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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第二章 魔王、ダンジョンに行く
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11話 魔王は卑怯? VSダンジョンボス

 ──ダンジョン探索5日目


 さて、ダンジョンに入ってから5日、すごい勢いでBPがたまっていった。

 特に、Lvが高いものを倒すと加速度的に増えるらしい。

 フロアボスを倒したときには驚くほど取得できた。

 なんせ1体で1000P以上だ。


 道中も何度か強化していたのだが、ここでいくつか強化しておこうと思い『メニュー』を呼び出す。


 魔剣をLv5まで上げたらLvMaxになって『魔剣進化』が解放される。

 試しに進化させてみると、Lv1に戻って2段階と表示された。


 合わせて【仲魔】の能力使用が、制限解放されたようだ。

 制限内容は、相手のスキルを借りる際はある程度傍にいなければならず、許可がいるというものだ。

 まぁ、まだ3人しかいないからそんなに使うことはないだろうけど。


 ついでに、いつの間にか『仲魔強化』の欄に『仲魔進化』が追加されていた。

 ただし今はまだ選択できるのはミラだけ、何が起こるかわからないし使用ポイントも10000Pと大量に必要なので今回は見送る。


 他、これから必要になるであろう、魔法系のスキルをいくつか取得しておく。


    ・

    ・


 キマイラの扉の前で座り込み、作戦会議を開く。

 思いっきり扉の前なのだが、もうミューは何も言ってこない。

 一晩過ごしたことで慣れたのだろう。


 「じゃぁ作戦会議を始めようか」

 「はい、では、実際どういたしましょうか? やはり…一度引くべきでしょうか?」


 ミューは少し残念そうだ。

 まぁ散々魔王がどうのと言ってたからなぁ、引くのは不本意なのだろう。

 ふふふふふっ、しかし、今日の俺は一味違うんだぜ。

 この広間という特性を生かして、あの舐めきったボスモンスターをどうにかできないかと考えてきたのだ。


 「そうだね、一応何個か案は考えてきたんだけど、取りあえず…試しにやって見ようと思うんだ」

 「なっ! しかし、どうやってですか? まともにやっても歯が立たないと昨日おっしゃっていたではないですか!」

 「まともにやってダメなら──まともにやらなきゃいいんだよ」


 といって、俺は魔王らしくニタリと悪い笑みを作って見せる。


 「魔王様、すごい、嫌な顔」

 「ある意味魔王らしいですが…なんか嫌らしいです」

 「えーー!」


 だが、二人にひかれた。


 なぜだ…


    ・

    ・


 「よし、じゃぁ行こうか準備はいい?」

 「バッチコイ」

 「いつでも!」

 「じゃぁ、いくぞ!」


 と言って、キマイラの扉を開く。

 大広間の奥には相変わらずキマイラがその巨体を寝そべって、目だけをこちらに向けてくる。



 「プリム砲弾、発射ー!」


 「ダークフレイム・ライトニング」


 プリムの最高威力を誇る三種属性の合成魔法、クイーンアント戦で使った魔法だ。

 闇色の炎を纏った凄まじい雷の閃光がキマイラが立ち上がる前に、光速の速さでその体を飲み込む。


 全身を焼かれ、さすがのキマイラも苦痛のうめき声を上げる。

 だがその肌は焼かれつつも、身が貫かれることはない。

 雷光の砲撃を耐えながら、キマイラはその身体を徐々に押し戻すように歩を進めてくる。


 だが、このまま終わるわけがない。

 プリムの魔法はあくまでついで──本命はこっちだ。


 「ブラックミスト!」

 「ベノムミスト!!」


 ミューが暗黒の霧を生み出し、キマイラの視界をふさぐ

 その間に、俺がありったけの力で猛毒の霧を広間中に展開していく。



 「よし、引くぞ!」


 その言葉を合図に、ミューが素早く扉を閉める。


 「アースウォール」

 「ストーンウォール」


 俺とプリムの詠唱した魔法が、閉ざされた扉を埋め、厚い石と土の壁が隙間なく空間を塞いで行く。

 塞がれた壁の奥で、壁を叩くような大きな音が鳴り響く。

 きっと今、キマイラが扉に突進しているのだろう。


 「アースウォール」

 「ストーンウォール」


 再度、奥で扉にぶつかる音がするが、とびらを隙間なく埋めた土石の壁が壊されることはない。

 更に念入りに何度か詠唱し、通路ごと扉をふさいで行く。

 もはや塞がれた壁は、3メートルを超えているだろう。



 「くっくっく…隙間なく塞がれ、逃げ場のない毒の空間に取り残されたキマイラは今、一体中でどうなっているのだろうかね?」

 「……今だかつて…これほどまでに卑劣な手段を取った方をわたしはしりません…」

 「魔王様…マジ鬼畜」


 二人が青い顔をして俺から少し距離を取る。


 あれぇー…二人がすごい勢いで引いてるよ?

 これは命がかかってるんだぜ? これくらいは当然だろう?



