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コンビニエンスストア魔王城下店  作者: 江入 杏


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コンビニエンスストア魔王城下店

――その日、異世界転移者と異世界転生者が結集した。そして顔を突き合わせながら誰ともなく口を開いたのである。


 そうだ、コンビニを作ろう、と。


 元日本住人の異世界住人達は忘れられなかった。コンビニのあの手軽な便利さを。二十四時間いつでも何処にでもあり、ふと出かけた夜にぽつんと見えた灯りのあの安心感を。

 そこからは異世界知識の出番だった。ありとあらゆるチートやオーバーテクノロジーを駆使し、懸念事項だった商品の品質保持と恒久的な流通に成功。コンビニという概念のないこの世界では革新的な試みとなり、その利便性の高さからコンビニは平民、貴族を問わず虜にした。

 莫大な利益を産むコンビニの利権を我が物にしようと企む者や二匹目のドジョウを狙う者も当然いたが、あまりにも絡んでくる設備の問題を前に諦める者が続出。結果として利権はコンビニ設立者の一人である王族に異世界転生していた者が持つこととなった。そのせいで王位継承の順位が上がってしまい、立太子することとなってしまったので頭を抱えていたが割愛。

 そうして世間を大いに騒がせたコンビニはまさに叡智の結晶であった。

 異世界の歴史が動いた瞬間である。

 

 ■


――ピロリロリロ……。


 親の声より聞いたと言っても過言ではない入店音に、売り場の棚を整理していたアルバは顔を上げる。魔導レジに立っているイトーもカウンター下の備品を補充する手を一旦止め、出入り口を見た。

「いらっしゃいませー」

「しゃーせー」

 言い慣れて段々おざなりになってきた挨拶をしながら、再び視線を棚に戻した。来店したのは常連だ。恐らく遅めの昼食だろう、今日は休憩時間が延びたのだろうか。

 足早に弁当の置いてあるコーナーに向かい、迷うことなくノリベントーを手に取ると脇のホットドリンクコーナーからホージチャを取り魔導レジへと向かってくる。

「ベントーの温めは?」

「よろしく」

「いつものタバコはどうします」

「いやー、実は嫁さんがおめでたでさ。禁煙することにしたのよ」

「おお、目出度いですねぇ。じゃあお祝いってことでホージチャサービスしますよ」

「えっ、いいの? 助かるよ、これから何かと入用でさぁ」

「家族が増えますもんね、張り切って稼がないと」

 ピーッ、と魔導レンジから音が鳴った。広げておいた袋に温めたベントーとホージチャ、ハシを一膳入れて常連に手渡す。それを受け取るとじゃあ、とにこやかに手を上げて店を出ていった。

「アルバ君、ホージチャお客さんに奢ったから一本レジ通すね」

「はい」

 事務室兼更衣室に引っ込むイトーに代わり、アルバが魔導レジに入る。ついでに取ってきたホージチャをスキャンすると、イトーが財布を手に戻ってきた。

「会計しときますよ、そろそろ休憩どうぞ」

「ありがとう、これホージチャのお金ね。じゃあ休憩入ります」

「はい。あ、何かやっとくことありますか?」

「それならタバコの補充お願い出来る? レジが混んだら遠慮なく呼んでね」

「分かりました」

 イトーが事務室に引っ込むのを見届け、ホージチャを売り場に戻すとレジに入る。カートンのタバコをバラして補充していると入店音が響いた。

「いらっしゃいませー」

 出入り口に向かって声を掛けると、今度は見慣れない集団客が入店した。何処か落ち着かない様子で店内を見渡していたが、レジに立つアルバを見るとあからさまにほっとした顔をする。

