第四話
何が起こったのだろう。
強面の男達がすんなりと帰って行った。
部屋は壊され、ガラスや陶器のかけらが床に落ちている。
自由になった彰は額を抑えながらよろめくと土足で上がってきた大西
玲那に支えらえた。
「あのっ…これはどういう事なんですか?」
頭が痛くて考えがまとまらない。
前に踏み出すと一瞬痛みに立っていられなくなった。
「いっ……ッ……」
「大丈夫ですか?まずは怪我を診てもらいましょう?」
「どうして…?」
薄れる意識を必死に保っていたが、そのまま彼女の胸に倒れる様に意識
を手放していたのだった。
目が覚めたら時には見知らぬ天井があった。
周りを見回したが、誰も居なかった。
そして、病院では…なかった。
起き上がると頭に包帯が巻かれていて手当はされている様だった。
首にも処置した後がある。
意識を失う前にガラスを踏んだのか足の裏に痛みが走った。
満身創痍という格好だった。
服は着替えさせられていて、自分のモノではなかった。
一体誰が…?
ガチャッと音がして人が入ってきた。
「あっ!起きた?お腹空いてるよね?食事持ってくるね〜」
「えっ…あのっ…」
「待ってて、話はあとね!」
玲那がそこに立っていたのだった。
学校で見るより私服は可愛かった。
いや、そんな事よりどうして自分は助かったのかを考えるのが先だ
った。
玲那とは接点は全くない。
金持ちのお嬢様がどうして同じクラスになったばかりの人間を助け
たのだろう?
金持ちの道楽だろうか?
それとも…何か目的が…?
どうにも腑に落ちない事だらけだった。
食事を済ませるとひょこひょこと歩いて書斎へときた。
マンションにしては実に広い。
こんなところに住める人間はやっぱり寛大で凄いのかと思い始めていた。
「あぁ、やっと来たわね。」
そういえば玲那の横にいた女性が目の前にいる。
確か弁護士と…
「あ、あの…ありがとうございます。えーっと、助けていただいて…」
「感謝するのは早いわ。無償で助けたつもりはないの」
「…!?」
「ちょっと、そんな言い方しないでよ〜」
玲那の言葉に女性は名刺を彰に差し出してきた。
「私は、この子の母親でもあるの。大西礼子よ。今回の件はね、悠仁
さんから頼まれたのよ…」
「父さんから…?」
「そうよ。悠仁さんは昔の婚約者なの。でも、好きな女が出来たから
っていきなり振っておいて、今度は助けてくれって?全く図々しっ
たらないわっ!今回だって助ける義理はないし、ほっておく予定だ
ったのよ?なのに玲那が…」
「…?」
「いいじゃない!それくらい聞いてくれても〜」
「この子が貴方を助けてっていうから助けたのよ。二度はないわ。今
日から貴方に自由はないわ。玲那のモノよ。逆らったらり変な事を
したら即刻売り飛ばすから!分かった?」
言っている事の理解に追いつけなかった。
一体何を言っているのだろう?
彰は自分が買われたという事実を把握しつつも、あのヤクザっぽい人
よりはマシな気がしている自分がいる事に少し意外だった。
「これから僕は…どうしたらいい?」
「それは玲那から説明があるわ。しっかり聞きなさい。これでいいわ
ね?」
「うん、ありがとうお母さん!」
「じゃ〜私は後処理があるから。しっかりね」
「は〜い!」
出て行く女性を眺めてから座り直すと、玲那へと向き直った。
「僕はどうしたらいい?」
「ん?どうって?荷物はこっちに全部運んでおいたわよ?」
言われると寝室にあったモノは全部が運び込まれ勝手に運び込まれて
いた。
さっき寝ていた部屋より少し広い部屋だった。
自分の住んでいたマンションの中くらい広い部屋に無造作に荷物が置か
れている事に驚いくと玲那が手招きしてきた。
「こっちは共同キッチン、こっちがトイレね!その横が…お風呂場だよ」
「それは…どういう意味ですか?」
「敬語使わなくていいよ?それと、これからはこの家から学校に行くんだ
よ?」
一瞬驚くと、聞きたい事を口にしていた。
「学校行ける…のか?」
「もちろんだよ〜、私が伊波くんを買ったからって学校や友人関係は自由
にしてくれていいよ〜。ただし、条件があるの。もう二度と悠仁…お父
さんと、お母さんには会わない事。いい?」
「…!」
言われた事に戸惑った。
元々会うどころか、売られたのだ。
好き好んで会いたいわけはない。
が、完全に捨てられたと思うと心がギュッと締め付けられる様に痛んだの
だった。