18話 仲魔進化
「…し、しかし、相当数倒しましたね。 魔王様のBPもかなりの量たまっているのではないですか」
これ見よがしに話題を変えてくる。
実際、ダンジョンボスであるキマイラを倒してから強化をしていなかったので、かなりの量たまっている。
だが、まぁ実は何に使うかはもう決めていて、そのために溜めていたのだが。
「そうだな…そろそろ、一度ミラ達の進化を試してみたかったんだよね」
「魔物の進化、ですか…」
ん? なにやらミューの顔が微妙そうだ。
何かあるのだろうか?
「あ、いえ。別に進化したからと言って、すぐにどうこうということもないでしょうから、問題はないでしょう。 魔王様の好きなようにして構わないかと思います」
ちょっと、気にはなったけど、隷属の契約をしてるし問題はないだろうと早速ミラとタマを呼び出す。
「んじゃ、進化させるけど、何か体に異常が出たら、すぐにいうんだぞ!」
「コン!」「(プルプル)」
二匹が返事を返してきたので、『メニュー』を呼び出し、『仲魔進化』からミラとタマを選択する。
ミラとタマの体を黒色の淡い光が包み込む。
しばらくして、光が収まり消えるがその姿に変化はない。
あれ? 失敗?と思ったけど、しばらくして二匹が地べたに倒れこむ。
ミラの丸いスライムの体が、まるでバ○ルスライムの様に平べったくなっている。
俺が慌てて抱きかかえる。
「恐らく、進化の過程で少し体に負担がかかっているのでしょう。 一日も休めば問題ないと思います」
「マジで!? 本当に大丈夫なの?」
「呼吸も安定してますし、問題ありません。 私も知識でしか知りませんが、魔物が進化する際は、一度眠りにつく必要があるそうですから」
「そういうことは、早く言ってよ!!」
ミューが懸念していたのは、こういうことだったのだろうか。
とりあえず、一日休ませたら大丈夫らしいので、急いで町まで走り、寝台に二匹を寝かせることにした。
結果、行きは馬車だったが、帰りはそれよりもはるかに速く街に着くことになる。
このまま全員で見守っていても埒が明かないので、依頼達成の報告だけを終わらせにギルドに行くと、受付をしてくれたラナさんに、こんなことを言われた。
「おめでとうございます、ユートさん。 これでBランク試験達成ですね」
…は?
「すいません…何のことですか?」
俺が笑顔を引き攣らせながらも聞くと、この依頼は昇級試験依頼として登録されていたそうだ。
少なくとも書類上は。
「支部長から、何も聞いていらっしゃらないのですか?」
「えぇ…何も」
「えっと、しかし、これでユートさんはBランク昇格が決まりましたので、良かったではないですか?」
嬉しくはない、むしろ敢えて避けた事だったはずなのだが…。
「…ラナさん、ところで…支部長は今いらっしゃいますか?」
「ひっ!」
さっきよりも数段上手くできたはずの笑顔で話しかけたのだが、ラナさんが小さな悲鳴を上げて青くなる。
「え、えーと、支部長はですね…実は、昨日から王都の方に出かけておりまして…帰りは恐らく1週間後かと…」
「くっ!」
あの爺! やりやがった!
どうやら見事に一杯喰わされたようだ。
取りあえず、情報が伝わっていなかったことを理由に、昇格を延期させてもらうことにした。
普通、昇格できなくて異議申し立てをする人はいても、昇格ができることに対して申し立てをする人いないわけで、かなり困惑した様子だったが、無理矢理納得してもらった。
とりあえず、あの爺は今度会ったら殴ろう
俺はそう、心に誓いながら宿へと戻っていく。
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うーん、なんだか気持ちいい。
誰かに抱きしめられているのがわかる。
このすべすべな肌、少しひんやりしている感じが気持ちいい。
この小さな感触はプリムだろう。
微かに開いた薄目から銀色の髪が見える。
ミラとタマの様子も見ないといけないので、その日は宿について何もせずに寝たのだが、ひと肌恋しくて潜り込んできたのだろう。
かわいいやつめ。
そんなことを考えていると、また反対側からも抱きしめられている感触がする。
この、とてつもなく包まれるようなやわらかな感触…ミューか。
ミューもひと肌恋しくて潜り込んできたのかな? 珍しいなぁと思いつつも、かわいい奴め!と思い、傍に寄せる様に抱きしめ返すと、ふわふわの髪の毛の感触が顔を撫でる。
向こうも抱きしめられたのが分かったのだろうか、呻き声を漏らしながら、より一層腕に力を込めて、尻尾を俺に巻き付けてくる。
触るとすごく、ふわふわしている。
背中まで伸びる髪と、巻き付けられた尻尾の毛並の感触が気持ちいい。
……ん? 毛並み? 尻尾?
