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18. クリスティーナの提案

 卒業式から数日後、クリスティーナとギルバート宛に王宮から手紙が届いた。


編制した改革準備メンバーで1か月後に初会合を開くので、クリスティーナの前世であった王政と貴族制度の廃止についてどんな風に行われたのか、みんなに説明をしてほしいと書かれてあった。


クリスティーナは、前世であったことを説明を付けて詳しく紙にまとめて冊子にし、複写の魔道具で人数分を印刷して資料を準備した。そしてそれに加えて、クリスティーナの考えたこれからの国の要になる発案をわかりやすく説明するために前世で使用していたプロジェクターのような魔道具を準備して、画像で伝えるための準備もギルバートと共に進めていった。


沢山の荷物を持ってクリスティーナとギルバートが王宮の会議室に入ると、すでに魔法協会の会長と経済産業大臣とその補佐達が席についていた。


「ギルバート君、クリスティーナ嬢、待っておったぞ。会議が始まる前に二人が作った魔道具について話が聞きたくての」


「私も今日の説明に使用する資料を先に読ませてもらったが、素晴らしすぎる案だよ。早くクリスティーナ嬢と話がしたくて一番に会議室に入室してしまったよ」


クリスティーナ達は、今日の会合で話す内容を先に経済産業大臣と魔法協会会長に相談して確認をお願いしていたのであった。


国王陛下と宰相が会議室に入ると、宰相が改革準備メンバーを一人ひとり紹介した。そして改革の目的とこの国の未来の展望を話した。


宰相がクリスティーナが前世持ちであり、彼女の前世で同じような王政や貴族制度の廃止が成されたことを伝えると「前世持ちですと!」とあちこちから声が上がったが、クリスティーナは表情を崩すことなく、たんたんと準備していた資料を全員に配った。


クリスティーナは立ち上がると、堂々とした態度で、前世の王政と貴族制度の廃止の流れを説明していった。そして、王政と貴族制度廃止の一番の重要な点は、反対派をどう納得させるか、それが出来なければ、この改革は反対勢力によって覆され、現在の王族の方々の立場も危うくなるということを伝えた。


「確かに、クリスティーナ嬢の言う通りだ。この改革がスムーズ進めることができない状態になれば、反対派が王族を潰しにかかるだろう」


「はい、そう考えられます。反対派もこちらの改革派に取り込めるほどの魅力的な条件を提示しなければなりません。そこで、私と兄が考えた解決案をお話させていただいてもいいでしょうか」


「クリスティーナ嬢、すでに案があるのか!」


「はい、ですが私の思い付きですので、慎重に皆様で検討していただけますでしょうか」


クリスティーナとギルバートは画像を映し出すプロジェクターのような魔道具を設置すると、税収等を棒グラフで記した画像を壁に映しだした。


(魔法協会の会長が「この魔道具はいいのぉ!アイデアじゃなぁ〜」と感動しながら、魔道具に近づこうとしたが、近くにいた大臣に体を押さえられていた)


「先程お話しました貴族制度廃止に伴う領地の国有化ですが、現在各領主が持つ領地を国有化して税収を直接国に納めるようになると、領主の収入源が激減します。改革後は、その減った税収の代わりに、各領主に領地の統制と治安を守る仕事の対価として、国から給与という形で対価を支払うことにします。そしてそれに加えて、歩合制として領地の農作物の生産量が上がって治めている領地の税収が増えた場合には、増えた分の1割を賞与として給与に上乗せします」


「なるほど。そういうやり方があったか。しかし税収のみでこの国全部の領主達への給与は賄えるのか?」

 

財務大臣は腕組みしながら、クリスティーナに疑問を投げつけた。


「はい、今ご指摘いただいたように、各領主に国の税収から給与を支払うと、他の予算に当てる財源が残りません。それに、各領主も国から支給される給与だけでは、今までの税収から得ていた収入には及ばず、不満が上がると思われます。そしてこの国の国民への教育や医療などの社会保障を保つ財源も不足します。そこで、それを解消するための案がこちらです」


ギルバートはガーラ国を中心として周辺の国が描かれた地図を映した。


「現在、ガーラ国は魔石の輸出によって外貨を稼いでおります。しかしこれからのガーラ国は、資源以外の物を海外に輸出して外貨を稼ぐ方法をとり、国益を上げていくのが一番早く財政を潤す方法なのではないかと考えました。


