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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二十七話

学校が終わって玲那は病院へと来ていた。


今日の昼ごろに目を覚ましたと連絡があったので、上機嫌で彰の

病室を訪ねたのだった。

が、予想外の状況に理解が追いつかなかった。


「彰くんの病室は〜………?あれ?」


名前が書かれているはずの病室はもぬけの殻だった。


「すいません。ここに入院中の伊波彰くんはどこですか?」

「あぁ、彼なら散々揉めてから昼に退院しましたよ。全くクレー

 マーもいいところよね〜」


看護師同士で愚痴を漏らす。


「退院?だって…重症だったでしょ?」

「そうなんだけどね〜保護者が来てね……連れて帰ちゃったのよ」

「そんなっ!」


すぐに母親の礼子へと連絡をつけた。

もちろん理事長から連絡を受けていた礼子も先に動いていた。


「まだ術後で安静が必要だってのに…誰よ、家族に連絡したのは

 っ!」


愚痴るように身内の住所を探すと向かっていた。

その途中で娘の玲那から連絡があった。


「お母さん!彰くんが居ないの!」

「分かってるわ、今から連れ戻すから…」

「私も行く!」

「…まぁ、いいわ。今病院?そっちに行くわ」

「うん」


端的に済ますと、玲那を拾って連絡先に書かれている住所へと

向かった。


入院費として多めに預けていたお金を返金して持っていったら

しい。


これはれっきとした犯罪だ。

いくら身内といえど拉致と病院には脅し、そして人の支払った

お金をくすねるのは犯罪だ。


家に着くとインターホンを鳴らした。


全く出てこないかと思うと、遅れてから老人が出て来た。


「なんですか?」

「ここに伊波彰くんはいますか?」

「彰なら、娘が納屋に閉じ込めたと言っていたかね〜、ちょっ

 と待っててくださいね」

「ちょっと!病人なんですよ!」

「悪戯好きで、悪さしたとか言ってたけどね〜、まぁ、反省し

 てれば家に入れてあげてもいいと思うんだがね〜」


そう言うと、納屋の前まできた。


鍵を開けると中で首輪にヒモを括りつけられて、ぐっしょり濡

れたまま横たわっていた。


傷にもこんな衛生上汚い場所はよくない。


「彰くん!」


玲那が駆け寄るが、熱が高く意識すらない。


「お母さん!どうしよう、すごい熱!」

「ちょっと、貸して…そうね、ちょっとまずいわね。すぐに

 救急車呼んでちょうだい」


老人はおろおろしながら慌てていた。


自分の娘が閉じ込めたと言っていた。

彰の家庭環境を調べた時に一緒に書かれていた家族構成。

これには表面上だけじゃ分からない関係がありそうだった。


「今日はこのまま病院に連れて行きます。それと、今後一切

 彼に関わらない事!そして彼に近づくのなら弁護士を通し

 て下さい」


そう言うと、名刺を置いていった。


中から騒がしいと桐子と若菜が出て来た。


「ちょっと、何してるのよ!」

「あなた達、一体なんなんですか!家に勝手に入ってくる

 なんて」


捲し立てるように言ってくる。

が、それよりも彰自身が心配だった。


緊急入院となって、礼子は法的手続きに移った。


「玲那、ちょっといい?」

「うん、彰くんを…私の婿候補にしたい」

「そうね、彼なら私も推せるわ」

「うん…」

「なら、そのまま進めるわよ?」

「分かったわ」


一週間、高熱に魘され続けた。

解熱剤も飲ませたが一向に下がらなかった。


朦朧とした意識の中で自分に手を振っているかつての母親の

姿を見ていた。


優しかったかつての母親。

いつも厳しく、時にはやさしく、生真面目だった父親。

今ではどちらも、面影すらない。


昔は普通の家庭だった。

顧客データ流出が発覚してから、色々と問題が起こった。


そしてあっという間に倒産へと追い込まれたのだった。


母親は外で男を作り出ていった。

父親はギャンブルにハマって、仕事すらしなくなった。


実家に預けられた彰はと言うと、母親の妹の桐子にいいように

こき使われ、ストレスの捌け口にされていた。


いとこである桐子の娘は異常なほど彰に依存した。


誰かと話せば、家である事ない事吹聴し体罰を与えるように仕

向けたのだった。


「あきらお兄ちゃーん、若菜と今日は出かけよう?」

「若菜…今日は友達と…」

「はぁ?そんなのどうでもいいじゃん。なんでそんなの優先さ

 せるの?なんで?」

「また今度でも…ね?」

「いや、今日がいい」


これが毎日だったので余計に少し離れたかった。


ある日、若菜の言う事を無視して出かけて来た。

そして帰ってくると桐子が仁王立ちしていた。


「おかえり、彰、私に言う事があるでしょ?」

「え…た、ただいま…遅かったですか?勉強してて…」

「嘘おっしゃい!人の財布からお金を盗んでおきながら白々しい」

「僕は、盗んでない!そんな事するわけが…」

「若菜が見てたのよ!言い訳なんて見苦しい」


濡れ衣だった。


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