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16. 辺境伯城の断捨離

 メナード辺境伯城では、神鏡の探索と同時進行で大規模な断捨離が行われることになった。


レイは、辺境伯城の全ての者達に、ガイがガーラ国王の養子となり、辺境伯当主はグルフスタン伯爵家のガルフが継ぐと告知した。そして今までの辺境伯夫妻が使用していた部屋や物を全て処分して、新辺境伯当主の城とするべく城内全ての片付けが始められた。


レイ達は神鏡を探して城内をくまなく探索したが、神鏡を見つけることは出来なかった。そして、砦を探索していたロレアからも神鏡は見つからなかったと報告が入り、神鏡の探索は暗礁に乗り上げていた。



「ガイ様、お持ちになるのはそれだけでいいのですか?」


ガイが両親の形見として持ったものは、両親が愛用していた刀と三人が笑顔で描かれた小さな肖像画だけだった。


「ガルフ、母の持ち物は、全てグルフスタン伯爵家へ渡してくれ。父の物は全て処分した」


「ガイ様……。畏まりました」


ガルフの後ろ姿を見送った後、ガイは両親の刀と肖像画を持って、辺境伯城の側にある二人が眠る墓の前にやってきた。


「父上、母上。俺はこの辺境伯領を出ることにしました……」


ガイが両親の墓石に被っていた枯れ葉を手で払っていると、キラッと光る何かが視界の隅に入った。


「んっ、光った?何も無いように見えるけど……。わかった!そうか、認識阻害か!」


ガイは、すぐさま墓石の辺りに向かって魔法解除の術式を施すと、母の墓石の側に神鏡が立てかけてあるのが見えた。


「……あった」



神鏡を見つけたガイは全速力でレイ達がいる執務室に向かった。


バンッ!とドアを開けて駆け込んできたガイに皆が呆気に取られていると、ガイが神鏡を両手に抱えて「見つけた!」と息を切らしてその場にしゃがみこんだ。


執務室にはレイとギルバートそしてクリスティーナしかいなかったため、すぐに防音結界を張ってガイをソファに座らせ、そしてギルバートはガイの側に座るとすぐに水の入ったグラスをガイに渡した。


「ガイ様、良かったですね!でも神鏡はどこにあったのですか?」


ガイは水をゴクゴクと飲み干すと、ふう~っと深呼吸して顔を上げた。


「母上の墓石のところに立て掛けてあったよ。認識阻害が掛かってたから、前に探しに行った時は見つからなかったんだ。さっき両親にこの辺境伯領を出ることを報告しに行ったら、光る物が目に入って、たまたま神鏡を見つけることができたんだ」


「ガイ、良かったな!これで好きな子ができてもキス出来るぞ!」


「ギル!何を……」


首を真っ赤にしたガイを見て、レイも笑いながら、しかし薄っすらと涙を浮かべながら「良かった、良かった」と言ってガイの頭をぐしゃぐしゃに撫でまわした。




神鏡を見つけた次の日の朝、レイ達は竜の滝で竜人族長を待った。


すると、暫くして滝壺が光り竜人の族長が現れた。


「神鏡が見つかったようじゃの。良かった、これで曾孫の顔を戻すことができる……」


竜人族長も曾孫を愛する曾祖父の表情になり、目尻から涙を溢しながら頷いた。


ガイが竜人族長に神鏡を渡すと全員で滝裏に移動した。そして竜人族長が神鏡に結び付けた魂を解く術式を開くと、ガイの前に亡くなった辺境伯夫人の姿が現れ、優しく微笑んでガイの頬を撫でた。すると、ガイが被っていた仮面がカタンと地面に落ち、ガイの金色の瞳から涙が流れる顔が皆の目に映った。


「ガイ!」

「ガイ様、お顔が!」

「えっ……」


ガイが自分の顔を触って涙を拭うと「顔が……」と小さく呟き、両手で顔を覆って肩を震わせた。


「ガイ、辛い思いをさせて本当にすまなかった」


竜人族長はガイを強く抱きしめると、ガイの首に紅い石の付いたネックレスをかけた。


「何かあれば、この石に魔力を込めて儂を呼ぶんじゃ。いつでも曾孫を助けに来よう。あっ、そうじゃ。落ち着いたら、竜人族の世界を案内せねばの。その時にお前の質問に全て答えよう」


そう言って、竜人族長はスーッと姿を消した。




仮面を外したガイと共に皆で辺境伯城に戻ると、ガイの事情を知るガルフや侍従達が涙を流してガイの顔が戻ったことを喜んだ。そして城内の皆にはガイの顔の傷が完治したと告げられ、ガイを見守り一緒に訓練して来た騎士団員達は、今日はお祝いだ!と喜んでバッファロウバウを狩りに行き、その夜は城内全員でガイの傷が完治したお祝いの宴が開かれた。


