表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

能力者

俺は強い。驕りではない。


この世界では人によって固有の特殊能力を持っている事は珍しくない。

固有の能力が無い人でも勉学と努力で魔法を覚えることができる。

もちろん、固有能力を持つ人も魔法を覚えることは出来るから持っているならそれだけで優位ではある。


しかし、俺の特殊能力は一際特別だ。 ・・・たぶん。



ここは秋葉原。俺にとっては庭とも言える程に慣れ親しんだ街だ。ここは多くの国の人が集まり、それぞれの文化を持ち込み上手いこと一つの街に押し込んだまるで小さな世界とも言えるような場所だ。ここは居心地が良い。誰もが特別でそれ故にどんな例外も存在しない。普通の基準が無いが故に全てが普通として受け入れられる場所だ。


「ビーフチーズケバブ一つ、ナチョ多目で」

トルコディストリクトでケバブを買う。

「ハイ、ビーフチーズオオメネ」

ケバブは素晴らしい。まるで地球の全ての地域の食文化を一つにしたかのような食べ物だ。このケバブ一つに人類史全てが含まれていると言っても過言では無い。

そして俺は人類の叡智の結晶を食べながらある場所へ向かう。


ケバブがちょうど食べ終わる頃、階段を登り、大扉を豪快に開け中へ入って行く。

「・・・来たかい」

中へ入ると同時にに声をかけられる。

「枢機卿直々の呼び出しとはね?それで、話って?」

ここは秋葉原が誇るアナトリア大聖堂。世界でも有数の規模を誇る由緒正しき宗教の施設だ。

この科学が発展した現代でも特殊能力や魔法と言った個人への依存性が高い分野での影響力が強く、現代では各国の警察とも協力し世界の平和と安寧のために活動している。


「最近、通り魔が立て続けに起きててね。お前にも力を貸してほしいわけさ。」


「犯人の目星は?」


「それが全くつかめてなくてね。監視カメラの映像では被害者が何もされていないのにいきなり大怪我を負っているような状態さ。」


つまり、犯人は見えないか遠距離攻撃をしてると考えるのが普通か。


「被害者の傷跡から凶器は銃ではなくて刃物の様な物との事だが、魔術や魔法であれば遠くからでも斬りつける事はできるからね。警察は教会のが専門的と判断して捜査依頼を受けたのさ。これが警察から渡された捜査資料だ。持っていきな。」


