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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第二章 魔王、ダンジョンに行く
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12話 魔王覚醒?!

    ・

    ・

    ・


 

 炎が目前に迫る中、俺は願いを込めてスキルを発動させる。

 自信はある…だが、初めてのスキルだ、助かる確証はない。


 「頼む! ミラ!」


 服の下に潜んでいるミラが応えてくれたのか、その瞬間、俺の体が薄らと虹色に輝く。

 ──【魔法反射】ミラースライムのスキルがその身に宿る。

 纏わりつく炎は俺の身を焼くことなく弾かれる。

 だが、ブレスの風圧までは弾くことは出来なかったようで、階段の上まで吹き飛ばされた。



 飛ばされた衝撃で少し気が飛んでいたようだ。

 しばらくして立ち上がった俺の目に映ったのは…階段下から突撃を繰り返して上ってくるキマイラと、武器を構えて唖然とした顔でこちらを見るミューとプリムの姿。


 ミューとプリムはこちらを見て、今だ固まっている。

 どうしたんだろう? まぁそれはいい、今はそれどころじゃない。



 キマイラのいる階段を見やる。

 何度も突進を繰り返し、今も少しずつ登ってきている。

 残された時間はそんなに多くはないだろう。

 しかし、どうしたものか…。

 プリム砲撃するにしても時間が足りないし、時間を稼ごうにも、今の俺達の力では一瞬で挽肉にされかねない。

 この場で残された手段は…あれ(・・)…かな。



 二人がいる場所に向かう。

 キマイラはすでに頭半分出ている状態まで、上がってきている。


 「ミュー…わるい、力を貸してほしい」

 「は?」

 「あれ(・・)を使いたいんだ」


 あれ(・・)と言われて、ミューの時が止まる。

 それを指すものは一つしかない。

 一応、事前に話し合って決めたプランのひとつではあるが、ミューから最後の最後の手段だと念に念を押されたものだ。

 

 「え?は、いえ…本気ですか?」

 「本気も本気。もうそれしかなさそうだし、この際しょうがないよね」

 「しかし…それは…いえ、わかりました」


 ミューがじっと俺の眼を見つめて来る。

 俺は苦笑しながら、その瞳を逸らさずにじっと正面から受け止めた。

 こうなったらなる様にしかならないのだが、なんか思ったより重苦しい空気に笑みが浮かんでしまったのだ。


 ミューは少し考え込んだ後、恭しく右手を胸に添えて礼をする。


 「魔王様の御心のままに…ご武運を」

 「ありがとう」


 なんとか納得してもらえたようだ。

 キマイラが壁を切り崩し、とうとう上半身すべてが上ってきていた。



 「さて…そんじゃぁ、行きますかね」


 俺は軽く背伸びをした後にキマイラへと視線を向けた。



    ・

    ・

    ・



 ──勇人と階段から這い上がってきたキマイラが相対する。



 赤い瞳に怒気を宿らせ、キマイラの体から魔力がほとばしる。


 相対する勇人の身体からは、黒く濃密な瘴気のようなものが立ち上り、その身を包み姿を覆い隠す。

 加えてその身から発せられる威圧が増す。

 その体には、明確な変化が起き始めていた。


 瞬間、キマイラが咆哮を上げて威嚇してきた。

 だが、その姿はさっきまでの怒りに燃えた咆哮ではない

 その声にはわずかな怯えを孕んでいる。


 やがて勇人を包む瘴気が消える…いや、勇人の中へと戻っていく。

 その姿が露わになり──そこにいるのは


 胸まで伸びた長い黒い髪、全身の肌をうっすらと黒く染め、顔の左側には黒い文様が浮かび脈動を打つように赤く光る、その瞳に宿す色は漆黒よりも黒い、頭には禍々しくねじれた2本の角が天高くそびえ立つ。

