように頬を膨らましてこっちを見ているレビィの方に視線を向ける。


 「ん?」

 「あー、いえ、当人同士の事なんで良いんだけどね。じゃぁ、ミスリル合金に搭載する理石を大きくして…いまより魔力許容量と強度が上がるから、それで換装の速度も上がるでしょ」

 「サンキュー、トトノノさん!」

 「いえいえ、こっちも楽しんでやってるしね」


 「あら、ソーちゃん、おっひさー!」

 「どうも、ミルナ…さん。あの、なにしてんすか?」


 ミルナは周囲を見渡して落胆したあろ、なぜか俺の体をまさぐっている。


 「ねぇソーちゃん…なんでミルフィちゃんもヴァニラちゃんもいないのよ!」

 「いや、別にいつでも一緒ってわけじゃないですし…」


 そもそもなぜ体の中に隠したと思うんだ?


 「タマちゃんもミラちゃんもシロちゃんもいないソーちゃんなんて、おかずのないご飯みたいじゃない!そんなのありえない!」

 「失敬だな、あんたは!」


 ミルナはヴォルベルクで知り合った服飾店従業員ミレイヌさんの妹さんだ。

 妹と言っても双子らしく、眼鏡をかけていない事と、性格が少し違うくらいで、見た目はほとんど変わらないし…趣向も同じらしい。


 「あの…オーナー、こないだ言ってたデザインなんですけど…ちょっと意見がほしいんですよ」

 「アズムドさん…なんでそんな隅に隠れてるんですか。というか体、全然隠れてませんよ!」

 

 アズムドさんは30歳手前の隈の様に大きな男性だ。

 何故か木箱を盾に体を隠しながら話しかけてきているが、いたるところがはみ出ている。


 「あーーー!ソロモンさんです!」

 「よっす、ミナト。珍しいなここで会うなんて」


 ミナトは茶髪の髪を頭の上で丸めてお団子にしたような髪型をした、まだ16歳の小柄な少女だ。


 「それはこっちのセリフですよ!もぅー、やっと来ました!やっと来ましたよ!もし今日来なかったら、家まで押しかけるところでした。さぁさぁソロモンさん、お仕事が溜まってますよ!一応は工房主なんですから、ソロモンさんが承認してくれないと、商品が卸せないんですよ。もう、お父さんからも催促されてるんですから!さぁさぁ早くしてください!」


 出会い頭にどなられたかと思ったら、いきなり頬を捕まれる。


 「いはぁいはぁい、みふぁと、ふぉふぉを…頬を引っ張るな!」

 「いいですか、今日は一日付き合ってもらいますからね!」

 「うげぇ」

 「うげぇ…じゃありません!誰のせいですか!今日は終わるまで逃がしません!」


 ミナトに腕を掴まれて引き摺られる。


 レビィよりは確かな感触があるな…っとやばい、このままでは一日が書類につぶれる


 「キャー、誰か助けてー!」


 トトノノとアズムドが即座に目を逸らす。

 親方とミルナはニヤニヤと声援を送って来る。

 レビィはアッカンベーと舌を出してむかつく顔をしている…殴りたい。

 トルマは…あぁ、まだ自分の世界から戻ってきてない、ダメだこいつ。


 コイツラ…


 「てめぇら…覚えてろよぉぉぉ」



 工房『ソロモン一家』。

 貴族の屋敷にすら劣らない敷地と大きさを誇り、広大な西区画-職人街のはずれに立ってはいるものの、その中でも有数の建物となっている。

 とても構成員が数人という少数の職人が活動する場とは思えない。

 勇人はこれまでいくつかのダンジョンを攻略し、様々な財宝を手に入れている。

 金は腐るほどある!とばかりに勇人とキャッハーなテンションとなった職人たちが趣味と欲望を全開にし、ノリノリで作り上げた工房なのである。

 そのメンバーたる職人はすべて一癖も二癖もある、元々が変人と噂される人間ばかり、工房そのものも、その構造や仕組みが異形なら、作り出されたものさえも異例の摩訶不思議な産物で、既に裏では奇人怪屋敷とさえ呼ばれている、異色の工房である。


