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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第二章 魔王、ダンジョンに行く
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13話 エスケープ ラン ア ウェイ

 全員が、入口に向かって全速力で駆け出す。

 いや、全員じゃなかった! いつの間にかプリムが背中にしがみついている。


 「魔王様、速い、楽でいい」

 「お前はいつも気楽でいいなぁ! くそー!、またこれかよ!!」


 プリムとはだいぶ移動速度が違うし、どうせ背負わなきゃいけなかったからいいけどね。


 今いる場所は最下層である5層、ここから4層まではすぐだが、4層から次の階段まで相当に遠いし、先は長いのだ。

 60分で脱出とか…ぶっちゃけ無理ーー!


 勇人は心の中で泣き叫びながら駆け走る。


    ・

    ・

    ・


 勇人達は全力でダンジョンを駆け抜ける。

 駆け抜けたその後には、大きな砂煙が舞い上がっている。


 勇人がこのダンジョンで築き上げたLvとステータスは伊達ではない。

 しかも、最上位モンスターであるキマイラを倒したことで、凄まじいほどにLvが上がり、そのステータスは…色々とてつもないものになっているのだ。

 はっきり言って…チートである。


 駆ける勇人は気づかない。

 その速度は森の木々を躱しながらも時速で80キロを超え、すでにこの世界の住民から見ても、人としての能力をかけ離れていることを。

 並走するミューは当然知っているが、言わない。

 まさか気づいていないとは思っていないし、むしろ今は自分がついていくので精いっぱいだったのだ。


 駆ける! 駆ける! 駆ける!!


 プリムが補助とばかりに、移動強化魔法を二人に付与する。

 全身にわずかな追い風を感じ、更に速度が上昇していくのだった。


 ──3層


 駆ける! 駆ける! 駆ける! 駆ける! 駆ける!


 階段を駆け上り、洞窟ゾーンを進んでいく。

 道は障害物のない大通路になり、さらに勇人達の速度が上げっていく。



 ダンジョンが少しずつ崩壊を始める中、3層で残ったアーミーアント達は…待ち構えていた。

 勇人たちがこの層を去ったその時からずっと。

 自分たちの女王を倒した者達がいつか戻ってくるその時を。

 ──そして、ついにその時はやってくる。


   ・

   ・



 勇人の前面に立ちはだかる黒く高い壁が見える…。


 「は? なんだあれ?」


 アーミーアントが組体操をしているように折り重なっている。

 4段重ねになったアーミーアントの集団が、壁として立ちはだかっていたのだ。


 「任せて、魔王様、GO!」


 プリムが勇人の前面に魔法障壁を張る。

 透明なレンズ型の障壁が展開され、念のためにと勇人がその中にさらに風のカーテンを作り出す。

 さえぎる風さえもなくなり、ますます加速した勇人は、そのまま勢いを落とさずにアーミーアントの壁へと突き進む。

 衝突──アーミーアントはまるで運動会で負けたチームのごとく派手に吹き飛び、続いてミューがそのあとを追従して走り抜ける。

 吹き飛ばされずに残ったアーミーアントは、すぐに襲い掛かろうとするが──すでにそこに勇人たちの姿はなかった…。


 『ダンジョン消滅完了まで…・残り約30分 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』


 再び、ダンジョン内に機械音声の様な感情のない声が鳴り響く。


 「死ぬ死ぬ死ぬ…ぜぇぜぇ…これは…きつい…ぜぇ…はぁ」

 「魔王様2層への階段が見えてます! 急いでください!」

 「ふぁいとー」

 「いっぱーつ! って、やってるばあいじゃなかった! うぉーーー!」


 2層への階段を一足飛びで駆け上る。

 もはや、あまりの速度にその足元は見えない。



 ──2層


 『ダンジョン消滅完了まで…・残り約20分 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』


  残っている魔物が逃げ出す様子はない、ただ統率するキマイラがいなくなったせいだろうか、積極的に襲い掛かる様子もなく、むしろものすごい速度で爆進する勇人たちに驚き、逃げ惑いながらも道を開ける。

