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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二十八話

濡れ衣を着せられ、その日は何度も打たれるとベランダに放り出さ

れたのだった。


その次の日には風邪をひいて肺炎を起こしかけた。

おばあさんに気づいてもらったおかげで軽く済んだ。


それ以来、見えない場所を叩かれる事が増えた。

玲那が風呂場で見た彰の背中には無数の跡が残っていた。


チラッと見えただけだったが、病院で指摘されて余計に気になり出

した。


「お母さん、彰くん大丈夫だよね?」

「そうね、これからはちゃんと話さないとダメよ?」

「うん」


医師の話では背中とふくらはぎに叩かれたような跡が見受けられた

らしい。

服で隠れるのをいい事に折檻していたという事実だった。

眠っているうちに写真に収めると起訴の書類を作っていったのだっ

た。


礼子はこれから彼の親権について争わなければならない。

親と違って、彼らも血は薄いのでそんなに難しいことではなさそう

だった。


命の危険まで晒した落とし前はしっかりつけるとばかりに礼子は手

を緩める気はなかった。



再び病室で目を覚ます事となった。

前は目覚めてすぐに見たくない顔を見る事になったせいで気分もず

っーと悪かった。


今度は誰もいないみたいで静かだった。


窓の外は綺麗な青空でどんより曇った彰の心には眩しいくらいに天

気がよかった。

身体が重い…


横にある点滴が落ちるのを眺めるとここは安全なのかと不安になる。


きっとあの後、気を失ったのだろう。

なら、どうして病院に?


彰の予想ではそのまま放置されて死ぬ覚悟すらしていた。

だが、そうはならなかったらしい。


「あ、目覚めましたね。今先生を呼んできますね〜」


看護師さんが見回りにくるとすぐに戻っていった。


「…」


声を出そうとしたが出てこない。


あぁ、まただ。

肝心な時に何もいえない。


助けて…たったその一言が出てこない。


「先生の診察が終わったら面会しても大丈夫ですよ〜、ちょっと

 待っててくださいね」


看護師さんの声に廊下に誰かがいるらしい。

医師が入ってくると彰の様子と血圧、採血をして一通り見てきた。


「どこか痛いところはあるかい?何か困った事があったらすぐに

 看護師に伝えてくださいね」

「…」

「ないようなら…これで」

「…」

「確か、面会の方が見えているから声かけて来るからまってね〜」


医師が立ち去ろうとするのを必死に右手を伸ばして裾を掴んだ。


「何かあったかい?」


年のいった医師に必死に訴える。

助けて欲しい…と


でも、震えて来て思うように声が出なかった。


「何か言いたいのかい?」


パクパクと何か言いたげな表情に紙とペンを渡して来た。


彰はすぐに文字を綴った。


『誰にも会いたくない。助けて欲しい…』


伝わったのか、医師は頷くと外に面会謝絶の看板を立てたのだった。




納屋で見つけた彰は弱っていて自力では起きられないくらいだった。

意識もなくて、発熱していた。


礼子と玲那はすぐに救急車を呼ぶと家人に事情を説明して名刺を置い

て来た。


「これは私の名刺です。弁護士をしています。今日のことはしっかり

 とけじめを後日付けに来ますので」

「ちょっとなんなのよ!あなたが口出しすることじゃないでしょ!」

「はい、でも…この状況はこちらとしても放置しかねますので…」


厳しい口調で言うと後日裁判書からの手続き書類が届けられた。


その足で、礼子は玲那を連れて病室へと来ていた。

ちょうど目を覚ましたと言っていたので、少しでも話をしたいと訪れ

たのだった。


今、ちょうど医師が中に入っていった。

それが終われば、入室が許可される。


「ねぇ〜彰くん、大丈夫だよね?」

「大丈夫。玲那、ちゃんというのよ?」

「うん」


廊下で待つこと10分程度。

医師が出てくるとすぐにドアの前に札がかけられたのだった。


「えっ…」

「あの、彰くんは?伊波彰くんはどうですか?」

「あー、すいませんね、今日のところは帰ってもらえますか?」

「事情だけでも聞かせてもらえませんか?」


少し悩むように別の部屋へと案内されたのだった。


医師が座ると、一緒になって礼子も玲那も座った。


「熱も下がったし、彼は術後だって話だったね?一応化膿はして

 いないが、様子見と言ったところでしょう。それと…非常に申

 し上げにくいのですが、彼とはどういった関係ですか?」

「玲那…娘の婿になる予定なんです。」


礼子がはっきり言うと困ったように医師が手書きの紙を出して来

たのだった。


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