10話 反省
「うん…ミューは、今、何について謝ってるのかな?」
「えっ?! そ、それは…魔王様の忠言を無視し突撃したことに」
そんなことを言ってきたので、指に魔力を少し込めてデコピンする。
「い、いたい…」
相当痛かったのか、ミューが若干涙目になる。
「もう一回聞こうか…何について謝るべきだと思う?」
今の俺の顔はニコリと笑顔だ。
子供に言い聞かすときには怖がらせない様に、そうすると聞いたことがある。
恐怖で従えてもしょうがないのだ。
ただ、ミューの顔はみるみる青ざめて身体は震えはじめる。
あれぇーおかしいな?
「あの、その…敵を倒せなかったことで「違う!!」…」
おっとしまった、今のはちょっと怒気が混じってしまった。
俺はため息をついてから、ゆっくり話し始める。
「ミュー、確かに忠言を無視したことは度し難い、ちゃんと理由も説明したよね? それなのにミューは構わず、勝手に、一人で!突撃したね」
「はい…」
「それが間違った判断だったということは、誰にでもわかるよね?」
「はい…」
「でもそれ以上に許せないことがある」
「…」
「ミュー、傷だらけだよ」
なんか話してる間にどんどん怒りが湧き上がってきた。
ミューはもはや心が折れてしまっているのか、正座のまま俯いて、返事を返すしかない。
「無茶をするのはいい、いや、よくないけど。 でも君はあのままだと間違いなく死んでいた。 僕たちもだ!運よく何とかなったけど、実際あのまま正面から戦ったら死んでいたよね? 格上の相手に何の策もなく向かって勝てる? そんな馬鹿な話ないよね? これは現実の戦いで物語じゃない。 ましてや絶対に倒さなければならない相手でもない。 あの場合、本当に戦わなければいけないのなら、作戦を立てて戦うべきだったんだ。 2層でやったように奇襲でプリムに魔法を組んでもらってもいい、大半を始末した後に突撃していけばまだ勝算は高かったよね。 それをミューは勝手に!一人で!飛び出したせいで出来なくなったね。 どうかな? ここまでで間違いとかわからないこととかあるかな?」
矢継ぎ早に言葉をつなげる。
一度声に出すとどうにも止まらなくなったのだ。
「いえ…ありません…まったく、申し開きもございません」
「何より!」
声を張り上げると、ミューの体がビクッと震える
そのミューの体を優しく抱きしめて、軽く口づけをした後、頭を撫でる。
口づけは血と涙の味がした。
「…死に急ぐようなことはしないでほしい。 君たち二人は俺がこの世界に来てからずっと一緒にいてくれた…なにより大切な人なんだ。 見捨てられないんだよ…。 だから自分の命を安く扱うようなマネは…二度とするな!」
「は…ハイ!」
眼に涙を浮かべ声を出さずに泣きながら、抱き返してくる。
…やれやれ、ホントどうにかなって良かったよ。
ミューが腕に力を込めて抱きしめてくるから外せないし、しばらくこのまま抱きしめておこう…俺の足が震えて動けないなんてことではない。
「魔王様…」
じっと見つめていたプリムが、タイミングを計って話しかける。
「魔王様も無茶しすぎ、反省」
そういわれて、杖で叩かれる。
「いたっ!いや、あれはだな、無茶とかじゃなくて、えーっと…」
言い訳を考えて口淀んでいると、また杖で叩かれた。
「反省!」
プリムに睨まれる。普段あまり表情を変えないプリムにしては珍しく本気で怒っているようだ。
「ごめんなさい…」
素直に謝った。
そのあと、ミューが落ち着くのを待って、クイーンアントの死体を回収してると、クイーンアントが座していた場所のすぐ後ろに階段が見つかった。
さて、今日の探索はここまでとなったので、ステータスをチェックしてみると称号に変化があった。
”称号:勇者の卵 → 勇者 魔族を従える者 ヘタレ 魔物の主 覚醒者”
勇者 :勇者の証、運命に贖い、死線を超える者(成長補正上昇:大 全ステータス上昇:大)
覚醒者 :己の意志を示し、魂の力を解放する資格を得る
どうしようこれ…魔王なのに本格的に勇者になってしまったようだ。
覚醒者は恐らくだが、勇者に目覚めたってことだろうか?
