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ゆままゆ! 勇者な魔王 と 魔王な勇者←(俺)  作者: 都留 和秀
第一章 魔王と勇者、召喚される
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1話 間違い召喚!? 「魔王(勇者)?いえ、人違いです!」

11.28 結構な修正を行ってしまったので、思い切って新設することにしました。



    ・

    ・

    ・


 …目を覚ます。


 厳正なる空間、かがり火が照らす薄暗い洞窟の中、小さな祭壇の上で俺は目覚めた。


 手には見たこともない、黒く…歪な、微かに禍々しさを感じさせる闇を放つ剣を握っている。


 目の前には、まるで家臣の様に片膝を降ろして跪く──メイドと執事の格好をした二人の女がいる。


 その一人、執事服を着た女が静かに顔を上げる。


 黒く長い艶やかな髪、褐色の肌に赤い瞳、耳は長く、顔だちはおおよそ人とは思えないほどに美しい、何より男装の執事服から、隠しきれないほどの双丘がそびえ立っている。


 だが…彼女は人間ではない。


 その頭には、2本のねじれた角が生えている。


 彼女は目の前にいる俺に目を向け…こう言ったんだ。



 「お待ちしておりました、魔王…さ、ま?」


    ・

    ・


 まおうさま…だと?


 いや、待て、落ち着こう。

 俺の名前は東雲しののめ 勇人ゆうと、今年で18才になる。

 よし、記憶はある、頭は正常だ。

 気を失う前の事を思い出そう…確か俺はいつもの様に学校に行き、帰りに買ったお気に入りのファンタジー小説の新刊を、手に、ルンルン気分で家に帰っている途中…だったはずだ。

 そういえば、なんか急に目の前の地面に魔法陣っぽいのが現れて、そこに落ちる様に吸い込まれたんだった。


 ってことは…これはあれか? 異世界召喚ってやつか? お約束か?

 しかし魔王ってなんだよ、魔王って…こういうのは普通、お城に呼ばれて勇者になるものじゃないのか?

 薄暗い洞窟に呼び出されて、いきなり魔王とか…魔王ってそんな簡単になれる物なのか?

 だって、今の俺は恐らくレベル1だろうし、多分スライム程度の戦闘力しかないと思うぞ。

 それともあれか? 異世界召喚特典ってやつで、チートでも手に入っているのだろうか…。


 いやまて、だとしてもだ! 魔王ってあれだろ? 「ガハハ、皆殺しだー!」とか「汚物は消毒だー」とか、最後は「わが生涯に一片の悔いなし」って…これは違うか、まぁっそんな感じの奴だろ?

 無理無理無理、そんなの絶対無理だって。

 大体よく考えてみろよ、魔王がいるなら勇者もいるかもしれないだろ? いや、間違いなくいるだろう。

 まかり間違ってそんな奴に会ってみろよ。

 イケメンヒーロー風のチート野郎なんか相手にしたら、俺なんて1コマで殺されるわ!

 そして、俺の死体の前で王女風のヒロインと抱き合っていちゃつく勇者…なんか想像したら涙出てくるわ。

 そんな引き立て役は嫌だ! 嫌すぎる!


 それに自慢じゃないが、俺はそんなに喧嘩は得意じゃない。

 不良に囲まれたら、3秒で財布出すね!

 え? 情けない? うるせぇー、金で解決するならそれが一番だろうがよ!

 うん、やっぱりこんな俺が魔王とか、絶対無理だわ……ここは穏便に話をつけて、さっさと帰ることにしよう。


    ・

    ・


 「あ、あの…魔王様?」


 俺が何の反応を返さないでいると、少し慌てたように執事服の女が話しかけてくる。


 「ん? あー、いえいえ、ごめんなさい人違いですね。 僕は通りすがりの、ただの人なんで…えっと、出口はどこだろう…ってか、どこから帰ったらいいですかね?」


 「………」


 執事服の女が一瞬呆気にとられたような顔になり、周囲に沈黙が流れる。


 「は!?…あ、いえ、失礼しました。…たしかに人族の方が魔王に選ばれる、というのは私も今まできいたことはありません。混乱なさるのも無理ないのかもしれません。 ですが!あなた様は確かにこの世界の意志が選んだ魔王様です。 そしてそれはその剣が証明してくれています」


