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「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい  作者: megane-san


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番外編 フェミリアのその後(2)

 メナード辺境伯の結婚式に向かう数日前、フェミリアはクリスティーナと一緒に商会のドレス工房に来ていた。


「フェミリア様、ドレスの着心地はどうですか?動きにくい部分などがあったら遠慮なく言ってくださいね」


フェミリアはドレスを試着して鏡の前でクルクルと回ったり、脚を上げたり、腕を回したりしてドレスを着てどれだけ動けるのかを試していた。


「フェミリア様、このドレスは本当に素晴らしいです!生地に伸縮性もあって、どんな動きにも対応できそうです!この生地は他国からの輸入物ですか?」


クリスティーナは、フェミリアの様子に満足気な表情をしながら、この生地の開発者とのやり取りを思い出していた。


「この生地は、ガーラ国の南の辺境伯領で作られたものなのです。生地を開発されたフルーラ辺境伯はとても面白い方で……。機会がありましたらご紹介させていただきますね。それはそうと、辺境伯様の結婚式当日は王宮から皆様で転移で向かわれる予定でしたでしょうか?」


「はい。転移で向かうことのできる人数は限られますが、警備の関係上、海上や陸地で行くよりも安全ということで。そして王太子夫妻は披露宴が終わったら、すぐに転移で王宮に戻ることになりました。……あの、それで、ドレスに着替えてから転移で向かうことになるのですが、当日の着付けと化粧等をこちらの工房の方にお願いすることは出来ますでしょうか」


「もちろんですわ。王宮の近くにあるグリモード家のタウンハウスで私と一緒に着付けをいたしましょう。私とレイ様も、ガイ様達と一緒に王宮から転移することにいたします」


♢*♢*♢*♢*♢*


 義兄の結婚式当日、ドレスを着て化粧を施したフェミリアは、学院時代の淑女マナー授業を思い出しながら、優雅な所作で馬車を降りた。王弟のレイは転移での出発準備のために先に王宮入りしたため、クリスティーナと二人で王宮の入り口に向かって歩いていた。


クリスティーナが知り合いに声をかけられて足を止めたので、フェミリアはいつもの護衛の癖でクリスティーナの後ろにサッと立ち位置を取って周りを確認していると、後ろから歩いてきた騎士団の一人が「えっ、あれフェミリアじゃないか?」と言って近づいてきたのが見えた。


(うわぁ~、ジルだ。この格好で絶対会いたくない奴に見られたわ……)



クリスティーナは知人に声を掛けられて会話をしていたが、こちらに近づいてくる騎士がフェミリアを見て目を瞠った後、すぐに顔を顰めたような表情をしていた様子を視界の隅に捕らえて見逃さなかった。


「やっぱり、フェミリアか。そんな恰好でどこ行くんだ?」


「お前には関係ないだろ」


フェミリアに冷たく言い返されたジルは、少しムキになったような表情で「そんな恰好をして化粧なんかしても、全く可愛げが無いよな」と言った瞬間、クリスティーナがフェミリアの前に出ようとするのをサッと押さえた『クリスティーナの知り合い』が、フェミリアの隣に瞬間移動した。


「女性が美しく着飾っているのに、そんな物言いは失礼ではないかね、オルモード伯爵令息」


「えっ、何で俺の名前を……」


『クリスティーナの知り合い』は、フェミリアの手を取って「私の開発したこの生地のドレスをこんなに美しく着こなしていただきありがとうございます」とフェミリアの目を見ながらニッコリと微笑んだ。


そして、オルモード伯爵令息の耳元でそっと囁いた。


「好いた女性にそんな態度では、嫌われるのも致し方ないね。君、残念な奴なんだねぇ」


ジルは、顔を真っ赤にしながら、何故かフェミリアを睨んで走り去っていった。


「「えっ……?」」


走り去るジルの背中を唖然と見ていたクリスティーナとフェミリアは、ハッとして『クリスティーナの知り合い』に振り返った。


「クリスティーナ殿、この美しい女性をご紹介いただけませんか?」


「あっ、大変失礼いたしました。彼女がこのドレスの広告塔をしてくださっているフェミリア・グルフスタン伯爵令嬢です」


フェミリアは体幹の整った美しいカーテシーで挨拶をした。


「ダリオン国グルフスタン伯爵家のフェミリアと申します」


「私はガーラ国南辺境伯のルキリア・フルーラです。貴方のような素晴らしい女性に私の作った生地のドレスを着ていただけるなんてとても光栄です。王都には1か月ほど滞在予定なので、ご都合のいい時に、その生地の感想をお聞かせいただきたいのですが……」


