勝負
朝、僕はいつものようにカフェに入って、店内の一番奥の席に座った。
今日も一日、仕事が忙しくなること間違いなしだ。
マグカップに手を伸ばし、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
「おお、今日は早いじゃないか、ジョン!」
突然、隣の席から声がかかる。
思わずコーヒーを吹きそうになった。
「うわっ! 何だよ、急に!」
振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
「久しぶりだな! ダン!」
ダンは、僕の高校時代からの親友だ。
今でも連絡を取り合って、時々会うんだけど、最近はちょっと疎遠になっていた。
「なんでここに?」
「なんでって、コーヒー飲みに決まってるだろ!」
ダンはニヤニヤしながら言った。
こんな言い方をするけど、実は彼、超絶真面目な性格なんだよね。
だから、どこかでドジを踏んでたりするのが本当に面白い。
「ちなみに、今日はね、俺、マジで決めたんだ」
「決めたって?」
「俺、今からお前に、勝つ!」
「何に勝つんだよ?」
ダンは真剣な顔をして、いきなりコーヒーをぐいっと飲み干した。
「コーヒー! お前、今日絶対俺に負けるから!」
「いや、コーヒーって何?」
「お前、俺に負けるんだよ! 今日は俺が最強だ! 」
ダンがまるで格闘技の試合でも始めるかのような勢いで言った。
僕は驚きながらも、思わず笑ってしまった。
「お前、ほんとにどうしたんだよ。そんなことで勝ちたいのか?」
「もちろんだよ! 俺はコーヒー界の王者になるんだ!」
と、ダンがカップを手に取りながら言った。
「じゃあ、俺が負けないように、負けたらどうするんだ?」
「負けたら、俺の言うことなんでも聞く!」
「お前、なんでそんなことに命賭けてんだよ!」
「いいから見てろ!」
ダンはおもむろに立ち上がり、僕のカップを持ち上げて、一気に飲み干した。
そして得意げに言った。
「ほら! これで俺の勝ちだ!」
「何言ってるんだよ。だって俺、まだ飲んでないし」
「えっ?」
僕が飲む前に、ダンは自分のカップを僕の前に置いて、ニヤニヤと勝利宣言をした。
「お前、見た目で負けると思っただろう? でも俺、勝ったんだ!」
そのとき、店員が入ってきて、僕たちのテーブルを見て言った。
「申し訳ございません。ご注文のコーヒーができました!」
「えっ?」
「えっ?」
そこには、僕が頼んだはずの巨大なカプチーノが並んでいた。
ダンは目を丸くした。
「お前、最初からコーヒー頼んでたのか?」
「当たり前だろ!」
僕はニヤリと笑って、ダンに向かって言った。
「でも、負けたのは君だよ」
「え?」
「だって、最初から俺の飲み物に勝ってたのは、このカプチーノなんだから!」
ダンの顔が真っ赤になった。
「な、なんだって?」
「だから、君の勝利宣言は最初から意味ないんだよ!」
「うぅ……」
ダンは少し凹んだように、でもその顔はどこか憎めない。
僕たちはその後も笑いながらコーヒーを楽しんだ。
結局、勝負なんてどこにもなかった。ただ、僕らが久しぶりに会って、くだらないことで盛り上がっただけだった。