…なんか違う気もする、称号の取得条件が良く分からんな。
というか、一体この称号は誰がつけているんだろうか。
俺をこの世界に送り込んだ糞管理者共だろうか…取りあえず、もし出会ったら色々話し合う必要がありそうだ。
しかもステータスも軒並み上昇している。
勇者になったことで補正がかかったようだ。
どうやら、称号によってはステータスが上がることがあるようだな。
ついでに取得できるスキルに【光魔法】が追加されていた。
以前、闇魔法は魔王が光魔法は勇者のみ使用できると聞いた。
これ、取得しても人前で使えないんじゃないだろうか…。
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──ダンジョン探索4日目
──4層
「森だな…」
「森ですね…」
辺り一面に立派な木が生えている。見事な森が広がっていた。
天井には太陽はないものの、果てしない青い空が広がっている。
「…ここは洞窟の中だよな?」
「ええ、もちろんです」
「ダンジョンってみんなこんなの?」
「作り方次第ですね。空間そのものを作り出すのがダンジョンですから」
「…なんか納得いかない」
「納得してください、これから魔王城を作るんですから」
ファンタジー世界であろうが、ここまでくると認めてしまった時に自分の中の何かが壊れそうな気がする。
実際に目の前にしているので、納得しないわけには行かないのだが…。
4層をテリトリーにしているのはワイルドウルフとハイドモンキーの群れだ。
Lvの平均は18といったところだ。
ワイルドウルフは1層のハングリードッグが体を大きくし、全般的にLvが上がっている感じだ。
もちろん連携もしてくるが、こちらも3人の連携が大分馴れてきたのでそれほど手ごわさは感じない。
特に、ここに来てミューと俺の連携が出来てきたのが一番の要因だろう。
なんだかんだ言って、これまで一緒に戦っているだけで俺達は連携していなかった。
ミューの性格によるものもあるが、ミューの動きについていけなかったし、ほとんどソロ二人が並んで戦っているといった感じだったからだ。
今は俺のLvも追いついてきたし、ステータスはほとんど遜色ない、互いの気持ちさえ向き合えば連携は難しいことではなかった。
これについても、クイーンアント戦の不幸中の幸いといったところだろう。
困ったのはハイドモンキーの方だ。
こいつら気配を消しているようでだいぶ近づかないと気配が察知できない。
気づいた時には襲い掛かろうとしているので、かなり危険だ。
ただ、プリムの探知魔法には引っかかるようで、プリムには頑張って適度に使ってもらうようにした。
主な攻撃手段は、組み付いてからの噛みつきだけなので、居場所さえわかれば倒すのにはそれほど難しくはない。
4層はすこぶる順調に進んでいくが、ここにもフロアモンスターがいたようだ。
”ミノタウロス 種族:妖獣 Lv38 HP6800/6800 MP1500/1500”
手には大きな片手斧を二本持ち、背中には階段が見える、やはり門番の様になっているようだ。
とりあえず、少し離れて身を隠しながら相談する。
「ミノタウロスって妖獣になるんだね」
「えぇ、モンスターですから」
「そういえば、獣人とか亜人とかっていないの?」
「いますよ」
いるらしい、ヴォルブルクでは見なかったんだが。
「それはそうですよ。 獣人族は殆どが魔族側ですから」
亜人は大昔は中立の立場をとって静かに暮らしていたそうなのだが、人族に迫害を受け続け、数を減らすうちに、いつからか魔族側に組みすることになったのだそうだ。
「奴隷とかもいないよね?」
ヴォルブルクでは数は少ないが、そういう者が存在していることは知っている。
その殆どは犯罪を犯したものに限定されるが。
「獣人族は誇り高い戦闘種ですから、奴隷にされるくらいなら、子供でも死ぬまで戦います」
反抗的過ぎて奴隷には向かないそうだ。
命を握られても構わず抵抗するものなど、捕虜にも奴隷にも使うことは不可能だ。
ちなみに、亜人というのはゴブリンやオークというものを指すようだ。
モンスターじゃないのにちょっと驚きだ。
厳密には違うそうだが、奴らは完全にモンスター扱いにされている。
知能が低く、文化も持たず、周辺の異種族に襲い掛かることもあるため、害獣として扱われている。
ただ、定番通り非常に繁殖力が旺盛なため、いくら狩っても全滅には至らないそうだ。
そういえば、ギルドでも常時討伐依頼になっていた。