 そもそもこの世界の職人とは鍛冶師、錬金術師、魔導技師、裁縫師、彫金師など数多くの様々な職がありながら、同じ工房に属すことはない。

 ごく稀に共同作業をすることもあるようだが、契約に元ずく作業的なもので、共同制作ではなく委託加工をするようなものだ。

 様々な職人が登録している、職人ギルドの工房であってもそれは変わらない。


 だがこの工房は各作業に特化した従来の作業部屋に加え、会議室に頑丈な実験場、すべての簡易作業を行える合同作業部屋も作られている。

 ついでに言えば宿舎も存在し、防犯用の防御結界も完備である。

 勇人や各人が思いついた面白いアイディアがあれば、会議を行い検討し、必要に応じてすべての職人が協力し合い、それぞれの知識とアイディアを出し合って創作をする。

 そうして新しいものを作り出す…というのがこの工房のコンセプトだ。


 とはいえ、基本的に『ソロモン一家』の各自の作業は自由である。

 依頼があればちゃんと仕事はこなすが、魔導技師のレビィなどは常に魔導銃に夢中だし、錬金術師のトルマに至っては、怪しげな薬を作り出しており、勇人ですら何の研究をしているのかを把握しきれていない。

 一見、堅気の職人で常識人に見えるシムダですら、元から鍛冶師兼魔導技師であり、職人でありながらアーティファクト級の遺物の復元と研究をしているような変わり者だし、その弟子であるトトノノもまた同様。

 ミルナなどはミレイヌの姉妹だけあって語る必要はなく、アズムドは…腕はいいのだが、極度の小心者で話下手なせいで、腕はいいのだがどこの工房でも扱いに困っていた人間なのだが、それでもこの工房にあっては扱いやすい人物といえる始末である。。

 何の縁か、そういう人間とばかり知り合ってしまうのが勇人という人間であった。




 「やっと解放された……もう当分、書類と判子は見たくない…」


 日が暮れそうな頃、やっとのことでミナトに解放された勇人が工房内の応接室でソファーに倒れこむ。

 ミナトはこの工房内に出入りする人間の中で、勇人達を除けば唯一の職人ではない人間だ。

 もともと『レムダ商会』で見習いをしていたのだが、勇人の作るものに興味を持った『レムダ商会』の会頭であり、ミナトの父に半ば強引に出向させられてきた。

 今では『ソロモン一家』の御用商人として、週に2-3回ほど顔を出している。

 もちろん、ここに出入りするからには、工房内の移動制限と情報制限の制約を契約書でサインしてもらっている。が、まぁ、こういう契約書に強制力はなく、結局は信頼の問題なのだが、大物商会の箱入り娘でもあり、生真面目な奴なのであまり心配はしていないが、念のためである。

 色々、怪しいものが大量に作られているようだからな…知らないうちに。


 「お勤めご苦労様だな、ガハハ」

 「この…まぁいい、ミナトも帰ったしあれの話をするか。親方、例の奴の進捗はどうなってる?」


 疲れた顔から一転、勇人の真面目な表情で親方に問いかける。


 「ん?あぁ…あれなぁ、今のところは順調だ。材料もたんまりあるし、まったくどこで手に入れたのか…お前さんから預かったアーティファクトをサンプルに、術式はヴァニラの嬢ちゃんが組んでる。まぁ年明けには試作品が出来るだろうさ、しかしお前もどえらい物を作らせるもんだ、簡易設置型転移装置なんて」


