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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第三章 勇者と魔王、出会う!?
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26話 新たな旅立ち

 

 手紙の内容は、大したことではない。

 ユウト=シノノメ殿、この度は貴殿の活躍を耳にし~うんうん、その力を一度拝見したく~なになに、一度神聖皇国まで来られたし~ごにょごにょ、経費についてはご心配なく~あうあう、ついては選定勇者の選定も視野に~むにゃむにゃ、なんて文章だ。

 

 「要は、選定勇者に決めかねてるから、一度神聖皇国まで来て力を見せろと、そこで力を見せたら選定勇者にしてやるぞ!嬉しいだろこんちくしょーって内容なわけだな」

 「流石に端折りすぎです、ユート様」

 「でも、間違ってないんだからいいじゃないか。正直気乗りしないし」

 「そうですね」

 「でも、どうせ無視しても無駄だって話だしな、はぁ…」

 「いっそ、滅ぼしてしまえばいいのでは?」

 

 おいおいミュー、最近は大人しくしてると思ったけど気のせいだったか?

 いや、これはさすがに冗談か…ならたまには乗ってみようかねぇ

 

 「そうだなぁー……よし、ミュー!戦争だ!着いて来い!」

 「はっ、はい!畏まりました! このミュハイル…身命を賭して、必ずや魔王様に神聖皇国の嘆きと崩落の音を捧げます!」

 

 ミューが仰々しく跪き、礼を捧げる。

 

 うん、興が乗っているようで結構だな

 

 「なぁーんてねぇー、流石に国は無理だよね!アハハハ…ハハ、ハハ、ハ?」

 「「…………」」

 

 部屋の中に、俺の笑い声だけがこだましている。

 

 「は?」

 

 ミューが呆気にとられている。

 

 「…え?」

 

 あれぇ?

 

 「え、冗談だよね? …勝てると思ってるの?」

 「え? …ユート様なら、なんだかんだで楽勝じゃないんですか?」

 

 マジかー、マジだったかー…

 

 「いやいやいや!無理だろう、おまえ。国相手に、しかも最強クラスの『選定勇者』が何人もいるんだぞ! もう、マジで怖いわお前!マジ引くわー!」

 

 ドン引きだわー

 

 というかこの人、どんだけ俺を評価してるんだよ?

 その事にもびっくりだわ

 

 「えー!そもそも、ユート様が最初におっしゃったんじゃないですか!」

 「いやいや、お前…そりゃ普通冗談だと思うだろうよ! どこの魔王だよ、俺は!」

 

 ん? ミューが口を開けたまま止まっている。

 

 …ポンっと手を鳴らす。

 

 「……あ、俺か魔王!」

 「もしかして…忘れてませんか? ご自分の立場を…」

 

 あぁ、視線が痛い…

 

 「イヤダナー、ソンナコト、ナイデスヨ」

 「嘘、ですよね?」

 

 はい、嘘ですよ

 

 「ほ、ほら!それより、準備しないとな! 今度は長旅だし、いっそ馬車でも買うかねー」

 

 目線をミューから逸らしつつ、捲し立てにこれからのプランを考える。

 背中からなんか熱気を感じるんだけど、怖くて振り返れない。

 

 「はぁ…それもいいですが、旅立つなら、お世話になった方にもあいさつした方がいいのでは? 私達もそれなりに長い期間をこの町で過ごしましたし」

 

 そうゆうとこは意外としっかりしてるよね、ミューは

 

 「そうだなぁー……」

 

 お世話かー、お世話に……なったか?

 

 「…別にいらなくね?」

 「ユート様…"人"としてのマナーですよ」

 「…わかったよ」

 

 一部はともかく、宿の人とか町の人にはお世話になって、それなりの知り合いも出来た。

 その人達に挨拶回りするのは悪いことではないだろう。

 

 「みんなも、個人的に回りたいとこがあるなら自由にしてくれていいからね」

 「私は、特にありませんので、ユート様についていきます」

 「特にない」

 

 そうだね、ミューはほとんど一緒にいたし、プリムは引き篭もりだったものね

 

 「僕はちょっと行きたいところがあるかな!」

 「ミラも同じ~?」

 

 タマとミラも色々散歩してたしな、俺の知らない知り合いは多そうだな

 

 「OK、んじゃミューとプリムは一緒な、タマミラもあまり遅くならないようになー、夕飯までにかえって来いよー」

 

 「「はーい」」

 

 

 宿屋の主人に出発の意志を伝える。

 にこやかに笑って

 

 「また来た時にはまた使って下さいね。家は防音も結構しっかりしてますからね」

 

 なんて言われる。

 

 おっちゃん…本当にお世話になりました

 

 

 服飾屋では店長さんと、ミレイヌさんが揃って出迎えてくれた。

 

 「ユートさん!このかわいい物体は一体何なのですか!!」

 

 店に入った途端、挨拶もそこそこにミレイヌさんが開口一番に言ってくる。

 その眼は完全にプリムをロックオンしている。

 

