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15. 竜人族長の後悔

「セイランが亡くなったか……」


竜人族の族長は竜の滝の上に立ち、メナード辺境伯領を眺めながら苦い表情で呟いた。


「儂のしたことは間違っていたのかもしれんな……」


セイランの祖父である竜人族長は、セイランが夫人を亡くし、生きる気力を無くして臥せっている姿を見て、孫可愛さに神鏡を使い、夫人の魂の一部を神鏡に閉じ込めた。そしてその代償として血の繋がりのあるガイの魂の一部を黄泉の国に飛んだ夫人の魂に結び付け、夫人の顔は神鏡の中へ、そしてガイの顔は黄泉に飛んだ夫人の魂へと結びつけられた。


そして、臥せっているセイランに夢の中で神鏡のことを伝え、魔の森にある竜の滝へセイランを呼び出したのは竜人族長の彼であった。竜人族は、番を一生涯に一人だけとして愛する習性がある。竜人族長も番を亡くした孫の気持ちがわかることから、孫をこのまま死なせないために禁忌の術を使ってしまった。


「曾孫に顔を返さねばならんな」


 

♢*♢*♢*♢*♢*


 

いつものようにクリスティーナ達は竜の滝側でレイから魔術訓練を受けていた。すると突然、滝壺が光り出して滝の周り一面が眩い光に包まれた。


「「「えっ!」」」 「なんだこれは?」


滝壺が一瞬光ったと同時に4人の周りにキラキラ光る結界が張られると、そこにレイとガイと同じ色を持つ背の高い老人が現れた。


クリスティーナ達は呆然とその男性を見ていると「すまんな、びっくりさせた」とその老人は手をひらひらと振った。


「儂は竜人族の長。ガイの曾祖父だ」


四人は突然の老人の登場に驚きながら、それぞれに口を開いた。

  

「「え~~~!」」 「俺の曾祖父……」「竜人族の長様……」


竜人族長は、「ホッホッホ」と笑いながら歩み寄ると、ガイの頭をポンポンと撫でて「ガイ、すまなかった。辛い思いをさせた」と頭を下げた。

 

「「「……!」」」  「えっ、曾祖父様?」


皆が『どういうこと?』と固まっていると、申し訳なさそうな顔で竜人族長は小さく呟いた。


「ガイの顔を奪ったのは儂じゃ……」


竜人族長は「長い話になる……」と言うと、近くの岩の上に座り、ガイの顔が無くなった経緯を皆んなに説明した。そしてガイに再度深く謝罪した。


レイ達は黙って竜人族長の話を聞いていたが、ガイは立ち上がると、曾祖父に向かって深々と頭を下げた。


「曾祖父様、父を守ってくださりありがとうございました。母を亡くしてすぐに父までも居なくなったら、俺はどうなっていたか……。顔が無くても、師匠とギルとクリス達が俺を支えて守ってくれたから辛いと感じたことはあまりなかったです」


「そうか……」


そう言ってガイに頷くと、竜人族長は、レイ達に向かって頭を下げた。


「孫と曾孫を守ってくれて感謝する」



竜人族長がレイと話をしている姿を見ながら、ガイが何か言いたそうにしていることに気が付いたクリスティーナは、ガイの側に駆け寄ると「竜人族長様に訊きたいことがあるなら、なんでも訊いてしまったらいいですよ。だって、長様はガイ様の曾祖父様ですからね」と肩をポンとたたいた。


ガイは、頷くと拳を握りながら、思い切って竜人族長に声をかけた。


「あっ、あの……」


竜人族長とレイがガイに振り向くと、長様は優しく微笑みがならガイに答えた。


「ガイ、お前の訊きたいことはわかっておる。神鏡を取り戻して魂の結びを解いたら、竜人族がいる世界を見せてやろう。そこでお前の訊きたいこと全てに答えよう」


「はい……。俺、自分がどんな者なのかがわからなくて怖くて。自分の意識外で人を害するんじゃないかと思うと……」


竜人族長は、苦い顔をして過去を思い出すように上を見上げた。そしてガイの側にくると、優しく両肩に手を置いた。


「番のことか……。自分の両親のことがトラウマになっておるんじゃな。竜人族は通常10歳を過ぎると番を感知することが出来るようになる。そして番も身近に存在する事がほとんどじゃ。しかし儂の娘もセイランも年頃になっても番を見つけることが出来ず、その反動で番に会った瞬間に本能が自分の意識を超えた行動をとった。禁忌な術だが、番を感知しなくなる術を体に刻むことも出来る。ガイ、番に関しては追々考えていこう」


