追跡
俺は後日、ライカとフウリに忍者の女に襲撃された事を話した。
「そんな事が・・・巻き込んでしまい、すみません。」
「2人が謝ることなんて無い。元はと言えば俺が勝手に首を突っ込んだ訳だし。ただ、よかったら教えてくれないか。抜け忍の男の事や俺を襲った女の事と忍びの里について。」
「わかりました。先ずは・・・そうですね。私達の里は群馬にあります。」
群馬。ここからそう遠くない場所だが、広大な竜脈が存在するエリアで自然エネルギーが集積している箇所が点在する。
集積した自然エネルギーは偶発的な事象を引き起こし、その膨大なエネルギーの暴走は人間にはとても制御が出来ない。
その為エリアの大半を竜脈が占めている群馬は非常に危険なエリアとして認識されている。一方で動植物は非常に多種多様であり、虫から大型の哺乳類に加えて自然エネルギーの影響を受けた突然変異種なども確認されている。
「そして私達忍者は歴史の中で多くの組織と協力或いは敵対し、様々な世界的事件や戦争に介入してきました。」
「私達は未だ実践は未経験だけどねー。」
ライカが口を挟む。2人は実践経験が無いらしく、人を手にかけた事もないとの事だ。そして、2人の最初の任務が抜け忍の男についての調査だそうだ。
「2人はあの男と知り合いなのか?」
「いえ。あまり面識はありません。勿論、全く知らないと言うわけではありませんが。」
2人が忍者としての修行を開始した時既に男は正式な忍者として活動していて、同じ組織に所属していたが、面識は全くと言って良いほど無いとの事だ。そして2人の任務の内容も男の始末や拘束では無く行動の監視だと言う。
「俺を襲ってきた女は誰なんだ?その男と一緒に抜けた忍か?」
「うーん。違うと思うな。私達はその女の人について何も聞かされてないし。」
「もしかしたら私達が組織に入るよりも前に里抜けした忍である可能性もありますが、私たちも詳しくはわかりません。」
2人は俺を襲撃してきた女については全く知らない様だ。
身体強化の忍術と言い鎖を使った戦闘スタイルと言いあの男と共通点が多いことを2人に報告した。
「2人の任務が行動の監視なら、何であの時戦ってたんだ?」
「それは、その・・・」
フウリが言葉に詰まっているとライカが言った。
「私達が尾行してるのバレちゃって、そのまま勢いで制圧しちゃえーってなって。」
初任務らしいアクシデントだ。しかも、実力差のある相手にはかなり危険な判断だミスまで重ねている。とは言え忍者には忍者のやり方があるのだろう。俺がどうこういうべきではないと思った。
「なるほどな。何となく見えてきたぞ。」
おそらく抜け忍の男に敵対意思はなく、危険性が低いことを里も承知の上でこの2人に監視させているのだろう。女についても暫くは襲ってくることはないだろう。俺の事も報告されてるだろうし、事を荒立てなければ慎重になる必要も無さそうだ。最初は2人を助けるべきかと思ったが、もしかしたら協力すべきは抜け忍の男の方かもしれないと思った。
とは言え奴も相当な実力者だ。わざわざ首を突っ込む必要もないだろう。
その後、模擬戦をして解散した。
俺は大聖堂で枢機卿に一連の報告をした。
「忍者も後進育成に力を入れているようだね。昔は痕跡も殆ど残さない手練の数人が活動してる程度だったのに今じゃヒヨッコを外で実践訓練させてるなんてね。」
「おかげで俺も魔術を学べた。悪くない物だな魔術も。」
「今までだってやろうと思えばうちで学べただろう。何で今更魔術に興味を持ったんだい?」
枢機卿は俺が魔術を習得したことに興味があるらしい。
「忍術は適性のある事象操作を重点的に伸ばすらしい。それで自分の適性が何なのか興味が湧いた。」
「ほう。お前さんの適性は何だったんだい?」
「血の玉みたいなのが出てきて液体と金属じゃないかって言ってたな。液体の操作は割と思い通りにできる様になってきたが、金属に関しては自分の血をベースに剣を出すぐらいが限界だな。」
「なるほど。使って慣れるのも良いけど勉強も大切だよ。お前さんがやったテストで血が出てきたから液体と金属って考え方は悪くないけど少し違う。もしお前の血液だけで剣を作ってたら直ぐに失血死しちまうよ。」
枢機卿は魔法や魔術というアカデミックな領域での権威だ。
少し話を聞いただけで俺の適性について理解したらしい。
「それに金属の事象操作ってのは地中の金属を集める事もできなくないが基本的には既にある金属の形を変えたり自在に動かしたりで空中にいきなり金属を生み出すわけじゃない。」
「ほう。じゃあ俺の適性って何なんだ?」
「液体操作だけだよ。血が出たのはお前の魔力の影響を一番強く受けたのが自分の血液だったってだけだね。」
意外な答えだった。
「じゃあ何で俺は剣を作る所までは簡単にできたんだ?個体なのに。」
「自分の血液中の鉄分を核に周囲の魔力エネルギーを鉄に変換させたのさ。これは適性とかじゃなくて単純にお前自身の魔力量が多いからできてるだけだね。魔法学的には魔力エネルギーを核と同じものに変質させる事を増殖と呼んでる。これは魔術としては簡単だけど多くの魔力を消費する。結構疲れる魔術だけどお前ほど体力があれば難しくないだろうさ。だから無意識的に鉄分を増殖させてたんだろうね。」