 そう言って、いつの間にか俺が手に持っていた黒い剣を指さす。

 いつの間にか、黒い剣が放つ闇は消えていた。


 「それは、この世のあらゆる魔を統べる魔剣『ダークサブジュゲイト』。 それこそが、この世界の意志が、あなた様を魔王として選んだ、まぎれもない証拠なのです」


 「これが…魔王の証?」


 「そうです! しかし、それでも信じられないのであれば、伝承により記される通り、まずは御自身のステータスをご確認ください。 頭の中で『ステータス』と念じれば脳裏に浮かぶはずです」


 ふむ、とりあえず『ステータス』と念じてみる。

 そこには表示されたのは──



 ユウト=シノノメ  ♂ Lv1 種族:異世界人 職業:魔王

  HP 5/5 MP 15/15

  STR 5 VIT 4 AGI 8

  MA 18 MD 20


 基本スキル

   なし

 武技スキル

   なし

 感知スキル

   なし

 強化スキル

   なし

 魔法スキル

   なし

 特殊スキル

   なし

 固有スキル

   なし


 称号:異世界の来訪者 勇者の卵




 確かに職業は魔王となっている…。

 しかも、称号:勇者の卵ってなに?

 それに…ステータスがマジ低い、ほぼ一桁…HP5とかこれ大丈夫かこれ?

 タンスの角に小指ぶつけて、うっかり死んだりするレベルじゃないのか? いや、基準がわからないけどさ。


 「ご確認頂けましたね? ご覧の通りあなたは魔王様です! ですので、あなた様にはこの世界で魔王としての責務を果たす義務がございます!」


 俺の気持ちなんて知らないと言わんばかりに、執事服の女の人が話を続けてくる。


 どうしようかなーこれ、でもこの人魔族とかそういうのっぽいしなぁ…。 でも俺、勇者っぽいっすよ? なーんて言ったら……ヤバイ…俺、今日死ぬかもしれん…。

 それに、たしかに職業は魔王になってる。

 どうやらもう俺が魔王になることは決定のようだ。


 …あー、マジどうしよう、これ



 勇人が頭を抱えて考え込んでいると、執事服の女の人が目を更に吊り上げ、先ほどよりも一層真剣な眼差しでこちらを見つめながら、勇人に向かって声を張り上げる。


 「魔王様!」



    ・

    ・

    ・



 目を開けると、そこは知らない場所でした。


 静粛な空間、明るくも神聖な雰囲気を醸し出す神殿の中に、私は立っていました。


 見たこともない、白く…どこか暖かさを感じる光放つ美しい剣を握って…。


 目の前には、祈り、崇める様に膝をおろして跪く、神官の様な服を着た5人の女の人がいます。


 その誰もが綺麗で美しく、神聖な空気を身に纏っています。


 やがて、彼女達の真ん中にいた綺麗な女の人が静かに顔を上げます。


 そして、目の前に立つ私に目を向けて、こう言いました…。




 「お待ちしておりました、勇者さ…ま?」


 ほぇ?


 ゆ う しゃ さ ま?


 「えっと…ここは…どこなのでしょうか? それに勇者様、って…?」


 言いながら、私は少し前の出来事を思い出してみます。

 確か私は、学校の下校途中にお気に入りのケーキ屋に寄り、1時間も並んでやっとの思いで新作ケーキを買った。

 それはもう大喜びで、至福のあまり踊りだしそう程の気持ちを抑えつつも、でも抑えきれなくてルンルン気分で家に帰っていた…はず。


 あれ? そういえば、ルンルン気分でよく見てなかったけど、目の前にいきなり魔法陣が開いて、そこにそのまま飛び込んでしまったような気がするよ。

 あれは転送魔法陣…なの、かな? でも、こんな場所全然知らないし、それにこの女の人…勇者って…言って、た?


