今と昔
今日も今日とて代わり映えのない毎日。たまにやって来る調子に乗ってしまったパーティに対応したりと少しだけ変化はあるものの、それくらいだ。
「ふと思ったんですけど、スラさんが裏口で過ごすようになった切っ掛けとかあるんですか」
来客のない時間帯、作業の手は止めずイトーに尋ねてみる。イトーはレジの仮締めをしており、硬貨をコインカウンターに入れながら返事をした。
「あるよ。ここがオープンして数ヶ月くらいの話かな。元々裏口の箱ってゴミ箱で、そこに廃棄品を置いてたんだよね。そうしたら魔王城も攻略出来ないレベルなのにごり押しでここまで来ちゃって、にっちもさっちもいかなくなった冒険者達が廃棄品を漁りに裏口周辺で寝泊まりするようになっちゃったんだ」
「えぇぇ、そんなことが」
「いくら僕や店長がやめるように言っても逃げられてばかりで全然聞いてくれなくて、暫くして店長がスラさんを連れてきたんだよね。それからはあの箱の中で過ごしてるよ」
「はー、そうだったんですか。それで、裏口周辺にいた冒険者達はどうなったんですか」
「店長から魔王さんに話がいって、皆纏めてさいごのむらに転移させたみたいだよ。そのままにしてスラさんに危害を加えたら困るし、治安も悪くなるからね」
「なるほど、それで今の形に落ち着いたんですね」
「そういうこと。ちなみにトイレも昔は無料で使えたんだけど、そこで一晩過ごそうとする冒険者が現れて有料にしたんだよ」
「えっ、トイレでですか」
「そう。一応使った後は自動で発動するクリーン魔法で綺麗になるとは言え、トイレで寝泊まりって無いよね」
「いやー、俺もトイレで寝るのはちょっと……」
「ここなら安全だからって言われても、うちは宿屋じゃないし。他のお客さんが使えなくて困るから魔王城内のセーフティエリアまで行けって話したよ。そうしたらなんて返ってきたと思う?」
「うーん、そこまで連れていけ、とかですか?」
「一人じゃレベルが足りなくて行けないってさ。それなら適正レベルまで上げてくれば良かったのにね」
「あー、魔王城ってソロで挑戦するなら最低でも80以上は必要ですもんね」
「なんでレベル足りないのに来ちゃったの? って話だよ。結局今回だけってことでその冒険者もさいごのむらまで魔王さんに転移してもらったよ。迷惑な話だよね」
「ですねぇ。自分の実力を見極めて無謀な攻略をしないのは冒険者の基本なのに」
今は引退したものの、アルバもイトーも元冒険者だ。そのくらいの基本は当然知っている。
「この間の猛虎のなんとか、だっけ。ああいうのも昔から絶えなくてさ、その都度スラさんに対応してもらってるけど中にはテイマー職の人がいたりして、そういう時は厄介なんだよね。無いとは思うけどテイムされる可能性もあるからスラさんにお願い出来ないし、店の中荒らされるわけにもいかないし」
「そういう時ってどうするんですか」
「僕達店員の出番だよ。そのためのレベル80以上が採用条件だから。給料が他のコンビニと比べて桁違いに高いのも、採用基準が高いのと危険手当だね」
「あー、ここがやたら時給が良いのってそういう……」
「そうそう。あ、それでも駄目なら店長か魔王さんに連絡ね。あの人たち転移魔法持ちだから連絡したらすぐ来るよ」
「うわあ、反則技じゃないですか」
「僕らでどうにもならなきゃ上の人呼ぶしかないからねぇ。ちなみに他の偉い人達も呼べば来るには来るけど、大体が国で名の知れた本当に偉い人達だからその人達が出張ってくると社会的にも死ぬよ。その内一人は王族だし」
「怖い怖い怖い」
「そう、実はコンビニって怖い場所なんだよ。後ろにいるのは国の要人レベルの人達だからね」
「あれ、これって怖い話でしたっけ」
「そういえばアルバ君には話してなかったなって思ったから、知っておいたほうがいいかなって今話したよ」
「初耳でした。いやー、コンビニ強盗ってかなり命知らずな行為なんですね。イトーさんの話聞いてよく分かりました」
「そうなんだよ。でも知らないとはいえさ、ここって冒険者を引退したけど元ランカークラスの従業員がごろごろいるのに、なんで顔見ても気づかずに調子に乗るんだろうって不思議に思うよ」
「冒険者時代の格好じゃなくて、制服姿だからじゃないですか?」
「うーん、魔王城に来るなら相手の実力を見極められないと駄目だと思うんだけど」
「確かに」
冒険者達の目指す最後の場所がこの魔王城だ。当然要求される技術は高いのものになる。敵対する相手の実力を見極めることは必須、ここでは些細なミスが命取りとなるのだから。
――ピロリロリロ……。
聞き慣れた入店音と共に二人が出入り口へと顔を向けると、世紀末かな? と聞きたくなるような袖なしの服と刺々しい防具を着けた冒険者が舌を出しながらげへげへ笑っている。二人はこの後に起きる展開を察した。
「ヒャッハァー! この店の商品と有り金全部よこしなァ!!」
「アルバ君、スラさん呼んで……あ、駄目だ。あの中の一人がテイマーだ」
「じゃあ俺達の出番ですね」
「げひひっ、今日からここをオレ達の拠点とする!」
「はいはい、そこまでですよ」
「抵抗するならお客様とて許しません」
「げぇっ!? 神速射ちのイトーと影使いのアルバ!?」
「その呼び名、恥ずかしいから俺的にはやめてほしいんですけど」
「なんで僕達を見て誰か分かるくらいなのに、ここのコンビニ襲撃しようとするかなぁ」
難なく襲撃してきた冒険者達を拘束して魔王軍に引き渡した後、二人は何事もなかったように雑談しながら業務を再開するのだった。
今と昔で変わったことは沢山あるが、今も尚変わらないのは時折調子に乗ってしまった冒険者がこうしてやらかすことである。
そう語るイトーは苦笑いしていた。
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