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コンビニエンスストア魔王城下店  作者: 江入 杏


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5/5

勇者

「スラさん、夜の廃棄だよ」

 廃棄品の入ったカゴを抱えながら、いつものように裏口の扉を開く。今日は少し多めだ、きっとスラさんも喜んでくれるだろう。

 なんて思いながらスラさんの入っている箱を見れば、そこに縋るように蹲る青年が一人。

「もう嫌だよスラさんっ、オレ疲れたヨォ!」

 魂の叫びだった。魔王城前まで来てやっぱり嫌だ行きたくないとごねる冒険者のようだ。

「…………」

 そっと扉を閉めた。 

 暫く間を空けてもう一度裏口の扉を開く。

「勇者なら滅私奉公して当然だよね? みたいな押し付け本当にやめてほしいよネ!? オレだって人間なんだわ! 飲まず食わずなんて普通に死ぬっつーの! 金が無かったら何も買えねンだわ!」

 青年は尚もきいきい甲高い声で喚いている。最初は何事かと思ったが、どうやら愚痴を聞いてもらっているらしい。

 箱に縋りついているように見えたのも、スラさんに慰めてもらっていたようだ。伸びた触手が青年の頭や背中を気遣わしげに撫でている。

「スラさーん、オレもう疲れたよー。男女の問題なんてオレに言われても困るんだって。こちとら陰キャぞ、高校入ってオタクに優しいギャルがいないか期待して見事に何もないまま終わった陰の者ぞ」

 発言からするに、どうやら異世界からやって来た勇者らしい。アルバの顔が渋いものになる。これが異世界からの勇者か、という気持ちとこれと一緒の扱いだったのか、という気持ち半々である。

 不意を突かれすっかり場の空気に呑まれていたが、すぐに我に返った。聞き上手なスラさんに愚痴を言いたい気持ちも分かるが、勇者がここで油を売るのは頂けない。

 それにスラさんだって気を遣って休めないだろう、彼は紳士なのだ。悲しそうな女性や子どもが居たら放っておけないのである。

「すみません、お店の裏に長時間滞在するのはご遠慮下さい」

「やだーっ、オレスラさんと居るぅ! ここでスラさんと暮らすんダァ!!」

「はいはい、迷惑ですからスラさんから離れてくださ――って、力強いなこの人!」

 スラさんの居る箱から引き剥がそうとするも、とんでもない力でしがみついて離そうとしない。いくら情けないことを叫んでいても、腐っても勇者のようだ。

 アルバもムキになって更に力を込めて引っ張るが、結果は変わらず。暫くこう着状態が続く。

 こうなったら影を使うか? と物騒なことを考え始めていた時、伸びてきた触手がそっと頭を撫でてくる。

 スラさんだ。子ども二人の喧嘩だと思っているのだろう、目の前の勇者とアルバを宥めるように撫でている。

 とは言え、今の状況の原因はスラさんなのだが。

「スラさんも甘やかしたら駄目でしょ、ちゃんと駄目なことは駄目って言わなきゃ。え、でも子どもだって? 人間の基準だとこの人は大人だよ。紳士なのはスラさんの良い所だけど、甘やかし過ぎるのは相手にも良くないんだよ」

「凄いねアルバ君、スラさんと意思疎通完璧だ」

「イトーさん、見てたなら手伝って下さいよ!」

 中々戻ってこないアルバを捜しに来たのだろう、裏口の傍で静観していたイトーが感心しながらこちらを見ていた。思わず叫ぶと、イトーがごめんごめんと言いたげに笑う。

 その後、すぐに勇者の体から力が抜けてすんなりと離れた。見ると麻痺状態に陥っているらしく、意識はあるのに上手く体のコントロールが出来ていない。

「イトーさん、もしかして状態異常の魔法かけました?」

「アルバ君でも力が互角以上の相手だからね。魔法耐性は低いみたいだし、手っ取り早い方法を取らせてもらったよ」

「うわぁ、容赦ないですね」

「アルバ君だって影使おうとしてたでしょ。店の裏手とはいえ、ここで戦闘に入られても困るから穏便に済ませたんだよ。これでもね」

「……すみません」

 イトーは古株なだけあり、こういう時の対処も慣れているのだろう。少しムキになっていたのは否定出来ないだけに、すぐに自分の非を受け入れる。

「珍しいね、アルバ君がそこまでムキになるなんて」

「すみません、少し私情が入ってました」

「そういう時もあるよね。さて、どうしようかなこの人」

 ここに置いておくとまたスラさんに縋り付くのは目に見えている。仲間の愚痴を吐いていたし、ここはパーティの仲間に引き取ってもらうのが一番だろう。

 まだ動けない青年の荷物を失敬して、身元の確認をさせてもらう。やはり異世界からやって来た勇者だったようで、この世界の者とは異なる名前だった。


「すみません、うちのリーダーがご迷惑をおかけして」

「いえいえ。期待の勇者様一行ですからね、色々と苦労もあるのでしょう」

「勇者として頼られることが多いですし、俺達にも言えない悩みがあるんでしょう。ほら、帰るぞ」

「いや…………だ、オレは、スラさん……と、いる…………!」

「おっ、もう喋れそうだな。回復してるなら麻痺直しの薬はいらないか、ははは!」

 快活に笑いながら、仲間である青年は勇者を小脇に抱えて歩いていく。その先に待つ仲間達は、青年が合流するとすぐに彼を取り囲んだ。

 見るに勇者一行は男性が二人、残りの三人が女性の五人パーティのようだ。人目も憚らず女性三人が競って青年の隣に立とうとしているのを見るに、あのパーティが崩壊するのも時間の問題に見えた。

 確かに仲間があれでは愚痴を言いたくもなるだろう。元冒険者として心底勇者に同情する。だからといって、コンビニの裏でぐだを巻くのは頂けないが。

「勇者一行の不仲説が流れてきていたけど、どうやら本当のようだね」

「あ、やっぱりそうなんですか」

「男女混合のパーティだとねえ。よくある話だけど、あれじゃあ魔王城攻略の前にパーティ崩壊して終わりかなぁ」

 期待の勇者一行が痴情のもつれで崩壊、とはなんとも情けない話だ。

 とは言え古今東西、冒険者パーティが崩壊する理由は大半が男女か金の問題だ。たまに方向性の違いもあるが、本当にたまにである。

「オレは幼馴染と三人パーティ組んで、二人が故郷に戻って結婚するから解散しました。イトーさんは?」

「僕は方向性の違いかな。魔法使いだけのパーティでね。残りの仲間は根っからの研究者タイプで、やっぱり研究職に就きたいってことで解散したよ」

「へえ、珍しい解散理由ですね」

「魔法使いって元々研究者タイプが多いし、魔法使いだけのパーティだと遅かれ早かれそうなることが多いよ」

「へぇぇ」

 興味深い話だ。詳しく聞きたいが、そろそろ退勤時間が近い。引き継ぎに向けてやることがまだあるので、二人は業務に戻る。

 かつて冒険者として名を馳せた彼らだが、今や雇われのコンビニ店員である。けれど二人とも案外今の生活を気に入っているので、何ら不満は無い。

「あの勇者君、もしパーティ解散したらうちに来てくれないかな。店長にも話しておかないと」

「えぇ……俺は嫌です、あの人と一緒に働くの」

「アルバ君にも苦手な人が居るんだねぇ」

「勿論居ますよ、俺だって人ですし」

 それからも勇者はちょくちょくここにやって来てスラさんに縋りつき、それをアルバとイトーが引き剥がして仲間に引き渡すのがいつもの流れになることを二人はまだ知らない。

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