 私が頭の中でさっきまでの事を思い出して混乱していると、私の顔を動揺していた女の人が顔を引き締め直して話を続けてきます。


 「ここは「コルアース」と呼ばれる世界です。 …失礼ながら、私共の世界の人族には、生まれることのない瞳の色に、少々驚いてしまいましたが、 あなた様はこの世界の意志に選ばれ、異世界より召喚された勇者様にございます。

 申し遅れてしまい申し訳ございません、わたくしはこの光の神殿で、巫女長を務めさせて頂いております、アンジェルと申します」


 「ほえ? ゆう…しゃ? …えっ…えーーーっ!」


 私が勇者!? 勇者ってあれでしょ? 自己中心的で唯我独尊でKYで異性とみれば見境なしで、更に更に罪もない人々を襲い暴虐の限りを尽くし、しまいには自分を応援する人々の家にまで押しかけ、平然とした顔で略奪を行う。

 そんな奴でしょー!?

 それに勇者ってたしか、魔王様に挑んでいく人なんでしょ? まさか…うちのお父さん(…・)みたいな人を倒せっていうの! 無理無理無理無理ー!

 私、自慢じゃないけど、運動神経は良くないし、どんくさいし、成績も中の下だし、よく何もないところで転ぶし、何もいいとこないよ!?

 ちょっと人より魔力多いけど、それだって魔力上手く扱えなくて、よく爆発して怒られてるからなんの意味ないよ! 勝てるわけないじゃない! お父さん優しいけど、本気になったら、私なんてデコピン一発で宇宙(そら)にまで飛ばされるんだよ!

 …はぁ、まぁどうせ人違いだろうし、ここは穏便にお断りして、うまく返してもらいましょう。


 でも、なんて言おうかなぁ…、なんて私が考えていると、女の人が話を続けてきました。


 「驚くのは無理はございません。ですが、あなた様が真に勇者であることは、その手に持つ聖剣が証明しております」


 そう言われて、私はいつの間にか、手で握りしめていた白い剣を見る。

 初めて目にしたときに放っていた光は、今はもう見えない。


 「それは、勇者であらせられるあなた様に向けられる、人々の思いを束ね、力に変えてあらゆる魔を断つ力とする聖剣『プレアガーダー』。その手にその剣を持つ事こそが、あなた様が、世界の意志により召喚された勇者である、という何よりの証拠なのでございます」


 「この剣が…・?」


 というかこんな剣、いつの間に持っていたのだろう。

 いつの間にか、私の持っていた学生鞄はなくなっている。

 鞄に着けたストラップ…この間、ゲームセンターでお小遣いはたいて手に入れた、お気に入りだったのに…くすん。

 何より!私のケーキはどこー!?


 「どうやら信じられない御様子ですね。では伝承に記される通り自身の『ステータス』をご確認下さい。勇者様であれば、頭の中で、あるいは言葉にして『ステータス』と念じれて頂ければ、ご自身の現在の状態が見えると記録に記されています」


 まるでゲームみたい。

 取りあえずよくわからないけど、ここは言われたとおりにやってみようと思い、口にする。


 「ステータス」



 シオン=ティアーズ 16歳 ♀ Lv3 種族:異世界人 職業:勇者

  HP 12/12 MP 190/194

  STR 10 VIT 15 AGI 20

  MA 210 MD 80


  基本スキル

   魔力操作Lv1

  武技スキル

   杖術Lv1 結界術Lv1

  感知スキル

   危険感知Lv1 魔力感知Lv1

  強化スキル

   魔力強化Lv1

  魔法スキル

   火魔法Lv1 暗黒魔法Lv1 闇魔法Lv1

  固有スキル

   魔姫のカリスマ


 称号:異世界の来訪者 魔王の卵 異世界魔王の娘 ドジっ子



 …本当ゲームみたい。

 自身の状態を数値化する魔法なんて、私の世界では聞いたことがない。

 ──でも


 ”職業:勇者 称号:魔王の卵”


 これはどういうことなんだろう…。

 結局私は勇者なの? それとも魔王なの? どっち?!

 あと、ドジっ子って! これは何のいやがらせなのかな…。

 自覚してても人に言われたらすごく傷つくんだけど!


