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犬になった日  作者: 秋元智也
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第六話 

一般的な家庭に育った高校生なら、多少の我儘や贅沢はしている

ものだ。

が、伊波はそんな事を一切できない環境下で育った。


そのせいで、全て捨てて我慢する事で自分を守ってきたのだ。


調べて分かった事だったが、彼の境遇は小学生を境に一気にどん

底に落ちていた。


これまで普通に楽しむ娯楽というものをしたことがないのだ。


部活など時間の無駄。

時間があるなら勉強か、お金を稼ぐ事に費やしてきた。

それでも余裕は一切生まれなかった。


資料に目を通した時に思った事だったが、同じクラスになっても彼

は人と距離を置く癖がある様だった。


「さーてと、今日はもう帰りましょうか!」


そういうと玲那は一緒に帰るように促す。

買い物をして日常品と外食をした。

これだけでも、少しは彼と近づけたと思いながら帰路に着いたのだ

った。


「大西さん、今日はありがとうございます」

「改まってなに?玲那って呼んで?いい?」

「はい…えっと、玲那さん?」

「うん、じゃ〜私も彰くんって呼ぶね?」

「あ、はいっ…」

「もう、敬語になってる〜。罰として着替えてを手伝って貰うから

 ね!」

「!?」


玲那の言葉に驚き慌てる彰に玲那は楽しそうに部屋へと帰った。


「彰くーん、こっち〜」


早速呼ばれて行くと風呂場で手を前に出して早くと急かす。


「あのっ…こういうのはちょっと…」

「言ったでしょ?脱がせて?」


言われた事は守る。

これが契約だった。

彰は玲那に買われた犬も同然で、人間としての感情など求められてい

ないと判断した。


目を逸らしながら服を脱がして行くと下着だけになる。


「もう…いいですよね?」

「う〜ん、仕方ないわね。明日は朝起こしに部屋に来てね!時間は、

 6時よ、分かった?」

「分かりました。」


この部屋にはシャワー室と浴室が分かれて存在していた。

今、玲那が浴室を使っているので、彰はシャワーを簡単に浴びると

自分にあてがわれた部屋で休んだ。


買い物から帰ってきた時には、すでに布団とベッドが備え付けられ

ていたのだった。


ふかふかの布団にスプリングの聞いたベッド。

寝心地のいい環境に少し戸惑いながらも慌しかった日常を振り返っ

たのだった。


昨日は生きた心地がしなかった。


朝、初めて知った大西玲那の母と父の婚約の話。

婚約者を振ってまで一緒になった母ともすぐに決別した父。


そして、自分を借金の借入れ人にして姿を見せない父。


大西玲那が来ていなかったらと思うとゾッとした。

これからは大西玲那の犬と成り下がるにしても、それは幸福かもし

れない。


人間として、ちゃんと生活が保障されているのだ。


唯一、玲那に手を出さないというのが条件だった。

それ以外は小遣いまでもらえて、自由に学校へも通わせてもらえる。


こんな幸せな事はない。

ちゃんと勉強をする為に家庭教師まで付けてくれる。

こんな贅沢な事は望んでも手に入らない事だった。


二度と両親に会えなくなっても、お世話になった母の実母にも合う

のを禁止と言われた。


最後にお礼くらいは言いたかった。

母の妹にはいつも嫌味を言われていた。


そんな妹にも子供がいる。

2個下の女の子だったはずだ。


集まりで会った事はあるが、あまり記憶に残っていない。

いつも嫌味の様に暴言を吐くだけの存在で、彰には誰も味方はいなか

ったからだ。


「はぁ〜…疲れた……」


ここから新たに始めよう。

生きてさえいれば、なんとかなる。


いつもそう言って耐えてきた。

どんなに貧乏でも、どんなに辛く当たられても…

だから、これからだって、きっと耐えられる。

そう信じて眠りについたのだった。

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