2話 チュートリアル?
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「申し遅れました。
私共はこれからの魔王様による、魔王様のための、魔王活動を支えるため、魔王様のお世話とサポートを担当させていただきます。
私は執事のミュハイル=フィルツと申します。御気軽にミューとお呼びください。
こちらはメイドのプリムで御座います。 プリム、魔王様にご挨拶を」
ミュハイルさんこと、ミューさんがまっすぐ伸ばした背筋を一切乱すことなく、とても綺麗な礼をしてくる。
すごく美人だけど、すごく堅そうな人だ。
切れ長の瞳の美人に鋭い目つきので見られると、黙ってるだけでなんか怖い。
ってか、魔王活動ってんだよ! いや、やめよう…聞きたくない、聞いてはいけない気がする。
「ん、プリム、よろしく」
プリムと紹介された少女が右手を上げて、よろしく!とすげー気さくに挨拶してくる。
うん、無表情で何考えてるかはよくわからないけど、こっちはスゲー接しやすな予感がするわ。
プリムは150センチくらいの、かわいらしい容姿の小柄な女性だ。
色白でセミロングの少しウェーブがかった銀色の髪に、綺麗な金色の瞳を少し気怠そうにしてこちらを見つめている。
小柄だけどスタイルは悪くない、全体的に細いし、カップならCはあるだろう。
「プリム、もーあなたはぁ…はぁ、まぁいいでしょう。 すみません魔王様、この子は有能なのですが、いささか礼儀に欠けるところがありまして」
「いやいや、そのままでいいですよ。 そっちの方がなんか安心するし、ミュハイルさんも気軽にお願いします。
なんか、肩がこっちゃうので…あぁ、挨拶が遅れてすいません、俺は東雲勇人といいます。 いや…こっちだとユウト=シノノメになるのか」
「ユウト様で御座いますね、畏まりました。
ですが魔王様、そういうわけには行きません。
それと、私共に敬語はおやめください。
主たるものが、下々のものに使う言葉ではありません!
あと、私の事はミューで結構です」
そう言われてもねー、俺は根が日本人だからな、初対面の人にはつい敬語が出るもんだ。
うん、これはしょうがないね。
「じゃぁ、ミューさんも敬語はやめてください」
「そういうわけにはいきません!」
「なぜ?」
「執事ですから!」
「じゃぁ…俺は魔王なんで、その言葉に従う必要はないので、やめる必要もないですよね」
「はぁ!? いえ…そんな……くっ…」
ミューは一瞬呆けたような表情を見せるが、しばらくして悔しそうに口を閉じる。
「魔王様、グッジョブ」
「イェイ」
俺とプリムがハイタッチする。
「なんでもう息ぴったりなんですか…」
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「でだ、とりあえず、俺はこれからどうすればいいのかな?」
「もちろん魔王様には、勇者を倒してこの世界を支配してもらいます」
さっきも聞いたなそれ、その答えもさっき言ったじゃん、もうマジ無理だから。
「…勇者って、強いんでしょ?」
「当然です! 憎らしいことですが、奴の持つ聖剣はその身に込められた思いを集め力とし、あらゆるものを切り裂きます。
それはもう、この世に切れないものはないのではないのかというほどの、凄まじい切れ味だそうです!」
ミューはフンッと鼻息を鳴らし、胸を張ってわずかに揺らしながら自信満々で答える。
うん、やっぱりでかい、つい目が向いてしまう。
いや、今はそれはいい。
はぁ…もうさっき心から叫んじゃったし、いいよな、言っちゃおうかな
「いや、それ無理だから・・」
「っ!? なぜです!あなたは魔王なのですよ」
ミューは驚愕といった感じで慌てふためいている。
だが、これは譲れない、何よりまだこの若さで死にたくはない。
「魔王でも無理なものは無理なんです。 そうじゃなくて取りあえず!まずは目先の話をしましょう」
ミューは渋々頷きながらも、かなりの不満顔だ。
ぷくーと頬を膨らましている。
これはいかん、ちょっとかわいいなと思ってしまうではないか。
「まず最初に確かめたいんだけど…帰る方法はないの?」
「…今まで、召喚された方が帰られたという記録は御座いません。 もちろんその方法も、私共にはわかりません」
やっぱり無理かぁ…。
覚悟はしてたけどかなりのショックだな。
まぁ友人関係は広くはない・・てかほぼボッチだったけどさ、それでもいろいろ気掛かりはあるんだよ。
せめて買ったばかりの新刊だけでも読んでおきたかった。
できるなら続きも。
「じゃぁ、まずは何から始めたらいいかな? 生きていくにはお金とか稼がなきゃいけないわけだし、どうしたらいいのかな?」
「それでは、まずは『チュートリアル』を行うのが、よろしいかと思います」
「『チュートリアル』なんてあるの!?」
「あります。 ステータスの時と同様に、『チュートリアル』と念じてください」
言われるがままに念じてみる。
すると、目の前にウィンドウが開き、文章が刻まれていく。
同時に、どこか呑気な声が頭の中に響いてきた。
『おはようございます。 なぜ、ここに呼ばれたかわかりますか?』
……。
『なーんて、こっちが勝手に召喚したんだけどね!テヘッ!』
なんだろう、このイラッとする感じは…軽く殺意がわいてきたんだが…。
これがテレビだったら、すぐさま電源を切るか、チャンネルを変えるね。
幸い、スイッチはないようだが…。
『さて、まずはこの世界について説明しましょう、ここは異世界「コルアース」。
この世界は、勇者と魔王が存在することで、魔力が正しく巡回し、運営されている世界です。
ただし、長い歴史の中で、魔王は抑止力の為に恐怖の対象として、勇者は人族の希望として認識されています。
…というわけでー、魔族と人族は互いに仲が悪いのです。
もしかしたら、争いに巻き込まれるかもしれませんねー。
今、無理って思いました? ですよねぇー。
ぷぷぷっ、だって素のあなたでは、スライムと同じくらいのステータスしかありませんしね(笑)。
ですので、その手に持つ魔剣についての説明をしましょう♪
その剣は、人や魔物を倒すことで、相手から力を奪い、奪った力で自分に従う仲魔を進化させたり、強化させたり出来ちゃいます。
更に、従えている仲魔の力の一部をあなたが扱うことが可能になります。
詳しく知りたい場合は、『メニュー』から『ヘルプ』コマンドを使用して、詳細を確認してください。
そうそう、重要な事を一つ言っておきます。
まず、あなたが元の世界に帰る方法は……ありません。
これはマジです!