「はい……」


「よし、今レイ殿にも話ていたんじゃが、皆にはセイランが竜の滝から持って行った神鏡を探してほしい。見つけ次第、儂が術を解除する」


竜人族長はそう言うと、周りに張ってあった結界を解除すると同時に姿を消した。



レイ達は、竜人族長の姿が消えた後、セイランが持ち帰った神鏡を探すため、すぐにメナード辺境伯城へ転移していった。


辺境伯城へ突然現れた3人に慌てた門番は、すぐに当主代理と家令達を呼ぶと、城の中から当主代理のガルフが息を切らしながら慌てて走り出てきた。


「レイ様!ガイ様!急にどうされましたか!」


レイは、ガルフの耳元で「ガイとセイランの事情について知っている者だけを執務室に集めてくれ」と小声で告げると、「はっ、承知いたしました」と駆け足で城の中へ戻って行った。


辺境伯の執務室でレイ達が待っていると、辺境伯代理のガルフが数人を連れて部屋に入ってきた。


「お待たせいたしました」


部屋に入ってきたのは、ガルフと前当主専属侍従のロレア、そして古くからいる家令とガイの侍従の4人だけだった。


クリスティーナは、辺境伯領でガイの事情が固く漏れることなく守られていたことに感心した。

(ガイ様の情報の漏洩もなく、この数名できっちりと守られているなんて。素晴らしい忠誠だわ……)


ガルフ達が部屋に入ると、すぐにレイが防音の結界を張った。


「実はガイの顔を取り戻す方法がわかった。そのためには、セイランが魔の森から持ち帰った神鏡が必要なんだ。ロレア、セイランが持ち帰った神鏡を見たことはあるか?」


前当主専属侍従のロレアは何かを思い出したような表情でレイに頷いた。


「はい、一度だけ。主が魔の森から戻られた夜に自室で鏡に向かって語りかけていた姿を見たことがあります。しかしそれから暫くして、主はひと月の殆どを辺境の砦で過ごすようになり、神鏡をどこに移されたのかは私も分かりません」


「そうか……。ロレア、砦にある辺境伯の部屋を探してほしい。俺達は辺境伯城内を調べる。ガルフ、君達は辺境伯がよくいた場所を調べてほしい。俺達はその他の場所を探す」


「「「「承知いたしました」」」」


ガルフ達が部屋を出ると、レイはガイに訊ねた。


「ガイ、夫人の部屋はそのまま残っているんだったな。夫人の部屋はガイが調べてくれるか?母親の思い出の部屋に俺達が入るわけにはいかんからな」


ガイは「あの……」と声を発すると、拳を握りながら俯いてしまった。


「あの、俺、父から母上の部屋には近づくなと言われてて、亡くなってからは一度も入ったことがありません……」


ギルバートは俯いて拳を握るガイの側に行くと「俺も一緒に入っていいか?」とガイの肩をぎゅっと抱き寄せた。


「ギル、お願いしたい……。師匠、クリス、一緒に入ってもらえますか?」


「あぁ、一緒に行こう」


ガイ達は執務室を出るとすぐに夫人の部屋へ向かった。家令に夫人の部屋の鍵を開けてもらい部屋に入ると、そこは陽の光が燦々と差し込み、シンプルな装飾の部屋ながらも美しく、夫人の人柄を表すような空間だった。


「素敵な部屋……」


クリスティーナは、思わず声を発すると、「夫人らしい部屋だな」と、レイもそれに答えるように呟いた。


ガイが棚に立てかけてあった小さな肖像画を見つけて手に取り、じっとそれを見つめていると、ギルバートがそれを横から覗きこんだ。


「それ、大事に持って帰れよ……」


その肖像画は、小さい頃のガイが両親に抱かれて皆が笑顔で描かれているものだった。


ガイは暫く何かを考えるように肖像画を見つめていたが、覚悟を決めたように顔を上げてクリスティーナに振り返った。


「クリス、お願いがある。俺の両親の部屋を断捨離したい。この辺境伯城にある思い出を全て断捨離してから、俺はガーラ国王の養子となりたい」


「ガイ様……」


レイは、ガイが持っていた肖像画を手に取ると、それをじっと見つめて肖像画の中の辺境伯に小さく声を落とした。


「セイラン、ガイは俺が預かる。心配するな」


ギルバートとクリスティーナは、ガイを挟んで両側に立つと、俯くガイの手を二人の暖かい手でギュッと握りしめた。

 


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