第七話
朝の日差しを浴びて、スマホのアラームが鳴った。
昨夜はしっかり眠れたせいか目覚めがいい。
起き上がると服を着替えて玲那の部屋へと来る。
ノックをしたが返事はない。
「玲那さーん?起きてくださ〜い!」
声をあげてみたが中は静かなままだった。
そっとドア開けると中は白いカーテンがかかっていたその前に
すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
少し戸惑いながらも昨日言われた事を思い出して、玲那の肩に
触れると揺すってみた。
「朝ですよ?起きてください…玲那さん」
「ぅっ……ん〜〜〜?…」
「寝ぼけてないで起きてください。起きたなら僕はもういいで
すよね?」
聞き返すと部屋を出ようとする。
後ろから呼び止められなければそのまま出て行くはずだった。
「待って…ちゃん起こして!」
「ちゃんとって…何を…」
玲那は寝起きだったが、無防備な姿がいつも以上に可愛く見える。
あえて目を逸らす様にしながら振り返ると自分の方へと手を差し
出してくる。
「着替えさせて。そこにある制服に着替えさせるの。分かった?」
「ちょっ、待ってください。本当にそれは…」
「昨日は下着姿見たくせにっ〜〜〜」
それを言われると、返すと言葉もない。
仕方なしに近づくとパジャマを脱がしにかかる。
ボタンを数個外すと万歳させて一気に脱がせた。
そして代わりに制服をふと見た時、ふくよかな双胸が揺れていた。
「なっ!下着はどうしたんですか!」
「下着?寝る時につけるわけないじゃない?ほら…そこ」
指で刺された場所に畳んで置いてある。
「付けて?」
「えっ…ちょっと…無理ですから!」
真っ赤になると視線を逸らすと部屋を出て行った。
玲那は口元を抑え、笑い声を殺した。
あんなに照れて真っ赤になるのを見ると投資のつもりで助けた甲斐
があったと思ったのだった。
スマホを取るとかけ出す。
「あ、お母さん?例の件進めて貰ってもいい?」
『本当にいいのね?探していた子はいいの?』
「うん、大丈夫よ。このまま進めちゃって。」
『分かったわ。あなたがそういうなら文句は言わないわしっかり見
極めなさい』
「はーい…」
あそこまでしても手を出してこない男は信用できる。
そう思うと母へと電話をかけて例の件を進める様に言った。
玲那の中では過去のあの少年と重なって見えている。
同じ境遇の彼。
きっと、大丈夫。
そう思いながら自分で着替えると部屋を出た。
キッチンには朝早くに来てお手伝いさんの手で食事が用意されてい
た。
「あら?食べないの?」
「いや…あの、先に食べるのは失礼かな…と」
玲那が来るとコーヒーを淹れると横に置いてくれた。
「別に先に食べててよかったに…」
「…」
「ほら、食べましょ」
「あのっ…材料さえあれば簡単なものなら僕が作ろうか?」
「何?作れるの?」
「それは…まぁ…」
一応は一人暮らしをしていたのだ。
最初は自炊していた。が、それでもお金が足りなくなって最近ではも
っぱら期限切れの弁当になっただけで出来ないわけではないのだ。
「別にそこは期待してないからいいわ。お手伝いさんが勝手にやって
くれるし、私たちが学校に行っている間に掃除もやってくれるわ。
なんの問題もないでしょ?」
「それは…そうだけど…」
「彰くん、しっかり覚えておいて欲しいんだけど…君は私の物なの?
理解してる?」
「!!……はい…」
そこで言われた言葉にハッとなった。
友人とはまた違う。
自分は人間ですらないという事だった。
「朝も着替えさせてって言ったわね?最後までやらないで逃げたでしょ?」
「す、すいません…」
「これからはちゃんとやってくれる?…そうすれば私だって〜…」
「ごめんなさい…これからは気をつけます」
俯くと彼は一切、目を合わせようとはしなかった。
言いすぎたのかと玲那は不安になったが、通学は別々に家を出たのだった。