話がずれてしまった。
「ステータスとLv的には格上だけど、さっきのクイーンアントよりはどうにかなりそうだね」
「ミノタウロスはその腕力が自慢のモンスターです。 動きも早く、手堅い戦い方をしてきます」
「正攻法で攻めてくるなら、動きさえ封じればそれほど難しい相手ではないね。
さて、奇をてらうか、正攻法で行くか…、うん、なんかいい案ある?」
プリムが手を上げる。
「はい、プリムさん」
「泥、作る」
ほほう、水魔法と土魔法で地面を泥に変えて、動きを止めると…行けそうだな。
「オッケー、タイミングは任せるよ」
「(コク)」
「さて、行くか…無茶するなよ」
「お任せを…二度と失態はみせません」
雪辱戦、とミューの目が赤く燃える。
気負い過ぎもどうかと思うけどね。
ミューを先行に、左右からミノタウロスに突撃する。
ミノタウロスは、一歩も動かずに両手の斧で受ける。
お返しとばかりに斧を振る。
俺とミューは武器で受け止めるも、その勢いで吹き飛ばされる。
「すげー馬鹿力! 魔法で援護する」
”ファイヤーランス”を5本同時展開して放つ。
ミノタウロスが両手の斧を交差してガードする隙に、背中にミューが背中に回り込んで魔力を込めたトンファーで殴りつける。
これには流石にダメージを受けたようで、ミノタウロスは怒りの咆哮を上げてミューへと斧を振り上げるが
「ウォータ・アース…メイク・フィールド マッドプール」
ミノタウロスの足元周辺だけが泥池へと変化し、ミノタウロスを沈めていく。
斧を振り下ろそうと力を込めた瞬間に足場を取られたミノタウロスは、その態勢を大きく崩す事になる。
その隙を狙い、俺がありったけの力を込めて右の腕を切り落とし、左の肘をミューがトンファーでたたき折る。
両の腕を失い、足もまともに動けないミノタウロスはもはや敵ではない。
俺とミューは互いに連携しつつ、次々と攻撃を繰り出す。
俺とプリムが止めの魔法を放つ。
「ディメンションカット・ストリーム」
次元を切断する不可視の刃が舞い、ミノタウロス硬い皮膚を無造作に切り裂き──
「ニードルアイス・サンダー・カノン」
──プリムが作り出した氷雷の砲撃がミノタウロスの体を貫き、その体を焼く。
口から黒煙を吐き、身体に大穴を空けたミノタウロスが倒れこむ途中で片足を折り、身体を支える…がそのまま動きを止め、息たえる。
武人の様な死にざまだった。
死してなお倒れない、その姿に心うたれ、俺は思わず手を合わせた。
──5層
5層は石造りの直線の通路だった。
分かれ道はない。
ただひたすらに、まっすぐ通路を歩く。
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・
「この雰囲気…」
「えぇ…・来ました。 くくくっ…魔王様の生贄になろうとは、何たる光栄な奴!」
既に目は血よりも赤い…クリムゾンレッドに染まっている。
殺る気マンマンのようだ。
こいつは本当に反省しているのだろうか。
不安だなぁ…
長い通路を抜け、ほどなくして大きな扉が目の前に現れる。
扉には禍々しい装飾の絵が施されている。
獅子の顔、バッファローの角、山羊の体、蝙蝠の翼、サソリの尾。
「キマイラ…」
「まさか…ここのボスモンスターがキマイラとは…」
キマイラといえば、有名な災厄級の危険モンスターだ。
過去に何度も人族、魔族、両方の都市を破壊している。
流石のミューも少し気後れしたようだ。
「この扉って開いたら襲ってくるよね」
「えぇ…恐らく」
ミューが不安そうな顔してる、また俺が変なこと考えてると思っているんだろう。
「すぐ閉じたら襲ってこない?」
「…分かりません。 というかその発想はありませんでした…」
「どうかな? 大丈夫だと思う? 一瞬でも見れれば、かなりの情報が手に入るんだけど」
「レッツ、トライ」
親指を上げてGOサインを出してくる。
プリムは男前だ。
俺なんかより、よっぽど勇者らしい。
悩んだ結果──開けてみて、向ってきたらすぐ扉を閉じて逃げようということになった。
「じゃぁ…・いくよ…」
ミューのつばを飲み込む音が聞こえる。
少し力を入れて押す。
……重いなこの扉。
思いっきり押してみる。
「ふん!!…くっ硬い!」
「魔王様…あの、多分引くんじゃないですか?」
……・。
少し力を入れて引くと、ギィーと重い音を立てて、扉が開く。
空けた扉の先には大広間が広がっており、その奥には玉座の様に赤い絨毯を広げ、それは鎮座していた。
