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追いかけっこ

作者: 日月あきら

「いやだっての!」

「…ホント、昔から学習しない子だねぇ~」



あきれたように白々しいため息をつき、無駄に色気を撒き散らし微笑む笑顔。

誰だっ!こんな根性悪のKYに、無駄な魅力を付加したのはっ!!


焦る私をよそに、ニヤニヤとうれしそうなあいつ。

うっかり油断して、捕まった私も悪いんだけどさ。

傍若無人に私の体を這い回る、ドあつかましい手。

引っ掻こうが叩こうが、まったくお構いなしだ。



こんなヤツが”王子様”だなんて、チャンチャラおかしいっての。

ファンクラブまであるって…みんな心の目が腐ってんじゃないか?



巨大猫をかぶっているこの腐れ王子の本性は、幼馴染を追い回すストーカー。

いや、執念深いハンターか。

追い回され、いたぶられ、さらにこいつのファンにいじめたおされている私には、ただの災いの種でしかない。


「バカ拓!近づくな!」とわかりやすい言葉で言い続けていると言うのに…何で通じない?




「…美和、ぼんやりしてるとここで食っちゃうよ?」


首筋を這っていく生暖かい、柔らかな感触。

続いて大きなリップ音。


首、なめたなっ!

ちゅーしたなっ!


私は渾身の力を込めて、あいつの胸を押した。



「ええぃっ!やめれやめれっ!!この、けだものっ!!」

「…なんで?」

「触らないでって言ってるでしょ!?何度言ったらわかるのっ!?100回?1000回?

 そんなに言えねーっつーのっ!!」

「顔真っ赤。うれしいんだ…かわいぃ~」

「っ!!このっ、おバカッ!!」


グーで側頭部を殴りつけると、がつっ、と鈍い音がした。

いって~…と涙目になったとたん色気が一気に霧散し、年相応の17歳っぽいあいつが現れた。



拓とは親同士が仲良かったから、オムツ時代からずっと一緒にいた。

家でも学校でもべったり一緒だったのに、あいつの方から何も言わず離れていったのは、確か中学2年の頃。

同時に中学生らしからぬ交際情報などがうわさで流れ、ずいぶんいやな思いもした。

だって、純粋な私は、小さいころからあいつと結婚するんだって信じてたから。


悩んで悩んで、ようやく王子様はただのエロ野郎だと理解し、心機一転高校生!と思っていたのに、入学してみりゃそこには拓の姿が。

脳がピンク色に染まって、腐ってバカになったと思っていたのに…勉強もしっかり出来たんだと余計に腹が立った。


180センチ近い長身で、空手で鍛えた体とまじめそうな短めの黒髪と伊達めがね。

かの”茶髪でチャラ男”は見る影もなく、春の霞とともに消えたようだ。

それなのに硬派な感じがかっこいい!と、女と言う女にばかばかしくも囲まれているあいつを見ると、けっ!と毒づきたくなった。


それでも、入学後、しばらくは完全無視で平和を満期喫していたのだ。

男女とも友達も出来、クラスも離れていたから接点もなく。


それなのに、気づけば拓は2年目の春を過ぎる頃にはヒルのように纏わりつき、あろうことか乙女の体をべたべたと触りまくり…何がなんだか理解不能だ。

それとともに、見知らぬお嬢様方からにらまれ、呼び出され、罵詈雑言の数々。

妙なメールのせいでメアドを何度変えたことか。

もう、アドレスに使える言葉さえネタ切れだ。



涙目で殴ったところをさする拓を見ていると、むかむかと腹が立ってくる。

それと同時に心の奥がちくちく痛む。

ほんとは、辛くてたまらない。

こんな、遊び半分のスキンシップなんて。


何で私にかまうの?

何で今更?

なんで?なんで?


私の気持ちなんてどうでもいいの?

自分の欲求のためだけにこんなことするのをためらわないほど。


むかむかむかむか。

拓なんて、拓なんてバカ野郎だ!

拓なんて、ぼいんぼいんのおねーさんとイチャイチャしてればいいんだ!


拓なんて、拓なんて…


…なんて言う、未練たらしい私なんて、だいっ嫌い!

結局いつだって拓でいっぱいの自分なんて、消えてしまえばいいんだっ!