なぜなら、あなたが元いた世界には、今も何知らぬ顔で、暮らし続けるあなたが存在するからです。
はぁ? 何言ってんのこいつ、脳みそに蛆沸いてんじゃねぇの?って思いました?
その言葉、そのまま返しましょう。
簡単にいうと、召喚する際、元いた世界からあなたの存在そのものを複製し、召喚しています。
なので、元の世界にあなたを心配して待ってる人もいませんので、ご安心ください。
ん?…そういえばあなた元から×××でしたね!! じゃぁ、別に気にする必要もありませんでした。 これは失敬。
ではでは、以上でチュートリアルを終わります。 良い異世界ライフを!
P.S 召喚代の経費もタダじゃないので、頑張って出来る限りは生き残ってください。 では頑張って生きてください!ファイトー!』
…。
ヤバイ…これはさすがにツッコミが追いつかない。
…ってか、俺やっぱりスライムと同じくらいの強さなんだな…とほほ。
もう、すでに無性に疲れ果てたけど、何とか気を取り直して『メニュー』と念じ、表示されたシステムコンソールを確認していく。
『ステータス』『持ち物』『BP操作』『ヘルプ』他にも空白になって光らない項目が何個かあるな。
『ステータス』は相変わらずだな。
改めてみても…やっぱり低いなぁ。 まぁ基準はわからないんだけど…スライムだしな。
『持ち物』は…まだ空か、『ヘルプ』によると、物に触れて【格納】で保存できるようだ。
生きているものは当然保存できない。
取り出すときは”【持ち物】と【アイテム名】を念じれば取り出せる。
結局、これが一番便利な機能かな。
『BP操作』には、『魔剣強化』『自身強化』『仲魔強化』と表示されている。『仲魔強化』は光が消えていて、今は操作できないようだ。
『魔剣強化』はATK強化、属性付与、特殊能力付与と…なんかこれも空白の項目があるな。
ちなみに、魔剣の現在のステータスはというと
”魔剣ダークサブジュゲイト 1段階 Lv1 ATK:100 耐久力:- 属性:-”
『自身強化』は、自分のステータス強化のほかに様々なスキルの取得と強化ができるようだ。
これにはちょっと心が躍った。
だって、ずらっと並んでるんだぜ!
”武技スキル”の剣術にから始まって、”魔法スキル”の各種属性魔法に、”特殊スキル”の欄に魔眼とかある。
これはだれだってウキワクするだろ!”固有スキル”は空欄だ。
でも、強化するためのBPは0か。
初回特典くらい欲しいものだ。 けちくせぇ…。
『ヘルプ』を確認してみるが、さっきの頭のおかしいシステムメッセージで書かれた内容以外に、目新しいものはないな。
ただ空白がおおい。
これもきっとそのうち補間されるのかもしれない、条件はわからないけど。
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「…なぁミュー、仲魔ってなに?」
「互いの同意により、『絆契約』を行い、従えた者の事ですね。 契約内容は主に、主従と隷属となります」
ふむふむ、契約ねー。
「…なぁミュー、契約とか魔物を従えるのとかって、どうすればいいの?」
「そうですね、最も簡単なのは、その魔物を倒し、圧倒的な力を見せつけることですね。
それなりに相手との実力差がなくては、相手も従うことはありません。
契約は、互いの血を混ぜて、互いに契約の呪文を唱えることで成立します」
ですよねぇー、そう簡単にはいかないか。
ってか、今までの魔王は一体どうしてたんだろうか…。
その事をミューに聞いてみると
「えっ!? えっと…そうですね。 召喚される魔王様は最初から魔法を習得していましたので、記録によると歴代最強とされる魔王様は、召喚されたその日に周辺一帯を更地に変えるほど強かったとかで、特に苦労したという話は聞きません」
おっと、どうやらここに歴代最弱の魔王が生まれたようだ。
俺が静かにで膝を抱えて落ち込んでいると、プリムが静かに歩いてきて俺の手を取る。
「いてっ!」
突然、俺の指をナイフで軽く刺す。
いきなり何をするんだこの子は!
