失敗の発明家
彼は発明家である。新しい技術を生み出す、そのことを生業としている人間だ。しかし彼が生み出すものは決まってひとつの結果だけだった。
失敗。
ただその一つだけだった。
いつもいつも彼は失敗をしていた。失敗は成功の母というが、だからと言って彼は成功を生んだことがない。ひたすらに失敗し続けた。愚直に挑戦し、そしてまた失敗。失敗を繰り返し、繰り返し続ける。何かを作ろうとし、失敗。その後失敗したところを反省し、そして再び挑戦し、また失敗。何を作っているのか知らないが、修正を続けても成功することはなく、彼はひたすらに失敗し続けた。
馬鹿だ。誰もがそう言った。
私もそう思った。成功のない彼の果て無き挑戦は、一体何の意味があるのだろうか? それが分からないから私たちはそのことを馬鹿だと呼称することしかできない。
私は彼に尋ねたことがある。一体何を作っているのかと。私たちは仲の良い部類だったから、そのことを多少口に出しづらい事ではあったが、尋ねることができた。
彼はこう答えたのだった。
「"未来"を」
訳が分からなかった。まあ理解ができたところで何かできるというわけではないが……もしかしたら彼の役に立ちたかったのかもしれない。彼のことを知りたかったのかもしれない。
それからまた彼はひたすらに失敗を続けていた。そのことを知らせてくれるのはいつも彼自身だ。彼が私に会いに来るたびに「失敗した」と子供のような笑顔で私に報告をする。それを私は「そう」と返事をするだけだった。何を言っても、変わるわけではない。「がんばってね」なんて言っても、それが何の励ましになるのだろうか。がんばれない私が、そんな言葉を安易に使ってはならない。
幾年も過ぎた。
遂に私の寿命が来てしまったらしい。不思議なことに苦しみは少なく、衰弱していく体を感じながら今までのことを思い返していた。後悔はない。このまま寂しく死んでいくことにしよう。
いや一つだけ後悔――いや、心残りがあった。
彼は、成功できたのか。
ここ最近彼は私に会いに来なくなったのだ。何かあったのか。事故にでもあったのか。心配でたまらない。そして、挑戦し続けた彼は失敗の果てに成功をつかむことができたのか……。
馬鹿みたいに失敗し続けた彼は、成功を知ることができたのか。
突然私の部屋のドアが開かれた。
入ってきたのは彼だった。
その手にはよくわからないごてごてした機械を持ち、すぐに私の傍に駆け寄ってきた。
何となく理解できた。
――ああ、彼は成功できたのか。
そして私は眠りについたのだった。
それから、私は再び目を覚ますことができた。寿命だったはずなのに。生き返ったのかと誤解した。しかしどうやら彼が助けてくれたようである。
彼が持ってきた機械は、どうやら私を助けるための医療器具だったようなのだ。私の病を知っていた彼は、ひたすらにそれの制作を続け、失敗し、失敗し、失敗し……そして果てに成功をつかんだのだ。
馬鹿のように失敗を続けた彼は遂に成功した。
彼は、私の"未来"を作り出してくれたのだ。
彼は私にこう言ったのだった。
「こんな失敗ばかりの僕ですが、一緒にいてくれますか?」
彼は懐から小さな木の箱を取り出した。
彼はそれを開ける。
そして私は沈黙した
中には何もない。
「あれ……もしかして指輪無くした……?」
焦りだす彼。
それを見て笑みをこぼしながら私は答えるのだった
「よろしくお願いします」
最後の最後で失敗するなんて、彼らしい。
30分の時間制限で書いたので割と適当です。至らない点ばかりでしょうが気にしないでください。
想定している時代は中世~近代?
このお話の主観は女性で、病にかかっていました。彼女と出会った『彼』は、その病を治そうとひたすらに発明を続けるようになりました。
即興なので設定がアレですごめんなさい。