「美和、なんで泣くの?」



両頬を包み込まれ、やさしく上を向かされた。

ごつい親指でぐいと拭かれ、初めて泣いていることに気づいた。



「あ、あれ?」

「ばーか」



拓は私の頭をぎゅうぎゅうと抱きしめた。

髪をやさしくすく指先が心地いい。


行き場をなくした、手持ち無沙汰な両手で拓の制服を握れば、頭のてっぺんにたくさんのキスが降り注いだ。

昔みたいに甘やかされたせいか、ちょっぴり素直な気持ちになれた。



「…ねぇ、拓。何でこんなこと、すんの?拓は私のこと、もういらないんでしょ?

 だから、中学のとき、私のこと無視してたんでしょ?何で今になって…」

「美和…」

「私、辛いよ?こんなことされたら。もう、ワケわかんないもん…」

「しゃーねーじゃねぇか、めちゃくちゃ美和が好きなんだから」


……

…は?



驚いた私は顔を上げ、まじまじとあいつの顔を見つめた。

さらに驚いたことに、拓の顔はまかっか。



あんぐりと口をあけたままの私にむっとしたのか、拓は顔をしかめた。


「お前、わかってんだと思ってた。

 確かに、中坊の頃は回りにお前とのことからかわれて、お前無視して、そうこうしているうちに

 お前も離れていって、やばいと思ってたけど、遊んでるとこ見せたらお前めちゃくちゃ嫉妬してたし、

 それで安心してて。

 でもお前に男が群がるのも面白くなくて、高校でも邪魔してやろうとがんばって勉強して…。

 他の女と遊んだら、前みたいに嫉妬してくれるかと思いきや、ぜんぜん無視だし、

 変な男はべらしてるし。

 だから絶対にわざとだと思って無視しようと思ったけど、だんだんバカらしくなってさ。

 おばさんからは”不実な男は婿にいらん!”って言われるし、だからお前とのスキンシップを

 大切に…」


「ちょっと待って!…あんた、うちのお母さんと裏取引してたのっ!?邪魔って…」

「は?裏取引って…だって俺、お前いないときお前の家でおばさんとお茶してたし。

 男払うのは当たり前だろ?お前、俺んだし」

「…つまり何?あんた、私を嫉妬させるためにこれまで遊びまわってたってわけ?

 あと、くだらない男のプライドのため?」

「くだらねーって…まぁ、その、なんだ、そう、なる、かな?」


ぐらぐらぐらっ!と怒りが煮えた。

私はこんなくだらないガキ臭い理由で今まで振り回されてきたのか!?


わなわなと震える私を無視して、あいつは頬にキスをした。


「もういいだろ?お前が俺のこと好きだってわかってんだし、これからはこれまで通り、な?」


ラブラブモード全開で、どんなお嬢様もイチコロだろうよ。



でもね。


好きだよ、ほんと。

こんだけヤな目にあったのに、残念ながら大好きでたまんないわよ。


でもね。


そんな理由でこれまでのことを水に流せるほど、寛大でもないのよね。



私は思いっきり拓の下腹に拳骨をお見舞いした。

油断していた筋肉に、うまくめり込ませることに成功した。


おなかを両腕で抱えてしゃがみこむ拓の頭上で、これ見よがしに両手をはたく。



「…簡単に許すとは、思わないでよね?世の中そんなに甘くないんだから」


目をすっと細めてにらむと、拓はにっと子供みたいに笑った。


「じゃ、根競べだな!負けねーぜ、俺」



幼馴染なんて、ロクなもんじゃない。

こっちの気持ちなんてお見通し、なんて。

されど、根競べ。

…絶対に負けないんだから!





今日も拓は私を捕まえ、私は拓から逃げ回る。

いやみと甘い言葉の応酬は、友達いわく、もうすでにこの学校の名物に指定されたらしい。

いい加減勘弁してやったら?と言われるけど、ホントはとっくに許してる。

けどそんなことあいつが知ったら…気が休まらない毎日が待っていること請け合いだ。


空き教室や倉庫に引きずりこまれ、あれやこれややられたんじゃたまらないし。



二人で無事に卒業するまで、この追いかけっこは続くだろう。

がんばれ、私!









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