27. レイの番
レイが到着したことを知らせにきたセバスは、クリスティーナの姿を見ると目を潤ませてハンカチで目元を押さえた。
「お嬢様、お美しくなられましたね。レイノルド王弟殿下の婚約者としてふさわしいお姿です」
クリスティーナは、セバスのエスコートで玄関ホールへの階段を降りて行くと、ネイビーのタキシードにシルバー色のクラバットを付けたレイが目を瞠ってクリスティーナを見上げていた。
「クリス、美しいよ。ドレスも似合っている。こんな素敵な女性が私の婚約者だなんて……。何故だか分からないが、胸がドキドキして心拍数が上がっているよ」
(((んっ?それって……)))
玄関ホールにいたグリモード夫妻を含む全員が『!!!』と何かに気が付いたのであった。
レイとクリスティーナが転移して王宮の夜会会場の入り口に着くと、待っていたギルバートとローラが小走りに駆け寄ってきた。
「ローラ様!お久しぶりでございます」
ギルバートにエスコートされたローラは、ギルバートの瞳の色であるエメラルド色のドレスを着て頬を染めていた。
「ローラ様、お兄様をよろしくお願いしますね」と声をかけると、真っ赤な顔をして二人はクリスティーナに小さく頷いた。
レイはクリスティーナの腰を抱き寄せると、「私達は最後に入場するから後で会おう」といってギルバート達と別れ、レイ達は王族の控室に向かった。レイとクリスティーナが控室に入ると、そこにはグリモード夫妻とセバス、そして今夜の護衛が勢ぞろいしていた。
「えっ、お父様とお母様、セバスまで?あっ……、そういうことですね。確かに、今夜が一番危険ですわね」
「今夜の夜会では、セバスが王弟殿下の侍従として側につくことになった」
クリスティーナは、レイとクリスティーナが嵌めている腕輪と同じ物をセバスが嵌めていることに気が付くと、ぐっと唇を噛みしめて「……わかりました」と頷いた。レイがスベルスに時空間の狭間に飛ばされそうになった際は、セバスが転移でレイと位置を交換して身代わりになる作戦だった。
「セバス、すまんな……」
「グリモード家のご家族をお守りするのが私の仕事ですから、お気になさらないでください」
そう言うと、セバスはニッコリと二人に微笑んだ。
♢*♢*♢*♢*♢*
「レイノルド王弟殿下と婚約者グリモード男爵令嬢の入場」
レイとクリスティーナが会場へ入場すると、ザワザワしていた会場が一瞬でシーンと静まり返った。ガーラ国の令嬢達の憧れであったレイノルド王弟殿下が婚約したという話はすぐに広まっていたが、レイは全く夜会へは参加しなかったため貴族達は噂の真偽を確かめようがなかったのであった。
「えっ、男爵令嬢って身分差が……」
「王弟殿下と歳の差がありすぎじゃないか?」
「でもあのご令嬢は、才媛と呼ばれている改革派の……」
(まぁ、なんやかんや言われるだろうことは想定内よ。でも皆さん声が大きすぎるでしょう)
クリスティーナがチラッとレイを見上げると、レイはウィンクして腰をぎゅっと抱きしめた。
(レイ様~、おやめください~!ここでまた気絶しては、大変なことになってしまう~~~!)
クリスティーナが顔を真っ赤にしていると、檀上に国王陛下と王妃、そしてガイとその婚約者が入場してきた。
「皆の者、今日は私の誕生祝いの夜会に参加してくれてありがとう。今日はもう一つ祝い事がある。王太子であるガイの婚約をこの場で発表したいと思う」
ガイが婚約者をエスコートして前に進み出ると、二人は会場に向かってお辞儀をした。
「婚約者であるシルバーズ侯爵令嬢は他国からガーラ国に輿入れする。ガイとシルバーズ侯爵令嬢は番同士だ。二人の間に割り込もうと策を練っても無駄だということを先に伝えておく」
国王はそう言ってニヤリと笑うと、パーティーの開始を告げた。
楽団の音楽がスタートすると、国王陛下と王妃、そしてガイとその婚約者がダンスホールに降りてきた。
「さぁ、私達もいくよ」と、レイはクリスティーナの手を引いてホールの真ん中へ進み出た。
王族たちのファーストダンスが終わると、他の貴族達もホールの中に次々と入ってきた。ギルバートとローラの姿も見えたが、レイはクリスティーナを連れて国王達が座る檀上へ上がっていった。
「国王陛下、お誕生日おめでとうございます」
レイとクリスティーナが国王に挨拶をすると、国王から直々にガイの婚約者の紹介を受けた。
「シルビア・シルバーズと申します」
彼女は二人に挨拶をして顔を上げると、なぜかじっとクリスティーナを見つめた。レイがそれに気が付き「なにか?」と訊ねると、ガイの婚約者は「色が私と同じなので……同郷かと」と俯きながら答えるとガイの後ろに隠れるように一歩下がった。
「シルバーズ侯爵令嬢、私は隣国の生まれなのですが母はこの国の出身です。もしかしたら、昔にヴァンパイア国の血が入っていたのかもしれませんね。これから同じ色を持つ者同士、仲良くしていただけますか?」