「ま・・・おう、さ、ま」
その声に、意識が覚醒し、目を見開いて起き上がる。
目の前には青い顔をしているミュー。
え? ミュー?
周囲を見渡すと、俺の左右には二人の見知らぬ女の子が寝そべっている。
というか、起き上った俺に対してまだ抱き着いているので、半身起き上って見えてはいけないものがはっきり見えている。
左に抱き着いているのはプリムをさらに少し幼くした体格の、銀髪ショートヘアの丸顔のかわいらしい小柄な少女。
きれいな銀髪だが、よく見ると薄く虹色に輝くメッシュが入っている。
うん…見覚えはない
右に抱き着いているのは、黒髪黒目ふんわりと柔らかそうな髪をしたロングヘアーで耳の上部分と後ろ髪の毛先だけが白い、俺より身長が高い。
全体的にボン・キュ・ボンとなっていて理想的なモデルの様な体系だ。
うん…見覚えはない。
ん? いや、なんか覚えがある。
左の銀髪の女の子の身体を撫でる…すごい、すべすべしてる。
この癖になりそうなツルツルの感触が気持ちいい。
「あっ…」
右の女の子の髪と尻尾を撫でる…ふんわりとした触感、頭の上に耳が生えてて、そのちょっと硬くてすべすべした毛並みの感触が気持ちいい。
「ん…あん♪」
狐の様な少し尖がった耳、そしてこのふんわりとした毛並み、三つに分かれた…触り慣れた尻尾。
あ、これはもしかして…
「コンとミラー!?」
俺が叫び、その瞬間意識が刈り取られた。
最後に俺が目にしたのは、目を赤く滾らせて、拳を振り降ろした…ミューの姿だった。
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「えっと、つまり進化ってのは何なのかな?」
数時間後、やっと起き上れた俺が話し始める。
その顔は大きく赤く腫れ上がっている。
ミラとタマは今それぞれ黄色と黒色のワンピースを着ている。
「魔物の進化とは、その魔物が臨む力を与えます。 もちろん姿も変わりますが、基本的には魔物は力を求める性質を持っていますので、大体はその身を強く、大きくすることを選択するのですが…まさか、このような姿に変わるとは…」
「へぇー、人型って珍しいのか」
「えぇ、魔人化は本当に珍しいケースです。 過去にも数度しか記録されていませんし、一説には魔族の原初とも呼ばれていました、ですが過去の学者の調査により進化形態が違うことが判明しておりますが、人族の間では、まだその説が根強く囁かれています」
「ふむ、つまり、こいつらは何かを望んで、そのために人型の姿を求めたってことだよね?」
「えぇ、おそらく…」
なにやら複雑な顔で口を横に結ぶミュー。
「なぁ、ミラ、タマ!」
勇人が名前を呼ぶと、二人?が少し首を傾げてこちらを見てくる。
「お前ら、どうしたかったんだ?」
少し考え込む様に口に指を当ててから、ミラが
「うーん、いちゃいちゃ?」
見た目通りの無垢な顔と瞳で言ってきた。
「ブッ!」
ミラの一言に、ミューが盛大に吹き出す。
そこに更に
「ご主人様は、ミューとプリムととても仲良しでしょ! 僕ももっと仲良くなりたかったのさ!」
とタマが満面の笑みで続ける。
見た目は完全に大人の女性なのに、タマは妙に幼い話し方をする。
成熟した体と知識で生まれたとはいえ、実際の年齢はまだ1歳になっていないので、当たり前といえば当たり前なのだが。
あぁ…また、ミューが頭を抱えている。
昨日問題ないって言ったのに。
頭を抱えているミューを無視して、二人の『ステータス』を確認することにする。
魔人化することによって、二人のステータスはかなり変化するようだ。