 進路上に走る邪魔なモンスターだけを蹴飛ばし、若干の速度を落とすも、凄まじい速度で駆け走っていく。


 「魔王様、次、右。次も、右、その次、は左の通路」


 プリムが正確にナビゲートしている。

 そのナビに従って勇人達は進んでいく。

 勇人はここら辺通るとき、プリムは半分居眠りしていたのを覚えているため、少々不安にはなるものの、プリムの事だからと素直に感心することにする。

 こんなとこで迷ってたら確実に間に合わないんのだから。


 「ずっとまっすぐ、まっすぐ、そこ右…はぁ喋るの疲れた…もう無理」

 「いやいや、こっちの方が大変だからさ!! それくらい頑張れよ!」



 ──1層


 『ダンジョン消滅完了まで…・残り約10分 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』


 1層はほぼ直進で進む…が凄まじく広い。

 途中、ハングリードックが勇人達の進路を何度も道をふさぐ。

 しかも知能が少ないせいか、この状況でありながら周りの魔物に無差別に襲い掛かっているようだった。


 石ころが転がっているようなものだが、これだけの数を避けているとたとえ勇人達であっても、それだけで時間がかかる。

 勇人は足に痛身を感じる…。

 すでに身体は限界は超えている、何となく自分のステータスを見るとHPがぐんぐん減っていっている。

 HPは体力とは別なはずなのだが…おそらくHPを減らし続けていることで、いまだ限界を超えて走り続けることができているのだろうと勇人は思った。


 『ダンジョン消滅完了まで…残り約5分 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』


 駆ける! 蹴り飛ばす! 駆ける! 弾き飛ばす! 壁を走って躱す!


 『ダンジョン消滅完了まで…・残り約3分 間もなく当ダンジョンは閉鎖されます 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』


 「よし間に合う!」


 ──と勇人が思った。

 その瞬間、それは目の前に現れた。


 ”闇狐(アンコ) Lv28 種族:獣族-霊獣 P2623/2800 MP2892/3210”


 洞窟から出ようとしていたのだろう、全長1メートルくらいの黒い三尾のキツネが入口へと走っていた。

 だが轟音と共に後ろから迫る気配に、足を止めて勇人達と向き合う。

 流石に、そのまま素通りは出来ない。


 ──ダンジョン出口を前にして足を止め、三人と闇狐は相対する。



 決して勝てない相手ではない。

 むしろ三人がかりで攻めれば、さほど苦労する相手ではない。

 のだが…。


 ミューが飛び掛かろうと構える、警戒した闇狐がその影から闇の霧のようなものを生み出す。


 「まて!」


 勇人は今にも飛び出しそうにするミューを止め、二人の間に立った。

 そして、闇狐と向き合う。

 互いの黒い目が重なり、周囲を静寂が包む。


    ・

    ・


 「………」


 『ダンジョン消滅完了まで…・残り約2分 間もなく当ダンジョンは閉鎖されます 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』

 

 じっと見つめあう二人、ごくりと互いの唾をなる音だけが鳴り響く。

 そのあまりに緊張を孕んだ空気に流石のミューも言葉をはさむことができずにいた。


 勝負は一瞬で決まる…そうミューは確信する。


 ミューが固唾を飲んで見守る中…先に動いたのは──勇人だった。



 身を沈め、片膝を地につける。


 そして右手を貫手に構え、下から掬いあげる様に掌を上に、前に出し

 ──口を開く。


 「お手!」

 「コン!」


 ズコー!と勇人の後ろで物音が鳴った。


 「おーおー、かわいい奴だな! すげーもふもふしてるぞ!」

 「コーン!」


 もはやかける言葉もない…と、ミューは何も言わなかった。

 もちろん言いたいことはあるが…多少の耐性がついたようだ。


 『ダンジョン消滅完了まで…・残り約1分 これより当ダンジョンは閉鎖されます 勧告、まだ残っている方はただちに退去してください』


 再びダンジョンに勧告が流れる。


 「魔王様!」

 「よし、出るか、お前も一緒に来いよ!」

 「コン!」


 闇狐を連れて、3人と2匹は洞窟を出る。

 


