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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第二章 魔王、ダンジョンに行く
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9話 勇人の怒り VSフロアボス



 勝てる見込みは薄い…だからと言ってここでミューを黙って見捨てるわけにもいかない。

 かといって、正面から戦って勝てる可能性は更に低いだろう。

 問題はどうやってミューを確保して逃げるか…か、いや敵として認識された今では無理か? なんせこの層には隠れる場所がほぼないのだから。

 隠れる場所が少ないということは、隠れる場所が限定されるということなのだから。


 俺が顔に苦悶の表情を浮かべて、迷いを見せていると、プリムが俺の裾を引っ張って言ってくる。


 「魔王様、魔法使う、時間、持たせ、て…ミューを、お願い」

 「…分かった!」


 一瞬だけ目を閉じ、俺が全力で駆けだす。

 向かうのは、群れに囲まれているミューの背中だ。


    ・

    ・


 飛び出したミューは、風の様に足音もなく、素早くインペリアルアントの懐に飛び込む。

 そのまま腹へ向かってトンファー振りかぶり、他のインペリアルアントに向けて全力で殴り飛ばす。

 すぐに逆方向のインペリアルアントに向かい、2匹目を殴り飛ばした。


 ここでやっと蟻共が敵対者の存在に気づき、カシャカシャと口を鳴らす威嚇音と共に、ミューへと襲い掛かる。

 アーミーアントと違うのはその体の大きさだけではない。

 俊敏性も高く、その巨体を生かして突進してくる。

 それも、まるで訓練されたように、時間差で常に間を縫って襲い掛かる、嫌らしい波状攻撃をしてくる。


 もちろん、腕力と防御も上がっている。

 ミューが躱し、その勢いのまま壁にぶつかったインペリアルアントが壁に大きな穴をあけているが、当のインペリアルアントに目立ったダメージは見られない。

 徐々に間合いを詰められ、ミューが囲まれていく。

 周囲に逃げ場を閉ざされ、動きに制限を掛けられた状態では、流石のミューであってもうまく躱すことは出来ない。

 その体には、徐々に薄らと傷が刻み込まれていく。



 魔物の群れに向けて駆け出した俺は、右手に魔剣を構えたまま、左手で魔力を練る。

 扱いきれなかった魔力が身体から漏れ出ていくが、気にも留めない。


 「ファイアーウォール!」


 作り出された炎の壁が、ミューを囲むインペリアルアントの群れを分断する。

 魔物といえど虫の本能か、突如燃え上がった火に一瞬怯む。

 虫共がわずかに動揺している隙に、そのままミューの進路方向上にいるインペリアルアントを魔剣にありったけの魔力を纏わせ、縦に切り裂く。


 「ミューーーー!」


 叫ぶ。

 ミューが俺の存在に気付いたのだろう。

 わずかに驚きと安堵と叱責の入り混じったような顔を浮かべるが、すぐに俺に向かって駆け出す。

 だが、周囲を囲んでいたインペリアルアントも、合流しようとする俺達に向かって口を開けて向ってくる。

 俺達は力の限り駆け走り──合流──互いを通り過ぎ──その身は交差する。

 俺は駆ける勢いのまま、ミューの後ろから迫ってきたインペリアルアントを、切り裂く。

 同時にミューが派手な音を響かせ、俺の後ろから迫っていたインペリアルアントを叩き伏せたのが分かる。


 「無事か!」


 そのまま後ずさり気味にミューと背中を合わせる。


 その間に炎の壁が消え、分断されていたインペリアルアントも合流してきたようだ。

 炎の壁は攻撃にも転用できるが、硬化時間が短いのが難点だな。

 俺達は残った6匹のインペリアルアントに囲まれる形で向き合う。



 「すいません…魔王様・・わたしは「後にしろ!」」


 ミューと俺で2度奇襲し、4匹を切り伏せ、数匹に傷を負わせてはいるが、まだ状況が好転したわけではない。


 「プリムが準備している…。囲いを突破して合流する、着いて来い!」

 「はっ!」


 俺を先頭に、ミューを引き連れ囲いを突破するべく走る。


 「飛べ!」


 俺達は左右から迫る突進を飛んで避ける、着地する前に”アースウォール”を足元に発動して足場を作る。

 着地地点を狙って突進していたインペリアルアントが作り出した壁にぶつかり、壊されるが、構わず破片を足場に飛び越え、そのまま囲いを超えてプリムと合流する事に成功。

 同時に叫ぶ。


 「プリム!」

 「ダーク・フレイム…ライトニング」


 互いの視線が合わさる。