警察から提供された資料を受け取る。中には被害者の写真や事件現場、発生時刻や被害者の個人情報などの情報が載っていた。


「なるほど、んで犯人が判ったらどうすれば?」


「任せるよ。捕まえるでも、始末するでも。」


普通の犯罪であれば制圧しての逮捕を目指すものだが、魔法や固有能力が使われる犯罪は被害が大きくなる事が多く、逮捕せずにその場で始末してしまう事も珍しくはない。

今回も例に漏れず可能であれば逮捕、難しい様ならその場で処分で現場に一任されている様だ。


「オッケー。そういや、ユースティアナさんは?」


ユースティアナさんはこの大聖堂に勤務するシスターで俺の片想いの相手だ。正直彼女に会いに来たと言っても過言では無い。


「シスターユースティアナは今外に出てるよ。残念だったね。」


不在か。今日は運が悪いらしい。


「ありゃ、会えると思って楽しみにしてたのに。まぁ良い。んじゃ何かあったらまた来る。」


椅子から立ち上がり外へ向かって歩く。


内側からドアを開けると目が太陽の輝きに照らされ視界が眩む。し、しかし、余りにも眩しすぎて目を開けていられない。


「あの光、何の光っ!!!!」


この眩しさは太陽光のそれじゃ無い。まるで世界が創造される瞬間に立ち合ってるかの如き眩さだ。


「あら?いらしていたんですね!」


創世の光の先から声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。

しっかりと前を見ると、ユースティアナさんが帰って来た所だった。


「ゆ、ゆ、ゆ、ユーさん!お、お、お、お邪魔してます!!!」


何故かは分からないがユーさんとは上手く話すことができない。ユーさんを意識すると緊張で言葉が詰まり思考も難しくなる。


「お邪魔だなんてそんな、いつでもいらして下さいね。」


余りにも優しい声と笑顔に全身が浄化されて行く。


「あ、あ、あ、ありがとうございます!ではまた!!」


ユーさんとの予想外に会えた事に取り乱し、逃げるように大聖堂を後にした。



今回の通り魔事件は短期間の間に多くの被害が出ているという事で捜査も追いついていないとの事だ。犯人の情報が全く無いのではこちらも動きようが無い。少しでも情報を得るためにUSディストリクトにある銃砲店に行く事にした。

店内は綺麗で活気がある。

特殊能力や魔法があるとは言え、それらを使えない人も多く、何より魔力や体力を消費せずに致命的なダメージを与えることができる銃は現代において誰にとっても必需品だ。


「いらっしゃい!って、アンタか。何かあったか?」


店員が慣れた様によく話しかけてくる。

こういう事件が起こると護身の需要もあって情報が集まりやすい銃砲店の店員とは見知った仲だ。


「最近の通り魔事件について、何か知らないか?」


率直に聞いてみる事にした。


「アレだろ?誰も居ないのにいきなり斬りつけられるとかいう。ウチでも事件のニュースが出てから護身用目的の客が増えたが、犯人についての情報は無いな。」


店員も事件のことは知っている様だ。しかし、犯人についての情報は全く無いらしい。


「どんな人が狙われるとか、犯人の目的とか噂話でも良いから何か無いか?」


少しだけ深掘りして聞いてみる。


「そうだな。お前が警察や教会からもらってる情報以上に確かな物では無いとは思うが、被害者は大怪我を負ってるが誰も死んで無いから犯人は自分の能力を試してるんじゃ無いかって噂だ。」


「最近能力に目覚めた奴ってことか。」


確かに、捜査資料によれば被害者に共通点は無く、全員が一命を取り留めている様だ。後天的に固有能力を得たか覚えたての魔法を試したくなった愉快犯という考え方は悪く無い。

しかし、それも憶測でしか無い上に、これ以上の情報を得る事は難しそうだ。


「わかった。またなんか判ったら教えてくれ。それと、460マグナム、チップドを2箱くれ。」


情報をくれたお礼に俺の銃で使う弾薬を買って店を出た。


捜査資料によれば事件現場人通りの量に関係なく、発生時刻も日夜問わずバラバラだ。つまり犯人は日中の人通りが多い場所でも誰にも気付かれずに攻撃できるという事だ。

試験的に能力を使っているのであればある程度自分の能力を把握した所で犯行を止める可能性もある。出来るだけ早く対処する必要があるかもしれない。

さらに何時でも何処でも犯行が可能ならば秋葉原に拘る必要も無いわけだ。犯人の目的がはっきりしない以上次に起こる事件現場を抑える事ができなければ、かなり厳しい状況になるだろう。

俺は次の通り魔が何時起きても良い様に準備に入った。


2人の女性が話をしながら歩いていた。


「次何処行く?」

「なんかお腹空いてきたー。なんか食べ行かない?」

「良いね。んじゃない駅のほ」


言葉が途中で切れる。1人の女性が倒れた。


「えっ」


もう1人の女性は状況が飲み込めず言葉が出なかった。

そして、彼女にもまた見えない刃が襲いかかっていた。


ーーーー!