「あの、ここって買い物は出来ますか」

「勿論ですよ。食料も飲み物もありますし、情報誌や回復薬もあります。公共料金の支払いも出来ますよ」

「すみません、トイレ借りたいんスけど」

「入口から左手側の奥にあります。有料なので、扉にお金を入れると開きます」

「ざっス。ちょっと行ってくるわ」

「あっ、そういえばギルドの更新料の支払いまだじゃない?」

「そうだった、忘れてた!」

「ついでにダンジョン保険も支払っときなさいよ」

「やだ、コンビニスイーツの新作出てる! ねえこれ買っていい!?」

「えっ、あたしも食べたい!」

 男二人と女二人の四人パーティは賑やかに店内を物色して回る。カゴいっぱいの食料や飲み物に、先程話していたスイーツもしっかり入っていた。後から仲間の一人が回復薬を持ってきて、カゴから溢れそうになっている。

「すみません、公共料金の支払いもお願いします」

「はい、商品とは別で会計しますね」

 少しくたびれた支払い書の魔法陣をスキャンする。内容に間違いないか確認してもらい、魔導画面の確認ボタンを押してもらう。

 店の魔法スタンプを押して公共料金の支払い証明書と引き換えに精算を終えると、次は商品の会計だ。

「噂には聞いてたんですけど、まさか本当に魔王城にコンビニがあるなんて思いませんでした」

「冒険者の方によく言われます。魔王城挑戦は初めてですか?」

「そうなんです、今日初めてのトライで。さいごのむらでここにコンビニがあるから魔王城に着いたら寄るといいって聞いて、正直半信半疑でしたけど来て良かったです」

「さいごのむらから来たんですね、大変だったでしょう」

「そうなんですよ! 魔王城までの敵は強いし、回復薬も使い切っちゃって。それに食料が尽きかけて一旦戻るか悩んだくらいで。そんな時にここを見つけて、都合が良すぎて罠かと思っちゃいました」

「困った方のためのコンビニですから。冒険者は勿論、魔王軍の方もよく利用されるんですよ」

「えっ、魔王軍も来るんですか?」

「ええ、ここを利用するならどなたでも同じお客様ですから。実はこの店とその周辺だけは休戦協定が結ばれていて、もし冒険者と魔王軍が遭遇しても戦闘は禁止されているんです。なので安心してお買い物頂けます」

「へえ、そうなんですね」

 レジに通した商品を手際よく袋に入れ、合計金額を読み上げる。お釣りと一緒に商品を渡すと、入店した時よりも肩の力が抜けた彼らが頭を下げる。

「ここがあって本当に助かりました。それに安心したのかな、魔王城に来た時は不安で仕方なかったけどなんとかなる気がしてきました」

「その意気ですよ、魔王城攻略頑張って下さいね」

「はい、行ってきます!」

 意気込みながら店を出ていく彼らの背を見送り、声をかける。

「ありがとうございました、またお越し下さいませ」


「店員さん、イケメンだったよね」

「分かる、めっちゃ格好良かった!」

「……うーん」

「どうしたの?」

「あの店員さん、何処かで見たことある気がするんだよなあ」

「他人の空似じゃねえの? ここでコンビニ店員やってるんだし、魔王城から出たことないだろ」

「でも見覚えがあるような……」

 何度も見たような既視感があった。初めて会ったはずなのにどうしてだろう。

 そのもやもやも魔王城入口が見えてきて思考の片隅に追いやる。

 旅の始まりからずっとここを目指してきた。込み上げてきた緊張感に負けてしまわないよう、深く息を吸い込んだ。


「アルバ君、休憩どうぞ」

「はい、ありがとうございます」

 休憩から上がってきたイトーと入れ替わりに事務室へ入る。ひと息つきながら椅子に座り、店内が映された魔導液晶を眺めた。

 夕方のピークに向けてイトーがホットスナックの仕込みを始めている。アルバが休憩から上がった頃には店内も賑わってくるだろう。

「あのパーティ、何処まで行けるかな」

 見た感じ自分と同じくらいの冒険者だった。編成もバランスがいいし、仲も良さそうだ。初攻略ということを加味しても、もしかしたら結構良い所まで行くのではないだろうか。もし駄目だったとしても、めげずにまた挑戦しに来て欲しい。

 コンビニエンスストア魔王城下店、アルバイトのアルバはその背中にかつての自分を重ね、自然と目を細めた。

前から細々書いていた話です。

不定期更新の予定です。


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