指から血が滲む、そこにプリムが今度は自分の指にナイフを刺し、刺した指同士を合わせる。
「”我に共に歩め”」
「ん?」
「言って」
「”我に共に歩め”?」
「”汝に忠誠を、汝と我の二人を死が分かつまで、共に同じ道を歩むことを誓わん”」
その言葉と共に、勇人とプリムの右手が光りだす。
二人の手の甲に、契約の紋章が刻まれる。
「契約、成立」
プリムは口元をわずかに動かし、ニヤリとする。
ドヤ顔か?
「あ、あ、あ、あ、プリム、あなたはなんてことを!」
ミューがさっきから何やら慌てふためいている。
「これが契約?」
「そう、主従契約。魔王様、わたしを養う」
「…ん?」
「ずっと一緒」
何か文言にひっかかるものを感じる。
少し首を傾げ、疑問に思っていると、ミューが補足してくれる。
「あの、魔王様…主従契約は普通、その…主に互いに好きあい。夫婦になることを決めた者同士が行います。
仲魔の様に臣下や配下とする場合は、通常隷属の契約を結ぶんです」
おっふ。
プリムは相変わらずのドヤ顔のままだ。確信犯か…こいつ、やりやがった!?
いや、でもいいのかなぁ? 自分の事ながらこんなので、こんなかわいい子に、いつの間に好かれたんだろうか。
実際あって数時間、しかも数回しか言葉躱してないんだが…。
でも主従なのに夫婦契約になるのか。 変なとこで微妙な文化の違いを感じる。
とりあえず、悩んでいてもしょうがないかと思い、再度確認のために『メニュー』を開く。
予想通り『BP操作』に『仲魔強化』の項目が操作できるようになっていた。
『自身強化』の劣化版みたいなものだな、『自身強化』に比べるとスキルの数がだいぶ少ない。
それでも多分十分すぎる数があるんだけど。
あ、『メニュー』に『仲魔リスト』が増えてる。
操作してみると、プリムのステータスが表示された。
プリム 16歳 ♀ Lv20 種族:魔族-バラキ族 職業:メイド
HP 184/184 MP 510/510
STR 163 VIT 189 AGI 194
MA 589 MD 310
基本スキル
魔力操作Lv5
武技スキル
杖術Lv1 結界術Lv2
強化スキル
魔力強化Lv3
魔法スキル
火魔法Lv2 風魔法Lv1 水魔法Lv3 土魔法Lv1 無魔法Lv3
氷魔法Lv1 雷魔法Lv3 次元魔法Lv1 暗黒魔法Lv4
固有スキル
吸魔の魔眼
称号:魔眼の魔女 魔王のメイド 恋する乙女
主人:ユウト=シノノメ
おお、なんか中二病溢れるカッコいい称号がある!
この称号ってなんなんだろうか…、なんかいろんな意味ですごいな。
称号を注視していると、詳細が映し出された。
魔眼の魔女 :魔眼をその身に宿す者、数々の魔術の才に優れ、その者は魔女と恐れられる
魔王のメイド :魔王に認められし従者
恋する乙女 :身を焦がすほどの恋をした少女
しかし、ステータスが軒並み高い、Lv20でこれか。特にMAが高いな、プリムは魔法タイプって奴なのかな。
しかしプリムがすごいのか、俺のステータスが低すぎるのか…。
なんか、自然とため息が漏れる。
「はぁ…とりあえず、何となく色々わかったよ」
「それはようございました。ではいかがいたしましょう? まずは手ごろな村から向かいますか?」
「ん? そうだね。現地の人との交流も大事かな」
「は? いえ、早速恐怖を振りまきに、村を襲いに行くのでは?」
「はぁ!?」
ミューは過激だ。
俺が魔王として活動することを、まだあきらめていない。
というかあきらめる気はないようだ。
俺は二人に、チュートリアルとメニューで分かったことを落胆されることも覚悟の上で、正直に伝えることにする。
だって、このまま誤魔化してても何やらされるかわからないんだもん。
「というわけなんで、まずは適当にLv上げとBPを溜めないとどうしようもないことが分かりました。
どこか、手頃なモンスターはいませんかね?」
「それでしたら、この周辺に丁度良い場所があります。そちらに参りましょう」
「…出来れば、スライムとかゴブリンとか最弱の奴でお願いします」
「…」
「…ちなみにどこに行こうとしました?」
「スライムですね。 かしこまりました」
目を逸らしてスルーされた。
こいつ…今どこに連れて行こうとしやがった!?
ミューはなんかすごく焦っているような気がするんだよね。
正直ちょっと信用できない。
そういえば、俺の尊敬する泥棒さんも言っていたきがする、美人は信用するな、と。
もちろん銃を構えた方だよ。