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犬になった日  作者: 秋元智也
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第二十五話

彰が病院に運ばれて緊急手術となった。

本当なら保護者の同意がいるのだが、緊急を要する為に後回しに

なっていた。

そして、大西礼子が支払いなどの諸々の受付をしたせいで後回し

になっていた家族への連絡が疎かになってしまっていたのだ。


いくら保護者と名乗り出ても、全く戸籍上は繋がっていないので

保護者ではあり得ないのだ。


そして本当の家族のもとへと連絡が行ったのだった。

それは母方の妹と両親だった。


「なに?彰?うちにはそんな子いないわ」

「しかし、今入院中で…」

「入院費払えって言うの?冗談じゃ…」

「いえ、費用はもういただいているので、保護者としての判子と

 サインして欲しい書類があしまして」

「なんでそんなめんどくさい事しなきゃいけないのよ!」


電話越しに怒鳴ると、横で聞いていた娘が袖を引っ張った。


「私、あきらお兄ちゃんに会いたいな〜」

「若菜…仕方ないわね…場所はどこなの?」


病院の方から家族へと連絡が行ったのだった。


次の日は平日で午前中に彰への面会に来た人がいた。

意識が戻ってやっと先生の診察を受けて病室で静かにしていた時

だった。


「伊波さーん、面会ですよ〜」


病室へと看護師さんが案内したのか後ろから来た人物を見た瞬間

言葉を失った。


「あきらお兄ちゃん!会いたかったよ〜」


飛び込んできた顔に見覚えがある。

昔は幼かったが、随分と大きくなった。

が、それでも性格はきっと変わっていないのだろう。


若菜の顔をみると身体が動かなくなる。

これは恐怖なのだろうか?


彰にはいい思い出なんてない。

むしろ、二度と会いたくなかったとも言える。


「ちょっと、せっかく見舞いに来てあげたんだから喜ろこびなさいよ。

 全く可愛げのない子ね。奈津美姉さんにそっくりだわ。」

「…」

「どうしたの?あきらお兄ちゃん?」

「別に…頼んでない…です」

「何もないのに入院してるの?全く豪勢な事ね。誰が治療費を払うと

 思うの?」


もちろん、彰は知らない。

礼子によって支払いは困らない事を。


だが、酒井若菜の母親はわざと恩着せがましくいう。

これは昔から変わらないのだった。


「もういいでしょ?さっさと退院するわよ。いいわね?」

「でもっ…」

「これ以上入院するつもり?」

「…」

「あきらお兄ちゃん、一緒に帰ろ!」

「さっさと荷物をまとめなさい。ほんと、グズなんだから…」


立ち上がりかけるが、足元がおぼつかない。

視界がまだはっきりとしない。


目の前が揺れて、立っていられなかった。

すぐに床に座り込むと息が上がる。


「ちょっと何やってるの?さっさと立ちなさいよ!」

「うまく…立てなくて…」


言い訳がましく聞こえるのだろうが、事実起き上がるのさえも辛

かった。


「若菜、車椅子借りてきて、受付は私がしておくわ」

「は〜い」


若菜の母親の桐子はそのまま受付へと行ってしまった。

ナースステーションでも、この桐子には何度も説明しても理解し

てくれず困っていた。


「伊波さんはまだ退院するには早すぎます。まだ術後なので様子

 を見てから…」

「家族なら受け取りに来いって言ったのはそっちでしょ?何?連

 れて帰るって言うのに文句あるの?勝手に手術なんかして、誰

 がお金を払うと思ってるのよ!勝手にやったんだからビタ一文

 払わないからね!」

「それはもう、お支払いは済んでおります、ですから…しばらく

 入院してもらって…」

「ちょっと、それどう言う事?払ってあるの?」

「はい、入院費込みで支払ってもらっておりますが…何か?」

「なら、入院しない分は払い戻しできるわよね?」

「はい?それは…」


戸惑う新人看護師と医師にくってかかる。


「支払い拒否するわけ?なら警察に出てもいいのよ?」

「それは、患者の安全を考えて…」

「なら、近くの病院で入院手続きするから連れて帰るわ」

「そんな…それではこちらが怒られて…」

「あの子にスポンサーでもついたの?可愛げのない子だけけど、

 兄さんに似て顔だけはいいからね〜」


桐子は断固とゆずらなかった。


そして、荷物をまとめた若菜が彰を連れて帰ってきた。

必死に止めるが、患者との揉め事を他の客には見せたくないのか、

静かに引き下がったのだった。


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