No1 ミラ(ミラースライム) 0歳 ♀ Lv29 種族:粘体種-変異スライム-魔人
HP 5800/5800 MP 290/290
STR 290+50% VIT 3100+50% AGI 1015+50%
MA 145+50% MD 0+50%
スキル:捕食 溶解 硬化 魔力反射 体積変化 魔人化 人化
称号:魔王のペット 魔人
主人:ユウト=シノノメ
No2 タマ(闇狐) 0歳 ♀ Lv28 種族:獣族-霊獣-魔人
HP 3080/3080 MP 4200/4200
STR 336+50% VIT 336+50% AGI 420+50%
MA 504+50% MD 392+50%
スキル:狐火(闇) 重力操作(Lv、MA依存) 影化 影術 魔人化 人化
称号:元フロアボス 魔王のペット 魔人化 人化
主人:ユウト=シノノメ
ちなみに獲得した称号とスキルはこんな感じだ。
スキル 魔人化:魔人の力を解き放つ(各ステータス上昇+50%)
人化 :人の形態に変化する
称号 魔人:進化し魔人に至った魔物
ヤバイな…今まで気にならなかったが、称号:魔王のペットが今はすごく不味い感じがする…。
絵的に、人の姿した奴に対してペットはないだろ…。
それはともかく、今の状態は人化にあたるだろうが、魔人化することによって能力が解き放たれ、ステータスが跳ね上がるようだ。
特に、ミラの能力は驚異的だな。
魔法防御0という弱点は相変わらずあるものの、物理はほぼ効かず、魔法反射で大抵の魔法は通らないし、ただでさえ高いAGIがさらに増えることで、今や実質攻撃そのものが当たらない。
攻撃力が低いことが唯一の欠点ともいえるが…大した問題ではないだろう。
正直、俺にはまともに戦って倒す方法が思いつかん。
例え勇者が聖水を当てようにも、当たらなければどうということはないのだ。
タマはどちらかといえばプリムと同じ魔法タイプだが、ステータスはミューとプリムの間といったところだろうか。
技は汎用性に優れ、特に弱点はなく、非常にバランスがいいと言える。
影術に重力操作と、トリッキーでありながらなにかと応用がきく厄介な技が肝だ。
ちなみに、いつでも元の姿に戻ることは可能で、しかも元の姿になっても話すことができるようになったようだ。
今は人化になれて嬉しいのか、元に戻りたがらないのでしばらく気が済むまでそのままにしておく。
何はともあれ、更に頼りになる成長を遂げてくれたようなので、結果的には良かったといえよう。
うん、きっとそうだよ…そう思おうよ、それでいいじゃない
「ミラ、タマ! いい加減、いつもの姿に戻って、ユート様から離れなさい!」
「いやー?」
「アハハハ!だが断るー!」
ただ一ついえることは──
「ポチ、タマ、改めてこれからもよろしくな」
「うん」「よろしく、御主人!」
──俺の日常が、増々騒がしくなりそうだった。
「魔王様…」
「鼻の下なんて伸ばしてないよ!」
「まだ何も言っていません……あとで、『お話』、しましょうか」
「ミューさん…僕は無実です」
……話は綺麗にまとまらなかった。
ミュー「あ、とりあえずそこ、正座してください」
勇人「…なんか、すいません」
次回予告
「魔王様!大変です!」
宿の扉を勢いよく開いて息を荒げたミューが入ってくる。
ってかまた魔王様とか言ってるよ。
マジ、一回本気でお仕置きするべきだろうか・・・。
なんて余計な事を考えている俺に、ミューが繋げた言葉は、予想だにしなかったものだった。
「ゆ、ゆ、ゆ…勇者が攻めてきます!!」
「……は?」