「こちらこそ、この国で初めてのお友達になっていただけますか?この国には知り合いもいなくて心細かったのです」
「喜んで。ガイ様と一緒にグリモード家にいつでも羽を伸ばしに来てくださいね」
皆んなで談笑していると、ガイがこちらに向かって歩いてくるギルバート達の姿に気がつき、シルバーズ侯爵令嬢を連れてレイ達と共にホールに降りた。
「ガイ!婚約おめでとう」
ガイはギルバートとローラに婚約者を紹介すると、周りの貴族達が我先にと声をかけようとしている様子に気が付き、すぐに大広間の裏にある別室へ移動した。
大広間から廊下に出ると、シルバーズ侯爵令嬢が「お花摘みに……」と言って侍女と一緒に少し離れた化粧室に向かおうとしたが、クリスティーナは彼女の護衛も兼ねる気持ちで「私もご一緒しますわ」とレイに目配せをした。
レイはそれに気がつくと「私が護衛をしよう」と申し出てクリスティーナ達に付き添っていった。
「私はここで待っているから何かあったらすぐに声を上げなさい」
レイは彼女達が化粧室に入るのを見送ると、壁に寄りかかって小さく息を吐き、星が瞬く夜空を見上げた。
「レイ様大変です!すぐにこちらに来てください!」
レイはハッと振り向くと、化粧室からクリスティーナが走り出てきて、レイの腕をぐっと引っ張った。
……とその瞬間!レイはクリスティーナに変化していたスベルスに、時空の歪みの亀裂に引き込まれた。すぐにセバスがレイのもう片方の腕を掴んだが、亀裂から引き込まれる風に飲まれるように3人は穴に飛ばされ、その穴はすぐに閉じて消えてしまった。
レイは穴に飛ばされた瞬間、腕輪の結界が作動したことに気がついた。そしてセバスは、持っていたロープで物理的にレイとセバスの体が離れないように結び付けていた。
「レイ様、お怪我はありませんか?」
「あぁ、セバスも大丈夫か?」
「はい、ガイ様の魔道具のおかげで全く無傷でございます。あの魔術師は向こうの方に飛ばされていきましたが、体がスパゲッティのように伸びてましたよ。戻ったら、こちらでの様子をガイ様に報告書にまとめてお渡ししなくてはなりませんな」
セバスは笑いながら指輪に魔力を込めた。クリスティーナはいざという時のために、セバスにもクリスティーナの魔力を込めた魔道具の予備の指輪を渡していたのであった。
レイも指輪に魔力を込めると、指輪から白い光がある方向を指して進んでいった。しかしその光は、セバスの指輪の光が指す方向とは真逆を指していた。
「どういうことだ?」
セバスは少し考えた後、「レイ様の指輪が指す方向へ行ってみましょう」と、レイの前に立って歩き始めた。
少し歩くとレイとセバスの目の前に映画のスクリーンのようなものが川の流れのようなところに映し出された。
*~*~*~*~*~
一人の少年が、病室の窓から、外のベンチに座って楽しそうに笑っている老人と女性の姿を見ていた。その少年は季節が変わる頃には立ち上がることも出来なくなり、彼は病室のベッドから窓を眺めて時々庭先にあらわれる楽しそうな二人の笑い声を聞きながら外の風景をスケッチする事だけが楽しみとなっていた。
ある日その少年の描いた絵が窓から飛ばされてしまった。庭先にいた女性はそれに気がつくとスケッチを拾って、その少年の病室まで届けてくれた。
トントンと病室のドアがノックされて、いつも眺めていた女性が部屋に入ってきた。
「これ、君の?」
その少年はいつも眺めていた女性に声をかけられて、なぜか心拍数が上がり顔を真っ赤にして答えた。
「はい、僕のです。拾っていただきありがとうございます」
その女性は「素敵な絵ね」と言うと、その少年に絵を手渡した。その絵には、桜が舞い散る中で笑っている老人と女性が描かれていた。
「今日は私の誕生日なんだ。おばあちゃんに祝ってもらえる最後の誕生日かな……」と悲しそうに笑うとすぐに病室を出ようと背中を向けたが、その少年はとっさにその女性に声をかけた。
「あの!良かったら、これ貰ってください。誕生日おめでとうございます」
女性が「えっ!」と振り向くと、「ありがとう」と言って満面の笑みで少年に笑いかけた。
*~*~*~*~*~
「あれは、レイ様とお嬢様の前世?」
流れる映像を見ていたレイの目からは、止めどなく涙が溢れ出ていた。そして胸に仕込んだ術式が『パリンッ』と音を立てて弾け飛ぶと、術式と一緒に封印していた前世の記憶も溢れるようにレイの中に流れ込んできた。
ときめくものは君との思い出だけ
たった一瞬だったけど、初めてのときめき
そのときめき以外、僕はなにもいらない
僕の命はもう少しで終わる
キラキラして美しくて胸が暖かくなる僕のときめく思い出
今世はあと少しだけど、こんなに美しいときめきを持てたこと
君のおかげだ
願わくば今度はきみの番として出会いたい
いつかどこかで




