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犬になった日  作者: 秋元智也
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第五話

いきなり玲那の手が頬を撫でてきた。


「痛いの?」

「どうして…?」

「だって…泣いてるんだもん。大丈夫だよ?これからは私が一緒にいて

 あげるから」


何を言われているのかわからなかったが、溢れた涙で自分が泣いている

事に気づいた。


どうしてこんな…悲しいのか?

捨てられたことが?それとも…裏切られた事が?


もう死を覚悟した命だ、生きている事に感謝しなくては。


「ありがとう…僕は何をすればいい?家事でもした方がいい?」

「それはヘルパーさんがやるからいいわ。ここで私のお世話をお願いし

 たらいいのよ!それと…もし私に手を出したら〜あのこわ〜い人の元

 に送られるからね!」


冗談のつもりで言った玲那だったが、彰は完全に間に受けていたらしか

った。


「さてと、明日は土曜だし買い物行こっか?」

「買い物?それはヘルパーさんがやってくれるんじゃ…」

「違うよ〜伊波くんの服とか、色々いるでしょ?部屋も結構壊されちゃ

 った物も多かったし。」


言われてみれば、男達が入ってきた時に色々と壊されたのを思い出した。


「それに、ベッドもいるでしょ?明日には届くからね」

「別に…なくても平気だけど…」

「ダメダメ!ちゃんとした場所で寝ないと体痛くなるよ?」

「いえ…僕は…大西さんに買われたって事でいいんですよね?なら…尚更

 要らないです。お金も無いし…それにバイトも…」


それ以上言おうとしたが止められた。


「お金は気にしなくていいよ。飼い主の私が払うから。それに…もうバイ

 トなんてしなくていいよ?」


さすが金持ち、目の前に札を出すと彰に差し出してきた。


「これは?」

「小遣い?いるでしょ?」

「貰えないよっ!だって…僕は…」

「伊波くん?君は私の何?」

「…」

「私のモノなの!分かってる?だったら私が渡した物は絶対に受け取ら

 なければならないの!理解した?」

「あ…はい…」


渋々という感じだったが、受け取った。

彰の手の中には数枚の札が握られた。


いくら頑張って稼いでもすぐに食費として消えて行ったので、こんなに

まじまじとお金見る機会などなかった。


「なによ?」

「いや…お金だなって…」

「?」

「バイトしてても…食費としてなくなって行くから…こんな風に手元に

 あるのって不思議だなって…」

「何よそれ?これからは君の働き次第でいくらでも溜まるのよ?」

「僕の…働き?」

「そうよ?学校ではいつも通りにしていていいわ。でも、家に帰ったら

 私のいう事を聞く!分かった?」

「はい」

「そう、ならいいわ。それと、学業も疎かにしちゃダメよ、今日からは

 一緒の家庭教師に教わるわよ?」

「…」


家庭教師…そんなものとは無縁だったので少し嬉しいという気持ちのが

先だった。


「なんか…嬉しいの?」

「あ…いえ…こんなよくしてもらっていいのかなって…」

「いいのよ。私がしたくてしてるんだから。分かってるの?私より点数

 悪かったら罰則を追加するからね!」

「う、うん…あ、はい!」

「普通でいいわ。敬語も禁止!いい?」

「は…う、うん。」


土曜日は玲那と一緒に買い物へ行った。

足りない物や、服も勝手に選んで買って行く。

いつもなら行く事の無い高そうな店にも緊張しながら入った。


玲那には当たり前でも、彰には始めてのことばかりだったのだ。

外で賞味期限切れ以外を口にしたことはほとんどなかったし、残り物ば

かりだったせいか、何かを選ぶという事を初めてした気がする。


「何を食べたい?」

「えーっと、なんでもいい…かな」

「何よ?払わせないから安心しなさい。何か食べたいものはないの?」

「…あ、食べた事ないから…」


恥ずかしそうにいうと玲那の方を見る。

こんな風に恥じらい気味に言われると余計にドキッとする。


玲那は『仕方ないな〜』と言いつつも自分の好みの料理を二人分頼ん

だのだった。


「これからはちゃんと慣れなさいね?」

「はい…」

「注意してるわけじゃないわ。ただ、普通にみんなしてる事なの。だ

 から伊波くんも一般的な事くらいは普通に覚えてね?」


恥ずかしそうに俯くと頷いたのだった。

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