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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二十六話

車での移動中は振動のたびに眩暈がして吐きそうになった。


「あきらお兄ちゃんは、久しぶりだよね?」

「…うっ……」

「お兄ちゃん?」


話しかけられても答えることさえしんどい状態で、冷や汗が頬を伝

ってくる。


「暑いの?」

「…いや……」

「我儘言わないでよね!わざわざ来てあげたんだから感謝されても

 いいくらいなのよ?なんとか言いなさいよ!」

「…気持ち悪くて……」

「失礼な子だね〜運転が荒いって言いたいの?」


何を言っても湾曲した解釈しかされなかった。


実家に着くと、懐かしいと言うよりは嫌な思い出しかなかった。

確か新築に引っ越したと聞いていたが、まさか両親と一緒に同居し

ていたとは知らなかった。


ここでは散々虐められ、虐待を受けてきた。

おばあさんや、おじいさんには見えないようにやってくるあたりが

なんとも意地が悪いところだった。


高校になって必死に訴えて一人暮らしをさせてもらったが、それも

すぐに終わりを告げた。


父親の借金の件である。


「そういえば、あんたアパート借りてたわね?鍵はどこよ?」

「どうして…?」

「当たり前じゃない。無駄なお金はないのよ。さっさと解約するに

 決まってるじゃない」

「それは……」


彰の荷物をあさぐるとマンションの鍵が出てきた。

それは玲那と住んでいた時のものと、もう一つ最近借りたものの鍵

だった。


「なんで2個もあるのよ?」

「返して下さい」

「返さないわよ。って、これ……」

「どうしたの?お母さん?」

「これ、あの高級マンションじゃない!しかもロイヤルスイート!!」


鍵に書かれた名前と部屋の番号から上の階であることがわかったらし

い。

彰には似つかわしくない部屋だった。


「あんた、これは誰にもらったの?まさか…誰かのヒモにでもなった

 の?」


言いたい事は理解している。


「ヒモって?あきらお兄ちゃんが?」

「汚い子だとは思ってたけど…本当にこんな事してたなんて…」

「お母さん?」

「こんな子、連れて帰るんじゃなかったわ。女に養ってもらってるのよ

 それも身体を使って…本当に賎らしい子だわ」

「養う?…え、女の人と暮らしてるの?」

「そうよ、金持ちの女を捕まえたってことよ。顔はいいからと思ってた

 けど、義理兄さんと同じだわ」


たぶん、ここで何を言っても同じだろうと思ってあえて黙った。


「鍵だけでも返して下さい」

「誰が返すもんか!あんただけいい思いして…今日は外で寝な!」

「お母さん、かわいそうだよ〜」

「そうね、毛布くらいは持ってきてあげるわ、感謝しなさい」


そう言うと、奥から昔飼っていたポチの首輪と毛布を持ってきた。

昔のやつで、外に出してあったせいか臭いもそうだが埃もすごか

った。


「これ、ちゃんと付けてね、お兄ちゃん…」

「…」


玄関からすぐの納屋に入ると犬臭い首輪をはめられた。

今は少しでも横になりたくてもう、なりふり構っていられなかった。


左腕は折れているのでギブスで固まっている。

動いたせいで、発熱が出ていた。


「後でご飯も持ってきてあげるね!これからは一緒に住めるね?お

 兄ちゃん」


いつも若菜は彰を人としては扱った事がなかった。

一応はいとこに当たる。

最初は仲良くなろうと努力もしたのだが、どうにも会話が噛み合わ

ないのだった。


我儘放題で育ったせいか、自分の言うことを聞くのが当たり前らし

い。

そして、思い通りにならないと癇癪を起こす。

そして、ある事ない事を言いふらすのだった。


今も、ぐったりする彰に自分を見てほしいとアピールしている。

それはわかっているが、彰には彼女に付き合う余裕はなかった。


「ね〜、お兄ちゃん。私の事可愛い?」

「…」

「ねー聞こえてるんでしょ?一緒に住んでる女ってどんな子?」

「…」

「答えてよ?」


横になったまま視線を向けると、若菜が自分の服を思いっきり引っ

張って破き始めたのだ。


ビリビリッ ビリビリッ!


「お母さーん、あきらお兄ちゃんが、いきなり服を掴んでぇ〜、怖

 いよう〜!ひっく…お兄ちゃん、酷いよ!うえぇぇーーーん!」


大声で泣き叫びだす。


「なに、なんなの?」


奥から戻ってきた母親の桐子は自分の娘の服が破かれ肌が露出して

いるのを目の当たりにすると激怒した。


「な、なんてことを!せっかく連れて来てやったってのに…」

「お兄ちゃんが……」

「ちがっ…」

「ご飯は抜きよ。病人みたいな芝居して油断させるなんて…反省し

 なさいよ!このケダモノが!」


近くにあったバケツに溜まった雨水をぶっかけてきた。


「…っ……」


バシャっとずぶ濡れになるとそのまま家の中に入って行ってしまった。

中からはおばあさん達に勝手な説明をしている。


「彰はどうしたんだい?迎えに行ったんだろ?」

「反省させる為にも今日は外の納屋に入れておいたわ。帰って来て早々

 若菜に手を出したのよ?よそでも何人かの女と関係があるみたいだし

 誰に似たんだか…」

「そうなのかい?しかし、寒いんじゃないか?せめて家の中に…」

「あんなケダモノを入れるわけにはいかないわ。反省するまで納屋で十

 分よ、毛布だって渡したし」

「そうかね〜。久しぶりに顔が見たかったけどね〜」


言い訳が外にまで聞こえていたのだった。


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