枢機卿によれば俺が剣の様なシンプルなものしか作れないのは液体で形作れるものは単一のパーツで完結するものだけだからだそうだ。機械の様に複雑なものは複数のパーツで構成されるが液体では液体同士が混ざって一つになってしまうからできないとの事だ。流石はアカデミックの権威なだけあって分かりやすい説明をしてくれる。
「これで、基礎勉学の重要性がわかっただろう?」
「ま、少しはな。とは言え地球でしか使えない物なんだろ?魔法や魔術って」
「宇宙空間には空間当たりの原素数が激減することは知ってるだろ?魔力エネルギーも結局は電子の運動量が大きい元素だからね。十分に存在しない場所では使えないよ。」
「まさに自然の恵みってわけだ。」
「だからこそ再現性もあるし事象を想像する事もできるのさ。魔法とは言う物の結局は科学だよ。だから忍術みたいに感性重視で訓練するよりちゃんと理論を勉強した方がよっぽど良いと私は思うけどね。」
枢機卿に言わせれば魔法を戦闘にしか使わないのは勿体ないし建設的な使い方ではないとの事だ。魔法や魔術はもっとポジティブな物で全世界にとってプラスにになる様、活用するべきだという。全くもってその通りだ。
「んま、今後は少しずつ勉強してくよ。」
そう言うと枢機卿は少し嬉しそうな顔つきをした。
大聖堂を出ると俺は抜け忍の男を探し始めた。
さて、痕跡も残さないスーパー忍者をどうやって探したものか。2人によるとその男の名前はシェン。あとは一度顔を見てる事ぐらいしか手がかりがない。2人は基本的に男が忍術を使うとがあれば感知することができるらしいが、忍術を使わない隠密行動などは感知も出来ず任務の監視対象でもないらしい。つまり2人は男が忍術を使用している時のみ監視していると言うことだ。なかなかに穴だらけの監視である。チュートリアルか何かか。
映画のスパイみたいなハイテク機器ややテクニックがあれば良いのだが、そんな物俺が持ってるはずもなく、例の女に見つかってまた邪魔されるのも避けたいから派手なことはできない。早速手詰まりになった俺はメイドカフェに向かった。
「おかえりなさいませご主人様!」
「今日はラプラスたんはいますか?」
メイドが盛大に出迎えを受け、早速メイドを指名する。ここの店は名前にたんを付けるのが一般的だ。
席に通され暫くするとラプラスたんがやってきた。
「ご主人様ー!お飲み物は何にしますか?ってお前かよ。」
メイドはご主人様が俺だと分かった瞬間態度が急変した。
もちろん見知った仲だ。俺の注文も聞かずにバックへ戻るとゼロコーラを持ってきた。
「んで、今日は何の様ですか。」
「ちょっと人を探してるんだが、全く手がかりがないから休みに来た。」
「チェキ撮って良いですか。」
「良くねえよ。」
「ご注文は?」
「チョコケーキで。」
「オムライスですか?」
「ちげえよ。」
そんなやりとりをしてラプラスたんはバックへ戻っていく。
チョコケーキを待っている間に店内を見渡すとメイドがステージで踊っているのが目に入った。ステージの前には客が集まってメイドのステージを盛り上げていた。
俺がここに来るのはもちろんメイドカフェを楽しむためじゃない。指名したメイド、ラプラスたん(本名:最上知恵)に会うためだ。彼女は界隈ではマクスウェルという名で知られている凄腕のハッカーだ。俺が会いに来たのはメイドのラプラスたんではなくスーパーハッカーマクスウェルの方だ。
「チョコケーキでーす。」
「街中の監視カメラの映像みれるか?」
届いたケーキに早速手を伸ばしながら聞く。
「今度は何を探してるの?」
「抜け忍の男だ。身長は大体190cmで筋肉質。顔は結構なイケメンだけど目元に傷がある。」
一度見た時の記憶を頼りに覚えている情報を羅列した。
「目元に傷ね。少しは探しやすそうね。」
そう言うと彼女はタブレット端末を取り出し町中の監視カメラの映像からAIで特徴と一致する人を検索し始めた。
最初に俺が戦闘した時の映像を元に男の顔画像を取得し現在の街中のカメラから同じ顔と思われる人を探す。
前回の見えない刃を飛ばしていた男と違って人物像が少しわかるだけで大分手間が省ける。すごい時代だ。
「流石忍者ね。ここ何日もほとんどカメラに映っていないわ。映っていても一箇所で写り込む程度で連続したカメラ映像で追跡することができないわ。」
「今日カメラに映った場所は?」
「万世橋のあたりね。ここはカメラ3つの視界に入ってるから少し映り込んでるわ。」
ちょうどケーキも食べ終わりゼロコーラも無くなったので俺は早速橋へ向かう事にした。
「チェキ撮りませんか?」
「いらん。」
会計を済ませると俺はメイドカフェを後にした。
橋に来てみると男はいなかった。とは言えこの辺心当たりがある。万世橋の下に地上からはアクセスできない部屋があるのだ。そこはイタリア系のコミュニティによって大昔に作られたカタコンベの入り口だ。ヴェネツィア文化を汲みゴンドラで川から入る設計になっている。そのアクセスの悪さから普段は滅多に人が寄り付かない場所だ。特に根拠はないがカタコンベにシェンがいる気がした。
俺はカタコンベの入り口に瞬間移動すると中へ入っていった。
中はLEDが常時点灯しており明るい。視界は開けていてカタコンベ内部は入り組んではいるは通路幅も広く、不意打ちの心配はなさそうだ。内部をを進んでいくと人の気配がした。