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公爵令嬢、午後を過ごす


 「魔術の始まりは、悪魔と取引を行った個人であると言われています。名前は開祖ソロワ、悪魔の名前は伝わっていません」


 テンポ良く板書される内容を書き留めていく。家庭教師から聞いた内容と一緒ですわ、基礎とは言え学べるというのは素晴らしい。他二人も真面目に聞いておりますわね。


 「ソロワは晩年、一冊の本を書き上げました。名前は『魔術の四相』。火、風、水、土の基礎概念を説いた一冊です。現代魔術はこれ無しでは成り立ちません。」


 私の実家にもありましたわ。教師に読め!と言われて、頑張って詰め込んだのは嫌な思い出ですわね……。結局、才能無し!って言われてしまいましたし。


 「以上。世界に対する知見を深めたい方は受講することを勧めます」

 

 集中して聞いていましたら、すぐ終わってしまいましたわ。流石理論魔術の権威、説明の分かりやすさは随一ですわね。次は……


 「錬金の基礎観念は『在るなら作れる』だ。植物、鉱物、魔物……全ては素材に過ぎない。それらを何に変えるか、ここに錬金の全てが詰まっている」


 なるほどなるほど……。毒草と薬草を混ぜて“無”のポーションもどきを作ったり、魔物の血で作った謎ドリンクを部下に飲ませたり……これも、錬金ですわね?


 「何かを作りたい、世界を変えたい。野心があれば才能は要らない学問だ。今日はここまで、お疲れ様」


 ふ~む、やはりこの講義は必要ですわね。才能無しで誰でも作れるというのは、私の目指す方向性と一緒ですわ。二人も多少は興味を持ってくれたようで何よりですわね。最後は……


 「ロイネット王国は星・自然・竜によって作られました。故にその全てを総称させて頂き、三神教と呼ばれております」


 まぁ、知ってる話ですわね。マリアは真剣に聞いておりますが、シエナも当然知っているので暇そうですわ。三神学、祈祷術を受講するなら取らなきゃいけないのが嫌ですわね。教えを知らない者が、祈祷だけ取ろうとするのが嫌なのは分かりますが……ねぇ。


 「当然、祈りを通じて力を分けて頂く祈祷、それを知る為には教えを知らなければなりませんね?」


 そう言うならもっと興味を惹けるような講義にしてくださいまし……。教えの読み合わせもいいですが、内容が多すぎ濃すぎですのよ。地元の司祭の方は、最低限の祈りでよし!という雑さだったのでありがたかったですわ。


 「本日はここまでに致します。ロイネット王国に生きる上院の方々なら、知っておかなければなりません。受講を強く勧めます」


 見るからに真面目な司祭様が教室を出ていくのを尻目に見ながら、所持品を纏める。ようやく終わりましたわ……、朝から色々ありすぎですのよ。


 「疲れました!」

 「流石に私も同意見ですわね……」

 「だが、身になる時間だった」


 これから楽しみです!と興奮するマリアに、メモを取った紙を見直すシエナ。真面目ですわねぇ。私は寮に戻ってから復習しますわ。


 「夕食、行かないか?」

 「行きます!お腹ペコペコです!」

 「そうですわねぇ」

 「よし、行こう」


 三人で横並びになりながら、食堂へと歩いていく。


 「マリアさん、午後の講義はどうでしたか?」

 「知らないことばっかりで、家の方に頂いた紙が足りなくなりそうです!」

 「いいことだ、その方がアルメリア公爵も喜ぶだろう」

 「紙は記すことによって初めて価値を持ちますの。素晴らしいですわねぇ」

 「照れちゃいますね……。あの、魔術基礎の講義で分からないところとか……聞いてもよかったりしますか?」

 「構わない。……私が分かる範囲にはなるが」

 「同じく、ですわね」

 「ありがとうございます!でしたら早速!」


 そう言ってパラパラと紙束を開き始めるマリアを、微笑ましいものを見るような目で見てしまう。シエナも同じようで、明らかに優しげな目でマリアを見ています。この子、凄いですわねぇ。

 夕方の食堂は、流石に昼より生徒の数が少なかった。夕食のメニューは、シチューとパンでありました。う~ん、美味しそうですわ。マリアは満面の笑みで受け取っていた。シエナも、もう大丈夫そうですわね。


 「……聞きそびれていましたが、お二人はどういう関係なんですの?」


 そう問いかけると、二人は顔を見合わせた。アルメリア公爵家とノースポール公爵家の関係性は分かりますけれども、シエナとマリアの関係性はどこから?私でも知らないって相当ですわよ。


 「そうだな……平たく言えば、友人だ」

 「公爵家預かりになってすぐの話なのですが……よく出入りしていたシエナさんが話し掛けて下さって」

 「知らない平民が出入りしている家にいた。当然、気になってな」

 「……なるほど」


 マリア、よく仲良くなれましたわね……。私が貴女の立場なら、絶対恐縮し過ぎて死にますわ。公爵家にいきなり生えた平民なんて、普通に考えて厄ネタ以外のなんでもありませんからね。


 「マリアは最初が面白くてな。初めて話し掛けた日、ホーリマスの話を私は二時間も聞かされた」

 「聞かされた、なんて酷いです!地元の話が聞きたいと言ってきたのはシエナさんじゃないですか!」

 「だが、二時間も聞かされるとは……」

 「たったの二時間ですよ!?凄く短く話しましたのに!」

 「分かったすまない、私が悪かった」


 怒るマリアに、頭に手を当てるシエナ。まぁ、この感じで悪意を見出す方が無理ですわね。マリア、あのシエナと仲良くできているのは凄いことなんですわよ?言いませんが。


 「まぁ、今日から輪の中に入れて頂けるということで……」

 「はい!ようこそ!」

 「昼も言ったが、君は命の恩人だ。是非、仲良くして欲しい」

 「光栄ですわね。よろしくお願いしますわ」


 紆余曲折あったとは言え、友人が増えたのは素直に嬉しいですわ。願わくば、このまま仲良くしたいものです。シエナに肩入れした地点で、一蓮托生なんですけれどね。


 「では、明日もよろしく」

 「はい!また明日!」

 「ええ、また明日」


 しばらく食堂で話していたが、それぞれ寮での用事があるので別れ、帰路についた。寮は貴族とお付きが同じブロックに住む。故に上院の生徒は同じ寮はあれど、同じ部屋になることはない。

 引っ越しの作業、全部皆に任せちゃいましたわね。そういえば、マイラ以外二日酔いでしたわね……ゲロ付きの荷物とか勘弁ですわよ。大丈夫かしら。


 「ご苦労様ですわ~」

 「お嬢様、お疲れ様です」

 「お嬢、大丈夫でしたかい?」

 「お嬢様!お帰りなさいませ!」


 従者全員が迎えてくれる、引っ越しも終わってますわね。流石は我が従者たち、優秀で助かります。場所が違うとはいえ、帰宅すると一気に気が抜けますわねぇ。ねむいですわ。


 「入浴して寝ます。死ぬほど疲れましたわ」

 「承知しました、寝間着の準備をしておきます」


 後の準備をカレンに任せ、浴室へと歩いていく。浴槽の中で寝そうですわ……。そうなったらライリーが気づくでしょうし、問題ない……。


 「冷たっ!!」

 「何やってんだお嬢……」

 「目を覚ますためじゃない?」

 「そんな訳ないでしょ……」


 ───こんな感じで、初日の夜は更けていきました。この一年、苦労する羽目になりそうですわね……はぁ。


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