フェミリアは、少し顔を赤らめている目の前の男性をじーっと(マジマジと)見上げた。


(この方が、南の辺境伯様……。私よりもかなり背が高くて、細身に見えるけどものすごく筋肉が締まってる細マッチョだわ……。何だろう…… 彼から目が離せない……)


二人の様子を見て、何かを察したクリスティーナは、後日お茶会に二人を誘うことをフルーラ辺境伯とフェミリアに約束した。


♢*♢*♢*♢*♢*


王宮からメナード辺境伯城に到着した王太子夫妻とノーサンプトン侯爵夫妻、そしてクリスティーナ達は、先に辺境伯城入りしていたグルフスタン伯爵家のご家族と挨拶を交わしていた。


フェミリア父:「えっ、フェミリアなのか……?」

フェミリア母:「まぁまぁまぁ~~~!フェミリア、なんて美しいのかしら!」


フェミリアが両親の前で苦笑いしながら居心地が悪そうに立っているのを見かねたクリスティーナが、サッとフェミリアの側に移動して、久しぶりにお会いしたグルフスタン伯爵夫妻に挨拶をした。


「まぁ!クリスちゃん、お久しぶりね。あっ!フェミリアのドレスはもしかして……」


「お母様、その通りです。今回もクリスティーナ様に助けていただきました」


(これなら嫁に行けるのではないか?……ヒソヒソ……)

(あなた、無理強いはダメよ。さりげなく私からいくつかの釣書を見せてみるから……コソコソ……)


グルフスタン伯爵夫妻が、コソコソと話している声を拾ったクリスティーナは、こそっりと夫人に内緒話をした。


(夫人、その件は私に任せていただけませんでしょうか……ヒソヒソ……)

(クリスちゃん、わかったわ。何か進展があったら教えてね!……コソコソ……)




義兄の結婚式は城内に古くからある美しい教会で行われた。そして披露宴では30歳を過ぎても結婚の気配すらなかったガルフがようやく結婚したと、辺境伯騎士団OBの幹部達が大酒を吞みながら泣いて喜んでいた。


皆からの祝いの挨拶が落ち着くと、ガルフは新婦を伴ってフェミリアの座っていたテーブルにやってきた。


「フェミリア、俺の嫁さんのリーゼだ。朝の顔合わせでは挨拶をしただけだったからちゃんと紹介するよ。リーゼは辺境伯騎士団に所属する女性騎士なんだ」


リーゼは背が高く、がっちりした体系の女性だった。しかし女性らしい落ち着いた柔らかい雰囲気を持ち、ガルフを立てている様子が窺えた。


「フェミリアです。義兄をよろしくお願いします」


フェミリアがリーゼに挨拶をすると、ガルフは頭を掻きながら、「独身同盟、破っちまったな」とボソッと呟き、フェミリアに辺境伯騎士団副団長を紹介すると言われたが、フェミリアは丁寧に義兄に断った。


リーゼが侍女に呼ばれて先に披露宴を退場すると、会場に残った義兄とフェミリアは久しぶりに兄妹で話をしようとテラスに出た。


「ねぇ、兄さん。結婚を決めたきっかけは何だったの?」


「きっかけ?ん~、意外に単純なことだったよ。魔獣討伐でいつも彼女が俺の後方を守るような位置取りになっててさ、リーゼが背中にいると何故か安心していられたんだ。それに魔獣と戦う時も彼女との連携はとても取りやすかった。信頼?そんな関係がいつの間にか出来てた。それが決め手かな?」


「信頼か……」


「今のフェミリアの周りに、そんな相手はいそうか?」


義兄にそう言われて、ふと思い浮かんだのは、今朝会ったばかりのフルーラ辺境伯だった。


(えっ!何で彼が思い浮かんだんだ?今朝会ったばかりだぞ!)


「ふう~ん、どうやら俺が心配する必要はないようだな~」


義兄はニタリっと笑うと、私が持っていたグラスにチンっとグラスを当ててウィンクしながら会場に戻って行った。



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