店の裏口には
夕方のピークも過ぎ、後は夜勤でやってくる従業員に引き継ぐだけとなった。静かになった店内で商品の補充作業やレジスペースに置いてある魔導具の点検をそれぞれで手分けして行う。
「イトーさん、廃棄品って見ました?」
「まだ見てないよ、お願いしてもいいかな」
「はい、見ておきますね」
カゴを一つ持つと弁当や軽食が置いてあるコーナーに立ち、商品の後ろの日付を確認する。今日は来客が多かったからか、廃棄品は少しだけだった。
「廃棄見たんで裏口行ってきます」
「よろしく」
廃棄の入ったカゴを手にバックヤードを通り過ぎ、裏口の扉を開く。扉脇の大きめな箱の蓋を開けると、もぞりと中の何かが動いた。
「スラさん、夜の廃棄品だよ」
カゴを見せると、中のそれがゆるりと触手を伸ばして廃棄品を掴む。するすると消化層の中に掴んだそれらを放り込んでいく。
「え、もっと無いのかって? 今日は忙しかったからこれだけだよ」
少しだけ不満そうだったが、それだけだ。触手が引っ込んだのを確認すると、蓋を閉じて店内に戻る。
「スラさん今日も元気ですね」
「まあスライムだからね、怪我さえしなければ元気だよ」
「あそこで過ごすの結構長いですよね、俺が入ってくる前からいますし」
「そうだよ、僕の後にやってきたから実は三番目の古株」
「えっ、そんなに長いんですか。大先輩じゃないですか」
「それにスラさん、ああ見えてキングスライムだから下手な冒険者より強いよ」
「えええ」
色々と衝撃的な話ばかりだ。スラさんが古株でキングスライムなことも、イトーが二番目の古株なことも。アルバがここで働き始めて半年近く経つけれど、案外知らないことも多いらしい。
「最初は驚きましたよ。あそこの箱にスラさんが入ってるなんて思わなくて、うっかり攻撃しかけましたもん。怒ってないといいけど」
「新人あるあるだねぇ。スラさんは紳士だから女性と子どもには優しいし、怒ってないと思うよ」
「……俺、もしかして子ども扱いなんですか」
「多分そうなんじゃないかな」
たまに触手で頭を撫でられたり、廃棄品を渡されたりするのはそういうことだったのか。通りでイトーに報告すると微笑ましそうにされるはずだ。スラさんの気持ちだと言われて渡された廃棄品は有り難く貰っていたが、そんな真意があったとは。
「スラさんからしたら俺はまだ子どもなんですね」
「アルバ君からしたら嫌かな」
「いえ、ちょっと照れくさいですけど嬉しいです。あんまり子ども扱いされたことなかったんで」
「それなら良かった。今度話しかけてあげなよ、スラさん結構聞き上手だから」
「はい、そうします」
ふいに入店音が響く。二人は出入り口に視線を向けると来客に声をかけた。
「へえ、本当にあるじゃねえか」
「結構品揃えも良さそうだし、当たりだな」
ぞろぞろとやって来た集団客が何やら探るような目つきで店内を見渡している。何処となくいつもと違う風貌に二人はすぐ様身構えた。
「アルバ君、裏口に行ってスラさん呼んできてくれる? 仕事だよって言えば分かるから」
「は、はい」
イトーに言われるまま裏口へ急ぐ。言われた通り仕事だと声をかければのそりと箱から出てきた。
スラさんと店内に戻ると、何やら揉めているような雰囲気だ。ピリピリとした空気にアルバの表情も引き締まる。
「ですから、ここはお店なんです。商品が欲しいなら代金を払って頂かないと」
「だからさぁ、俺達ここまで来るのに使ってきちゃったんだって。払えないもんは払えないんだわ」
「あれぇ、おじさん俺らのこと知らないの? 猛虎の爪だよ? 有名なパーティにここの商品使ってもらえるだけでも有り難く思ってよ」
にやにやと笑いながらふざけたことを抜かす連中だ。立地的にここの商品を盗んだところで大事にならないと高を括っているのだろう。だが、そうは問屋が卸さない。
「話になりませんね。スラさん、お願いします」
イトーが言い終わるかどうかの所でスラさんの触手が男達に伸びる。あっという間に拘束された男達は宙に浮きながら騒ぎ立て、触手から抜け出そうと藻掻くも抜け出すことは叶わない。
「野郎に触手プレイって正気かよ!?」
「さては俺達に年齢制限かかるようなことする気だな!? 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!」
「しませんよ、気持ち悪いこと言わないで下さい」
うんざりした顔でイトーが男達を見ている。何を期待しているのか、ちょっと頬が赤くなっているのが腹立たしいが中々に愉快な奴らだ。
「未遂なのでこのまま大人しく出ていくならこれ以上のことはしませんけど、どうします?」
「そんなこと言って俺達を屈強なオークに引き渡すんだろ!?」
「くっ、殺せ……!」
「お望みなら魔王軍のオークさん達呼びますよ、残念ながら貴方達の望むような展開にはなりませんがね。それに魔王軍の方達はここの常連ですから、捕縛後はかなり酷い目に遭うと思いますよ」
「すみませんでした、お金ちゃんと払うんで許して下さい!」
「魔王城に来てちょっと調子乗っちゃいました! だから魔王軍だけはっ、魔王軍だけは勘弁して下さい!」
猛虎の爪と名乗った集団が大人しくなったのを確認し、スラさんの拘束が解ける。とはいえ彼らを警戒するように触手が周辺を漂っているので、彼らは気が気でない様子だ。
「…………ええ、全額確かに。次は本当に魔王軍を呼びますからね」
「はい、本当にすみませんでした」
「これからはちゃんとします、なので魔王軍は本当にやめて下さい」
すごすごと退店していく集団を見送り、スラさんにお礼を言って裏口の箱に戻ってもらう。去り際に二人揃って頭を撫でられたのでスラさんなりに褒めてくれたのだろう。
「スラさん的にはイトーさんも子どもなんですかね」
「まあスラさんだからねぇ」
イトーによると、キングスライムだけあってそれなりに長生きしているらしい。魔物と一括りに呼ぶけれど、進化している個体はその分長生きしていることもあってかなり知能が高い。スラさんもそうなのだろう。
「なんだか今日だけでスラさんを見る目が変わりました」
「だよね、僕も店長から聞いてスライムって侮れないんだなって思ったよ」
心無しかあの後ろ姿がとても大きく見えた。実際今は箱の中に収まるサイズになっているだけで、本当はとても大きいらしい。
今日も店の裏口には、箱の中でスラさんが廃棄処理と安全管理に勤めている。
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