 瞬間3つの魔法陣が展開され、こちらを追って、直線状に展開されたインペリアルアントを闇色の炎を纏った凄まじい雷の閃光が一瞬で飲み込んでいく。


 タイミングは完璧、さすがプリム、やる時はやる女である。


 そしてその直線状には、余裕をこいていたのだろう、こちらの動向を見守ってずっと動かないクイーンアントもいる。


 相変わらずすさまじい威力だ。

 洞窟内に砂埃が舞い徐々に晴れていく、インペリアルアントはすべて死に絶えていた。

 だが…その奥にいたクイーンアントだけが変わらず立ち尽くしている。


 高さ4メートルいかにも蟻の形状をしていた他のモンスターたちと違い4本の足で立ち、上半身を立ち上がらせ左側に2本欠けた、残り2本の腕を広げ、こちらを睨む。

 ただし、HPはもう2割ほど…瀕死、といったところか。

 クイーンアントはこちらを唯の餌と見て、完全に油断していたのだろう。

 最初に不意打ちで打ったとしても、ここまでダメージを与えられたかはわからない。

 奇しくもミューの突撃が功を奏したというところだろうか…。



 俺は飛び出そうとするミューを手で止め、右手に魔剣を携えたまま、一人静かにクイーンアントへと歩を進める。

 クイーンアントは半身が傷つき、満身創痍でありながらもその顔は戦意を失っている様子は微塵もない。

 ダンジョンに支配されているモンスターとはいえ、さすがは女王を冠する名を持つだけはあるというところか。


 徐々に歩を進める。

 その間ずっとクイーンアントは俺を睨みながら口を鳴らし威嚇していた。

 間合いに入ると、同時にクイーンアントが襲い掛かるべく残った2本の右腕を振り上げる。

 同時に俺は脚に力を入れ、力の限りクイーンアントに向かって駆け走る。

 襲い掛かる腕の一撃を右に避け、その腕に魔剣を叩き付けるが──硬い!

 カキン!と金属がぶつかるような音がして弾かれ、遅れて向ってきたもう一本の腕の一撃をとっさに魔剣を盾にするが、その腕力に弾き飛ばされ壁に打たれる。


 「ぐはっ!」


 俺がこの世界に来てから…いや人生でもらった最大の一撃。

 肺が圧迫され、呼吸が一瞬止まり、意識を手放しそうになるがそのまま身体ごと向かってくるクイーンアントの顔と大きな顎を見て、恐怖に任せて左に飛ぶ。


   ・

   ・

   ・



 魔王様がクイーンアントの払った腕に吹き飛ばされる。

 クイーンアントは吹き飛ばした魔王様を狙って、その身を武器に突進していく。

 その様子にその未来を想像し、私は駆け出そうとする…がプリムに腕を掴まれ止められた。


 「プリム!」

 「ダメ、戦い、魔王様の」


 魔王様はとっさに左に避けて躱し、少し距離を取る。

 その姿に私はわずかに安堵する。

 早くプリムを説得しなくては、まだ戦いは続きているのだ。


 「しかし、これは元々私のせいで起こった戦いだ!私には責任がある!」

 「ダメ、もう違う、今の魔王様、自分のため、に戦ってる」


 プリムは付き合いの長い私でも、時々何を考えているのか分からないところがある。

 だがそのかわり、人の機微に非常に敏感でもあるのを私は知っている。

 それは、あの幼少時代の経験で出来た物なのだろう。

 だが、それでも…


 「頼む…行かせてくれ…」

 「絶対、ダメ、今のミューは、邪魔」


 その一言は私の胸をえぐる。

 私の傷は見た目ほどにひどくはない。

 しかしそういう問題ではないのであろう。

 でもこの状況は私の責任、魔王様に私の理想を押し付けた結果なのだから、魔王様が命を懸ける必要はない。

 歯を食いしばり、拳を強く握りしめて抑える。


 「くっ…」

 「大丈夫、魔王様、信じる、平気」


 魔王様を見ると、その顔は様々な感情に彩られていた。

 怒り、不安、恐怖、戸惑い、その心が何を考えているのかはわからない。

 私はその姿を目に焼き付ける様に、そっと見守るのだった。



   ・

   ・

   ・


 不思議な気分だった。

 自分のヘタレで臆病な性格を、俺は自覚している。

 元の世界で18年も生きてきて作られた性格だ、そう簡単に変わるものではない。

 今だって、じっとしてると足が震える、すぐにでも逃げ出したい…もう全力で。

 町に戻って柔らかいベッドに身をうずめて、一日中惰眠をむさぼりたい。

 …うん、いい考えだ、ここを出たら一週間くらい休みにして寝て過ごそう。

 

 瀕死とはいえ、圧倒的に格上であるこいつにミューを止め、一人で挑もうと向かった理由も、そんな大したことじゃないんだ。


 …こいつは笑っていた。

 囲まれ、痛みつけられ、徐々に傷つけられていく獲物(ミュー)の姿を見て確かに嗤っていた。

 顎を鳴らして、ケタケタと。

 ただ、その姿がなぜか無性に癇に障った。


 誰だって思春期に一度くらいはあるだろ?