盛り上がっている宴からコッソリと抜け出したガイとギルバートとクリスティーナは、辺境伯城の裏庭でのんびりと星空を眺めていた。


「何だかものすごく濃い数日間だったな……」

「そうね。滝に竜人族長様が現れてからガイ様の顔が戻るまで、怒涛の勢いで物事が進んだわね」

「こんなに早く事が進んで、心置きなく辺境伯領を出て行けるのも師匠やギル達がいてくれたから……。ギル、クリス、ありがとう。改めて御礼を言わせてくれ」


三人は満面の星空の下で、永遠に続く友情を誓い合い、そしてこれからのそれぞれの将来について楽しく語り合った。


翌日、辺境伯幹部立ち会いの下、正式に辺境伯当主の引継ぎが行われた。そして辺境伯城の皆に見送られながらガイ達はガーラ国へ転移していった。


ガーラ国のタウンハウスへ戻ると、いつもは全く表情を変えない執事のノアが、ガイの顔を見て目を見開くと、薄っすら涙を光らせながら「良かったですね」と喜びの表情を浮かべていた。しかしその数秒後、いつもの無表情に切り替えたノアは、「ガイ様、王宮に上がるまでに表情筋の殺し方の訓練をしなくてはなりませんね。明日から厳しく訓練させていただきます」と言って、スンとしながら退室していった。


「「ノアが表情を崩すなんて……」」ギルとクリスは顔を合わせてハモリながら呟いたが、ガイは笑顔で「そうだね。貴族は感情を表情に出すのはマナー違反だからね。ノアに厳しく訓練してもらおう」と喜んでいた。


そして翌朝の朝練から、何故かノアの指導の厳しさが上がり、息切れしても傷を負っても表情を変えず、顔を歪めないようにする訓練が続いた。


(ノア……。張り切りすぎだわぁ……)



♢*♢*♢*♢*♢*



寒い冬が終わり、ガーラ国にも暖かい日差しが射すようになってきた頃、グリモード伯爵家からタウンハウスへ魔伝書が届いた。グリモード伯爵家のあるダリオン王国では、魔法や魔道具が一般で使われていないため手紙の配達は人力によるものが通常となっている。しかしグリモード伯爵家では秘密裏なやり取りは全て魔伝書を使用していた。


ギルバートの自室をノックして執事のノアが足音もなく入ってきた。


「ギルバート様、旦那様から連絡が入りました。10日後にガーラ国へ到着されるそうです。そしてこちらへ到着と同時に伯爵家の分家への譲渡が完了することのことです。ダイオン王国内の商会もほぼ同時期に閉店する予定で動いております。到着後、旦那様達はガーラ国の新居に向かわれますが、新居の確認が済むまでは、皆様はこちらで過ごすようにと」


「新居の確認?あぁ、そういうことね。ここより守りは頑丈なの?」


「はい。新居は最新式の結界と防御の魔道具を設置していますから、このタウンハウスの数倍は安全かと。裏従業員も全て新居の敷地内にある住居へ移住が完了しました。裏従業員は全員魔法契約を結んでいますので裏切り行為をした者は自動的に全て消されるようになっております」


「わかった。来月の俺達の卒業式まではここにいるよ。ガイは卒業式後に王宮入りするから、それまでガイの護衛よろしくね」


「はい。王宮入りしてからも引き続き裏から護衛にあたります」



♢*♢*♢*♢*♢*



グリモード家がガーラ国へ移住した後のダリオン王国の王宮では、……


「薬の在庫が切れそうだが、補充はどうした?」

「あっ、それなんですが、グリモード商会の国内全店が閉店したとかで薬の購入が出来なくて」


「王宮内の魔灯が切れかかっているが魔石の在庫は無いのか?」

「あっ、グリモード商会が閉店してしまって、他の商会に問い合わせ中です」


「なんだ、この獣臭い石鹸は!いつものいい香りのする石鹸はどうした?」

「陛下、申し訳ありません。実は石鹸を販売していた商会が閉店したようで、他でフレグランス石鹸を販売している商会を探しているところでございます」


「今流行りの騎士風デザインのドレスが欲しいから、商会の者を呼んでちょうだい」

「王妃様、実はその商会が閉店したらしく……。他のドレス工房で作れないか確認してまいります」


ダリオン王国では、グリモード商会が去ってからの波紋が、じわじわと王宮内に広がっていた。



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