 『これより当ダンジョンは閉鎖されます 長らく御愛好 ご利用ありがとうございました』


 最後に後ろで、確かにそんな声がしたのを勇人は聞き逃さなかった。


 「アトラクションか!」


 勇人が突然叫ぶが、その意味を分かる人間はここにはいない。

 ミューもプリムも、闇狐ですら突然叫び出した勇人を見てキョトンとするのだった。


    ・

    ・

    ・


 何とか無事に脱出できたことに俺は安堵する。


 巨大な洞窟が消え、そこには四角いキューブ──ダンジョンを魔力に変え、吸収し終えたダンジョンコアだけが、淡い魔力光を浮かべてしずかに浮いていた。


 俺がダンジョンキューブを手に取ると、光が収まる。



 これって、もしこの瞬間狙われたらダンジョンコア奪われるんじゃないか?

 と思ったが、ミューが言うには管理者登録してる間は、持ち主以外は拒まれるらしい。

 試しにミューに触ると、バチッっと痺れる様な感覚がして弾かれる。

 本当に管理者以外は触れない様になっているようだ。

 なるほど…誰にも言わなかったが、キマイラ戦で密かに考えていたプランCは使えないようだった。

 え? プランCは何かって? やだなぁ、もちろんこっそり持ち逃げ作戦にきまってんじゃん。

 ミューに言ったら、絶対怒られると思って言わなかったけどさ。



 闇狐は、俺に身を寄せながらずっと毛づくろいをしている。


 「魔王様…この子はどうするつもりですか? 見たところ、敵対意志がないのは分かりますが…」


 闇狐をみると、首を傾げてこちらを見つめている。


 あぁ、かわいいなぁ…癒される


 取りあえず撫でてやる。

 なぜかプリムが寄ってきて頭を差し出してきた。


 「魔王様…」


 プリムも一緒に撫でてると、今度はミューに睨まれた。

 しょうがないなぁ・・とミューを撫でたら何故か怒られた。


 俺は腰を下ろして地面に胡坐をかき、闇狐と向き合う。


 「んー! おまえ…俺達と一緒に来るか?」

 「コン!」


 良い返事をもらえたようなので、契約することにした。


 「”我に従え”」

 「コン!ココン!コン!」


 俺の手の甲に刻まれた紋章が光る。

 同時に、闇狐の前足に契約の紋章が浮かび上がった。



 話を聞くと、どうやらこの闇弧はまだ生まれたばかりのようだ。

 具体的にいうと、俺達が1層を突破した後にフロアマスターとして生まれたそうだ。

 ダンジョンのフロアマスターとして生まれたので、生まれたてとはいえ成体の体とそれなりの知識を、ダンジョンコアから受け取っている。

 だが、ダンジョンボスであるキマイラが倒され、ダンジョンの統制がなくなり、自我と自由行動を許され、消滅のアナウンスを聞いて出口を探し、たどり着いたところで俺たちに出会ったと、そういうことらしい。

 【仲魔】として契約することでなんとなくだが意思疎通が可能になり、聞き出した内容がこんな感じだ。

 今は懐に潜んでいたミラと遊んでいる。

 なんとなくミラが先輩風を吹かして、それを闇狐が笑っているようだ。


 「取りあえず名前だな…コン…だと安直すぎるか…じゃぁ…タマで」


 結局いい名前も思いつかず、昔見たアニメの妖怪狐の名前から取ったのだが…なんか猫みたいだなと言ってから思った。



 ダンジョン探索5日目、こうして俺達の初めてのダンジョン攻略は無事?終了し、ダンジョンコアを手に入れることができた。



 ”ダンジョンコア 耐久力:-(内包する魔力依存) 詳細:ダンジョンを作成することができる”


 


 




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