 右手に黒い魔剣を携えたその姿は、まさに──魔王・・


 【魔覚醒】

 ミューが持つ、純潔の魔族の中でも特に血の濃い一部だけが持つことができる希少(レア)中の希少(レア)スキル。

 その効果は魔の血を強制的に覚醒し、その姿を原初のものへと変貌させる。

 もともと濃い魔の血を覚醒させるその効果は、一時とはいえ、魔王と並ぶ力をその身に与える。


 人間である勇人がこれを使うことで何が起きるのか、それはまったくの未知数であった。

 ただでさえ、強制的に力を引き出すこのスキルは、体力を根こそぎ奪い、力の代償として寿命を減らすとまで言われている。

 ゆえにミューは最後まで使用を止めていた。


    ・

    ・


 変貌した勇人は静かに冷たい瞳でキマイラを見つめている。


 キマイラは少しうろたえるも、やがて怒りを帯びた瞳に戻し、大きく息を吸い込み、勇人に向かって火炎のブレスをまき散らす。

 勇人の身を炎が包み、周囲の森を巻き込み燃え上がる。


 だが勇人のその身は焼かれることはなく、顔色一つ変えずその炎を受け流している。 


 キマイラは再び息を吸い込み、咆哮と共に今度は雷のブレスを放つ。


 放射線状に放たれた雷の嵐が勇人を飲み込み、延長線上にあった森をも吹き飛ばした。


 やがて雷の嵐が晴れたその時、そこには焼け焦げた森と無傷の勇人が立っていた。


 キマイラが今度こそ明らかに怯む。

 だが、勇人が眉を細めて一瞥すると、その身を震わせながらも全力で吹き飛ばそうと突進してきた。

 それは正に捨て身の突進、死力を尽くしてその体を駆ける。


 その様子を冷たく見つめる勇人の瞳がわずかに見開かれ、黒い瞳は血よりも赤い真紅へと変わっていく。

 そして右手に持った魔剣を静かに振り上げ───黒い残光を残してキマイラへ向かって振り降ろされる。


 その直線状にあった空気裂け、大地が裂け、壁が裂け、空間が裂け、キマイラが裂け…血だけが遅れて周囲に飛び散った。



 あまりにもあっけなくキマイラはその命を散らした。



    ・

    ・

    ・



 魔王様が魔剣を一振りし、あまりにもあっさりとキマイラは倒れた。

 その力の変化は、あまりにも圧倒的過ぎる。


 過去にミューは、一度だけこのスキルを使用したことがある。

 故郷で魔物の大量発生が起こった際に出陣し、無理に先行しすぎて退路を断たれた時だ。

 その際には制御すること叶わず、圧倒的な力の暴流に流されるままに戦ってしまい、闇戦乙女(ダークヴァルキリア)なんて渾名をつけられてしまったのだが・・。

 それはいい。

 だが、その際にも意識は残っていたし、ここまで圧倒的な力ではなかった。

 ミューはあくまでも潜在能力と肉体の限界を引き出す、ブーストスキルだと認識していたのだ。

 最悪、何日も立ち上がれなくなるだろうが、命に別状はないだろうと。


 今、魔王様の目は何も写していない。

 …恐らく私たちですらも。

 今も冷たい虚ろな瞳のままに空を眺めている。

 不安になる…このまま魔王様が戻らなくなってしまい、手の届かないところに言ってしまうのではないかと…そう考えると胸を締め付けられる。

 だが、かける言葉が思いつかない、ただ時間だけが過ぎていく。



 どれほど、その様子を見つめていたのだろうか、気が付くと魔王様に近づく人影がある──プリムだ。


 プリムは魔王の正面までたどり着くと、手に持った杖を思いっきり振り上げて──ドカン!と鈍い音を立て、脳天に叩き付けた。


 とてもよくない音と共に魔王様が倒れた。


 私はその様子を見て愕然として立ち尽くす。

 きっと目が飛び出ていたと思う。


 「馬鹿魔王様、正気、に戻れ」


 馬鹿はお前だーー!と声にならない叫びが漏れるが言葉にならない。

 あまつさえ、今は倒れた魔王様を、杖の先でう○こみたいにつんつん小突いている。

 流石に耐え切れなくなり、叱りつけようと──


 「ちょっ、プリム!いいかげ「痛ってー!…いきなりはひどいよ、プリム」…」


 魔王様が、いつもの呑気な声を出しながら起き上ってくる。

 その姿はあまりにもいつも通りで、心配していたのが馬鹿らしくなるほどだった。


 「魔王様、あの…体は大丈夫なのですか?」

 「ん? んー、頭が痛い…?」


 それはプリムが殴ったとこです。

 とは思ったが、口には出さなかった。


 「そうではなく、【魔覚醒】の影響ですよ! 体がだるくて力が入らないとか、記憶がないとか、頭が馬鹿…はいいとして、そんなことです!」