 今現在、親方には個人的な依頼で空間転移用の魔道具を作成してもらっている。

 色々な場所を巡って思ったことは、やっぱり移動はメンドクサイよねってことである。

 だが、この世界に空間転移を可能にする魔術を扱えるものはいなかった。

 理由は簡単で、人の演算処理能力では、転移先と転移元の座標を認識をし、その距離を折り曲げる歪曲空間の計算、その演算を行うことがほぼ不可能だからだ。

 だが、空間転移の魔道具が存在しないわけではない。

 この大陸のいたる場所に存在している、古代文明の物と思わしき巨大な遺跡の中にそれらしきものが発見されているし、実際に起動できるものはある。

 親方に渡したものは、これまた魔王の遺産からとりだした壊れた魔道具である。

 だが、この魔道具、手のひらに載るほどの小型で転移装置である事が分かっているものの、壊れていて起動は出来ず、なにより肝心の術式(プログラム)が消えていて、修理もできなかったため、親方に研究用として預けておいたのだが、プリムはなんとその転移術式を自分でくみ上げてしまった。

 末恐ろしい子である。

 だが、その事をきっかけにヒートアップした親方の手により、現物よりは少し大型になってしまったものの、こうして簡易設置型転移装置(仮)は完成の目途がついた。


 「あれば便利だろ?いつ旅に出ても、すぐ戻ってこれるしな!」

 「便利ってレベルじゃねぇだろ。技術革新ともいえる世紀の大発明だ、転移装置なんてアーティファクトレベルの代物だぞ。しかも現存するものは遺跡にある大型過ぎて移設したりは出来ねぇものだし、コストも高すぎてとても気軽に実用できるもんじゃねぇ、それをコストはともかく、サイズを縮小して運用しようなんてなぁ…。まったく超危険人物だぜ、おまえは」


 親方の顔は少々あきれ顔だが、実際に呆れているわけではないことを知っている勇人は口元に笑みを浮かべる。


 「でも、おっさんだってウキウキのノリノリでやってるくせに、好きだろ?こういうの」

 「まぁ、大好物だな!うひひひひ」

 「うひひひ、期待してるぜ、おっさん」


 勇人と親方が声を潜めて悪い笑みで笑いあう。


 「男二人でなに笑いあってんねん…気色悪いわぁ」

 「何だよ、レビィ。今日はこっちに魔力注ぐから、お前の実験には付き合えないぞ!」

 「それもあったんやけど……ちょっとこれ見てほしいねん」


 レビィが机の上に荒く手書きされた設計図を広げる。


 「あぁ、新しい魔導銃か。ん?…これは、スナイパーライフルか?」

 「ん?ライフルってなんなん?とりあえず長筒式にして命中精度と速度を上げよう思てかいてみてん。飛距離も格段に上がんで!」


 レビィが途端に目をキラキラさせて設計図の解説を始める。

 親方と勇人がそれを神妙な顔で見つめる。


 「なるほど、発想は悪くねぇ…だが」

 「これは、いつものより更に【理石】の使用コストが高いな、パッと見だと倍以上か?生産には向かなそうだ」

 「そうやねん。そこがネックやねん…けど一回作ってみたいよ。なぁ…ソロモンやっぱだめかなぁ?」


 レビィが少し不安そうな瞳でこちらを見てくる。

 そもそも、この工房の素材のほぼ7割が俺が持ち込む素材で成り立っている。

 ある程度は自由に使わせているが、それなりに大きく使うなら俺の許可がいる。


 「うーん、そうだな…」


 レビィは魔導銃の制作に異様と言えるほどの熱意を持っている。

 そもそも銃はこの世界では実用が非常に難しく、まるで普及されていないのに…だ。

 魔導銃は仕組みとしては単純で、中に仕込んだ二系統の術式を組み込んだ【理石】を発動し、反発する魔力爆発のエネルギーで発射しているのだ。

 速度は元の世界の銃撃と変わらないものの、普通の弾丸ではある程度の力を持つ者の魔力を突破できず、魔力の壁に容易く阻まれる。

 そのため現状は、一部の裕福層の人間が護身用に持ち運びしているくらいである。

 実際問題、実用的な銃弾を作るにはミスリル製なんていう特殊金属を使うか、もしくは術式を使って魔力を封じた特殊弾丸を作る必要があり、そんなものを作るには、大量の魔力か大量の資金と資源を必要とする。