 「えっと、うちの仲間です、けどーって何してんですか!」

 

 俺が話している間、手をワキワキさせていたミレイヌさんが耐え切れなくなってプリムに飛びつこうとした所を、店長さんが羽交い絞めにして抑える。

 プリムが珍しく分かり易いくらいに驚き顔だ。

 

 プリムさんのレア顔ゲットだぜ

 

 「…申し訳ありません」

 「いえいえ…あ、そうだ、ミレイヌさん、いいアイディアがあるんですが、かくかくしかじか」

 「ふんふん、それは面白そうですね。…しかし、制作にはかなりの時間と予算がかかりそうですよ?」

 「大丈夫、ミレイヌさんの腕は信用してますので、無理じゃないならそれくらいは提供しますよ?」

 

 今回提供したものはいわゆるゴスロリ服、ドレス仕様と言ったところだ。

 プリムは普段服を一切持たず、基本的に黒のローブを着まわしている。

 物が良いのは分かってはいるのだが、やっぱり…ねぇ、かわいい子にはかわいい服を着てもらいたいのが男心という者である。

 初期費用を先払いし、若干どころではないほどに、息を荒くしているミレイヌさんにプリムの寸法を取ってもらう。

 プリムがあたふたしているが、そんなプリムにミューが笑顔で手を振っている。

 まぁ、いつ出来上がるかはわからないし、そもそも次この町に来るのがいつになるかはわからないが、無駄になること絶対にないと断言できるから構わないのだが。

 

 その様子を見ていた店長さんが、

 

 「当店は配達も承っておりますよ?」

 「……必ず一番に連絡させてもらいます」

 

 今更だが、この店は『サバテル服飾店』で、店長さんはアンドレさんというらしい。

 この店の名前は絶対に忘れない。

 

 

 冒険者ギルドに向かう。

 昼前なので、人の出はいりがはまばらで空いている。

 カウンターを見ると、受付のラナさんと目があったので話しかける。

 

 「どうもー、今日は支部長さんはいますか?」

 「あ、ユートさん。ご用件は何でしょうか?」

 「近く、この町を旅立つことになりましたので、挨拶をと思って」

 「あらあら、寂しくなりますねー。聞いてきますので、ちょっと待ってくださいね」

 

 少し待って、許可が出たようで、一人支部長室に向かう。

 

 「どもどもー、お疲れ様ですー」

 「…君は、会うたびに気安くなっていくな」

 「そこは、色々あったしお互い様ってことで!」

 「まぁ、もういいがね。で、どこに行く予定なのだ? 紹介状がほしいなら一筆書くくらい構わないが?」

 「言わなくても、もう、情報は入っているのでしょう? あ、紹介状もいりません、今日は本当にただ挨拶に来ただけですので」

 「ふむ、残念だが、事情が事情だしな、止めるわけにもいかないし、その権利もないな。まぁ元気でやることだな、あまり周囲に迷惑かけるなよ」

 「酷い言い様ですねー」

 「…自覚はないのか?」

 「いやー、ハハハ……では、失礼します」

 「あぁ、達者でな」

 

    ・

    ・

 

 「後は…あそこか……」

 「いってらっしゃいませ」

 

 ミューとプリムが笑顔で手を振ってくる。

 

 「え? 来ないの!?」

 

 最初から一人で行く気ではあったけど、そんな態度されると少し傷つくよ

 

 「どうせ後はあそこだけでしょうからね。私達はいかない方がいいでしょう?」

 「まぁ、言いたいことは分かるんだけどね。できれば俺も行きたくないし…」

 

 深いため息をついてから一人神殿に向かう。

 

 受付らしき場所に人がいたので、リンシャさんへ言づけてもらうことにしたんだが…。

 

 ゾクリッ!?

 

 神殿の前でリンシャさんを待っている間、【危険感知】がものすごい殺気を捕らえ、振り返ると同時にとっさに剣に手を当て構える。

 振り返った先には、金髪の細身の綺麗な女性がにこやかにほほ笑んで立っていた。

 

 「………」

 

 しばらく無言で見つめあっていたのだが…動きがない。

 勘違いかな? と思って剣から手を離そうとするのだが、なぜか剣から手が離れてくれない。

 それどころか、背筋に冷たいものが流れ続けて止まらない。

 

 なぜだろう…この女の人に本能的な恐怖を感じてしまうんだが…まるでキングコブラに出会ったヒキガエルの気分だ

 

 

 とうとう、足が微かに震えだした頃

 

 「アンジェル!!」

 

 リンシャさんの声が耳に響く。

 リンシャさんは酷く焦った様子だ。

 

 というか、こいつがアンジェル…だと?