例えば、隣国のダリオン国ですが、この国は魔力を持たない者が多いため魔道具が発達しておりません。そのため、すべての仕事を人力で行っており、効率も悪く費用や時間もかさむため流通を活性化させることが難しい状況です。この国は魔力が無い人でも利用できる魔道具を欲しています。


そして次にナジア国ですが、この国は国土の3分の2が乾燥地帯のため作物を育てることが難しく、食糧のほとんどを輸入に頼っています。この国は乾燥地帯でも作物が育てられるような魔道具を欲しています。


そして北にあるイディア国ですが、この国は寒冷地で作物がほとんど自給出来ないため、常に食糧不足な状態です。この国も、自国で食糧を自給する方法を欲しています。


もうお分かりいただけましたでしょうか。ガーラ国は魔術大国です。ガーラ国はいつ尽きるかわからない資源を売るのではなく、魔道具などの私達が持っている技術を輸出するのです。そして国益を上げてその収入で国を豊かにしていくのです」


「なんと……。我々の技術を売る……」


「はい。私が前世で住んでいた国は小さい島国で資源の乏しい国でしたが、様々な技術を駆使して世界最高水準の品質を保つ製品を世界中に輸出して国益を上げ、国民も豊な生活をしていました」


「しかし、これからそのような魔道具や術式を作るとなると何年もかかってしまうのではないかね?」


「今、例に挙げたナジア国とイディア国が必要とする魔道具ですが、すでに私と兄のギルバートで作った試作品が完成しております。

 ナジア国の乾燥した農地でも、食物が栽培できる術式を組みこんだ魔道具を兄が開発しました。そしてイディア国のような寒冷地でも、農地だけを暖かく保ち作物の栽培が可能出来るグリーンハウス結界の術式も出来上がったところです」


「なんと!」魔法協会の会長は、びっくりした顔でギルバートを見た。


「このような大掛かりな国対国の取引は外務省にお任せして、他に平民でも手に入れられるような価格のどの国でも需要がありそうな魔道具を国営工場で生産いたします」


「「「「「国営工場!」」」」」

 

「例えば、寒い冬にベッドに敷いておくだけで布団が温まる『ウォームブランケット』です。


 まず、羊毛や綿花等のブランケットの資材になるようなものが採れる領地に下請けを依頼してブランケットのみを生産してもらいます。そしてブランケットを温めるための魔力を通す魔線を、他の領地で生産してもらいます。それぞれの領地で出来上がったものを国営工場が買い取り、国営工場ではそれらを組み立てて完成品に仕上げ、品質を検品して輸出していくという流れです。

 

国営工場に卸す物を生産するのは、国営工場が定める品質基準をクリアした下請け工場のみとして、その工場は各領主が運営し、収益は全て領主の利益となります。そうすれば、今までの税収の収益を上回る数字を手に入れることができ、天候に左右される農作物の税収よりも安定します。地方の領民も現金を得られる仕事に就きやすくなり、一石二鳥になるのではないかと。そして今後、農地を潰して、どんどん工場が作られて農産物からの税収が少なくなると予想されますので、数年後には、工場へ課す法人税の導入も検討した方がいいと思われます。


大雑把にお話いたしましたが、要はこの国の輸出量を増やして外貨を稼ぎ、国内に還元しようということでございます」


国王はクリスティーナの説明に感動した表情で頷いた。


「素晴らしい案だよ。これなら不安定な農作物の税収より、領主も安定的に収入を得ることができる。うん、これは反対派もこちらに寝返るかもしれんな」


クリスティーナはプレゼンが終わり、ふう~と息をついて席に戻ると、魔法協会の会長が手を上げて発言した。


「クリスティーナ嬢、その魔道具の特許権だが、それは製作者に付随するのかね?」


「国営工場で生産する魔道具に関しては、今後は特許権を国が買い上げることにした方がいいと思いますが、今回、国営工場を立ち上げるために私たちが考えた術式の魔道具は、無償で国に譲渡いたします」


「なんと!」


財務大臣は、ずっと腕組みをして冊子を睨みながら話しを聞いていたが、ガタッと立ち上がるとクリスティーナ達に満面の笑みで大きく拍手をした。


「グリモード君、君達は素晴らしいよ。まったく先が見えなかった我々に道を示した。貴族制度を廃止した先に、今よりももっと豊かな国になる絵が見えたよ。ありがとう」


財務大臣が二人に感謝を述べると、会議室にいた全員から大きな拍手が送られた。そしてクリスティーナがレイの方を見ると、レイはサムズアップして『よくやった』と口を動かした。




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