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14. ガーラ国への移住

 グリモード伯爵家では、ガーラ国への移住の準備が着々と進められていた。クリスティーナがガーラ国に行ってから半年ほど過ぎた頃、執事のセバスがガーラ国からの報告書を持って執務室に入ってきた。


「旦那様、ガーラ国の屋敷の建設が完了したと連絡が入りました。敷地内に建てた裏従業員の宿舎も完成しておりますので徐々に移住を開始いたします。こちらにある店舗と事務所は、全員が移住してから半月後に閉鎖いたします」


「セバス、流石だな。こちらの伯爵家当主変更の手続きも店舗閉鎖と同時に動く。王家にこちらの動きを悟られないように……抜かり無くな」


「畏まりました」




ガーラ国のタウンハウスに居るギルバート達も、両親からの手紙を受け取っていた。


「クリス、父上から連絡が入った。来年の春頃には、伯爵家全員の移住が完了するって。俺達とガイは、指示があるまでタウンハウスに居るようにって書いてる」

 

「皆んなの移住が完了したら、私達はこれから平民としてこの国で暮らしていくんですわね」


「あぁ、学院内では平民の差別とかあまり無いけど、外ではあるからな。早めに特級魔術師の資格を取って、身分関係無く動けるようにしないとな」


「そうですわね……」


 談話室でおやつを食べながらくつろいでいた三人だったが、黙って二人の話を聞いていたガイが口を開いた。


「ギル、クリス。あのさ、俺、国王の打診を受けようと思ってるんだ……」


ギルバートとクリスティーナは、フルーツ大福に齧り付いて真っ白になった口を丁寧に拭くと、うんうんとガイに頷いた。


「そうか。ガイ、俺はその選択、間違って無いと思う。ガイは、ずっと竜人族について知りたかったんだろ?それを追求したいんだったら、この国の王太子になるのが、一番の近道だ。その血がどんなものかを知るために、必死で魔術の訓練してきた事ぐらい知っている。自分の血がどこまでできるのか、何が出来るのか、ずっと探ってたもんな」


「ギルにはバレてたのか……」


「ガイ様、国王様からの打診、受けてみていいと思います。王太子として王宮に入って、この国を引き継いでもいいし、国王様の第二案である新体制を作り上げてもいいと思います。国王様とレイ様に相談してみては?選択肢をひとつに絞らなくてはいけないなんていう固定観念を捨てて、やりたいと思うことを全て出来る道を作り出せばいいんじゃないですか?」


「ガイ、そうだぜ。覚悟決めて、やりたいこと全部やってみろよ。俺達も全力で支える。なあ、クリス!」


「私は、ガイ様の妹弟子ですよ!兄弟子を支えるのは当然です!」


「ギル、クリス、ありがとう。君達には、いつも助けて貰ってばかりだ……。後悔しない選択か……。王太子にはなりたいと思わないけど、竜人族については知りたい。第二案か……。そうだな師匠に相談してみる」


ギルバートとクリスが、うんうんと頷くとガイが「あのさぁ……」と俯いていた顔を上げた。


「ギルとクリスは、特級魔術師になったら何をするつもりなのか聞いていいかな……」


ギルバートは、腕を組みながら「う〜ん」と唸った。

 

「実は、まだ決めかねてるんだ。家業は、クリスと手分けしてやってこうとは思ってる。魔術師としては、あの魔の森について研究したいと思ってるんだ。実はあの森に行くと何故か体が軽くなるんだよ。訓練でどれだけ魔力を使っても即座に魔力が供給される感覚なんだ。他の場所で訓練してる時はそんなふうにはならない」


「あっ!私も!あの竜の滝の側にいるとドンドン魔力が補給されるの!不思議だなと思ってたのよ!」

 


「楽しそうな話をしてるな!」


「師匠!」「レイ様!」


レイは、いつのまにか現れて、ドアにもたれてガイ達の話を聞いていた。


「声を掛けようと思ったんだが、話が盛り上がっていたようだったから……。今の話なんだか、ギルとクリス、魔の森での話を詳しく教えてくれないか?私も不思議に思って二人の魔力の流れを見たんだが、魔の森にいる時は、ギルは地面から緑色の魔力を吸い上げていた。クリスは、滝からの光がクリスに吸い込まれていくように見えた」