 詠唱や術式構築を必要とする魔術に比べ、速度に優れ、ゆえに魔力感知もされにくく隠密性に優れる魔導銃、だがコストが多大であるに対し、術式構築を必要としながら自身の魔力のみをコストとして、あらゆる状況に応用が利く魔術。

 同じ飛び道具でありながら、魔導銃が普及する兆しを見せないのにはコスト面での問題が大きい。


 そもそも、殆どの魔道具には【理石】という特殊な鉱石が使用されている。

 この【理石】は別名【血石】もしくは【賢者の石】とも呼ばれている赤い鉱石だ。他の金属と違い、大量の魔力をその内部に貯蔵することが出来るのが特徴で、加工して最初に内包されている魔力を空にすると白く変化し、そこに宿す魔力の質で様々な色が変化する。

 ミスリルや白銀などでは魔力伝達率は高いが魔力を貯蔵することは出来ず、徐々に拡散してしまうのだ。

 この【理石】だが、流通量が多くない。

 それは【理石】がダンジョン近辺からは稀に発見され、ダンジョン内部から採掘するにも、危険なダンジョン内で採掘するのが一般人には無理なためだ。

 だが、何事にも例外があり、実はダンジョンを攻略したのち、その跡地から大量の理石が発見できるのだ。

 そのため、ダンジョン攻略には大量の懸賞金も与えられると言う訳だ。

 最初その事実を知った時には、ヴォルブルクまで言って支部長のおっさんを殴り倒そうかと思った。

 まぁ今となってはどうでもいいことだが。

 その後は人知れずダンジョンを攻略した際には、その跡地から大量に土魔法で【理石】を掘り出し、確保してある。

 更に、この【理石】…実はうちの地下室から採掘できる。

 あそこもダンジョンには違いないので、ある意味当然なのかもしれない。

 他の鉱石類に関しても、以前突撃したダンジョンの中にゴーレム天国の場所あったため、各種鉱石が【持ち物】の中に大量に格納されている。

 しかもそこのダンジョンボスが巨大なオリハルコンと黒鋼に身を包んだ、デモンゴーレムという、とんでもない場所だった。

 現状、どれだけ浪費したとしても工房『ソロモン一家』が素材不足になることはない、とはいえ無限と言う訳でもないのだ。


 勇人が考え事をしていると、レビィが少し落ち込んだように俯いている。


 「まぁ別にかまわないぞ」

 「えっ!ホンマ?!嘘やったら舌引っこ抜くで!」

 「なんで、いちいち攻撃的なんだよ!」

 「ええやんそんなの!ほんまおおきにー!」

 「ただし、当然試作品の作製ごとに性能テストをして、制作を続けるかはその結果次第だな。あと、まずはコスト度外視で飛距離を伸ばすようにしてほしい」

 「それはなんで?」

 「狙撃銃の特徴はその命中精度と飛距離だ。見えない場所からスナイプすることが出来るなら、どんなにコストがかかろうが用途の幅は広がる。逆に中途半端な距離でしか使えないのではまったく意味がない」

 「な、なるほど…なんでか妙に説得力があるわ」

 「散々やったからな…。まぁそれはいい、そこで形だが…こうやって肩に固定する様にして…あと固定砲台とかも…スコープ…照準を合わせる様に望遠鏡をつけて…あと弾丸の形状だが…」

 「おおぅ!ソロモン、あんたホンマは天才か!もう、めっちゃ素敵やん、キスしたるわーー!」


 テンションを上げ過ぎたのか、飛び掛かって来たレビィを片手で頭を抑える。


 「いらんわ!…まぁこんな感じでよろしく」

 「うしゃーー!まかしとき!みなぎってきたでぇぇぇぇぇぇぇ!」


 レビィが目に炎を燃やしながら、設計図を握りしめる。


 ドドドドドドドドドォ


 そのまま扉を勢いよく開け、廊下を駆けだしていく。


 「うーん、若いねぇ…」

 「レビィには悪いけど…完成しても、危な過ぎて世には出せません、間違いなく封印庫行きですね」

 「…ままならねぇなぁ~」





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