 私が睨むように表示されたドジっ子の称号を注視していると、詳細が表示される。


 異世界の来訪者   :世界を渡った者

 魔王の卵       :魔王の可能性を秘めた魂を宿すものに与えられる(成長率補正上昇:小 スキル習得度上昇:大) 

 異世界魔王の娘   :その血統は、高い素質を持つ

 ドジっ子        :何度失敗しても、なぜか同じことを繰り返す馬鹿な子だが、なぜか人に愛されてしまう不思議な少女


 「ひどい!」

 「!? ゆ、勇者様? いかがいたされました?」


 思わず口に出てしまった…。


 「いえ、すいません。 何でも、何でもないんです!」


 はぁ…でもこれ、ばれたらすっごく不味いことにならないだろうか。

 角とか、普段から恥ずかしくて隠してるから今は出してないけど…。

 取りあえず…そう!取りあえずよ!…帰れるようになるまでは黙っておこう…かな。


 「どうです? 自身のステータスに、勇者と記されているでしょう? そして、勇者として召喚されたい以上、あなた様には勇者としての活動を行う義務がございます!」


 えーーっ

 どうしよう…ダメダメ、このままだと本当に魔王と戦わされてしまう! は、早く否定しないと!


 「あ、あの~…「勇者様!」」


 早くなんとかしないと! と思って吐き出した声をかき消すように、アンジェルさんから発せられた強い声が周囲に響き渡る。

 そのまま、アンジェルさんが再び祈るような姿勢で私に言ってくるのだ。



    ・

    ・

    ・


 ──天界



 世界管理局の事務室でラニが頭を抱えてうねっている。

 いや、うねっているというか、その様はむしろ悶えているように見える。


 「やばい、やばいよ、めちゃやばいんですよぉ…」


 正直あまり聞きたくはない…ないが、彼女の同僚であり、親友でもあるユノは、延々と続けられるその奇妙な姿にため息をつきながらも、何があったのか聞いてみる事にした。


 「…そんなに慌ててどうしたの?」


 「ユノー…あの、その…実は…送り込む勇者と魔王、間違えちゃって…、逆になっちゃったんですぅ! えーん、どうしましょうー!」


 案の定、碌でもないことだった。

 世界管理業務の一つでもある異世界召喚のパイプを繋ぐ作業は、その重要性のため、例えとある理由で下っ端の下級官が担当する場合であっても、上級管であるその上司から、使用する魔法陣と召喚する人の氏名、召喚する日時とその場所、転送先の場所まで事細かく記載されており、通常間違えることはない。

 それは、砂糖と塩を間違えるよりも遥かに難解な事である。


 「はぁ、あんた何やってるのよ…」


 ユノは、ラニのそのあまりにもありえないミスに、思わず頭を抱える。

 だが、問題案件の書類を確認するうちに、おや?と、ある事を思う。


 「…まぁでも、これは別にそのままで問題ないんじゃない?」


 「えっ、なんでですか?」


 「あの世界は、魔王と勇者が定期的に争うことでバランスを保っている世界よ。 その両方が召喚されて存在してるなら、逆になったところで大して変わらないでしょ?」


 「あー、なるほど…確かに、それもそうですねー」


 沈んだ気持ちから一転、ポンと手をたたいて、ラニは即座に気持ちを切り替えたようで表情を輝かせる。

 本当に単純な子だ、こうやって反省をすぐ忘れるから、また同じ失敗を繰り返すのではないのだろうか?


 「だから、もう気にせず、さっと次の仕事しちゃいましょう。 ほら、仕事はいくらでもあるんだから!時間は待ってくれないのよ!」


 「らっ、ラジャーですぅ!」


    ・

    ・


 天界の事務業の中でも、特に多忙を極める天界管理局の中で、今日も慌ただしく、ラニとユノは右往左往と忙しそうに動き回る。


 「あ、でも後でちゃんと『チュートリアル』だけは書いておくのよ」

 「はーい! 了解です! 問題ないです!」


 いつの間にか、間違いの召喚を行ったことなど、すっかり忘れて──。


    ・

    ・

    ・



 「 魔王様! どうか、勇者を倒してこの世界を支配してください! 」


 「 勇者様! どうか、魔王を倒してこの世界を平和にしてください! 」



 は? へ?



 「 俺が魔王!? 」 「 私が勇者!? 」







 「「  無理無理無理無理! そんなの 絶対無理ーーーーーーーーーーー!!!  」」



 奇しくも、同じ時違う場所で、魔王と勇者の声が重なる。


 こうして、勇者で魔王なあいつと、魔王で勇者な俺を取り巻く奇妙な物語が始まった。


 始まってしまった……。



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