「「えっ!」」


「王家の禁書庫で、魔の森についての文献を探してみたんだが、詳しいことはわからなかった。ただ、あの森には、昔、色んな種族の魔族達が暮らしていたらしい。」

 

「「「魔族?」」」


「あぁ、魔族といっても種族は様々だ。妖精族、ドワーフ族、闇ウルフ族、地底族、竜族。それらを総称して魔族と呼んでいる。そして彼らをまとめる魔王がいたそうだ」


「「「魔王!」」」


「あぁ、たしかに研究課題としては、興味深くていいな。ギルとクリスの共同研究テーマで、いいかもしれんな」


ギルバートは、目をキラキラさせながらクリスティーナの手をとった。


「クリス、特級魔術師になったら一緒に研究するか!」


「そうね、お兄様とだったら、調査範囲も内容も広げられそうね!」


ギルバートとクリスティーナが、将来の研究テーマについて盛り上がっていると、執事のノアがお茶を持って部屋に入ってきた。そして、皆んながお茶を飲んで一息ついたところで、レイが思いついたように口を開いた。


「そういえば、特級魔術試験だが、もう少し頑張れば三人とも受験可能なレベルとなる。試験内容は、実技試験と筆記試験、そして自分のオリジナル術式の発表が必要となる」


「「「オリジナル!」」」


「あぁ、まだこの世には出ていない術式を作り出すんだ。皆んな、この課題が難しくて特級魔術試験を受ける事を躊躇するんだ。君達が数年後に特級魔術師に合格したら、過去最年少の特級魔術師となるな。今から、少しずつオリジナルの魔法を考えておくといいよ」


「えー!オリジナルの魔法なんて面白いわ!ん〜、光魔法を使って?闇魔法の方がいいかしら?いや、混合にして……」


クリスティーナが、ぶつぶつと独り言を言っているのを見て苦笑いしながら、レイはガイに問いかけた。


「ガイ、国王からの打診、受けるのか?」


「はい、養子になる話を受けようと思います。でもそのまま国を継ぐのでは無く、王政を廃止する方向で、新体制を作り上げる提案をしたいと思っています。国王は国の象徴で、政治は国民の代表達が行い、そして貴族制度の廃止。以前、クリスが前世の国の仕組みを話してくれた事があって……」


「うん、いい案だ。この国は、この大陸で一番大きい国土を持っている。この国が先陣を切って新体制に移行すれば、続いて改革する国も出てくるだろう。経済を発展させるには民主主義制度を立ち上げるのがいい。私から国王には伝えておく。そうなると、ガイ、騎士科の高等学院への進学を辞めて、王宮で王太子としての教育を受けることになるが、それでいいか?」


「はい。メナード辺境伯領はグルフスタン伯爵令息にお願いしようと思います」


「わかった。辺境伯当主代理には伝えておく。こちらの手続きが済んだら、メナード辺境伯の皆んなに事情を伝えて正式な引継ぎをしに行こう」


レイが王宮に報告に行ってくると言って転移した後、三人は無言でそれぞれに将来の道筋を考えていた。


「ギル兄様、ガイ様。私、今思いついたんですけど、特級魔術試験のオリジナル術式ですが、これからガイ様が王太子になるこの国のためになるような魔術を考えてみるのはどうでしょうか?この国がどんどん発展していく足掛りになるような……」


「いいな、それ!そうだ!クリス、前世の世界にあってこの世界にはまだ無いようなものがあったら教えてほしい。この国には、過去の前世持ちが作った魔道具が沢山あるから、それ以外で何かアイデアがあれば!」


ガーラ国には、何故か昔から前世持ちが多く現れた。そのためガーラ国には、クリスティーナの前世で存在したような道具や食べ物が沢山あった。


「そうですね!実はお兄様やガイ様に作っていただきたい物が沢山あるんです!」


クリスティーナが目をキラキラさせながら前世の道具の話を始めた。そしてその日は夜遅くまで話が盛り上がり、それぞれのオリジナル術式の方向性が決まったのであった。


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