獅子の顔、バッファローの角、山羊の体、蝙蝠の翼、サソリの尾、わずかに見開かれたその瞳は血の様に赤く、その牙と爪は長く鋭い──門に刻まれた絵柄の通りの化け物というべきモンスター…キマイラだ。
”キマイラ Lv53 種族:合成獣-聖獣 HP10600/10600 MP4240/4240”
キマイラはわずかに目を見開き、こちらを警戒するも、立ち上がることはない。
恐らく、俺達が扉を超えて踏み入れていないからだろう。
キマイラの身体の奥に、わずかに祭壇の様なものがはみ出して見える。
しばらく互いに見つめた後、何も言わずに扉を閉めた…。
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・
「メッサ怖かった!メチャ怖かったよ!!!」
「流石に、私も実物を見るのは初めてですが…すごい威圧でしたね」
「(コクコク)」
今までとは生き物としてのランクが違うというべきか。
存在そのものが、ものすごい威圧感を放っているのだった。
ステータスもなんか…・ものすごかった。
腕力がすげー高い…その上耐久力と敏捷が1000前後なんだぜ…。
魔法防御が一番少ないな…少ないと言ってもそこらの雑魚の倍以上あるんだが。
「流石にプリムの魔法でも、あれを不意打ちで倒すのは…無理か?」
「無理、無茶言うな」
プリムに俺のセリフを取られた。
最大級の魔法で8発くらい直撃させる必要があるとのことだ。
8発というと少ないように感じるかもしれないが、それは間違いだ。
動く相手に直撃、それも発動に時間がかかる合成魔術を…だ。
中途半端に当てるならその3倍は魔法を打つ必要があるだろう。
「うーん…」
「どうしますか?」
「そうだね、ますは…寝ようか」
「…・は?!」
「とりあえず今日は疲れてるし、今日は休んで明日考えよう! やるにしても逃げるにしても、体力は全開にしないとね。 幸いここは魔物でないようだし、ほら準備して!」
「ちょっ、いや、いくらなんでもボスフロアの目の前で寝るとか…正気ですか!?」
「魔王様、食材、出して」
「プリムーーー!」
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【公開ステータス】
ユウト=シノノメ 18歳 ♂ Lv21→24 種族:異世界人 職業:魔王
HP 612/612 MP 672/672
STR 562 VIT 491 AGI 603
MA 540 MD 476
基本スキル
身体操作Lv2 魔力操作Lv3
空間把握Lv1
武技スキル
剣術Lv3 体術Lv1
感知スキル
危険感知Lv2 気配感知Lv3
強化スキル
身体強化Lv2 魔力強化Lv1
魔法スキル
火魔法Lv2 土魔法Lv1 風魔法Lv1 無魔法Lv1
次元魔法Lv3 光魔法Lv1
特殊スキル
鑑定眼Lv3
固有スキル
聖王のカリスマ
魔剣サブジュゲイド 1段階 Lv4
ATK:100+150 耐久力:- 属性:-
称号:異世界の来訪者 勇者 魔族を従える者 ヘタレ 魔物の主 覚醒者 魔と混じりし者
ミュハイル=フィルツ 20歳 ♀ Lv23→25 種族:魔族-アズラ族 職業:執事
HP 307/451 MP 199/252
STR 473 VIT 372 AGI 485
MA 252 MD 342
【スキル】
基本スキル
身体操作Lv4 魔力操作Lv2
技術スキル
剣術Lv5 槍術Lv3 体術Lv3
感知スキル
危険感知Lv1
強化スキル
腕力強化Lv1 身体強化Lv2 魔力強化Lv1
魔法スキル
暗黒魔法Lv2
固有スキル
魔覚醒
称号:純魔の血族 闇戦乙女 ツンデレ お転婆姫 魔王の執事 暴走娘 魔王の嫁 恋の奴隷
主人:ユウト=シノノメ
プリム 16歳 ♀ Lv24→26 種族:魔族-バラキ族 職業:メイド
HP 221/263 MP 136/691
STR 221 VIT 231 AGI 274
MA 723 MD 421
【スキル】
基本スキル
魔力操作Lv5
武技スキル
杖術Lv1 結界術Lv2
強化スキル
魔力強化Lv3
魔法スキル
火魔法Lv3 風魔法Lv2 水魔法Lv3 土魔法Lv1 無魔法Lv3
氷魔法Lv2 雷魔法Lv3 次元魔法Lv1 暗黒魔法Lv4
固有スキル
吸魔の魔眼
称号:魔眼の魔女 魔王のメイド 恋する乙女 魔王の嫁
主人:ユウト=シノノメ