 ──1時間経過


 扉をたたく音がやんだ。


 「そろそろでしょうか?」

 「いやまだまだだよ、計算では7,8時間くらいだな」



 ──3時間経過


 「暇だな…ミュー何か遊ぶ道具とかない?」

 「あるわけないじゃないですか! 何をしに来たんですか!」

 「トランプ、ある」

 「さすがプリム!」

 「プリムーーー!」  



 ──7時間経過 

 

 「あと1時間は様子を見よう」

 「鬼…いえ、慎重ですね…」



 ──8時間経過

 

 土魔法で作った壁の押さえを解く。

 扉はキマイラの突進により、ほぼ原形をとどめていない。


 「これ…開くのか?」

 「これは予想してなかったですね…」


 力を込めて引いてみるが、どこかで引っかかっているのか、まったく開く様子がない。


 「ぐぬぬぬぬぬぬぅ!」


 ミューと二人で力の限り引っ張る…・が開かない。


 「これは…だめですね…」

 「…くそっ!」


 俺が八つ当たり気味に、扉に向けて思い切り蹴り飛ばす──元々限界が来ていた扉が外れ、広間の内側に倒れた。


 「あっ」


 プリムの声がこだまの様に響き──ギラギラと真紅に輝き、これでもかというほどの怒りの瞳を浮かべるキマイラと…目があった。


 ”キマイラ Lv53 種族:合成獣(聖獣) HP1873/10600 MP4240/4240”


 結構な重症だ…。

 だがなぜだろう…全然勝てる気がしない。


 全身から怒りの気迫を放ち、体には湯気の様な白煙まで立ち昇って見える。


 「に…」


 ──キマイラが咆吼えると共に、全員が駆け出す。


 「にげろーー!!!!!!」


 長い通路を全速力で駆け抜ける。

 残った扉を押しつぶし、キマイラも駆ける。

 通路は広いとはいえ、あのキマイラの巨体ではギリギリだ。

 しかしキマイラはそれすらも一切介さない。

 何事もないように、壁を擦り減らしながらも、凄まじい勢いで追ってくるんのだ。


 (くそっ、トラップも仕掛けとくんだった)


 勇人はそんなキマイラの様子に、逃げながら微かに舌打ちをする。


 「アースウォール、アースウォール、アースウォールーー!!」

 「ストーンウォール、ストーンウォール」

 「ブラックミスト、ダークネスランス!」


 足の遅いプリムを抱きかかえながらも、全員で力の限り土の壁を作り、妨害魔法を放ちながら逃げるが、キマイラはそのすべてをまるでものともしない様に、叩き壊しながら追いかけてくる。



 「いやーーー! もうダメーー!」


 ミューが珍しく錯乱状態だ。

 それでも足だけは動かしてるのが偉い。

 もう、背中の距離は1メートルもない…というところで前方に階段が見えてきた。

 

 階段に入る入口は狭く、キマイラの巨体では通ることは出来ない。

 これこそが俺が戦闘に踏み切った最大の理由なのだ。


 「階段だ!背中、衝撃行くぞ! ”エア・バースト”!」


 背中に放った空気の爆発する衝撃で3人を一気に階段まで押し込み、通路を抜ける。

 キマイラはその勢いを消すことなく、凄まじい勢いの突進で階段に突っ込み、階段周辺の壁を壊しながら中ほどまで抜け、俺のわずか20センチほどのところで止まる。


 危ねぇ!正直、恐怖で少しちびりそうになった。


 これで一安心、と思わず息を抜こうとすると、目の前のキマイラが口を大きく開く。

 その喉の奥から火が灯るのが見える。

 直観と【危険感知】が一番の反応を示す。


 ──ヤバイ!



 「走れーー!」



 叫びながら階段を駆け上るが、間に合わない。


 俺は咄嗟にプリムをミューに投げ渡し、その背中を押す。


 そして背中を振り返り、キマイラに向かう。


 「魔王様!!」

 

 ミューの悲鳴が背中から聞こえた。


 キマイラの口から火炎のブレスが放たれ──体は炎に包まれた。



    ・

    ・

    ・



 階段が火に包まれている。

 突然プリムを投げ渡され、背を押される瞬間に振り返ると、キマイラに向かう魔王様の後ろ姿が見えた。

 私たちはギリギリのところで階段を抜け炎から逃れられたが…あの状態では魔王様は…。


 階段は今も炎に包まれている。

 その様子を私は呆然と見つめていた。


 「魔王様…」


 呟いた瞬間、ドゴォーンと破壊音が階段から鳴り響いた。


 炎に紛れてわずかにキマイラの影が見える。

 再度突撃して、階段の通路を広げながら登ってきているようだった。


 だが、逃げなくては、とはもう思えなかった。

 私はトンファーを両手に構え、静かな怒りを燃やして階段から昇ってくるキマイラを見つめる。

 ふと隣を見てみるとプリムも同様に杖を構えていた。

 気持ちは同じようだ…。

 なら迷う必要はない。

 あとは死力を尽くすのみ…たとえこの身が引き裂かれようとも…せめてもの魔王様の弔いに!


 私が足に力を入れ、踏み出そうとしたその時──



 「あー…マジ、死ぬかと思ったわー」



 聞きなれた、気の抜けた声が聞こえた…。



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