 「ミュー、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」


 魔王様が拗ねた子供の様に口をとがらせる。

 取りあえず、大きな影響はないようだ。

 今は長かった髪は抜け落ち、頭の角も消え、顔の文様は消えかかっている。

 体中が痛いというのは、限界を超える力を使った時は当たり前だし、それも動けない程ではないようだ。

 少しだけ気持ちが引っ張られてしまい、性格が変わってしまうようだが、記憶はすべて残っているようで、体も乗っ取られていると言う訳ではないそうだ。

 初めての【魔覚醒】で、そこまでの意識を保てる魔族はほとんどいないというのに、異世界人とはいえ、人族でありながらあれだけの力を発揮して、しかもこの程度の後遺症で済むなんて、まぁそもそも人族には使えないスキルなんですけどね。


 本当にいろんな意味で規格外で非常識な人だと思う。


 もう私の心配を返してほしい…。はぁ…。



    ・

    ・

    ・


 キマイラの大広間はただ広く、奥に簡素な祭壇、隅に乱雑に積まれた財宝の山があった。

 これでも宝物庫と言った感じなのだろうか、一応一通りみてから、一部の魔法武具、宝石、素材、よくわからない薬品と、役に立ちそうなものと金になりそうなものだけを見繕って『持ち物』に格納していく。

 このダンジョンで朽ちた冒険者の遺産や、ダンジョンコアが作り出したものらしいが、普通はダンジョンの各場所にも配置されているものらしい。

 キマイラはだいぶ物臭な性格だったのだろう。

 こういうところにも不人気ダンジョンの要素がありそうだ。

 全部持ち出さなかったのは、こういう必要のないアイテムも、あとで魔力に変える事が出来るそうなのだ。

 何より、ミューに言わせると──「先代魔王様の遺産には比べるべくもありませんね」──と鼻を鳴らしていた。



 そして、大本命の品、大広間の一番奥にあるそれに目を向ける。

 簡素な祭壇の様な場所に納められた30センチくらいの四角いキューブ。

 色は微かに青い、蒼白といった感じだろうか。


 「これがダンジョンコアか」

 「はい、標準的な大きさですね。 まずは管理者登録を魔王様に移してしまいましょう。 コアに魔力を送ってください」


 言われたとおりに魔力をはわせると、頭の中にメッセージが浮かんでくる。


 ”当管理者の喪失を確認。 ダンジョンコアの管理者設定を変更しますか? Y/N”


 当然Yesだ。


 ”変更を確認しました。 管理者名は東雲勇人です。 続いて変更作業を行う場合は、再度呼び出しを行ってください”


 「出来たみたい。 これからどうすればいいの? このまま持ち帰ってもいいのかな?」

 「魔王様はこのダンジョンのマスターとなりましたので、持ち帰るのであれば、このダンジョンを一度解体し、魔力に返還してから帰還するのが良いかと思います。

 もちろん解体せずにコアだけを持ち出すことも可能ですが、その場合このダンジョンは新しい魔物を生み出すことも、修復されることもなく、ただの洞窟と同じ存在になりやがて消えます。はっきり言って魔力の無駄です」


 「なるほど、じゃぁ、特に用事もないし回収しちゃおうか」


 魔力を込めてダンジョンコアを再度起動させる。


 ”認証を確認。 こんにちはマスター、命令内容を確認しました。 これより当ダンジョンのすべてを吸収し、当ダンジョンは消滅します”


 命令内容が承認される。

 ん?いまなんか不穏な事を言わなかったか?こいつ


 続いて、ダンジョン内に響き渡る様にアナウンスが流れる。


 『ダンジョン内にいるすべての生物に警告します。 当ダンジョンはこれより消滅作業に入ります。 ただちに退去してください 。

 繰り返します。 当ダンジョンはこれより消滅作業に入ります。 ただちに退去してください。

 作業終了まで…・残り約60分』

 

 なんだろう…なんか、デジャブった。

 背中に冷たい滴が流れる感触がする。


 「ねぇ、ミュー」

 「はい…魔王様」

 「このダンジョンが消滅したら、中にいる俺達はどうなるかな?」

 「…ダンジョンの消滅は、ダンジョン空間内にいるあらゆる存在を魔力へと分解します」

 「つまり?」

 「死にます、よね?」


 「「…………」」



 「走れーーー!!」




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