 

 「ふふふ、あらあら、どうしたのかしら? リンシャ。あなたらしくない焦りようだわ。ここは神殿の前なのですから、騒いではいけませんよ?」

 

 アンジェルと呼ばれた女の人は今だにこやかにほほ笑みんだままの笑みを眉ひとつ動かさない。

 その能面のような笑顔が何とも恐怖を誘う。

 俺はリンシャさんに話しかけようにも、なぜか金縛りにあったかのように声が動かない。

 

 え?なにこのホラー!

 

 「アンジェル…落ち着きなさい。もう話はついたはずでしょ? 彼を恨むのは筋違いという者だろう…」

 「あらあら、何を言っているのかしらリンシャ。彼? いえ、ここには……」

 

 ゆっくりと、アンジェルの能面の様な笑顔が消え表情がなくなり、その眼が小さく見開かれる。

 その瞳の色は…凍えるほどに、冷たい。

 

 「虫!…しかいないわよ」

 

 ガクガクガクガクガクガク……

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

 

 「アンジェル!!」

 

 リンシャさんが怒気を含めて一層強く叫ぶ。

 

 「ふぅ…えぇわかっているわ。ちょっとふざけただけよ。本気にならないで…それじゃ、私はこれで失礼するわ」

 

 そう言って立ち去ろうとするが、一瞬振り返り小声で

 

 「今後、背中には気を付ける事ね…この、虫が!」

 

 そう囁き去っていった…。

 俺はその背中をずっと眺めていた。

 というか、アンジェルの姿が消えるまで、俺は話すことも一切動くことも出来なかったのだ…。


 臆病者と蔑めばいい! すげー怖かったんだ!


 

 「…大丈夫かい?」

 「とりあえず…泣いてもいいですかね?」

 

 もう一度言う、すげー、怖かったんだ…

 

 「そうか、すぐに町を出るのか。分かっていたこととはいえ、シオン様が悲しむだろうな」

 「えっと、そういえばシアは?」

 「あぁ…今は無理だな…」

 「…いったい何が?」

 「私の口からは…どうしても聞きたいか?」

 「いえ、遠慮しておきます!」

 

 思わず背筋を伸ばして敬礼のポーズで答えた。

 

 君子、危うきに近寄らず

 

 「シオン様には私から伝えておこう。道中トラブルに気を付けてな、また会おう」

 「はい、リンシャさん、お世話になりました、またどこかで!」

 

    ・

    ・

    ・

 

 街道を一台の馬車が走る。

 天気は快晴、風も気持ちいい。

 時速30-40Kmと言ったところだろうか、通常の馬車では考えられないほどのスピードだ。

 

 俺達が購入した馬車は幌浮馬車ほろうきばしゃという、その名の通り馬車がわずかに浮いた状態で走行しているため、馬は一切の重量を感じないのだ。

 魔道具すげーと思うかもしれないが、ここまで出来て何で動力が馬よ?って思うわけです。

 なんでも、常に荷台を浮かすだけならそこまで魔力を食わないが、これを魔力で前に速く進めようとすると、すごく燃費が悪いそうだ。

 なので、長旅する以上、継続的な動力は動物に任せる他ないのだという。

 何とも中途半端な話である。

 ここら辺が魔法文明と科学技術の利点の違いなのだろう。

 まぁ文句言っても、車の作り方なんて、ただの学生が知ってるわけないからどうしようもないんだけどさ。

 

 まぁそれでも、通常の馬車の速度が15-20Kmと考えても、約2倍のスピードだ。

 旅には十分すぎる速さだろう。

 魔道具なので、それなりの値段もしたしな。



 御者は俺とミューが交代でしている。

 いつもなら俺がすることに文句の一つも出るんだが、他に人選がない以上仕方ないので納得してもらった。

 まぁ風も気持ちいいし、こういうのは嫌いじゃない。

  

 「御主人!これ、僕が引いたらもっと早いんじゃないかな?」

 

 後ろからタマが顔を出してくる。


 「絵面的に、アウトだ! 大人しくしてなさい」

 「じゃぁじゃぁ、ご主人が引いたらもっと早くなるよ!」

 「人力車かよ! ってか主人にひかせるなよ!」

 

 確かに速そうだが…いや、ダメだやめよう、それは流石にミューに怒られる。

 何かあって逃げる時にやって見るのはいいかもしれないがな。

 

 「zzz……むにゃむにゃ、もうご主人様食べられないの~」

 

 荷台に乗って寝ているミラの寝言が聞こえてくる。

 何言ってるんだこいつは…。

 

 「ミラ、その寝言だと俺が食べられてるみたいなんだけど…あぁだめだ、寝てる奴にツッコんでも意味がない」

 「魔王様の病気がみんなに移ってしまってますね…」

 

 隣で手綱を握っているミューがため息をついている。

 

 「俺のせいかよ!?」

 「さて、次は神聖皇国ですか。はぁ、今度は一体どんなトラブルがあるんでしょうかね……」


 無視かよ!

 …というか


 「え、何の事?」

 「…え?」




第一部終了です。

おまけ話をはさんで次に続きます。


次章 魔王、世界を巡る


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