しかし、その刃が女性を斬り裂く事はなかった。


「なるほど。遠距離かつ見えない攻撃か。」


女性の側には先程まで居なかったはずの男が立っており、独り言を呟いていた。俺だ。


俺は女性には目もくれず犯人と思われる人間を探す。

見つけるのは簡単だ。俺と女性の直線上にいて、この状況をよく見ている奴を探せば良い。案の定、簡単に見つける事ができた。俺と犯人との距離は約20メートル。俺は咄嗟に銃を取り出し相手に狙いを定める。

しかし、引き金を引く事が出来ない。日中の大通りでは人が多く、俺の460マグナムでは威力が強すぎて周りへの被害が出てしまう可能性があったからだ。


「・・・!」


犯人が一瞬の隙をついて逃げ出す。人混みを雑に押し除けながら走り遠ざかっていく。

何度も曲がり追跡を撒くように走っていき人通りの少ない裏路地へ逃げ込んだ。


「グアッ!!」


犯人の顔に強烈な蹴りが入り声を上げて倒れる。

それは突然の出来事だった。


「何だ!誰だ!!」


体制を立て直した犯人が声を上げる。勿論、そこにいるには俺だ。


「大人しく捕まるか死ぬか選べ。」


犯人と会話をする気は無い。俺はただ選択肢を与えた。


「ふざけんじゃねえ!死ぬのはてめえだ!!」


怒鳴り声をあげ犯人が空を切る様に強く手を振る。

その時見えない刃が犯人の手から放たれている様だ。

しかし、その見えない刃が俺に当たる事はない。刃が見えているわけではないが、どうやら刃の大きさは概ね犯人の腕と同じ長さで飛翔スピードも犯人の手を振る速度と同程度の様だ。十分に予測で避ける事ができる。


「な、なんなんだてめぇは!」


犯人の質問に俺が答える事はない。

代わりに、犯人の左脚を左から1発の弾丸が貫く。


「---!」


一瞬の出来事に犯人は声も出せず膝をつく。

目の前にいた男の姿は無く、慌てて左側を見た。

しかし、やはり左側にも男の姿はない。

そして左側を向いている犯人の右側から大ぶりのキックが顔面目掛けて放たれる。

鈍い音がして犯人が後ろに倒れる。左脚の出血も酷く、立ち上がることさえできない上に状況が飲み込めずパニックに陥った。


「たたた、助けてください。お願いします。」


犯人が俺に命乞いをして来る。敵わぬ力量差を理解したようだ。


「・・・何でこんな事をした?」


俺は犯人に聞く。さっきまでと違い素直に答えた。


「ほんの出来心だったんです。最近能力に目覚めて、試したくなってつい!それに人も殺してない!もうしませんから、助けてください!」


どうやら店員の言っていた事は正しかった様だ。


「・・・。」


1発の銃声が響く。事件現場には頭部の無い犯人の死体が残っていた。




「終わったよ。」


大聖堂で俺は枢機卿に事件の報告をしていた。


「見えない斬撃を飛ばす能力ね。なるほど。

お疲れさん。それで、今回は何で殺したんだい?

お前なら捕まえる事だって簡単だっただろう?」


報告が終わると枢機卿は質問をしてきた。実際大した能力では無かったし被害者は誰も死んではいない。犯人を殺す必要がある程俺自身が危険な状況に陥った訳でもない。


「俺は犯罪者の更生を信じていない。」


「更生できる人だっていっぱい居るさ。実際に今を善良に生きている元犯罪者を何人も知ってるよ。」


「勿論いるだろうな。更生できる奴も。コイツもそうだったのかもしれない。ただ、俺は更生して欲しいなんて思って無いだけなんだろう。」


「ま、判断は一任されてるんだ。もちろん今回の結果にケチをつけるつもりも無いし、何の問題もないよ。」


流石枢機卿の器なだけはある。俺の人が殺したいわけじゃ無いという気持ちと犯罪者の更生なんて信用できないという考えの両方を見透かされている様だ。


「ま、救い様のある奴なら次は捕まえる事にするよ。」


軽く受け流すように返すと俺は大聖堂を後にした。


・・・・・・。


俺はこの世界にどうなって欲しいんだろうな?

そして俺はその世界でどうなりたいんだろうな?


そんなことを考えながら夜に煌く秋葉原の街を見下ろしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