 そう──ただ…ムカついたんだよ。



 「うおぉぉぉぉぉ!」


 魔剣を構えて、俺はらしくもない雄たけびを上げながら駆け出す。


 再び左側からクイーンアントの右腕が襲ってくる。

 【気配感知】と【空間把握】がそのタイミングを教えてくれる。

 襲い掛かる腕を躱しながら、少しずつ距離を詰めていく。

 右に躱し左に躱し、払うように襲う腕をジャンプして躱す。

 飛び上がったところを狙い、クイーンアントが体ごと突進してくる。

 躱せない! そう判断した俺はすぐに”エアバースト”で近くの空気を暴発させ、その衝撃で左に逃れる。

 衝撃で体の節々が痛む、が今は気にしている場合じゃない。

 痛みをおしてそのまま背中を目指して駆け走る。


 背中に飛び乗ろうと飛んだところに、クイーンアントが反転してその腕で突き刺そうと襲い掛かるが、空中で体を反転させた反動でわずかに逸らす、脇腹を掠りわずかな金属音が鳴り響く、そのまますれ違いざまに関節を狙ってクイーンアントの腕を切り裂く。

 今度は弾かれることなく、その肉に食い込み、クイーンアントの腕が落ちる。

 地面に着地するとともに、脇腹を刺す痛みが襲い、一瞬よろめきかける。

 弱った俺に止めを刺そうと、クイーンアントは残った腕を大きく振りかぶり地面に向けて突き刺してくるが、【気配察知】と【空間把握】で先読み、バックステップで躱し、返す足で跳ね上がりその腕へと飛び乗る。

 驚くクイーンアントの腕を一気に駆け抜ける。

 振り払おうと腕を振る直前に、俺は再びクイーンアントの首を目指して飛ぶ──


 お前は俺のモノ(・・)を傷つけタ…・ダカラ…


 「シネーーーーーー!」


 俺の口から咆哮のような叫びが上がった。

 自分の口から出たとも思えないような声だが、一瞬クイーンアントの動きが止まったのが分かった。

 横薙ぎに魔剣が振り抜き、クイーンアントの首と顎を切り離す。


 クィーンアントの巨体は首から体液をまき散らしながら、しずかに崩れ落ちていった。


   ・

   ・

   ・


 クイーンアントの体が崩れ落ちると同時に、倒れかかる俺にプリムとミューが駆け寄って支えてくる。


 「傷、治す。でも苦手、なの、ごめんなさい」


 プリムが俺の体に魔力をはわせ、傷の再生をしてくれる。

 だんだん言葉数が増えてきたなこの子。

 そんな、どうでもいいことを考えていると、ミューがものすごい勢いで土下座してきた。

 頭突きで地面が揺れ、ひび割れてへこむ。

 すごく…痛そうだ。


 「魔王様!申し訳ございませんでした!!」

 


【公開ステータス】

 ユウト=シノノメ 18歳 ♂ Lv17→21 種族:異世界人 職業:魔王

  HP 252/545 MP 185/602

  STR 496 VIT 441 AGI 562

  MA 459 MD 401


 基本スキル

   身体操作Lv2 魔力操作Lv3

   空間把握Lv1

 武技スキル

   剣術Lv3 体術Lv1

 感知スキル

   危険感知Lv2 気配感知Lv3

 強化スキル

   身体強化Lv2 魔力強化Lv1

 魔法スキル

   火魔法Lv2 土魔法Lv1 風魔法Lv1 無魔法Lv1

   次元魔法Lv3

 特殊スキル

   鑑定眼Lv3

 固有スキル

  聖王のカリスマ


 魔剣サブジュゲイド 1段階 Lv4 

   ATK:100+150 耐久力:- 属性:-


 称号:異世界の来訪者 勇者の卵→勇者 魔族を従える者 ヘタレ  魔物の主 覚醒者

 ※称号変化によって補正が生じてます。



 ミュハイル=フィルツ 20歳 ♀ Lv21→23  種族:魔族-アズラ族 職業:執事

  HP 307/382 MP 199/211

  STR 389 VIT 289 AGI 421

  MA 231 MD 294


【スキル】

 基本スキル

  身体操作Lv4 魔力操作Lv2

 技術スキル

  剣術Lv5 槍術Lv3 体術Lv3

 感知スキル

  危険感知Lv1

 強化スキル

  腕力強化Lv1 身体強化Lv2 魔力強化Lv1

 魔法スキル

  暗黒魔法Lv2

 固有スキル

  魔覚醒

 

 称号:純魔の血族 闇戦乙女(ダークヴァルキリア) ツンデレ お転婆姫 魔王の執事 暴走娘 魔王の嫁


 主人:ユウト=シノノメ



 プリム 16歳 ♀ Lv22→24 種族:魔族-バラキ族 職業:メイド

  HP 221/235 MP 136/625

  STR 191 VIT 221 AGI 235

  MA 680 MD 358


【スキル】

 基本スキル

   魔力操作Lv5

 武技スキル

   杖術Lv1 結界術Lv2

 強化スキル

   魔力強化Lv3

 魔法スキル

   火魔法Lv3 風魔法Lv2 水魔法Lv3 土魔法Lv1 無魔法Lv3 

   氷魔法Lv2 雷魔法Lv3 次元魔法Lv1 暗黒魔法Lv4

 固有スキル

   吸魔の魔眼


 称号:魔眼の魔女(デモンアイズウィッチ) 魔王のメイド 恋する乙女 魔王の嫁


 主人:ユウト=シノノメ



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